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武井浩三氏 インタビュー(全2記事)

責任感を持たせたいなら、合意形成より「文脈形成」 人のせいや指示待ちを減らす、当事者意識の引き出し方

ビジネスの現場において、若手への権限委譲を進めることはイノベーションや組織の新陳代謝に欠かせない重要なポイントですが、権限委譲のプロセスや方法に悩む企業は少なくないのではないでしょうか。ログミーBizの2月特集では、権限委譲を成功させている企業や組織論の専門家の方々に、権限委譲の課題や具体的なノウハウをお聞きします。 今回は、社会活動家/社会システムデザイナーとして権限と責任を分散させる「自律分散型組織」を研究・実践されている武井浩三氏のインタビューを前後半にわけてお届けします。後半では、情報の「開示」と「共有」の重要性や、これからの企業に求められる姿勢などが語られています。

「不幸になる人」を生まない、組織変革の進め方

ーー前回、ヒエラルキー型組織で権限委譲を進めるコツとして、新たな方針や条件で採用した人材を置く部署を作ったり、出島会社を作るということをお聞きしました。

武井浩三(以下、武井):そうですね。「この上司がいてこの部下がいる」という前提の中で雇用関係があったのに、いきなりフラットにしようとすると上司もプライドがあるし下の人も気を使うしで、お互いにすごく大変です。入社時の前提条件を相対化させるためには、外からいろいろとごちゃ混ぜにして今までと違う関係性ができるのを待つほうが平和ですね(笑)。

組織変革をする上で難しいのは人間の感情です。感情が追いついていないのに組織を無理やり変えると、不幸になる人を生んでしまいます。なので、一番優しいのは「気づいたら変わっていたね」くらいの感じです(笑)。

ーー社内の前提条件を相対化した上で、組織変革を進めていくと。

武井:先ほども申し上げたように、情報がオープンになってチャットコミュニケーションのようなn対nのコミュニケーションを取るようになると、「なぜそうなったのか」という経緯をみんなで共有できるようになります。

一般的な意思決定は、「コンセンサス・メイキング(合意形成)」と呼ばれますが、僕は「コンテクスト・メイキング」、つまり文脈形成と呼んでいます。意思決定までの途中経過を共有することで、何かあれば途中で意見を言うこともできますし、みんなが少しずつ責任者になります。

おもしろいことに文脈形成を図ると、仮にトラブルが起きた時に「これは誰の責任だ?」と、自然に誰も言わなくなります。途中経過が全部オープンだったので全員が少しずつ責任を負っているからです。責任感というのは本人がそれを感じるかどうかですが、途中経過が開示され自分にも共有されていると責任を感じる可能性が高まります。

情報の「開示」と「共有」が、従業員の自律的な行動を生む

ーー文脈形成というところでは、以前、武井さんと若新雄純さんが登壇されたイベントの中で、長い時間をかけて会議に参加していることが大切で、それが納得感を生むというお話がありました。

武井:そうです、そうです。当事者意識というのは当事者しか持てません。これは僕の研究なので単なる持論ですが、当事者意識はプロセスに対して主体として関与することで芽生えるものです。そして「会社が行っている事業や取り組みを、どれだけ自分ごととして主体的に捉えている人が多いか」が、その組織の力だと考えています。現場の人々も含めて、会社全体として経営や事業のことを考えている総量がどれだけ多いかですね。

権限委譲や自律分散は情報の共有がすべてで、どれだけ経営情報が開示されているかが大事です。そして、共有されたオープンな情報を見ると人間は勝手に考えます。逆に言うと、人は自分がアクセスできる情報の範囲内でしか物事を考えられません。なので、権限委譲や自律分散を成功させる秘訣は「情報の透明性」に尽きるのかなと思っています。

ーー武井さんがご覧になって、そういった点を理解して権限委譲や自律分散を進めている企業はありますか。

武井:サイボウズさんがこういうところを非常にうまく作っています。従業員による従業員持株会が5パーセント程度の株式を保有する大株主だったり、情報をオープンにしてみんなが意思決定できる仕組みにしていたり、去年は取締役を立候補制にしましたね。上場企業では、サイボウズさんとガイアックスさんが権限委譲や自律分散を成功させていると思います。

組織論は、突き詰めていくと最後は必ず「会社は誰のものか」にたどり着きますが、その時に資本のところから組み直した組織が今少しずつ生まれてきています。例えば僕が経営に参画しているeumoという会社は、支配権を持つ株主を意図的になくす設計にしています。

今は株主が291名いて、共同代表の僕でも株式を0.8パーセントくらいしか持っておらず、意思決定のできる人が法的にいない状態になっています。このように株式から自律分散化させた会社のことを、僕は「コミュニティカンパニー」と呼んでいます。このようにしてしまうと、会社の回し方を自律分散的なティール組織のようにせざるを得なくなります。

ブロックチェーン上に誕生した自律分散型組織「DAO」

武井:あと、ブロックチェーンとか仮想通貨の世界で今、「DAO」と呼ばれる組織が増えています。「Decentralized Autonomous Organization」の略で自律分散型組織を意味して、組織やプロジェクトを最初からブロックチェーン上に作ります。

法人は会社法の規定によってどこかの国家に属し、国家によってその存在の信用を担保しています。しかし、改ざんや不正が困難なブロックチェーンは信頼性が高いので、国家という第三者による信用の担保が不要になります。そこで、ブロックチェーンの上に法人というか、共同体を作る動きがこの5〜6年で増加しています。

このDAOによる次世代のプラットフォームサービスが続々と生まれています。Googleは「Gmail」で個人のメールのやりとりの情報を持っていたり、ユーザーの行動を追跡して広告で収益を上げていますが、情報を提供したユーザーに金銭的還元をしていないと言われています。

GAFAのような民間企業がプラットフォーム・サービスやSNSを牛耳るより、みんなで所有したほうが本来的にはメリットが大きいですよね。DAOだと、参加した人たちみんなが所有者や利用者になり、中にはLinuxみたいにプログラムを書く人もいます。「Wikipedia」みたいなものですよね。そして、貢献の度合いに応じてリワードを貰えるような仕組みになっています。

これがどこまで普及するかはわかりませんが、もしかするとGmailやFacebook、TwitterみたいなサービスがDAOにリプレイスされる時代が来るかもしれません。僕が企業でやっている所有権の分散化とこのDAOは、1つの国の法律の中でやるか、枠を越えてやるかの違いで、基本的に考え方は同じです。

また、DAOは特定の個人が利益を貪れない仕組みになっているので、世界的な課題である「貧富の差の解消」という点でもすごく理にかなっています。今の法人の仕組みでは富の格差は解決できないので、世界が向かう方向はどう考えてもこっちですよね。

お金最優先から、やりがいや生きがいも大切にする社会へ

ーー武井さんが企画委員を務める「ホワイト企業大賞」を受賞した谷川クリーニングさんは、自律分散化を進めたことでブラックからホワイトへ、不信から信頼に、そして自分のことから全体のことを考える組織に変わりました。これまえ武井さんがご覧になった中で、他に自立分散化の「前後」で大きく変わった事例はありますか。

武井:僕がアドバイザーとして参加している「手放す経営ラボ」を運営する株式会社ブレスカンパニーも、けっこうビフォーアフターで大きく変わっています。それまでは普通の企業でしたが、僕がジョインしてから会社自体をコミュニティのようにして、雇用の有無に関係なく興味を持つ人が関われる仕組みを作りました。今はコミュニティメンバーが1,200人ぐらいになっています。

報酬を払って仕事をしている人は10人ぐらいで、その周りに研究員制度というのを作り、部活動の部費みたいな感じで毎月1,000円を参加費として納めた上で、仕事を手伝ってくれる人たちがいます。そういう人たちが今100人以上います。

先ほどお話ししたeumoもそういうかたちになっています。「チームeumo」というコミュニティがあって、1,700名ぐらいの仲間がいます。増資する時は彼らが出資をしてくれるし、仕事も手伝ってくれます。

僕らはこういう資本のことを「ソーシャル・キャピタル」と呼んでいます。最近はアメリカの企業でも言われるようになりましたが、財務諸表の中に金銭的な資産だけでなく、人的な資産も含めて勘案しようという流れが出ています。

金融資本や物的資本だけでなく、社会関係資本やウェルビーイングのような、やりがいとか生きがいとか幸福度も人間が活動する上で必要な資本です。現代社会はお金を優先しすぎた結果、人間の幸福度につながる社会関係資本が弱まり、知り合いが減って、家庭と職場以外に人間関係を持たない人が増えました。地球規模で問題になっている環境破壊もお金を優先しすぎた結果です。僕はその優先順位を戻そうという活動をしています。

例えばeumoでは今株主が290人ぐらいいて、資本金が2億9,000万円集まっていますが、非営利型株式会社なので株主への金銭的リターンはありません。非営利型株式会社では、超過利潤は株主に分配されず、社会的活動への寄付金として積み立てられます。

株主にとってリターンはお金ではなく、僕らの活動に関わると友だちが増えて、困った時に助けてくれる人とか、人間関係が豊かになって純粋に楽しいというものがリターンなんです。いろんなところで資本主義の限界と言われていますが、こういうeumoのような取り組みを増やしていくべきだと思うんです。お金じゃないものを大切にして関わり合って生きていこうというのが、僕らの1つの答えです。

これからの企業に求められる姿勢は、オープン・フェア・お好きにどうぞ

ーー最後に、権限委譲をして意思決定のスピードを早めたいと考えている企業の人たちに向けて、武井さんから伝えたいことがあればお聞かせください。

武井:僕は近いうちに個人と組織の力関係が逆転すると思っています。今までは組織や国家のための個人だったので、組織を生き長らえさせるために個人が犠牲になっていました。これが逆転して、個人のための組織が変わらざるを得ない時代になると思うんです。

日本は生産年齢人口が激減していて、2021年の出生数は81万人程度と言われています。団塊世代の出生数のピークが270万人ぐらいなので、3分の1以下です。どう考えても売り手市場になるわけですよね、そうすると、企業側は「お願いだから来てください」としか言えなくなる。

「あれやれ」「これやれ」と理不尽に命じるのではなく、オープンでフェアで、「うちの会社をお好きなように使ってください」となる。そういう企業努力しかできなくなる時代になると思います。

もう1つ大きいのは、これから副業やパラレルワーカー、ポートフォリオワーカーがどんどん増えると思いますが、収入源が3つ以上に分散すると組織よりも個人のほうが強くなります。今なぜ企業が力を持っているかというと、シンプルに言うとお金を払っているからです。

人の生殺与奪権を企業側が握っているわけです。「文句言ったらお前に払わねえぞ」とか言えちゃうわけで。でも、個人の収入源が3つ以上になると、理不尽なことを言われた時に「そんなこと言うんだったら別にいいよ」と、個人側が企業を蹴ることができます。

また、国の電子化が進むと税金の徴収方法が変わり、雇用の概念が弱まります。雇用は国家が源泉徴収によって所得税を徴収するために生まれた仕組みです。電子化が進んで会社員と同じように個人事業主から所得税の徴収ができるようになると、個人事業主の社会保障が厚くなります。そうなると、個人がもっと自由に働けるようになり、個人がもっと強くなる。この展開も不可逆です。

そうなった時に企業ができるのは、指示命令ではなく、「お好きにどうぞ」になります。「うちの会社では潤沢な予算や人脈などいろんなものを提供するので、どうぞ好きなことをやってください」という会社に人は集まりますよね。

ーー生産年齢人口が急激に減少しているという側面からも、企業における権限委譲や自律分散の流れは不可避であるということですね。ありがとうございました。社会活動家・社会システムデザイナーとしての武井さんの今後のご活躍を応援しています。

武井:ありがとうございました。

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