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売上高4652億円!高成長を続けるカインズを支える200名のデジタル内製化組織の作り方 ~カインズCDO 池照氏が語るゼロから始めた内製化への道のりと、その驚くべき効果とは?~(全3記事)

2022.06.08

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わずか数年で400億円も売り上げを伸ばしたカインズ ホームセンターのDXで、まず「顧客戦略」に着手した理由

提供:株式会社メンバーズ

多くの企業がデジタル戦略を進める中で、「IT=外部委託」から、「デジタル組織の内製化」へと舵を切り始めています。しかし、内製化の実現には投資計画や組織づくり・文化づくり、経営層と現場の意識改革、採用・育成など、あらゆる領域の変革が必要です。株式会社メンバーズ主催のセミナー「カインズを支えるデジタル内製化組織の作り方」では、200名以上のデジタル部隊を内製化したカインズの先進的な取り組みを紹介します。開発からマーケティングまで行うデジタル組織の立ち上げから今後の戦略まで、立役者である同社CDOの池照直樹氏が語りました。本記事では、いきなりデジタルを推進する前に、最初に実施した「顧客戦略」について解説します。

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企業のデジタルシフトが進む中で注目される「内製化」

西澤直樹氏(以下、西澤):みなさん、こんにちは。株式会社メンバーズの西澤と申します。本日はお忙しいところお集まりいただき、誠にありがとうございます。簡単に自己紹介をさせていただきます。

メンバーズのEMCカンパニーは、長らく企業さまのデジタルマーケティングを専任チームでご支援させていただいていました。それが今回のコロナの件もあり、各企業さまのデジタルシフトが加速している中で、僕らもWebサイトだけでなくてアプリやOMOといった、デジタルを絡めたさまざまな事業活動のご支援をさせていただくようになっています。

ご支援している僕ら自身も、今はやはり企業さま側のデジタル人材が自走型でやっていく重要性がすごく増しているんじゃないのかなと、日々感じています。そこで今回は、内製化組織を作り出され、企業成長されているカインズの池照さんをお招きして、その秘訣や歩みについてざっくばらんに語っていただきたいと思っております。

今日お聴きのみなさんにも非常に参考になり、私自身も大変勉強になる会だと思っていますので、よろしくお願いいたします。

塚本洋氏(以下、塚本):株式会社メンバーズの塚本です、今日はよろしくお願いします。西澤と2人で今日のパネルディスカッション、ファシリテーションをやらせていただきます。先ほどメンバーズエッジカンパニーと紹介がありました。メンバーズは今、カンパニー制を採っているのですが、私はアジャイル開発をメイン事業にしている、エンジニアチームのカンパニーをやっています。

今日はもちろん、デジタルマーケットの事業戦略の話も出てきますけれども、エンジニアを含めた開発体制をどう作っていくかという話も出てくると思います。そういったところは、私がメインでいろいろとおうかがいしていきたいと思っていますので、ぜひよろしくお願いします。

この数年間で400億円も売り上げを伸ばしたカインズ

池照直樹氏(以下、池照):よろしくお願いします、カインズの池照です。私は今、執行役員CDO兼チーフイノベーションオフィサー(CIO)として、カインズで働いています。今から2年弱〜3年弱前にカインズに入り、デジタル戦略本部を立ち上げました。

その前は、いくつかのファンドさんが投資をしたような会社の役員をして、成長を作り上げていく仕事をしていました。ただ、僕はそもそも新卒でキヤノンという会社に入って、レンズのエンジニアをやっていたんです。そこから今は、ぜんぜん違う生き方になっているなと思っています。

それは置いておいて、カインズについてご説明します。カインズは、埼玉県の本庄早稲田に本拠を置くホームセンタービジネスをしています。

今4,600億円強の売り上げで、この数年間で売り上げが400億円ぐらい上がり、CAGR(年平均成長率)で、だいたい4.7パーセントぐらいだと思います。従業員数は13,000人とスライドにありますが、パートさん・アルバイトさんも加えるとだいたい2万人の会社と考えていただければと思います。

次に、カインズがどのように成長してきたのかについて。今33期が終わったところですが、一番最初の十数年はホームセンターとして成長してきました。日本型のホームセンターと言って、通常のDIY用品だけでなく大型・大容量の商品もあり、主婦のみなさんも来られるような日本型ホームセンターを立ち上げたのは40年ぐらい前ですね。

その頃は「いせやホームセンター」という名前でした。第1期はそこから10年後ぐらいですね。カインズとして独立した時はある意味、景気もどんどん伸びている時期ではあったので、郊外型のホームセンターを金太郎飴みたいにチェーンストア展開していく。要するに、店を増やすと利益が上がるというモデルだった時代が、ホームセンターとしての成長(を支えた要因)です。

この時の成長のドライバーは、いかに店をきちんとした場所にきちんと作り上げていくか、ということでした。ただ景気もそのうち良くなくなってきて、店舗を新しく出しても、ROI(投資収益率)が返ってこない状態、収益性が低い状態になってきました。

カインズは第二の創業期と呼んでるんですが、その時にオリジナル商品を出すことによって収益構造を変えていきました。この頃は売り上げ成長はなかなかなかったんですが、収益成長はしていった時代です。このSPA化が第二の創業期ですね。

来店頻度の高いデジタル会員の獲得が「成長の押しボタン」

池照:第三の創業期として位置付けているのが、3〜4年前くらいに出した「IT小売企業宣言」から先になっています。ここで、ITと今まで持っていたチェーンストアの強みを掛け合わせて、新しい姿の小売ができないかということで、今事業を進めている最中です。223店舗とありますが、今は228店舗でオペレーションをしています。

前期の32期末の売上高は4,652億円になっています。ここから、カインズのデジタル戦略についてお話ししたいと思います。私が就任して一番最初にやったのは、デジタルの「デ」の字もないようなことです。

これは、今から3年前に作り上げた顧客戦略のチャートです。左側が非会員のお客さまで、右側の4つの象限に分かれているところが会員のお客さまです。右側の4つの四角を見ていただくと、デジタル会員、つまりリーチが可能かつ来店頻度の多い方は、来店頻度が少ないカード会員の方に比べて、5.8倍の売り上げの実績があります。

すごくシンプルなチャートですが、実はここにたどり着くまでにはまあまあ時間がかかりました。じゃあ、これをどういうふうにマネーにしていくか。デジタル会員を集めることが僕らの成長の押しボタンなんだと考えて、デジタル会員を増やしていくことにフォーカスしていったんですね。

右側はあくまで会員さまで、僕らの会員ではない方も来店して商品を買ってくれています。そこからデジタル会員に持っていくまでのストーリーをどうしていけばいいのかが、全体的な戦略の考え方になります。

未認知(顧客)は、4,487万人いると想定していました。認知してるけど未購入の方が2,600万人で、購入してくれているけど非会員の方が900万人。この未認知からぐるーっと回って、来店頻度の高いデジタル会員になっていただくにはどうしたらいいか。これだけが僕らの戦略なんですね(笑)。

塚本:シンプル。

池照:これ以外、何も考えていないということです。

「めだまオヤジ大作戦」と名付けた、Web広告の仕掛け

池照:じゃあ、未認知の人に認知していただくためには、どうしたらいいんだろうか。僕らが出店しているのは28都道府県なので、まだまだ余白があるんです。さらに認知度はそんなに高くはなくて、北関東の人はみんな知ってくれてますけど、全国的に言うと30パーセントぐらい。

そういう人たちにカインズがどういう会社なのかを知っていただくために、『となりのカインズさん』というオウンドメディアを投入しています。実はオウンドメディアの後ろにはデータマネジメントプラットフォームが入っていて、どんな嗜好の記事を読んだ方なのかが、データベースの中に入っています。

それを基に、今度はWeb広告を出していくということを進めています。Web広告を「めだまオヤジ大作戦」と呼んでいるんですけれども、同心円状にできあがる商圏の近いところと遠いところでは、おすすめしていく商品は当然違ってくるでしょう。

簡単に言うと、手前のところは、チラシで「ティッシュ安いですよ!」と言うと来てくれるんですよね。じゃあ30キロメートル離れている人たちに「ティッシュが安いんですけど来てくれますか」と言っても、そううまくはいかないと。

ですから、距離と商品の組み合わせ。あとは、お客さまがどういう思考を持っているかが『となりのカインズさん』でわかりますので、Web広告を出していって、初回のご購入をいただきます。

最初に購入いただく時に会員になっていない方々に関しては、店舗での会員キャンペーンを行っています。ですから、非デジタルアクティビティですね。「会員じゃないんだったら入ったほうがお得ですよ」ということ(案内)を、店のみんながやってくれています。

さらに既存のカード会員のお客さまのデジタル会員への転換も、店のみんながやってくれている仕事なんですね。まずお客さまにデジタル会員になっていただいた上で、今度はマーケティングオートメーションのツールがありますので、来店頻度が低い方に頻度を多くしていただくようなことを進めています。

大がかりなデジタル化を進める前に、「顧客戦略」に注力

池照:この黄色い矢印を作るためだけに僕らのマーケティング活動、デジタル活動は行われています。お店の人たちも一緒にやっているので、仕事の足し算ばかりしていくと、お店はパンクしていきます。

その(マーケティング活動の)素地を作るために、業務の効率化をサポートするアプリケーションをどんどん投入して、(仕事量の)引き算と足し算を作る。その足し算の中から、売り上げの足し算ができるようなスタイルで進めています。

実際この何年間かを見ていくと、組織の成長に合わせたデジタル戦略は、順番がすごく大切になっていきます。今お見せした顧客戦略を作り、まず「会社が何をしようとしているのか」を周知して、みんなに知っていただくように進めていました。

最初の頃はそんなにすごい開発はせずに、カードをカシャッとすると、アプリの中にバーコードが移るだけのアプリを投入したんですよ(笑)。この時のお客さま価値は、財布の中からプラスチックカードが1枚消えるだけなんですけれども。

ただそれだけでも店のメンバーががんばってくれて、2ヶ月で50万人ぐらいのユーザーをとってくれたんです。なぜここに手をかけようかと思ったかというと、実はマーケティングオートメーションは、僕が就任する前からやっていたんです。

ただ、マーケティングオートメーションのターゲットになるお客さまが13万人しかいなかったんです。今は400万人から500万人いるんですけども、今から3年前は13万人。一方で、僕らの年間のレジ通過客数は1億5,000万ぐらいあるわけですね。例えば、13万人が年に10回来てくれたとしましょう。

130万回でも、1億5,000万に比べると1パーセントにも満たない数字なんです。1パーセントに満たないターゲットに対して「もう1回来てください」と言っても、そのうちの10パーセントが増えるぐらいですから、0.0何パーセントみたいな感じになってしまう。

マーケティングオートメーションをやっても、目に見える効果はいっさい出ないんですね。やっぱりデジタルの世界で何かをやるということは、スケーラビリティを持ったビジネスのやり方ができるところが、唯一のポイントだと思うんですよ。

スケーラビリティが持てないのであれば、スケーラビリティを持つようなかたちをどう作り上げていくかが大切なことだと思いますし。また、スケーラブルな仕組み作りを支えてくれる店舗のみんなの引き算をどうやってしてあげるか。このコンビネーションの中で作り上げていくことが大事なのかなと思います。

全従業員が理解できる「成長シナリオ」を作って巻き込む

池照:先ほど、顧客戦略の位置付けと進め方をお話ししたんですが、まずは2万人が理解できる成長シナリオを描くことがすごく大切だと思います。これはパートさんも含めて、僕らが何をしているのかを理解していただく必要があります。

ただ「やれ」と言ってもやってくれるんですが、やっぱり気合いが変わりますよね。先ほどお見せしたチャートのシンプルさを作り上げていくには、すごく気を使わなきゃいけないし、実はとても時間のかかる難しい仕事になっています。

難しい話を難しいまま話すのはすごく簡単なんですが、難しい話を簡単に話すのはすごく難しいんですよね。そこは2万人にわかってもらえるようにと思いました。

あとは、腹落ちするロジック。さっき年間購入金額が5.8倍違うという話をさせていただきました。要するにデジタル会員が増えれば、僕らは成長できるんだというロジック。みなさんが一緒に働いている方々の頭の中に入れていただくのも大事なことだと思います。

その上で、組織をきちんと巻き込んでメンバーの人たちにお願いすることを明確化していくこと。これもすごく大事なことだなぁと思います。

ですから、デジタル戦略自体は、デジタル戦略チームだけでできるものではないんですね。もしデジタル戦略チームでできる程度の話だったら、おそらく会社へのインパクトもまあまあ少ないでしょうね。

せっかくやるんですから、やっぱりインパクトを作らないといけないですよね。規模を作る、スケーラブルにしていく。周りを巻き込んでいくところがすごく大事じゃないかなと思います。

一つひとつの施策に、戦略的な役割を明確にしていくことも大切だと思います。『となりのカインズさん』は何のためにやるのか、店舗の人たちになぜここに入ってもらうのか。あとはWeb広告の役割は何なのか。お客さまがデジタル会員になった時に、来店頻度を上げるための道具立ては何なのか。この一つひとつが戦略的に重要な位置、機会になっているんですよね。それをきちんと作るということです。

当然、それぞれに対して儲けがどのぐらいなのかが認知されている状態を作らなければいけません。ただ、この順番を間違えないことはすごく大事だと思うんです。

例えば、すでに会員だったお客さまをデジタル会員に変えていって、マーケティング活動ができるようなリーチ可能なお客さまに変えていったわけですよね。あれが一番最初なんです。なぜなら、左上からやっていくと時間ばかりかかって効果が出ない。

その効きが一番いいところを、僕は「押しボタン」と呼んでいて、最初に押していく。この押しボタンを間違えないことがすごく大事です。

「やりやすくて効果の少ないもの」と「やりやすくて効果の高いもの」があったら、後者をやらなきゃいけない。そして、やるのが難しいものは、後回しにしていかなきゃいけない。会社の雰囲気の醸成も踏まえて、一番メンバーを巻き込みやすいようなものをしっかりとプログラミングしていくことが大事なんだと思います。

2,065万人の店舗送客で、400億円の売り上げ増加

池照:あとは成長に対する現場の参加感。さっきも言いましたけれども、デジタル組織が何かちょこちょこやっている状態を作ってしまうと、なかなかインパクトも出ないですし、きちんと大きな絵を描いて戦略の一部としてやっていくのがいいんじゃないかと思います。

ピンクと緑の色がついているのが、この2年半とか3年で作ったものです。まあまあ作りましたね。サービスというのは、現場のオペレーションも含めて変えていったものです。緑色のシステムは、実際にシステムのインプリメンテーションということで進めてきています。これを今、内製のチームでやっています。

実はその上のほうに載っているオンライン販売管理。このECのプロジェクトは、ベンダーさんにお願いして頓挫したプロジェクトの1つなんですね(笑)。僕らの商品や仕組みは、ちょっと難しいんですよ。なぜかというと、店舗の取り置きとかがあるから、棚に入っている商品の在庫数を持ってこなきゃいけない。

実は商品数も多くて、13万点とかあるわけですよ。13万点で230店舗としましょうか。それらを掛け算しただけで、相当な在庫の管理単位になっていく。通常のコマースパッケージはできないので、アーキテクチャを見直して自分たちのチームで作り上げていくというようなことを進めています。

こういうことをやったビジネスの効果として、一番わかりやすいのはデジタルからの流入と店舗送客だと思います。31期の時代は、アプリとWeb広告もあんまりやっていませんでした。途中からやり始めたぐらいのところと比べるとだいたい2倍強の流入を作っていて、店舗では倍の送客を行っています。

この倍(の送客)は、もともと来たんじゃないかという話も当然出てくるんです。でも、お客さまのニーズは昔とはちょっと違っています。昔は「カインズに行けば何かあるんだろうなぁ」と来てくれたんですね。今のお客さまは、実は特定のカテゴリーの商品は僕らよりも詳しかったりするんですよ。

もうさんざんググった後に、「これがある場所はないのか」というところで来てくれるので、以前は来店してから探していたのが、今は探してから来店するという順番に変わっているんですよね。

ですから、一応カインズのデジタルの効果として2,065万人を送客していくということが、今実績として残っています。これは金額に換算するとだいたい400億円ぐらいの増加額ですかね。こういうことを繰り返して、まずは送客に焦点を置いていました。

売れば売るほど赤字だった、EC事業の立て直しのカギ

池照:よくデジタルというとパッとECに行きますが、実は最初にやったのは送客。理由は簡単なんですが、EC事業が赤字だったんです。それもあまりいい赤字ではなくて、限界利益が赤だったんですね。そうすると当然、売れば売るほど金がなくなっていきます。

ただ、リテールストアの特徴で働いてる人たちの特徴として、出荷がないですから、リテールストア自体は必ず収益が上がるような構造になっているんです。ただ、出荷分も含めて黒字をきっちり作っていかなければいけないということで、戦略の検討をしました。

限界利益の黒字化は当然、粗利額を増やさなきゃいけないですが、細かいことをいろいろやっていったんです。配送のやり方を変えたり、配送料を取るか取らないかもいろいろやって、ある一定量は良くなった。

ただ、まだまだそれじゃだめだなということで、実はカインズのユニークなECを作り上げています。店舗から出荷する仕組みを入れてるんですね。なんでこんなことができるかというと、カインズのお店は実はそこらのEC倉庫よりでかいという(笑)。

西澤:確かに、そう言われるとそうですね。

池照:そもそもでかい。店を分散させると、当然配送距離が減るんですよね。もともと限界利益が赤字に陥った理由は、5~6年前のヤマト(運輸)さんの値上げからになっているので、配送距離を短くするのがいいだろうと。

あとは、店舗には商品を知っている人間がたくさんいるし、平日の朝などは、お客さまもそんなにいらっしゃらない。店舗にも商品を知っているピックアップリソースがいるんですよ。そう考えていくと、カインズのような店が大きいところは店舗出荷のほうがいいんじゃないかということで、店舗出荷をしました。

この時に、店舗への売上計上をしました。店舗への売上計上をやると何が起こるかというと、そもそも店舗は大きなお金を投資して作っていますから、まずはその投資回収の期間が短くなるという利点があります。

ECと店舗のハイブリッド化で、“商圏の縛り”をなくしていく

池照:あと、通常の店舗にECが嫌われてたりするんですよね(笑)。

西澤:確かに(笑)。

池照:いろんなところでお聞きするんですが、自分たちの売り上げをECに取られるような。売り上げ的にはどっちでもいいと思うんですが、お店のモチベーションはそうはなっていないですよね。自分(店舗)のところに(売り上げが)上がるからとなると、ECと店舗ビジネスのハレーションのマネジメントができるようになります。

この結果、実は倉庫はどちらかというとオペレーションをやっている人たちなんですが、店にいる人たちは営業マンに近いので、1日も早く売り上げを上げたいんですよ。そうすると結果的に、店舗出荷はほぼ当日出荷になってしまいます。こちらで「やってくれ」とは言ってないんですよ(笑)。店舗の人たちの売り上げを立てるという心意気のようなものに火がつく。

お店を出すと、その土地に根ざしたものになりますから、人口動態が変わっていくと、当然売り上げは変わっていきます。思ったより人口が増えない場所があったり、収益が下がっていく場所がある一方で、ぜんぜん関係ない場所の人口が増えていったりする。

店というのは、いつでも商圏に縛られていたんです。このECと店舗のハイブリッドなビジネスをすることによって、特定の店舗がある程度商圏に縛られなくなっていくのが、すごくいいことかなと思っています。

これによって、今期6月には53パーセントぐらいの出荷が6〜7店舗で行われて、完全に単月黒字が出てくる状態ができるかなと思っています。これはデジタルの活動ですね。

ホームセンターをDXするために、まず顧客戦略に着手した理由

西澤:いったんここで切らせていただきますが、もういくつもキラーワードが出てきてます。この後の具体的な内製化組織の話に入る前に、まずカインズ全体の戦略を、あえてデジタル戦略というテーマで最初にお出ししました。

話をお聞きして、実は顧客戦略から入ったというところが、すごくポイントなのかなと思ったんですけれども。デジタルではなく、あえて顧客戦略として巻き込んだのはどうしてなんでしょうか。

池照:カインズは伝統的な小売の会社ですから、お客さまにはいつでも対峙しているわけですよね。サービスをしたいという気持ちとか、お店で売り上げを上げていくにはどうしたらいいのかということを、デジタルツールなしに、普通のビジネスとして考えてきました。

デジタルは道具立てといえば道具立てなので、そもそもの営業戦略がないかぎり、やってもあまり効果がないんじゃないかなと思ったんですね。その(会社の)商売の言葉できちんと伝えるにはどうしたらいいだろうということで考えたのが、やっぱり顧客戦略だったんです。

よく3文字熟語をばんばん使ってまくし立てるように、何か新しいことをやろうとするような時代もあったと思うんです。それだとうまくいかないというのは、たぶんやってきた人たちみんながわかっている。

デジタルの仕事をしていくということは、ひとまずデジタル以外の土俵で勝負をすることが大事かなぁと思うんですね。簡単に言うと、相手の土俵でちゃんと相撲をとって、その中で僕らが知っていることで手助けできるもの、ドライブできるものを探し当てて、それを「押しボタン」にして1個1個、焦らず崩さずコツコツと押していくことだと思うんです。

西澤:なるほど。

Amazonのイベントで感じた、「負けている」という危機感

塚本:デジタル戦略というより、顧客戦略でもあり、本当に企業戦略、経営戦略そのものですよね。今お話をおうかがいしていると「IT小売企業宣言」というコンセプトがあるからこそ、デジタルが戦略に溶け込んでいる状態になったのかなと思います。そのコンセプトをどういうふうに打ち出され、意思決定されたんでしょうか。

池照:僕はけっこうカインズ顧問としては長くやってるんですけれども、「IT小売企業宣言」が出たのは2018年の正月だったかな。その前年に顧問として土屋(裕雅)会長に呼ばれて、Amazonの「AWS re:Invent」というイベントに行っているんですね。この時に、一応僕が解説しながらいろいろなブースを回っていて、「これはちょっとやばいね」と。

西澤:そこで危機感が。

池照:そうですね。こういったテクノロジーをきちんと持っている会社が、日本にまったく同じ業態で、まったく同じように出てきた。「僕らは勝ち目があるんだろうか」というお話をされてたんですね。

その時に印象的だったのは、(土屋会長が)「何もしないのが一番のリスクだから、もがいてても何でもいいから前に進めたい」とおっしゃってたんです。それで、アメリカから帰ってきて、年が明けてすぐに2万人の前で「IT企業になるぞ」と言っちゃったんです。その頃は「小売」が入ってなかったんです。

西澤:おぉ……(笑)。

塚本:(笑)。

池照:そう(笑)。ざわざわざわ……ってなってたんですけど。2ヶ月後に高家が社長になって、その時に「IT小売企業宣言」と変えていったんです。そこから1~2年、いろんな準備をしていって、そのすぐ後の3年目ぐらいの時に僕が入って、デジタル戦略本部を立ち上げることになったんです。

塚本:なるほどですね。やっぱり背景には強い危機感があって。

池照:いや、でも本当にそうだと思いますね。やっぱり会社が成長していないのは、そもそも危機を迎えているわけですから。去年と同じでいいやとか、マーケットの伸びと同じぐらい、もしくは伸びていてもマーケットの伸びよりも小さかったりするのは、負けてるという意味なんですよね。

塚本:そうですね。

池照:だから「負けてる」ということを、きちんと意識する、理解するというのは、まず経営者の最初の考えとして大事です。当然、冷静に負けてると認めるのはすごく嫌なことですから、なんかうまくいってると思いたい。それは僕も当然そうですし、誰もがそうだと思うんですけれども。

でも、そうはいかないことがたくさんありますからね。きちんと危機感からスタートするのかなとは思います。

塚本:ありがとうございます。

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