越境学習やキャリア形成を研究する、石山恒貴氏が登壇

石山恒貴氏(以下、石山):それでは『越境学習入門』についてお話しさせていただきたいと思います。こちらは私、石山と伊達さんの共著ということで、分担してお話ししたいと思います。よろしくお願いいたします。

伊達洋駆氏(以下、伊達):よろしくお願いします。

石山:今日はいきなり午後、佐久米という所であまねさんにウナギをおごっていただきました(笑)。そのうえ『ゆるキャン』の聖地巡礼をご案内いただきました。さらに「三ヶ日みかんジュース」。これは、あまねさんのワーケーションのオフィスの冷蔵庫を開けると、ずらーっと並んでいて取り放題だそうです。言ってしまってよかったのかわからないんですけど(笑)。

それでいきなりテンションが上がって、なおかつ今のあまねさんの熱いトークで、さらにテンションが上がっているという状態です。

簡単に自己紹介させていただきますと、私は今、法政大学の政策創造研究科という大学院で教員をやっています。こちらの大学院は、社会人大学院なんですね。なので学生が20代から70代の人と幅広く、毎日ワイワイガヤガヤやっています。

そのワイワイガヤガヤやるネタが、企業の人材育成関連ということで、今日の越境学習のイベントにつながるという話もあるんですけれども。タレントマネジメントのような人材育成や、40代、50代、60代のミドルのキャリア形成みたいなことも、みんなで幅広く話しているんですね。なので、あまねさんがいろいろ考えておられるようなことは、テーマ的にもともとものすごく、被っているなと思っています。

越境は「冒険」

石山:今回の本『越境学習入門』ですけれども、最初のあまねさんの話にもありましたが、「越境学習は一部の人だけがやるのだとちょっとどうかな?」という問題意識が、もともと我々にもあったわけですね。

これはJMAMさんのおかげでできた本ですが、最初ご提案いただいた……すみません、ディスっているわけではないので(笑)。現在の表紙になるまでのプロセスを説明しているんですけれども、最初の表紙はシンプルな羅針盤だったんです。

後ほど説明しますが、羅針盤もいいんですが、シンプルな羅針盤だとちょっと「かっこいい越境」という感じになって、「シャープな人だけがいくのかな」という感じになってしまうので、越境は「冒険」というかたちで説明しようよ、となったんです。

「もうちょっと『ワンピース』とか『ドラクエ』みたいな、みんなで冒険して、不安だけど遊び心があってワクワク、みたいな感じになりませんか?」と言ったら、次にきたイラストが、7~8人の人が同じ船に乗って、PCとかスマホをいじって楽しそうにしてる絵だったんです。

「うーん、これも良いんですけども……越境は最初は1人で不安だけど、飛び込んだら遊び心があってワクワク、みたいな感じなので。みんなで仲良く同じ船に乗っていると、同質的な企業みたいでどうですかね」と、だんだんクレーマーみたいになってきました。

そうしたら「おっしゃっていることがよくわからないので、絵にしてもらえますか」という話になって。私、絵心はまったくない人間ですけれども、じゃあしょうがないなと、この落書きみたいな絵を書いたんです(笑)。

伊達:これを提出されるまで、とても速かったですよね。

石山:早くイラストを直してもらおうと思ったので、5分で描きました(笑)。そうしたら伊達さんが「一人ひとりが船に乗ったほうがいいんじゃないの」と言って、それだ、と思って。

これ、一応波です(笑)。これは、望遠鏡とか地図とか。それで送ったらなんとイラストレーターの方が、こんなすごい絵にしてくれました。やっぱりイラストレーターの力はすごいな、と思いました。不安感とかワクワク感が同時に欲しいということだったんですね。

目指したのは、越境学習の「効果の見える化」

石山:もともとのきっかけは経産省さんのプロジェクトでした。経産省さんはやっぱりイノベーションがもっと起こってほしいと思っているわけで、でも大企業は若干そういうところは、同質性が強すぎるよねという話があって。

ところがここで言ってるクロスフィールズさんのように、社員の方を半年ぐらい海外のNGOに、留学じゃなくて「留職」させるとか。ローンディールさんのように、ベンチャーにレンタル移籍させるという仕組みがある。こういった動きが個々に広がっているのは良いんだけど、越境学習は効果を共通化して見える化して示すことが、それまでは難しかったのです。

例えばクロスフィールズさんやローンディールさんは、個々に効果測定をされているんです。でも、バラバラにやっていくと全体で見える化ができなくなってしまうので「このあたりをつないで見える化ができませんか」というお話がきたんです。これはすごくいい話だけど、絶対自分だけではできないなと思って「伊達さんが一緒にやってくれるならいいです」とお話をしました(笑)。

で、伊達さんに協力していただき、うちの研究室の人たちにもかなりインタビューをやってもらって、越境学習者40名の方にインタビューしました。後ほどご説明しますけれども、このプロジェクトは、見える化に近いものができたんです。

それで、せっかくだから本にしようということになりましたが、たぶん僕と伊達さんだけだとけっこう硬い本になっていたのではないかと思うんです。けれども、JMAMさんで編集会議を始めたら、いろんな新しいメンバーが入った時に「そもそもそれはどういうことですか?」とか「もっとちゃんと教えてください」となって。

「これって実は冒険じゃないの?」「そう言われてみると冒険だね」ということで、「じゃあ今までありそうでなかった、越境学習の全体像の入門書を作ろう」ということになったわけですね。

石山氏による、越境の「新定義」

石山:ここで、私の越境の定義です。もともと「越境学習」という言葉は、10年ぐらい前に、立教大の中原(淳)先生が、『経営学習論』という本の中でおっしゃったんです。中原先生の場合は、会社の中での職場学習や経験学習に対して、会社の外で越境学習しましょうという位置づけだったんですけども。

私は、若干その定義を変えています。越境は何かの境界を越えて学ぶことだけれども、それは「自分の心の中でホームと思う場所と、アウェイと思う場所を行ったり来たりすることだよね」と定義を変えました。ホームとは、そこに行くとよく知っていて、社内用語も通じてよく知っている人たちがたくさんいて、安心できるんだけども、でも刺激がない場所。

アウェイとは、そこに行くと見知らぬ人がいて社内用語も通じないので、居心地が悪いけど刺激がある場所。それがひょっとしたら居心地が悪いだけではなくて、浜名湖みたいなふだん見えない風景とか、ダムみたいなことかもしれないんですけども(笑)。そういう所を行ったり来たりして刺激を受けるということですね。これはまさに冒険ではないかと。

あと企業主導と個人主導があると思っています。確かにクロスフィールズさんの留職とか、ローンディールさんのベンチャーのレンタル移籍はわかりやすいんですが、これだけになってしまうと……、ある種すごい越境なのかなというイメージもあると思うんですけれども、さっきあまねさんが言っていた、何かしら違和感を味わう「半径5メートルの越境」というか。

例えばいつもいる会社ではなく、PTAに行ってみて「進め方が違うなぁ」みたいに感じることも越境じゃないかと思うんです。それは個人主導ということで、幅広く越境学習を捉えたい。そうなった時にアウェイの特徴は、そもそも上下関係がない場所が多かったりします。上司もいないし、みんながリーダーシップを自分で発揮しないといけない。

また、社内用語も通じないので異質性や葛藤がある。そして、アウェイはけっこう自分でいろいろやれてしまうんですね。会社のプロジェクトは「自由にやってください」と言われながらも、なんだかんだ言って落とし所があるんですが、アウェイは自分でいろいろ考えられる。

ミッションから設定すると逆に抽象度が高くて、モヤモヤしてしまうことがあるので、この3つの条件(上下関係のなさ x 異質性 x 抽象度)が重なるとけっこう学びになるのかなと思っています。

「経験学習」と「越境学習」の違い

石山:そういう意味で言うと「経験学習と越境学習は何が違うんですか?」とよく言われるんです。かなり似ているんですけど、経験学習とは自分の専門性をどんどん高めたいということで、「熟達」「縦の糸」のイメージです。

越境学習は、そういう日常の経験の中で1回違う経験をしてみて、自分で「この専門性で本当に良かったんだっけ」と立ち止まり、自分の固定観念を打破するということです。そこに違いがあって、こちらは「横の糸」ではないかと思っているんですね。

理論的に言うと、ロシアの天才心理学者でヴィゴツキーという人の、子どもの研究があります。子どもは自分の中で知性を発達させていって、大人からいろいろ刺激を受けて成長していくというよりも、いろんな子どもや大人と刺激を受け合って成長している。「相互作用が大事だ」ということをすごく強調したんです。これが実は越境学習の始まりなのではないかと思っています。

そのあとフィンランドのエンゲストロームという人が、現代社会はものすごく専門性が強すぎて縦割りになっているんだけど、これは諸領域の分断で、そこを越境してつないであげないといけない、と言い出しました。これが、越境の非常に重要な2番目の理論です。

3番目が実践コミュニティで、これはいろんな異質な人たちが自分の興味・関心で集まるコミュニティですね。そこでいろんな人と刺激を受け合うことによって、自分が何者になりたいかを、異質な人たちと考えていく学びですね。

そうすると結果的に越境学習は、例えば違う所に行って、スキル的な知識を得たりすることもあるんですけれども。実はいろんな異質な人と刺激を受けて「自分はこれがやりたいんだっけ」「何がやりたいんだっけ」「自分とは何なんだっけ」と、何になりたいかを見通していく学びが、実は一番重要なのではないかと思っています。

越境学習は「キャリア自律」につながる

石山:これと似たもので、ジャック・メジローという人が言った変容的学習があります。こういった学びは、世界観とか固定概念を覆すような学びが大事ですが、これは「混乱するジレンマ」がないとなかなか学べない。混乱するジレンマとは、自分が非常に大きな病気になってしまったとか、自分の親しい人に大変なことが起きたとか、そういうトラウマが起こるような非常につらい目に遭った時に起きるものです。

そういうメジローの学びも大事ですけれども、つらい目に遭わなくてもいいんじゃないかと思います。つらい目に遭わなくても、半径5メートルの越境で固定概念が打破されるといいよねという話ですよね。

それ(メジローの変容的学習)は例えば、今よく企業が強調している「キャリア自律」とも関係してきます。「じりつ」には、自分で立つ「自立」と自分で律するという「自律」がありますが、親から自立するという時は「自立」のほうしか使いません。つまり「親から自律する」とは言わないんですね。

経済的に一人前になるとか、何かから一人前になるのが自立ですが、「自律」は何かで自分自身を律するんですね。それって、自分が大事にしてる価値観、自分らしさではないかということです。

でも自分が大事にしてる価値観とか自分らしさは、実はホームだと見えなくなり、アウェイに行くと「自分は本当はこれがやりたかったんだ」とわかったりします。キャリア自律と、非常に結びつきがいいと思うんです。

ただ、会社が都合よくこれを使う場合があります。「自分で立って会社を辞められると困るんだけど、会社や上司に忖度して自分を律してくれるといいから、こっちがいいや」という場合があるんです。これはとんでもない間違いなのではないかと思っています。

アウェイで培える「イノベーターのスキル」

石山:これまでの越境学習は、ホームだったら分析力とか導入力とか実行力が大事でした。ですが、例えば関係ないことを関連づけたり、現状に異議を唱えたり、新しいことを観察したり、多様な人とつながったり、いろんな新しいことを実験するといったイノベーターのスキルとして大事だと言われることは、アウェイのほうが培えるんですね。

会社の中にいると、会社の価値観と自分の価値観がくっつきすぎてよくわからないけれども、1回会社の価値観と自分の価値観を離してみて、アウェイで自分が何になりたいかをわかったほうがいいと。引き剥がすと「じゃあ会社のパーパスはやらないんですか」みたいに反発されるかもしれません。けれども、実は引き剥がすからこそ、より自分の価値観の中で会社の何が大事なのかが見え、もっと貢献できるのではないかとも思うんですね。

さっきあまねさんが両利きの経営ということで、既存事業を深掘りするのと新しいものを探索していくことが、分かれて両方あることが大事ですと言っていましたが、深堀りする人からは、探索する人は迫害される場合があります。「自分たちは真面目に仕事をしているのに、あの人たちは新しいところをほっつき歩いてチャラチャラして、何あのチャラい奴ら」となるので。

さっき、チャットのコメントで「越境学習で外に行きます」と言うと「なに意識高いことやって。みんな職場で残業して忙しいのに」みたいになるから、「婚活行きます」とか「合コンに行きます」と言うと「がんばってね」と送り出してもらえた、という話をしていましたが、ちょっとそれに似たところがあります。

「越境学習者は二度死ぬ」

石山:なので越境学習は、何になりたいかとか、長期的にどうありたいか、を考えるので、やったらすぐ効果が出るものではありません。1割バッターぐらいに考えてやってみて、「どうなのかな」とちゃんと考えるのが心持ちとしては大事です。

そういったことを、クロスフィールズさんとローンディールさんで調査をしてみたんです。伊達さんと一緒にやった調査ですが、ここでわかったのは例えば、留職とかレンタル移籍をしている時が「越境中」で、自分の会社・ホームに戻ってきたのを「越境後」としています。

越境中に衝撃を受けることは、もともとわかっていたんですね。なぜなら留職をすると、会社の中では縦割りの中で仕事を回しているのに、それほどオペレーションが整っていない組織の中でも圧倒的な社会課題に取り組むということで、「すごいな」と感じるし。

自社ではいつの間にかお金が回っていると思っていたら、ベンチャーに行くと、経営者が「実はちょっと相談したいんだけどさ。2週間後にもう資金ショートするかもしれなくて、どうしたらいいんだろうね」と、ヒリヒリする感じを味わったりとか。

そういう中で、自分は縦割りの中のことしかできなかったのに、「みんなすごいな」と衝撃を受けるんです。でもみんながんばって近づいていこうと、すごく学びができて熱量も上がり、視点も高くなるんですね。

ところが越境中の葛藤より恐ろしかったのは、越境後の葛藤です。みんな自分の会社に戻るから、「あぁ戻った戻った」とホームに戻ったはずだと思う。それで熱量高く「みんなが社会課題にこんなに取り組んでいるんです! うちの会社もこんなことやってないでもっとやろうよ!」と言うと、周りが「どうしちゃったのお前?」「なんか困った人になっちゃったね」みたいな反応をする。

「そんなこと言わないで、もうちょっと真面目に働いてよ」みたいになって。そこで越境学習した人はものすごく衝撃を受けてしまう。ある人はインタビューの中で、「周りの人がみんなゾンビに見えた」と言っていますが、こっちの葛藤がけっこう深かったりします。我々はこの現象を「越境学習者は二度死ぬ」と名づけました。

そういう中でもみなさん葛藤しながら行動して、自分の資源を動員して、そうすると物事が俯瞰できるようになっていき、成長していく、ということが見えてきた……。ここで伊達さんにバトンタッチしたいと思います。

アカデミックからビジネスに、キャリアを越境した伊達洋駆氏

伊達:石山先生、ありがとうございます。あらためまして、ビジネスリサーチラボの伊達と申します。みなさんよろしくお願いします。今日はワーケーション型のイベントということで、私もふだんスーツを着ているんですけど、今日はスーツではなく普通のトレーナーで参加する感じで……今どき「トレーナー」って言いますかね? 大丈夫ですかね(笑)。

(一同笑)

沢渡あまね氏:言います(笑)。最初会った時、一瞬誰だかわからなかったです(笑)。

伊達:リラックスしてできればと思っております。最初に私も自己紹介ができればと思うんですが、実は私はキャリアの越境をしています。もともとは神戸大学大学院経営学研究科で、研究者としてのキャリアを歩んでいたんですね。その途中で自分の会社を立ち上げて現在に至っています。

なので、アカデミックなキャリアからビジネスのキャリアに越境してきた。かつアカデミックに対しても、今でも時々何らかの貢献をしているので、まさにホームとアウェイを行ったり来たりしながら活動しているキャリアになっています。

私自身、会社としては例えば組織サーベイや人事データ分析など、いわゆるデータ分析を仕事にしています。いろんな本も出させていただいていて、とにかく「この人何の専門家なんだろう」というぐらい、いろんなところに顔を出させていただいています。

自分としては「その他枠」と呼んでいて、その他のところで「彼を呼んでおいたらなんとかなるんじゃないのか」という(枠)。石山先生からお誘いいただいたのも、まさにその他枠の効用かなと思っています。

石山:いやいや、ど真ん中でございます。

伊達:ありがとうございます(笑)。自己紹介でした。みなさんからのコメントに答えたり、このあとパネルディスカッションの時間も取りたいなと思うので、私からはあまり話が長くならないよう、簡単に『越境学習入門』の説明ができればと思います。

自社に戻った越境学習者との関わり方

伊達:越境学習者の体験するプロセスについては、今まで石山先生からお話しいただきました。この越境学習している人たちが戻ったあとに、その所属組織のいろんな人が関わるわけですね。

例えば経営者、それから人事部門の方、そして上司。スライド内の伴走者とは、例えばコーチング的に越境学習に接してくれるような人を指します。そういう方々がいろいろと関わります。その際に、どのように関わればいいか、という話をさせていただきたいんですが。一言でいうと「スルーしないでください」がまず大前提かなと思っています。なかったことにしないでほしい。

越境から帰ってきました。上司に「帰ってきました、今日からまたよろしくお願いします」、「はい」と言われて「じゃあ今日の仕事はこれね」みたいな感じで何事もなかったかのように接されると、今までの半年間とか1年間は何だったんだ、となってしまう。

そうすると越境学習者としては、まったく越境学習で得たことを発揮できる機会がなくなってしまうわけですね。なかったことにされてしまうという対応はまずいんじゃないのかな、というのがまず大事なところかなと思います。

なかったことにしないのはわかったとしても、じゃあどのように接していけばいいのか。それはステークホルダーごとに異なります。ある意味さっきの表紙イラストではないんですが、荒波を乗り越えてきたわけなので、例えば経営者であれば「よくがんばった」と讃えてあげていただきたいんです。ちゃんとリスペクトして、声をかけていただきたい、というところがまずあります。

人事部門の方々は、こうした経営者とか上司とか、あるいは社内外のいろんな関係者と越境学習者をつなぐような、ハブとしての役割を担っていただき、伴走者の方は、越境学習の方々の反省、内省、リフレクションを促していく役割が重要かなと考えます。

関心は高く持つが、関与はしすぎないという距離感

伊達:とにかく重要な接し方かなと思っているのが次のスライドのところです。越境学習から帰ってきた方はたぶん、周りの人から「ちょっと空気を読まない発言をしている」と感じられる可能性があるんですね。それはすごく良いことです。むしろそれが効果と言えるわけですが。

そうした人材に対して、周囲がどのように接していけばいいのかですが、『越境学習入門』の中では「関心は持ってくださいね、ただし関与はしすぎないでくださいね」と定義しています。関心とは、越境学習者がどのような越境のプロセスを辿ってきたのか、そして現在どういうことを考えているのかにしっかり耳を傾けたり、あるいは観察することをきちんとやっていただきたいと。

ただ関与しすぎるのも問題です。例えば「越境学習どうだった? 越境学習を通じてどのようなことができるのかというレポートを1週間後に出してくれ。1週間後フィードバックをするから、そのあと1ヶ月以内にアクションプラン立てて……」みたいな感じで言われると、のびのびと自由に組織を変えていこうとしている越境学習者の気持ちをくじいてしまうことになるわけですね。

ですので関心は高く持っていただきたいんですけど、関与はしすぎない。すごく難しい関わり方だと思うんですが、言ってみれば思春期の子どもに対する接し方みたいなところかなと思いますね。

(一同笑)

そういう接し方をぜひお願いできればと思います。

「とりあえず越境学習しよう」は、失敗の始まり

伊達:そのうえで組織として、越境学習を導入していくやり方ですが、いくつか考えるべきポイントがあります。まず1つがやっぱり目的を設定する必要があります。「とりあえず越境学習しよう」みたいなのは失敗の始まりなので、例えば事業面の変革を目指して導入するのか、それとも長期的な人材育成を目指して導入するのか。こうした目的をきっちり定めていくことが重要になります。

そしてその目的をきちんと会社が公認する。かつ、できればトップから「こういう目的のもとで越境学習を行っているんですよ」「うちの会社では導入するんですよ」ということをメッセージとして発信されると、越境学習が正当化され、学習者が誇りを持って越境先に行くことができますし、また帰ったあとも誇りを持って働くことができますね。

どのような方を越境学習者として選んでいけばいいのかですが、現在は20代~30代ぐらいの若手の方々が越境学習のプログラムに参加する傾向が多いんです。ただ原理的には別に年代は問わないはずなんですね。

それよりも重要かと思うのが、本人の意思です。「越境したい」という意思が高まっていない状態で「とりあえず何でもいいから行ってこい」みたいな感じになってしまうと、効果が出にくい。意思を高める、もしくは意思を持っている方に越境していただくことが、会社としては重要になります。

意思については、越境先を選んでいく時にも重要になってきます。会社が「ここに行け」とするのではなく、最後は本人が決める。会社ももちろん支援しますが、本人が「ここに行きたいです」と意思決定することが重要になります。そういう意味で越境学習は、非常に主体的なプロセスとしてきちんと構築する必要があるということですね。

越境学習の醍醐味

伊達:先ほど石山先生から、越境学習のプロセスを出していただきました。まさにそのプロセスの具体的な事例として、今回の『越境学習入門』の中では、4人の実際の越境学習のケースを収めています。ここでは詳細に話しませんが、1個ポイントがあります。みなさん越境学習というと、越境先ですごく成果を残しているイメージがありますよね。

越境学習がうまくいった人は、越境先でゴリゴリと仕事を回し、最終的に何かすごい成果を残して帰ってきたみたいなイメージがあると思うんです。でも必ずしもそうではないんですね。むしろそうでなくても、越境後に花開くことが十分にあるということを、この4つの例は示しています。いずれも非常に真に迫るというか、生の声がたくさん収められているので、ぜひ読んでいただけるとうれしいです。

最後に、この『越境学習入門』を書く時、越境学習は先ほどのとおり「冒険」という例えで説明していますが、冒険と言うと誰を想像しますかね。私と石山先生は、例えば『ドラクエ』とか『ワンピース』をすぐに想像してしまったんですが(笑)。

石山:です。

伊達:ただ『ドラクエ』だと、勇者になる人は1人だったりするわけですよね。でも実際の社会における越境学習って、別に勇者のためだけのものではないんですよね。普通の村人、私も村人Aとかだと思うんですが、ぜんぜん村人でも越境はできるわけです。

言い換えると、誰もが「越境学習者の卵」だったりします。例えばみなさんこういう経験はないですか。ちょっとふだんと違う環境で慣れなくて、何か居心地が良くない。別にネガティブな意味ではなくて、どう振る舞えばいいのかよくわからない、と感じるような経験ですね。

例えばPTAに参加したりとか、あるいは地域の何かに参加したりとか、少しセミナーを聞きに行ってみたりとか、そういう経験があると思うんですね。その時に何か、ちょっとモヤモヤすると思うんですよ。そのモヤモヤするということが越境学習にとっては非常に大事というか、そういう葛藤が原動力になっていくのが、越境学習の醍醐味になっています。

そうした醍醐味を十分に味わって、モヤモヤして悩んだりすることが大事です。その葛藤を味わい尽くすことで、越境学習の深みが獲得できるわけですね。そうした越境学習の冒険をやってみることで、自分や周囲、それから会社、場合によっては社会も変えていけるわけなので。

この帯にあるとおり「さぁ、みんな冒険に行こう!!」といったことで、私の話は締めさせていただきたいと思います。ありがとうございました。