デジタルイノベーションで企業に求められる対応

奥谷孝司氏(以下、奥谷):最後になりますが、まとめということで少しお話しさせていただきたいと思います。

コロナ禍で、我々はデジタルイノベーションによっていろいろ助けられたところも多くあると思います。働き方も否応なく変わって、よい点で言えば、このようなウェビナーもそうですし、場所を問わず働けるようになりました。逆に言うと、リアルな接点が乏しくなったかなと思います。

マスクが取れる時が来た時にこれがどうなるかというのもありますが、確実にデジタルのイノベーションは、暮らしとチャネルのシフトを起こしました。

そんな中で、我々があらためて思うことです。これは東京大学の森川(博之)先生という方が言ったことで、「どんなイノベーションもだいたい普及するには40年かかる」ということです。

そう考えると、インターネットの普及初期を2000年とすると、コロナは2020年に起こって、今は2023年になり、ここからデータ社会へと一気にスピードを増して進んでいく中間地点になると思います。そんな中で、デジタルを前提とした暮らしのシフト、顧客価値のシフト、競合のシフトがお客さま側で起こっている。

例えば、買い物の仕方がどんどんネット化する。弊社の話をして恐縮ですが、例えばフレッシュミート、フレッシュベジタブルをオンラインで買うことも当たり前のことになってきていますよね。

そうすると、スーパー間の競合の上に我々が出てくるということもあり得る。今、もう起こっているようなことになっているわけです。

例えば、ペット業界でも同じようなことが起こっているというのが、Petcoの話ではないかと思いますし、当たり前ですが、それに対して企業側もネットのチャネル、リアルのチャネルを融合していく。D2Cブランドを作らなくても、オンラインIDでつながるということは、Direct to Customerになっていくということです。

さらに言うと、企業はそれに応じた会社の運営の仕方、組織の作り方をしなきゃいけない。究極を言うと、デジタルトランスフォーメーションをしていかないといけないということになります。

頭の中の「キャッシュ」をクリアする

奥谷:我々はそんな折り返し地点にいるわけですが、ここから我々の戦いは後半戦に入ります。後半戦に入るところで今出ているのは、先ほどもあったポリクライシスの問題、インフレ、金融や不景気といってもいいのかもしれませんね。そういったものが来る中で、戦いを続けていかなきゃいけないわけです。

海外の話もさせていただきましたし、マーケティングの発想も「Placeから考えよう」という話もしました。いろいろなことが起こっていることはネットを見ればわかることで、みなさまも知っているとは思います。

しかし、私が好きな、ちょっと古いですが、未来学者のAlvin Tofflerは、僕らがこれからの時代に考えなければいけないことは、「知っている」というマインドセット、頭の中のキャッシュをクリアにして、もう1回学び直すことだとしています。それがすごく大事なんじゃないかなと思います。

新しいフレームワークや新しい技術に飛びつきがちですが、実は目の前にあることをつぶさに見てみると、いろいろと発見し直して、新しいビジネスチャンスが見えてくると思います。そういうことをやる。それがRelearnではないかと思うんですよね。

僕が言っていることなんてぜんぜん新しくないのです。で、先人からの学びが元になっています。自分の本もそうですが、McCarthyの「マーケティングの4P」という歴史ある考え方、誰でも知っているフレームワークを少し解釈を変えて、Releranしてやっているということです。

みなさまもぜひ、こういったウェビナーもきっかけにして学び直しながら、新しい発想を身につけていただけるといいんじゃないかなと思っております。

顧客理解を深める「n1リサーチ」

飯島颯氏(以下、飯島):奥谷さま、すばらしいご講演をいただき、誠にありがとうございました。これよりQ&Aのお時間とさせていただきます。まずは、事前に質問をいくつかいただいておりますので、そちらを読み上げさせていただきます。

1つ目は、奥谷さまの著書をご覧になられた方のご質問です。

顧客とつながり続けること、つながる価値を顧客に感じ続けてもらうことが大事だというお話がありましたが、そもそも顧客が何を求めているかという、顧客理解を深めるための手法や進め方を知りたいといったご質問をいただいています。

「時代の移り変わりや消費者のトレンドの移り変わりが激しい中で、そこの理解を深めるために、奥谷さまや御社の方々が、どのように顧客理解を深めるための取り組みをなさっているかをうかがいたい」ということです。

奥谷:なるほど。僕らがやること、オイシックスと顧客時間の両方で共通する部分はけっこうあります。

僕はオイシックスに入って、最初は「お店もない会社でパソコンに向かって仕事をして、でも生鮮食品を扱っている。これでどうやってお客さまのことがわかるんだろう?」と思ったのですが、オイシックスはコロナ禍においても、常にユーザーインタビューを欠かさないんですね。

初心者から中堅、ベテランのユーザーまで、徹底したn1リサーチをしっかりする。そしてお届けしたものに満足されているのかいないのか、場合によっては退会された方にもインタビューします。

私も入って数ヶ月はずっとユーザーインタビューをやっていたのですが、手土産を持って行ってでも、お客さまの声を聞くということで、なるべくタイムラグを空けずに、お客さまがどういう反応をされているのかをしっかりと見ています。

普通にオイシックスのサイトを見れば、コメントも書いてありますが、それだけに満足することなく、お客さまと対話することをけっこうやっています。

オンラインでユーザーインタビューを行うメリット

奥谷:顧客時間においても、クライアントさまから「D2Cブランドを作りたい」とか、「新規事業を立ち上げたい」ということで、今の新事業はデジタルを使うのが当たり前なのでやりますが、ある程度マーケティングの構想やビジネスの構想ができてきますと、最近はZoom等を使ってユーザーインタビューを行います。

ペルソナ分析もけっして悪いことではないのですが、自分たちの思いでペルソナを作ってしまうと、あり得ないお客さま、ありそうでいないお客さまを作ってしまうことになるので、ペルソナを作る時には気をつけなければなりません。それはそれで持っておいて、ユーザーインタビューなどで妥当性把握をする。蓋然性があるかどうかを見るというのが大事ですね。

「Zoomだと人と会えない」という課題感を感じられる方もいると思います。会って会社に来てもらって、いろいろとお声を聞くのもいいんですけど、そもそも会社に来てくれる人というのは、その会社のことが好きなので、フェアというよりは愛が強すぎますし、若干、バイアスがかかっていると思います。 逆に家にいて、例えばZoomでユーザーインタビューをしていると、ちょっとしたセレンディピティが出てきたりします。お子さまが出てきたり、場合によっては冷蔵庫の中を見せてくれたり。よくよく聞いていると、クライアントさまの事業に対して「競合がこうで」とか、競合の話をけっこうしてくれたりします。

ですので、n1リサーチも、Zoomなんかをしっかり使って、もっと効率よくやったらいいと思います。

ただし、上手な話者というか、n1のスキルもけっこう大事になります。友だちのようにというか、上品かつスマートにお話ししながら、インサイトをついていくこともできるようになるといいんじゃないかと思います。そういったn1リサーチを、徹底してやる。

あとは当たり前ですけど、そもそも自分が買いたいものかどうかを自分に聞く。「自分にマーケティングする」ということも、忘れないでやってもらいたいと思うのですよね。

飯島:おっしゃるとおり、インタビューをする時に、「ペルソナはおそらくこういう人だろう」みたいなバイアスがかかったままインタビューしてしまうと、どんどんそちらに誘導されてしまうと思います。それをしないようにするための対策は大事ですね。ありがとうございます。

DXやOMOに成功する会社は、社長が「あとよろ」を言わない

飯島:2つ目にいただいている質問は、「プロジェクト全体の進め方」です。

例えば、OMOとかD2Cといった取り組みですと、マーケティング部門単体のお話ではなく、そもそもビジネスモデルを変えるので、いろいろな部署を横断して取り組みを進める必要があると思います。

奥谷:そうですね。

飯島:奥谷さまがご支援された企業の中で、社内のどなたがイニシアティブを持って、そのプロジェクトを進めるのか。

例えばマーケティング部門の責任者の方なのか、経営企画の方なのか。あるいはもっとレイヤーの高い方なのか。そのあたりの、「どなたがリーダー格で動くことが多いでしょうか?」というご質問をいただいています。

奥谷:なるほど。お問い合わせが来るのは、もちろん経営企画の方の場合もあります。マーケ部門のトップである場合もあれば、社長自らということもあります。

やっていて自分たちでも手応えを感じるのは、やはり社長自らがDX、OMOに本気で取り組まれる企業です。そういった企業は、前に進むという実感がありますね。

顧客時間というトップコンサルでもない会社にお仕事を依頼してDX推進に成功する会社は、社長自らが毎週プロジェクトに出てきます。「あとよろ」にしないです。自らしっかり入りながら、部門横断でプロジェクトを推進し、若い人にうまく刺激を与えながらプロジェクトを進めていく。

そうやって、「社長がこれをやっていいと言っているんだ」というところに対して、若い人もどんどん積極的に意見を言って、自ら勉強していくかたちができてくると、うまくいくということです。会議でまず1つ大事なのは、やはりトップがいるということですね。

プロジェクトを成功させる会社に必要なもう1つの要素

奥谷:それだけではなく、毎週のプロジェクトにはプロマネが必要ですね。プロマネは、我々顧客時間のプロマネも必要ですが、相手さま側のプロマネも必要なわけですね。

CMOとCEOのタッグであったり、CDOとCIOのタッグであったりする時もありますが、ある会社さまは社長自らが「DX推進室」みたいなものや、オムニチャネル、〇〇本部を作ったりして、そこにダイレクトレポートラインを作っています。

そういう人たちにプロマネになってもらうことで、現場の声とCEOの声をしっかりバランスアウトしながら進めていかなければなりません。

それがうまくできてくると、私たち顧客時間側でも我々の中でも、スペシャリストがうまくコミュニケーションできます。相手側も、CEOと向こう側のプロマネがうまく連携できると、非常にうまく進んでいきます。

そうすると、「次はIT部門を呼ぼう」とか「次は店舗の人を呼ぼう」「次はコールセンターの人を呼ぼう」となってきます。こうなるとうまくいきます。

まさに全社一丸となってやるものなので、「これってデジタル部門がやることでしょう?」となっているところは、あまりうまくいかないですよね。

ただトップだけではダメで、トップ自らのコミットメントと、それを意気に感じて、「自らうまくやって、新しい顧客体験を作ろう」という思いがある中堅、若手がいると、うまくいきます。成功体験としては、そういう感じかなと思います。