出席者から合意を引き出せる、会議の設定の仕方

若新雄純氏(以下、若新):僕は街づくりの仕事もたくさんしています。タウンミーティングとかでよくある話なんですけど、会社みたいには発言権に傾斜がかかっていないので、「発言ありますか?」と聞くと発言はないんだけど、後で「本当は不満だった」とか。

「私はあの時『うん』って言わなかったけど、あの人、なんか理屈っぽいことを早口でしゃべっといて、あそこで反論しろって言われても難しいし。私はぜんぜんいいと思っていないわよ」みたいなことが後々起きるんですよ。

坂東孝浩氏(以下、坂東):めっちゃ起きる。その時言ってよと思う。

若新:でも、その時は言えないんですよ。1時間とか2時間で計画を立てて、その中で処理をしようと思っても、人間の気持ちは追いつかないことが多いと思うので。

坂東:疲労のほうが優先順位は高いんだ。

若新:そうです。だから僕は基本的に、そういう時はもう丸々1日時間とるとか、朝までやるとか。僕は年商10億ぐらいの規模のベンチャー企業の組織づくりみたいなのもいくつかお手伝いしているんですけど。

大事な会議は必ず「夜の6時から翌朝」みたいな感じで設定していて。翌朝まで全部使わないことが多いんですけど、なんか「十分話せた」ということをすごく大事にして。疲労が合意・納得を生み出す、みたいなのをすごく学びましたね。

坂東:納得感を大事にしているってことですよね。

若新:だって民主主義とかも全部納得じゃないですか。選挙で票を入れる時も(笑)。本当にその人が一番正しいのか、一番社会を変えてくれるのかはわからないけど、みんな納得したものに入れて納得するしかないわけで。

本当にその決断が正しかったかどうかは、歴史上わからないことも多いし、神さまだけしかわからないわけだから。僕らは「本当にこれで良かったんだろうか」という疑いを持ちながら、社会を進めていくしかないと思うんですよ。

決議を必要とする会議において、出席者が求めているもの

若新:たぶん経営判断とかもそうじゃないですか。結局何が正しいかはわからないから、なかなか立派な会社の社長だって占いとか行くわけですよね。僕らの周りもすごく占い師に頼っているけど(笑)。結局答えはわかんないんだなと思って。

坂東:(笑)。そうだよね。

若新:だとすると「占い師に頼る」のも、その経営者なりの納得のつけ方だと思うんですけど、組織の中での納得は、パズルを解くみたいに「シャキン」とは決まらないと思うんですよね。だから「疲れるまで話し合った」というのが、意外と急がば回れなんじゃないかと思って。

今ベンチャー企業で、細々と話してすれ違いを生むぐらいだったら、月に1回朝までの会を設定してみようってやっていて、それはすごくうまく回っているんで(笑)。

坂東:なるほど、おもしろいですね。納得感は、私たちも組織づくりにおいて大事にしているじゃないですか。

武井浩三氏(以下、武井):俺も同じように、ダイヤモンドメディアの時に朝までの会議は超やっていました。例えば「取締役ってどう決めるの?」みたいなのを、関心のある人たちで夜10時にオフィスに集まって、朝までとかざらにやっていて(笑)。でも、子育て中の人とか女性の人とかダイバーシティが広がってくると時間的拘束するのが難しくなって、別の方法を考えたりしましたね。

でも基本的に重要なのは、意思決定のプロセスに参画することで。いつもDXOや自然経営でも言っていますけど、結論が正しいかどうなんて、下手すると100年後とかにしかわからないこともあり得るし。そうすると自分たちが主体として、当事者としてそこに関わっているかどうかのほうが大事なんです。

俺も不動産関係で街づくりとかやっていますけど、街って多様すぎて合意形成は基本できなくて、話し合うしかないんですよね。

坂東:しかないね。コンテクストを大事にするとか。

武井:そうそう。だから俺の言葉で言うと、コンセンサス・メイキング(合意形成)ではなくて、「コンテクスト・メイキング(文脈形成)」と呼んでいるんですけど。だから1日でギュッと時間を取るやり方もいいんですけど、Slackとかのコミュニケーションツールを使って、長い時間をかけて「関わりしろ」をたくさん作って、発言したい人が発言できるようなものを、例えば2ヶ月とか使ったりします。

多数決の結果以外を採択しても、納得を得られる「2回転の法則」

武井:ダイヤモンドメディアの時も、社長・役員選挙を丸1ヶ月かけてやるんですよね(笑)。

坂東:すごいなぁ(笑)。

武井:それで毎年、外からの投票が250件ぐらいありましたかね。そこでおもしろいのが、多数決では決めないというルールでやっていて、それぞれの意思を開示して、みんなでその結果を見ながら語り合うんです。

坂東:見ながら語る。だから多数決で決まらないんですね。

武井:そう。多数決って速くていいですけど、基本的には乱暴ですからね。

坂東:それで、多数決の結果どおりにならなかったりするんですか。

武井:する、する。

坂東:「多数決の結果どおりじゃないじゃん」みたいな文句は出ないんですか?

武井:最初にそういう文句が出たんで、改良したんです。「2回転の法則」と言って、意見をまず広く集めるところから始めるんですね。集めて、それをもとに話し合って、1回素案を作る。

その素案を「こんなの出ました」みたいにオープンにして、そこに対する意見をまた集めて……ってことを2回繰り返すと、関わる人たちの納得感がめちゃくちゃ高まることがわかって。2回転ぐらいが一番コスパいいな、みたいな感じです。

坂東:なるほどね。

武井:でもそこにたどり着くまでに、マジでめちゃくちゃ話し合いましたけどね。

坂東:(笑)。

武井:みんなで話し合って給料を決めていたので、「この人の給料を月額1,000円上げるか上げないか」の議論を7~8人で、下手すると30時間ぐらい話し合っていたんじゃないかな。その会議のコストのほうが1,000円よりよっぽど高いんですけど、みたいな話です(笑)。さっき若新さんが言っていたとおり、経済合理性の話じゃないですよね。

坂東:でも、帳尻が合うってことですか?

武井:帳尻を無視してるって感じですかね(笑)。どこかで合うのかもしれないですけど。

坂東:大事なことが帳尻じゃないってことですね。

武井:帳尻を考えるんだったら正規雇用でああだこうだじゃなくて、外注さんとやればいいじゃんって話で。共同体として避けて通れないプロセスなのかな、みたいな。

坂東:なるほど。

「正解がわからない時代の組織づくり」で大切なこと

坂東:若新さん、手放すラボでは「ごきげんな人と組織が増える」をテーマにしているんですけど。ごきげんな「人」と「組織」ですね。組織って経済合理性を追求すると、「ごきげん」の優先順位が下がるじゃないですか。目標達成が大事みたいになると、個人の「らしさ」とか「ごきげん」とか関係ないという話になるんですけど、「ごきげん」はすごく大事じゃないかと。

あとは単純な右肩上がりの成長じゃなくて、組織の持続可能性の追求も大事じゃないかと。そういった組織をどうやって作れるかということを研究しているんですよね。なぜそういうことをやっているかというと、今は「正解がわからない時代」がテーマだなと思っていて。正解がわからない時代と言えば、私は若新さんなんですよ。

若新:(笑)。

坂東:昔、ブレスカンパニーで若新さんに新人研修の講師に来てもらった時に、「今は正解がわからない時代だよね」みたいな話をしていて。その時にどうやって最適解を導き出すのかと。

そこには「仲間づくりが大事だよね」とか。「話し合ったり最適解を導き出せる、協力し合える仲間が大事だよね」みたいなことでコミュニケーションをテーマにしたプログラムとかをやってもらったんですけど。本当にそれが、これからは個人じゃなくて組織全体に必要になっているなと思いますね。

だからNEET株式会社とかJK課とか、本当に新しい取り組みだなと思うんですけど。これからけっこうな割合の会社が、正解がわからない時代の組織づくりに突入すると思うんです。なのでその時に納得感とか、コンテクスト・メイキングが大事じゃないかなと言っているんですよね。

若新:「正解がない」に関しては、10年ぐらい前の僕のテーマだったので。世の中がまだ言っていない時にそれを言うのはかっこよかったからアレなんですけど、最近はけっこうみんなが言うようになっちゃったから。あんまりこう……。

坂東:(笑)。

従来型の資本主義システムで有効だったものが、使いづらくなる時代へ

若新:確かにNEET株式会社を作った時に、「正解を求めているんじゃない」と言うと「じゃあ何を求めているんだ」みたいなムードはありましたね(笑)。最近思うことは、「正解」も、あとさっき出た「計画」も似ていると思うんですけど、そもそも僕らが生きている世界には、根本的には正解とか計画とか、何もないと思うんですよ。

でも正解も計画も何もないと物事を進められないし。例えば資本主義のシステムの1つは、そういう荒野の中に「こういう計画を立てて、このとおりにすると、こういう答えが出せる」というパターンを築いて、自動化してどんどん富を増やしていくことだと思うんですよね。ほかの動物にはできない、極めて人間らしい営みだと思うんですけど。

だけど、みんなが今まで思っていたほどは、今後は正解も計画も使えないんじゃないかと思うんですよ。人間がほかの動物と違ってなぜ計画や答えを作れたかと言うと、「頭が良くて理屈が考えられるから」だと思うんですよね。全部は解明してないけど、人間はなんで日が昇ったり沈んだりするんだ、とかいうのも含めて、理屈でいろんなものを解明してきている。

その中に例えば「人間が集まった時にこういう方法で、こうするとお米がたくさん取れる」「こうするとおいしいものが作れる」というような、いろんな知識を生み出してきたと思うんですよね。それは僕はいいことだと思っているんですけど、「絶対の法則」ではないから、単に社会の変化の中で大きく変わるってことだと思うんですよ。

大きく変わるから、正解とか計画というものは時代とともに崩れていって、また新しいものを作らなきゃいけないと思うんです。そうすると「次の計画や次の答えは何だろう」と探しにいくのも1つだと思うんですけど、もともとの計画や答えが絶対じゃないんだったら、そもそもどうなっているんだろうという根本を知りたくなったという感じです。

坂東:なるほど、なるほど。

「圧倒的な答え」がない時代に必要となる2つのバランス

若新:だからといって、人間の感情だったり、自然的な、いろんな曖昧なものだけでは物事は進まないし、けっこうバランスが大事だなと思っていて。つまり人間が頭で計算したり、計画を立てるといった「物事を明確化する」ことと、「そもそも明確化できない曖昧なものがある」というものの、両方のバランスがないと僕は難しいと思っているんですよね。

コロナ対策なんかも、例えばすごく立派なお医者さんとかがいろいろ科学の力で明確にして、解決してくれると期待したわけですけど、明確にできないこともあったわけですよ。だってすべての答えは出てないわけだから。

そうすると、なぜか出かけたり、なぜか大人しくしたり、なぜかみんな一致団結したり、なぜかまとまらなかったりという、人間の複雑な感情や曖昧なものがありますよね。やっぱり両輪だと思うんですよね。頭で考えてはっきりできることと、頭で考えたってわからないけど、何かあるというもの。

その1つはやっぱり人間の感情だろうなと思っていて。今までみんな頭で考えて、計算して、会社の計画とか目標みたいなものを立て続けてきたので、それにちょっと勉強の時間を割きすぎたのかなという。

坂東:頭のほうに偏っちゃっているみたいな。

若新:そうそう。「圧倒的な答え」みたいなものが通用する時は、それで人々をコントロールできると思うんですけど、万能ではないと思っていて。人間の思いどおりにならない感情にとても関心がありますね。

経営者からして、「こういうふうに評価して、こういうふうに役割を与えたら、こう動いてくれるだろう」と期待して、マネジメントという発想で人を動かしてきたわけじゃないですか。でも武井さんもやられているように、「果たして人は本当に管理することができるんだろうか?」という疑問が出てくるわけですよね。

管理してほしい人もいると思うし、管理自体はちゃんとしたほうがいいと思うんですけど、管理できない部分をどうするかっていうバランスが大事で。別に僕はNEET株式会社が正解だともなんとも思っていないですけど、管理しようがない部分についての根本的な・普遍的なものを知りたかったという(笑)。

坂東:なるほど。

武井:超わかる。