2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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斉藤:クエスチョン1「教育の現場で重視される探究心が組織で失われてしまうのはなぜでしょうか」ですが、今回のテーマ自体がいかに学習、進化していく組織を作っていくかなので、最終的には組織っていう観点で見たいんです。
ただ、その手前の教育の現場でも正解型の教育がなされてきて、会社もそれを求めている節があって、すでに正解のある状況で仕事をしたり考えたりする癖がついてしまっている。それを聞いた時に、僕けっこう、経営者として「詰んだな」っていう感覚があったんですよ。
20年間変えられなかった教育者側ないし自分たち(企業側)や自分自身も、変わってきていない中で、続いてのテーマ「なぜ、組織は前例主義にとどまってしまうのでしょうか」に入っていきます。
これまでの企業としても、「リクルートは、そういうジグソーパズルじゃなくてレゴ型の人材を求めてきているよ」という話がありました。石山先生のお話では、前例主義にとどまってしまっている人も多いように感じる。実際そういう社会人も多いということでした。
組織としてもスタンスを変えていきたいのに、何が一番障害となって前例主義にとどまっているのだろう。緊急性が足りないのか。これはぜひ、藤原先生のお話をうかがってもよろしいですか。
藤原:まずすべての授業、すべてのサービスはレゴ型の学力から始まると、僕は思っています。つまり納得解を導こうとして仮説をいっぱい出していって、その中でなるべくクリエイティブ、イマジナティブにというところから始まる。
起業家は、いったん事業としてスタートして、その後だいたい3年ぐらい経つと、収益を求める。そうなるといつまでもレゴ型っていうのは無理なんですよ。
なんとかジグソーパズル型に持ち込んで、誰がやってもできるようにする。例えば学生のアルバイトでもできるようにする。つまりそこでシステム化を起こさないと、永遠にレゴ、レゴとクリエイティブにやっていると、芸術的ではあるけれども事業にならないところがあります。
そういう意味では特に収益を出している企業は基本的にジグソーパズル型に戻っていくと、僕は思っているんですね。企業というよりは事業がですね。
宝槻:これ、めっちゃわかります。
藤原:だから組織が正解主義、前例主義、事なかれ主義に行きがちだというのは、事業のプロセスを知っている事業家は当然みんなわかっていると思います。
藤原:日本の教育について言えば、教育のシステムは100年以上前に学制が交付された明治からほとんどかたちが変わっていません。黒板の前に先生がいて一方的に一斉授業をやるシステムが100年続いている。それを崩そうとすると、僕がやってもすごく苦しいんですよ。
正解主義、前例主義、事なかれ主義と日々戦っていますし、宝槻さんがやっている授業を中高生にやったらどうなるかと「よのなか科」をやっていると、それが学校の中では浮いちゃいがちです。
子どもたちはクリエイティブになるし、すごく積極的に発言するようになるし、目も輝くんだけど、「じゃあ何が上がったんですか?」と言われたら、なかなか証明できない。生きる力は絶対上がるんだけど、そこを数値化することができず、偏差値に対抗できないところがあるんですよね。
そういう意味で僕はこの問いに対する結論は、組織は基本的に正解主義、前例主義に戻るもので、そういう本質があるんだと言っていいと思います。その中でいかにクリエイティブにやるのか、個人をクリエイティブにするのかは、リクルートのヒントでもあると思うので、これはちょっと後に述べます。
斉藤:ありがとうございます。事業というものを生み出すのだから、もちろん最初はクリエイティブ。ただ、これが成功すればするにつれて再現性を出さないといけないから、どんどん前例主義ないし体系化していかないといけない。ここをさっき宝槻さんが「すごくわかる」とおっしゃっていました。
宝槻:僕は今、たぶんめちゃくちゃ味わっている状況です。だからこれ、タイトルからいくと……。「なぜ僕は前例主義になってしまうんでしょう?」っていう。
斉藤:今、(前例主義に)なっているんですか?
宝槻:なっていると思います。5〜6年前、子どもたちにクリエイティブな体験を、心に火がつくような授業をと思って、めちゃくちゃクリエイティブで概念をぶっ壊したレゴ型の新しい授業を作ったんですよ。教室の中では、レゴ型人材の型を作るんです。
今30人ぐらいの組織になっていて、僕がやっていることをどうやって他のスタッフにもできるようにするかというと、僕の正解を社員に学ばせる方法になっちゃっています。でも、そうすると今度は社員の自主性やひらめきを抑制することになるから、本人はおもしろくないんですよね。
斉藤:社員からすると?
宝槻:社員が授業を作ることがおもしろくなくなる。でも僕からすると、「いや、ちげえんだよ。こうなんだよ」「技はこうなんだよ」って言いたくなるし、それによって再現性を高めたくなるので、本当に「どうしよう」っていう感じです(笑)。
斉藤:社員の方から出てきたアイデアを宝槻さんが聞くと、間違っていると思うんですか? 「これじゃうまくいかない」みたいな。
宝槻:いや、怖いです。恐怖。
斉藤:怖い?
宝槻:自分の前例や成功体験とは異質なものを、社員がやってみたいっていったら、ベットするのは恐怖感がある。自分の前例は再現性の高いものだというある種の思い込みや体験があるから、強要とまではいかないですけど、促そうとする心理現象なのかもしれないですね。
斉藤:宝槻さんのカバー、内包できる範囲においては絶対成功するじゃないですか。なぜなら宝槻さんは成功してきているから。それを前例として渡して、再現できるようにしている。
じゃあこれをさらに超えて進化をするには、宝槻さん自身が進化をしないといけない、変わらないといけない、アップデートしないといけないとか。
宝槻:いや、今日のこの会議で一番勉強しているのは、たぶん僕だと思うんです。さっき「越境」とおっしゃいましたけど、もしかすると僕自身も越境しなきゃいけないのか、または社員たちが越境していくことにもっと寛容になるべきなのか。
僕も正直なところ、自分の組織が学習する組織になるために何が必要なのかはよくわからないんですけど、今日お二人の先輩たちからいろんなインスピレーションを浴びています(笑)。
斉藤:今のお話を聞いていると、「学習って要るのかな?」って半分思っちゃっています。宝槻さんみたいな1人の才能がレゴ型の事業を新しく作り出し、ファーストサクセスを収めます。それを展開していくために前例主義にしてスケールさせていくのは、教科書的な事業の作り方として正しいなという感覚は持っているんですね。
宝槻:そうですよね。
斉藤:なんで変わらないといけないんですかね? 前例主義ってなんでダメなんですかね?
石山:ちょっといいですか。結局、藤原さんや宝槻さんがおっしゃっている通り、事業を効率化して収益に落とし込んでいく時には必然的に前例主義になる。
要するに、それがそもそも組織の特性としてあることだから、前例主義にならないためには、特別なことをしないといけない。でも前例主義だけやってたら、宝槻さんの限界が組織の限界になっちゃう。
宝槻:そうですね。
石山:宝槻さんを超える新しいものは、やっぱり生まれないじゃないですか。面白法人カヤックさんは比較的それをわかりやすくやっているなと思っています。
宝槻:なるほど。
石山:カヤックさんは経営理念が「つくる人を増やす」なんです。だから社員一人ひとりがなにかをつくりだすことにものすごく長けていて。
例えば新入社員の入社式で、5年後の退職願を読んでもらうんです。「私は5年間カヤックでこんなにやりたいことをやったので、こんなふうに辞めます」と入社式で読んでもらうんです。それくらい自分のやりたいことを大事にしている。
でも自分のやりたいことって宝槻さんのやりたいこと(とイコール)じゃなくて、本当はみんな自分の興味や価値観、関心がある。でも宝槻さんがいたら「すげえな。じゃあレゴ型をやりましょう」と、あたかも自分のやりたいことがレゴ型のようになっていくわけだけど、本当はそんなことはないはずです。
何かを宣言してもらったり、普通じゃない特別なことをやったりしないと前例主義になってしまう。あるいは前例主義にならない人が迫害されるんです。だけど越境すると、「迫害されて自分は良かったんだ」みたいになる。
斉藤:会社としてサイクルを作っていくことなんでしょうね。まずは作り出して、それをスケールさせていくために前例主義にしていくけど、それだけだと停滞しちゃう。自分の限界イコール会社の限界になっちゃうから、それをどんどんアップデートしていく人たちを作り出していく。
宝槻:企業行動や組織には、作るのと回すのと2種類あります。僕は今まで前半を作ってきたので、今は回すステージにいるんですけど、またどこかで意識的に誰かの力を借りるかして作るというモードをやったほうがいいのかなと、今思っています。藤原先生、どうしたらいいんですか?(笑)。
藤原:カヤックの例も出ましたけれども、うまくいっている会社や企業はあんまり組織を意識させない、組織よりコミュニティな感じがありますよね。
そういう縦・横だけじゃなくて「ナナメの関係」をうまくプロデュースしているのが、巨大企業のGoogleとかMicrosoftです。一番大事な価値を生み出すところには、ものすごくクリエイティブな環境を用意するじゃないですか。ある意味、組織という感じじゃないコミュニティを作る感じです。
実は、このお題の立て方が全部「組織は」でできていて、「組織でどう学ぶか」になっちゃっているんで、もう少し広げて考えたほうがいいかもしれないと感じます。
藤原:例えば僕は、リクルートが一番勢いのあった時、営業に配属されたわけです。企業を50社ぐらい担当して、その人事に「もっといい人材を採るためにはこういうイベントをやりましょう」「こういうPRをやりましょう」「こういう道具を作りましょう」「この本からこういうものをちょっと学びましょう」みたいなことを提案していくわけです。
日々の提案でどれほど人事部長を驚かせたか、その会社の社長に会ってどんなイノベーションを提案したか、その会社の取締役人事部長がどれほど驚いたかなどを毎日営業マン同士で語っていたんですよね。
このコミュニケーションが起こるかどうかが非常に大事で、こういうコミュニケーションが起こっていると、営業マンって育つんですよ。本当は営業マン研修で育つんじゃないんです。
お客さんとの相互作用でどんなコミュニケーションを起こすかにこだわっていると、毎日飲みにいったとして、最初は上司の悪口かもしれないけれども、次は「あのお客さんにこういう提案をした」とか「こういうことで1億円のプレゼンが通った」と話すようになる。そういう会話が起こる会社が強いんです。だからそういうコミュニケーションが起こる会社であれば、ものすごく学習する組織だなと思います。違う?
斉藤:いや、その通りだと思います。今のお話を聞いていてすごいなと思ったのは、自分を超えていく人が現れた時に、自慢大会で終わるんじゃなくて、「すごい。学びたい」と思い合えるような組織になっていること。これが、リクルートさんの本質なのかなと思ったんです。
斉藤:石山先生は?
石山:まさに藤原さんのお話に大賛成で、「組織」を再定義して、「コミュニティ」という言葉にしちゃったほうがいいと思っているんです。
だいたい我々が「組織」と言う時、日本人の壮年男性の正社員だらけの組織みたいなのを思い浮かべちゃう。エンファクトリーという会社では、今、組織をコミュニティと定義しようとしています。
だから、正社員は全員専業禁止で副業してたり、アルムナイで出ていって、アルムナイの人と結ばれたり、フリーランスの人と一緒にやっていたりとかしています。
つまり組織の境界線は雇用じゃなくてコミュニティ。エンファクトリーさんも自分たちはコミュニティになろうということで、そのための組織作りをしてきた。ちょっと組織に戻っちゃうんですけれども(笑)。10年間ずっとコミュニティ作りをやってきたから、(組織をコミュニティと)再定義する時に来ちゃっているんじゃないかと思うんです。
藤原:リクルートで最初に僕が配属された部門では採用でどれほど価値が上げられるのか、お客さんに向かってどれほど価値があるかを競り合っていました。
その中で、「採用はマーケティングだ」とか、「これからは人事だけじゃダメだ。広報から広報部の予算を取らなきゃダメだ」とそれまでの議論に合わない突出したことを言うやつがいても、コミュニティの中では刺激になるし、「ちょっと気になるから真似しよう」という学習が起こってくるわけです。
さっきの宝槻さんの話じゃないけど、突出した人間がわりと弾かれないコミュニケーションができている。現場の日々の改善でどれほどコストが浮くか、このプロセスでどうしたら3秒かかっていたのが2秒になるのかを徹底的にコミュニケーションした結果が、あのトヨタの会社じゃないですか。
そこに「このプロセス要らないんじゃね?」みたいなことを言ったやつもきっといる。でもそのコミュニケーションの中ではものすごく刺激になるし、むしろ突然ある種の先生になっちゃう。
それまで黙っていた人が発見すると、いきなり先生になっちゃう。生徒が先生になる瞬間があるんです。そういうことがダイナミックに起こっているのはいいこと。
学習する組織というのはきれいごとじゃないと思うんです。「こういうふうに設計すると学習する組織になりますよ」という正解があるわけない。
石山:そうですよね、設計しちゃったらダメですよね。またジグソーパズルになっちゃう。
藤原:そう。誰かが突出していくことじゃないでしょうか。
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