「競合優位性」の2つの定義

堀雅彦氏(以下、堀):お時間がものすごい押しちゃってまして、この後このまま戦略デザインのお話に移っていきます。

シンタックスというフレームワークの中で言うと、(スライドを示して)このエリアです。戦略があって仕組みがあるというボックスですね。ここの考え方で、仕組みという言葉はご認識されているとおりだと思うんですけれども、課題価値を作り上げるだけではなくて選ばれ続けるための戦略。これが体現されるものが仕組みだと思っています。

その仕組みによって必要なスキルとか人員のリソースが変わってきます。そして、ここでいう戦略は、僕は競合優位性という意味合いで言っているんですけれども、競合優位性という言葉はわりと捉え方が人によって違う言葉だと思います。

定義は僕の中では2つあります。フックという選ばれる理由と、ロックという選ばれ続ける理由。この2つの規定が戦略では必要だと思います。

フックはわかりやすいと思います。なんで使い始めてくれるのか、振り向いてもらえるのかということです。利便性という機能的な戦い方もあるし、あるいは感情的な側面でなんとなく好きとというイメージを作って振り向いてもらう戦い方もあります。

フックが自社のサービスにおいてなんなのかという規定と言語化が大事です。

選ばれ続ける理由の2パターン

一方でロック。こっちも同様に大事。競合は当然あとからいっぱい出てくるので、なんでユーザーを離さないでいけるのか、なんで使い続けてくれるのかという規定、言語化も大事になってきます。

こういう問いを自分に置き換えると、なんであのサービスを使い続けているんだろうという方向性がいくつか見えてきます。現段階だとロックは大きく2つのパターンがあって、サービスに対してユーザー側をロックする側面と、競合が入ってこれないようにロックするという両方があると思います。

ユーザー側のロックはパーソナライズ性を高めて誰よりも理解してくれるみたいな状態を作っていくとか、サービスのロイヤリティを高めて離れたくないという感情的なものを作っていくアプローチもあるでしょう。一方で競合側のロックは真似したくてもできないという特別なアセットを作っているとか、追いつけないという先行者優位をとっている状態を作る。

あるいはニッチすぎる市場なので真似しようとそもそも思わないというドメイン側でロックを作っていく。いろんなパターンがあると思います。だから大事なのは自社のサービスを使い始めてくれたお客さんが、なんで離れられなくなるのかを言語化して規定していくことです。これが戦略を描く上ですごく大事だと思います。

VUCA時代の選ばれ続ける理由の源泉は「データ」

このロックの源泉にあるものは、今の時代はやっぱりデータになります。

データがあるからこそユーザーが使い続けられるようなサイクルが回る。一方でデータが溜まっていけばいくほど競合が動けなくなり、両方のロックが回っていく。やっぱり中心にあるのはデータなのかなと思います。

なのでシンタックスという枠組みで文章を埋めていく上で、前提としてこの事業をやれば何が新しくデータとして溜まっていって、それがどういうロックにつながっていくのかという問いに向き合っていくエリアが、優位性ですね。

すごくシンプルで、ボックスは3つしかないんですけど、裏側でわりといろんなことを考えていて、なんでこのサービスが選ばれて、なんで選ばれ続けるのかをソリッドに言語化できるかどうかが戦略における確証を作っていく上で、非常に大事です。

3つの「優位性の軸足」の作り方

このフックとロックをどのように作っていくかという方向は、3つあります。ビジネスの構造・活動を通じて作るのか、技術で作っていくのか。お客さんの体験、クリエイティブで作っていくのかというこの3つで大きく軸足は作れると思います。

詳細は割愛するんですけども、例えばフリーミアムを使ってまず振り向かせる状態を作るとか、あるいは生産者と消費者をダイレクトにつなぐ従来の流通構造をガラッと変えることで振り向いてもらう状態を作るというものが、ビジネス的な切り口でフックを作っていくイメージになります。

一方でテクノロジーでいうと特別な技術を活用して新しい体験を提供するようなものはフック。テクノロジーを基軸にしたフックだと思います。

最後のクリエイティブで言うと、Slackはまさにそうだと思います。とにかく便利でストレスをまったく感じないチャットのコミュニケーションで、既存のメーラーサービスを使っているユーザーを振り向かせることができる。これはクリエイティブを起点にしたフックの作り方です。

ロックも同様にどの軸で作っていくのかという話がおそらくあります。大事なのは選ばれる理由を作る上で肝になる軸足はどこにあるのかという焦点、優先順位を決めることです。それぞれB(ビジネス)の場合は、ビジネスサイドの仕組みをどう作るかが肝になる。クリエイティビティの場合は、UX体験をどう作るかが戦略を作る上の肝になるんです。

このへんのポイントがどこにあるのかという見極めが非常に大事な領域が、戦略と仕組みだと思います。お話ししてきたとおり、こういう理由で選ばれるんですという戦略を規定しただけでは絵に描いた餅なので、仕組みに体現されていないといけない。

なので、シンタックスも優位性があって、それはどうやって作っていくのかがつながっている構造になっています。

Slackの「戦略」と「仕組み」

例えばSlackですね。使われている方も多いと思うんですけど、コミュニケーションチャットサービスです。

僕もずっと使っているんですけれども、競合となるのはおそらくGmailのような旧来のメーラーサービス。ここに対してのフックは、少しお話ししたとおり、とにかく便利でストレスをまったく感じないコミュニケーション体験が作られていることです。これが旧来のメーラーサービスを使っていたユーザーを振り向かせる最初のフックだったと思います。

ロックの要素は、コミュニケーションツールなので使えば使うほどデータファイルのやり取りの履歴が溜まっていくということ。これが使われ続ける理由かなと思います。フックとロックはこういう戦い方をしていると規定ができます。

そして、論点はこのストレスフリーのコミュニケーション体験をどうやって作るのか。これが仕組み側で規定しなくてはいけないところです。Slackの場合はどれだけストレスフリーな体験を作るか、これがフックの肝なのでUXをどこまで追求できるかが仕組み側における焦点となります。

これを作れる理由としてSlackは実際PL責任とデザイン責任を切り分けた組織を作っているんですけれども、デザインに特化した組織を作ること。

さらにパートナーとビジネスツールを連携して、ビジネスコミュニケーションに沿った提供の仕方をすることで、圧倒的にストレスフリーなコミュニケーション体験を作っている。ここのつながりが戦略を絵に描いた餅にしない、よりリアリティを作るのに必要な構造です。

時間軸を伸ばすと、事業活動を続ければ当然利用してくれる人が増えて、利用してくれる人が増えればコミュニケーションの頻度や量というデータが溜まっていく。コミュニケーションのデータが溜まっていくということは、よりロックが強まっていくことを意味します。

「なんで?」と踏み込むことで確証を作る

こういう構造をシンタックスの戦略で規定ができているかどうかが、向き合う問いだと思います。戦略と仕組みを言語化してソリッドにするのはすごく難しい部分もあるんですけれども。

でも「選ばれる・選ばれ続けるのはなんで?」という点を言葉にぐっと落とし込む。それだけではなくて、「なんで作れるのか?」に踏み込んで、仕組み側のエリアを書いてみる。その上で、ビジネスとテクノロジーとクリエイティブの中でどこが焦点かを見極めていく。

これが戦略と仕組みの領域で考えないといけないところだと思います。言い換えると、この踏み込みがいけそう、作れそうという確証を作っていくことになります。

実務上はすごくシンプルに書いているんですけれども、まず一般的に(言われている)とおり、競争環境を理解する。そのうえで自社ができることを洗い出して、戦い方の可能性を発散し、どれだと一番いけそうかを実証していくというアプローチになります。