リンクアンドモチベーションの創業のきっかけ

梅原英哉氏(以下、梅原):今回は「マネジャーの成果・成長支援のためのHRTech最前線」というテーマで、1時間でお届けしていければと思います。

本日は2人で進めていきますが、まずは私から自己紹介をさせていただきます。私はリンクアンドモチベーションの地域創生推進室で室長を務めております梅原と申します。(※役職・部署はイベント当時のものです)

2008年に弊社に入社し、ずっと中堅・成長ベンチャー企業さまに特化してコンサルティングサポートをしてきました。2018年には日本全国の、主に地域の企業さまの組織変革コンサルティングチームを立ち上げ、責任者を務めました。

ここではお話ししませんが、その中で、地方の魅力をもっと世の中に届けたいという思いが私の中で爆発し、1,500人を超える会社ですが、地域創生推進室という部署を私1人で務めています。

もしこちらに興味のある方がいらっしゃれば、直接お問い合わせいただければと思います。ぜひ議論させてください(笑)。

弊社リンクアンドモチベーションは、「モチベーション」というテーマでコンサルティングをしている会社です。

どんなにすばらしい戦略や商品、サービスでも、そこで働く社員の方々に「よし、この商品をもっとよくしよう」「このサービスを1人でも多くの人に届けたい」という気持ちがなければ、そういった戦略や商品も絵に描いた餅で終わってしまいます。

ところが、多くの企業は戦略や商品・サービスのクオリティを高めることに多くの時間を費やしてしまって、大事な人や組織が後回しになっているのではないか、というのを世の中に問題提起したのが創業のきっかけです。

創業当初から日本を代表する大手企業さまと一緒に組織変革に取り組んできましたが、現在は、大手企業を中心に幅広い企業のご支援をしております。そんな経緯でここまでやってきました。

2022年には日本・アジア初、世界で5番目に人的資本に関する情報開示ガイドラインである「ISO 30414」の認証を取得しています。

今、人的資本は世界的にもすごく重要なテーマとなっていますので紹介させていただきした。

IT製品の口コミサイトで1位を獲ったUMU

梅原:我々の紹介はここまでにさせていただきまして、小仁さん、よろしくお願いします。では、自己紹介をお願いします。

小仁聡氏(以下、小仁):あらためて、今日はご一緒させていただくことを楽しみにしておりました。

私の自己紹介を簡単にさせていただければと思います。私はユームテクノロジージャパンで、「ラーニングエバンジェリスト」として新しい学び方を発信する役割で活動しております小仁と申します。

私自身は研修コンサルの業界に16年ほど関わっており、ここ10年間くらいはテクノロジーをどうやって学びに取り入れていくかについて取り組んできました。直近の5年間は、特にAIをどうやって学びに取り入れていくかを専門に取り組んでいます。

次のページで、私が所属しているUMU(ユーム)について、少しお話ができればと思います。パソコンのブラウザ・スマートフォンで、いつでもどこでも学ぶこと、練習することができる「UMU」という学習プラットフォームを展開しています。世界208の国と地域で、日本ではここ5年くらいで約2万社にご活用いただいています。

私たちは学びを提供するからには、「実際の行動変容につながり、企業の業績につながらないと意味がない」考えており、「学習のデザイン × 最新のテクノロジー = 成果創出」として、これを実現できる学習プラットフォームの開発、提供に取り組んでいます。

世界のさまざまな言語にも対応しているだけでなく、日本国内でも少しずつ存在感を強め、IT製品の口コミサイトで前年は1位を獲得しています。

この口コミサイトは、学習関係のツールだけでなく、ZoomやSlackなども並んでいる中から1位に選出されており、BtoC・BtoBの両方において、少しずつ知名度が広がってきていると思っています。

私は今日、テクノロジーの観点で、マネジャー育成の最新トレンドをお伝えできればと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

梅原:ありがとうございます。小仁さん、すごいんですよ。今日初めて聞かれる方々も多いかもしれません。本当にすばらしいサービスなので、ぜひぜひ、このあと楽しみにしていただければと思います。

というか、僕もマネジャーの時から使いたかったわ。

小仁:(笑)。いやいや、梅原さんはもう必要ないと思いますけど(笑)。

梅原:(笑)。みなさん、僕は今日、こんなふうに偉そうに話していますが、数々の失敗をしておりますので、その辺りも含めてシェアしていければと思います。

VUCAの時代に企業に求められる変化

梅原:さっそくですが、今日はこんな4つのトピックスでお伝えしていければと思います。

まず、マネジャーの現状と課題。これは今、一般的にどのような状況なのかを我々なりに整理しておりますので、私からお伝えできればと思います。

2つ目に、マネジャー育成のトレンドと今後の方向性。グローバルな情報も持ち込んでいただいておりますので、ここは小仁さんと一緒にシェアさせていただきながら、セッションみたいなかたちでお届けできればと思います。

3つ目に、UMUさんからAIを活用したマネジメント育成についてお話しいただき、最後にに、我々のほうでもマネジメント育成に向けて、データから見えてきた成長支援のポイントがありますので、そのあたりをシェアできればと思います。

まずはマネジャーの現状と課題ですね。今日お集まりいただいてるみなさまは、日々向き合いながら本気で取り組まれている方々ばかりだと思うので、少し釈迦に説法なところもありますが。

そもそも企業に求められる変化という観点でいえば、「VUCAの時代」という環境変化の激しい時代においては、さまざまな経営課題を乗り越えるために企業も変化することが求められています。要するに、常に決まった答えがある訳ではないということですね。

なので、正解創りをしないとどんどん迷走してしまうし、はたまた、今正解だとしても、ちょっと時間が経つとぜんぜん違う価値創出や戦略が必要になる時代ですので、常に変化し続けなければ停滞します。

そういった意味では、変化に柔軟に、かつ素早く対応できる「組織・人材」が求められているのが今かなと思います。

だいぶ前の話になりますが、インターネットが盛んではなかった時は、ここまで情報が飛び交わないので、ある程度勝ちパターンを作ってしまえば、一定期間逃げ切れたわけですね。なので、上意下達で決められたことを徹底的に遂行すれば、ある程度勝てたと思いますし、当時は言われたことを完璧にこなす人材が優秀だと言われていました。

しかし、皆さまがご認識のとおり今は違います。経営陣も含めて常に答えを模索していますし、さまざまな状況の中で現場がつかんだリアルな情報をもとに、柔軟に素早く戦略を変えるような経営手腕が求められています。

かつ、育成という意味でも「また方針が変わったな」ということではなく、「お、変わったな。じゃあ、どう適応しようか」というような運動神経、つまり、いかに社員のみなさま、現場のみなさまがスピーティーに適応できるかがポイントになっているのではないかと思います。

戦略実行のためにマネジャーに求められる役割

梅原:組織というものは規模が大きければ大きいほど、人が増えれば増えるほど複雑性も増していきます。もちろん、経営者がすばらしい戦略や方針を打ち出すことは大事ですが、実行してこそ成果につながりますので、いかにして実行につなげるかですね。正直に言って、実行なき戦略は意味がありません。

トップが直接マネジメントできるうちはよいのですが、いつまでもそういうわけにはいきません。なので、間をつないでくれるマネジャーが、上下だったり左右だったり、もしくは顧客と自分たちの会社だったり、さまざまなステークホルダーとのつなぎ役を果たさなければ、そういった方針も理解・共感を得られませんし、実行に移らないということですね。

私たちはそういったマネジャーの役割を「結節点」と呼んでいます。なので、「マネジャーがどこまで結節点として機能するか」というのは本当に必須のテーマだと思っています。

国際的に見て、日本のビジネス競争力は低下しています。自分で話しながら胸が痛いんですが(笑)、人的資本領域において、特にトップやマネジャーの競争力が課題であるというデータも出ています。

ただ、私は管理職の方々、マネジャーの方々を心からリスペクトしています。組織の上下や左右の間に挟まれているマネジャーの方々と、今のこの日本のテーマをシェアしながら、共に高め合い、乗り越えていきたいと思っています。

いろいろな状況の中で適応するのは難しいと思いますが、マネジャーの競争力がこれからの企業の成長力に直結していると言っても過言ではないと思いますので、ここは真摯に受け止めながら、今日の時間をうまく活用いただければと思います。

データを見ても、なかなかマネジャーが「結節点」が機能していないというのが実態です。ただし逆に言えば、もしマネジャーや間をつなぐ役割の方々が、この難しい時代の中で適応力を身につけたとすれば、日本の競争力はまだまだどんどん伸びるというわけですね。

大いにポテンシャルがあると言ってもいいのではないかと思いますので、逆にチャンスと捉えて、共に乗り越えていければと個人的には思っています。

人材開発のプロが集まる国際会議で関心の高かったテーマ

梅原:では、前段はこの程度にさせていただきまして、この後のテーマに入っていければと思います。マネジャー育成の課題と今後の方向性です。「結局のところ、今のマネジャー育成って何がポイントなんだろう? トレンドって何なのか?」というところに触れていければと思います。

ここはグローバルなので、小仁さんからぜひ。僕もいろいろ学びたいと思いますので、シェアいただけるとうれしいです。

小仁:ありがとうございます。トレンドと言っても、みなさまそれぞれご自身の経験や意見もあるかと思います。現代において、私たちはさまざまな場所から情報を得られますが、グローバルで1つ参考になる場所があるとしたら、この「ATD ICE」かと思います。

これは世界で1番大きな人材開発、タレント開発の研究機関で、今年は5月にサンディエゴで人材開発のプロフェッショナルを対象とした国際会議が開催されました。

今年はコロナ前の参加人数の1万人を超え、いよいよ対面が戻ってきたなという印象でした。写真を見ていただいてもわかると思うのですが、誰もマスクをしていないですよね。この国際会議の中で取り上げられたテーマが、3年くらい経ってから日本に来ると言われています。

当日はブースが300〜400セッションくらい展示されており、その中でセミナーセッションのカテゴリーですが、左側に書いてある数字が昨年度の、右側が今年の数です。この中で圧倒的に多いのが「リーダーシップとマネジメントの開発」です。

コロナ後のマネジメントやリーダーシップについて、どれだけ関心が高いかが、セッション数からも見て取れるんじゃないかと思います。

「リーダーシップとマネジメントの開発」の74のセッションをざっと見てみると、共通するキーワードが多くあります。例えばセミナーのタイトルで、「ヒューマンセントリック=人間中心のリーダーシップ」とはや、「DEI」とかは、非常に多かったです。

他にも、「ダイバーシティ&インクルージョン」とか、「サイコロジカルセーフティ=心理的安全性」とか。また、キーワードとしてよく使われていたのが「ビロンギング」です。どこかに所属しているとか、つながりを感じられるようなリーダーシップの発揮ですね。

大会そのもののテーマは、「Rethink」「Unlearn」で、「これまでの成功体験を手放して新しい捉え方を手に入れていこう」ということでした。

「過小評価」を理由にマネジャー職を避ける傾向は世界共通

小仁:中でも、人数が集中して300名以上が参加したセッションがありました。「リーダーシップ」と言うとDDIがトレンド的な情報を発信していますが、「ミドル・マネジャーのリーダーシップ開発をデザインする」というまさに我々の求めているテーマが、バイスプレジデントの(ヴェリティ・)クリーディ氏から語られました。

組織の中で過小評価されているミドル・マネジャーの役割ですね。同時に過小評価ということでみんながマネジャーをやりたがらないと。これは世界共通だなと思います。

「Unsung Heros」、つまりは「俺、すごくやっているんだよ」ではなく、「自慢はしないけど、本当の立役者はこの人たちだよね」ということで焦点を当てていこうというメッセージが発せられていました。

(スライド)右下のところに、マネジャーにどんな役割があるのかということで「ビジネスをリード」する、「チームをリード」する、「ネットワークをリード」する、「自分自身をリード」するを記載しています。考え自体はそれほど新しくないかもしれませんが、「ミドル・マネジャー」という表現自体を変えていったほうがいいんじゃないか、とメッセージがありました。

セッションの中では「Director of Strategy」とか「Leader of Leaders」とか「Strategic Connector」とか、どんな呼び名がいいかとアンケートを取るシーンもありました。

この中で一番獲得票数が多かったのが、「Strategic Connector=戦略をつなぐ人」です。おそらくリンクアンドモチベーションさんがやっている「結節点」といった考え方にも非常に通ずるものがあるんじゃないかなと思います。

縦・横・斜めを中心でつないでいく「Unsung Heros」、まさに立役者だと。みなさんあまりやりたがらない部分ではありますが、ここがまさに鍵を握っているということですね。このような情報が非常に印象に残っています。

Google社の優れたマネジャーが備える10の特徴

小仁:私たちUMUはマネジャー教育コンテンツも持っていて、コンテンツとテクノロジーの両方を展開しています。Googleでは「トップマネジャー」のような表彰がありますが、「Google University」の初代教授の、Dongshuo Li(ドングショー)という人間が、UMUの創業開発責任者という背景もあります。

Google社がやっている「Project Oxygen」という調査を、みなさん聞いたことがありますか? これはGoogleの中で、「管理職って不要だよね」と議論があって、それを証明しようということで始まったプロジェクトです。実際に管理職層を廃止した時期もあったんですが、なくした途端に組織が壊滅的になり、慌てて管理職を戻したことがありました。

このプロジェクトの中で多くのデータが集められましたが、最も優れたマネジャーに共通する指標は何か。(スライドにあるように)トップに来たのが「優れたコーチになる」ということでした。「コーチング」というキーワードですね。

それ以外でも、例えば「マイクロマネジメントはしない」「インクルーシブなチーム環境をつくる」「結果を重視する」「コミュニケーションをする(人の話をよく聞き、情報を共有する)」「キャリア開発をサポートする」など、10個にまとめられています。

2018年に2回ほど見直されましたが、「グローバルでの共通言語はコーチングだ」といった事例も多く、先ほどの「ATD ICE」でもキーワードに上がっていたかと思います。

コーチングが求められる、もう1つの背景が次のスライドにあります。

今、私たちが育てようとしている対象者が、どういった背景で育ち、どんなことを大切にしているのか。この層に合わせていく時に、コーチングの手法が非常に重要になってくるとも言えます。

彼らはデジタル・ネイティブ世代で、物質的な豊かさの中で育っているので、物的報酬よりは、達成とか自己表現、個性重視、ワークライフバランスを重要視しているということですね。

そのため、こういった世代とどう関わっていくか。大切にしているものが、達成動機や自律動機です。コロナを経て、その考えがより一層強まってきました。このような背景を理解し、促進していくためには、一方的なティーチングスタイルだけではなくコーチングの両方が必要です。

今回はグローバルのトレンドとして多く耳にする最新情報をいくつかご紹介させていただきました。

梅原:なるほど。小仁さん、ありがとうございます。すごく勉強になりました。グローバルでもすごく共感できるキーワードが飛び交っているなと思いました。