2024.12.24
ビジネスが急速に変化する現代は「OODAサイクル」と親和性が高い 流通卸売業界を取り巻く5つの課題と打開策
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谷尻純子氏(以下、谷尻):本日は『ビジョンとともに働くということ』出版祈念イベントにお越しいただきありがとうございます。さっそく登壇者の紹介をさせていただきます。中川政七商店社外取締役の山口周さんと弊社の中川淳です。もうご存知いただいている方も多いかと思うんですけれども、本日の登壇者お二人に、簡単に自己紹介をしていただければと思います。では周さんからお願いします。
山口周氏(以下、山口):山口です。みなさんはじめまして。僕は書いてあるとおり、一番最初は大学を卒業したあと広告会社に就職しました。僕のキャリアはすごく単純で、20代は広告の仕事、30代は戦略コンサルの仕事、40代は組織開発の仕事をやって、中川政七商店のお手伝いは3年前から。
中川淳氏(以下、中川):丸3年くらいですね。
山口:そんなご縁があって、奈良にちょこちょこ来ています。よろしくお願いします。
(会場拍手)
谷尻:では続いて淳さん、お願いいたします。
中川:中川政七商店で会長をやっています、中川です。よろしくお願いします。中川政七商店はみなさんご存知いただいているかと思うんですけど、SPA事業のほうはもう4年前に千石現社長に譲って、今は主には工芸メーカーのコンサル事業や、奈良のまちづくり事業などをやっています。よろしくお願いします。
谷尻:ありがとうございます。
(会場拍手)
谷尻:よろしくお願いいたします。ではさっそく始めてまいります。
本日3つの大きな問いを設定しましたので、お二人にお話を聞いていきたいと思います。1つ目が「ブランドとビジョンの関係って?」。2つ目が「いいビジョンと、よくある失敗例とは?」。3つ目が「いいビジョンは何に繋がるのか?」です。
谷尻:ではさっそく1つ目の問いの「ブランドとビジョンの関係」からうかがっていければと思います。
中川:その前に、本(『ビジョンとともに働くということ 「こうありたい」が人と自分を動かす』)を読んだという方はどれぐらいいますか? さっき「本にある話をしちゃ申し訳ないよな」と思いつつも、出版社の方と「実は半分くらいの人が読んでいないのが定番ですよ」とお話をしていました。今日の対談、本の内容とかぶるところはあるかとは思うんですが。
『ビジョンとともに働くということ 「こうありたい」が人と自分を動かす』(祥伝社)
ブランドとビジョンの関係というより、会社とブランドとビジョンの関係のような話かなと思うんですけど、僕なりに考えたのは、「会社」があって、その下に「ブランド」があるじゃないですか。
それぞれにビジョンがあるかないかだと思うんですけど、中川政七商店でいうと、会社のビジョンがあって、ブランドのビジョンはあまりないです。コンセプトはあります。
中川:他の会社だと、例えばP&Gのようないろんなブランドをお持ちの会社は、ブランドごとにビジョンがあるんですかね。
山口:はい。
中川:あるんですね。なるほど。
山口:濃淡はあって、今はおそらくどのブランドもちゃんとビジョンを作っていると思います。佐宗邦威さんがP&Gにいた時に、アメリカ人の上司が売上目標しか言ってこないから、「このブランドのビジョンは何か?世の中のどんな問題を解決するのか?」と聞いたら、「そんなもの何の金になるんだ」とめちゃ怒られたと言っていました。もともとP&Gはビジョンを作ろうという志向性は薄いのかも知れませんね。
中川:なるほど。でもある時期からそれができた。
山口:最近はそこを見透かされちゃうんじゃないですかね。
中川:P&Gのような会社は、会社名がほとんど出ずに、基本的にはブランド名だけで立てていくじゃないですか。そうするとブランドのビジョンはある意味成立しやすいと思うんですけど。逆に親会社であるP&Gにビジョンは立てにくくて、わりと難しいですよね。
山口:だから抽象度が上がりますね。
山口:本の中では話していないと思うんですけど、僕は世の中のビジョンは整理すると4つになると思っているんですね。
中川:何でそれを話してくれなかったんですか(笑)。
(会場笑)
山口:1つは、自分たちは何者であるかという「自己定義型」のビジョンですね。この代表例はソニーの設立趣意書。自由闊達な理想工場の建設という、自分たちがどうなりたいかを定義するビジョンです。
2つ目が「達成目標定義型」で、例えば東京と大阪を日帰りできるようにするという新幹線プロジェクトのビジョンですよね。月に人を送って無事に地球に返す。これはアポロ計画のビジョンです。何を目指しているのか、何を実現したいのかですね。
3つ目が「誰に何を提供するのか」。例えば、知的で反抗的な人々に対して、世界を変えるための知の自転車を届けるというのが、Appleのもともとのビジョンですよね。つまり「知性にとっての自転車を作る」ということですね。人間はすごく移動効率が悪い生き物なんです。全部の動物を移動効率の順番に並べると、下から3分の1くらいのところの位置付けでものすごい鈍臭いんです。
でも自転車を与えるとコンドル以上にエネルギー効率のいい動物になるんです。どんな動物よりも遠くに行けるようになる。それだけすごい効果があるのに、自転車は誰もが買えて誰もが乗れるものです。
じゃあ、知性にとっての自転車を作れたら、世界が変わるんじゃないか。これがもともとのスティーブ・ジョブズのビジョンなんです。これはつまり「提供価値の定義」ですよね。誰に何を届けるのか。患者とドクターに対して病と戦うための支援をするという、Johnson & Johnsonもそうですよね。
山口:最後の4つ目が「どんな世界を作りたいのか」。中川政七商店は「日本の工芸を元気にする!」がビジョンですよね。「工芸が元気になった世界を作る」というビジョンはどちらかというと4つ目に近くて、あるいは「工芸の人たちを元気にする」ということでいうと3番目です。
P&Gの場合、個別のブランドごとの定義はおそらくレイヤーの2とか3になってくると思うんですけれども、P&Gという会社自体は、レイヤーの1で「こういう会社であり続ける」というビジョンを作れると思うんですね。
中川:なるほど。
山口:例えばマッキンゼーはどういうビジョンを掲げているかというと「最高の人材を惹きつけて、彼らを夢中にする仕事を作り続ける」と言っているんですね。
先ほどの枠組みで言えば、これはレイヤー1の定義です。コンサルティング会社としては珍しいビジョンで、何が珍しいかというと、顧客への提供価値を定義していないわけです。自分たちがどんな会社で、最高の人材を集めて、彼らが夢中で働けるような仕事を与え、成長させると言っている。
レイヤーを変えると、いろんなビジョンを並列させることが可能だと思います。
中川:確かに。うちは「何を達成するのか」という2番な感じがしましたね。
山口:ああ、そうですね。素直に読めばそうなります。
中川:3番は、誰が何を本質的に提供しているのかというドラッカー的な感じですよね。
山口:「顧客」という概念が出てくるので。
中川:顧客の定義の話ですね。4番の「どんな世界を作りたいか」は、例えばテスラのビジョンとかですか?
山口:そうですね。最近元気のいい会社には共通項があって、経営学者の先生とかはあまり言っていないようですけど、ビジョンを見てみると、「顧客」という概念が入っていないんです。これは淳さんとも取締役会で話をしたと思うんですけど、中川政七商店も実は「顧客」という概念を入れていないですよね。要するに作り手のほうを向いているわけです。
例えばテスラは「化石燃料に依存する文明の在り方に終止符を打つ」と、顧客の話をぜんぜんしてないわけですよね。パタゴニアも「環境を保護する」。お客さんがどうとか、ぜんぜん話していないんです。
Appleは多少「反抗的な人々」ということで顧客に近い要素がありますけど、これも別に頼まれているわけじゃない。例えばGoogleの「世界中の情報を整理して、誰もがアクセスできるようにする」というのも、誰もそんなことお願いしていないわけですよね。
誰もお願いされていないのに言い出しているから、あの会社はものすごい資金調達で苦労しています。ベンチャーの時から350回断られていますから。それはそうですよね。
淳さんも自分のキャッシュが手元に100億円くらいある時に、大学院生が2人来て「世界中の情報を整理して、誰もがアクセスできるようにする。検索エンジンを作るので、10億円出してくれ」と言われたら、「ちょっと、俺いないって言ってよ」と言いたくなるでしょう。
中川:(笑)。いやでも、僕はどっちかというとそういうのに共感しちゃうほうなので、「1億円取り敢えず出すわ」と言ってしまうかも……。
山口:あの時1億円出していたら、今は1兆円くらいになっていますよ。
中川:そうですよね。
中川:僕がビジョン作りで気を付けなきゃいけないと考えているいくつかのポイントの中で、「顧客に媚びない」ということを言っています。
ついついビジョンを作るとなると、みんな顧客を向いて、いいことを言っちゃうんですよね。僕は顧客を軽視しているわけではなくて、それは当たり前のことなんですよ。「その次元とは違う何かがあるよね」と思っているから、顧客のことを敢えて言わないんです。
山口:顧客のニーズを見る、潜在ニーズを捉えるというのは、ビジネスやマーケティングの教科書にも書いてありますけど、そこ発でビジョンを作っても、あまり痺れるものにならないんじゃないかという気がするんですよね。
中川:そうなんですよね。顧客を見てどう商売を成立させるか。まさにマーケティング的な思考で、特に中小企業はそんなにお金を掛けて高度なマーケティングはなかなかできないし、それをちゃんとやっている大企業も、うまくいったりうまくいかなかったりするから、余計にそういうことにしないほうが、中小企業の生きる道としてはあると思うんですよね。
山口:顧客の不満の鉱脈は、もう掘り尽くされた。銀の出なくなった銀山みたいなものですから。
中川:(笑)。まさに。
山口:そこにみんな掘りこんでいるから、すごく過酷な労働になっていると思うんですよね。少なくとも先進国に関して言うとね。
中川:そうなんですよね。そうなった時に(次の鉱脈は)どこにあるのかと言った時に、僕は「誰かを応援する気持ち」じゃないかと思っていて。クラウドファンディングですね。
今はかたちがだいぶ変わってきていますけど、クラウドファンディングもまさにそうです。日常に絶対必要なもの以外で、何かお金で払って買うという話は「応援の気持ち」がどこかあるんです。応援したいと思える対象かどうか。その役割を「ビジョン」が担っているし、問われる感じがするんですよね。
山口:応援したくなる人の特徴や条件は何かというと、「何と戦っているかがはっきりわかる人」なんですよね。何と戦っているのかはっきりしない人は、応援したいという気にならない。
「病気と戦っています」とか「こういう問題をなくそうと思っています」と言うんだったら応援したくなるんです。だいたい敵がはっきりしていると思うんですよね。ある意味でチャイルディッシュ(子どもっぽい)だし、ナイーブと言えばナイーブなんです。
人は何かと戦っている人じゃないと応援する気にならなくて、僕はそこにブランドのエッセンスがあると思っています。敵がはっきりしている。敵をデザインするという発想は必要なんじゃないか。
中川:そこで言う「敵」は、競合とかではないですよね。
山口:違います。ヒューマニズムに対する脅威です。
中川:そうですよね。だから「社会課題に連結すべき」という話が、まさにそういうことですよね。
山口:そうです。
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