「頭をどうやって柔らかくして、発想を豊かにするか?」

藤原和博氏:みなさん、こんにちは。私のセッションへ、ようこそおいでくださいました。今日は1時間「頭をどうやって柔らかくして、発想を豊かにするか?」という思考法を中心に、みなさんと共有していきたいと思います。

ボードに今日のメニューが1番から8番まで書いてあるんですが、本日はなんといっても「自分の中に眠る狂気を目覚めさせ、そして自分の中でまず革命を起こしましょう」と。

そして、このコロナの沈滞を突破していくパワーをつけましょう、というのがポイントです。どうもコロナの沈滞を突破するには、分析的な手法ではいまいち力が足りないということを、みなさんも感じてらっしゃるんじゃないかなと思うんですよね。

というわけで“狂気→革命→突破”というのが、冒頭のキーワードになります。

僕の講演は、YouTube「GLOBIS知見録」YouTube「GLOBIS知見録」にけっこうたくさん上がっているわけなんですけれども、『たった一度の人生を変える勉強をしよう~藤原和博氏|あすか会議』は2015年だったかな。

そして『10年後、君に仕事はあるのか?~藤原和博が教える「100万人に1人」の存在になるAI時代の働き方|あすか会議』、この2回の約1時間のセッションは両方で、もう360万回超も見られているんです。

今日はこれらのいいところもつまみながら、違う話もします。僕と初めて会う人にとっても、あるいは何回か講演を聞いている人にとっても楽しめるようにしたいと思っています。

またアクティブラーニング型といって、みなさんからのチャットでフィードバックしてもらって、それを読みながら進めていきたいです。ではまず最初に、チャットの調子を見たいので、もう予習しちゃってる人はわかると思うんですが……僕はリクルートの元フェローで、和田中学校と一条高校の校長をやった教育改革実践家ですが、もう一つの顔があります。

僕の顔を見てもらうと、ある歌手が思い浮かぶと思うんですよね。その歌手名をチャットから投票してもらいましょう。「僕の顔はどの歌手に似てるでしょうか?」。わからない人は、正解を当てようとしてないで、自分の好きな歌手名を書き込んでください。「AKBの誰か」とかでもいいので。はい、どうぞ。

もうすでに「さだまさし」「関白宣言」「ベンジー」「福山」「木村拓哉」、ありがとうございます。「AKBでいうと大島優子」。ちょっとおもしろいのがありました。チャットがしっかり機能することがわかりましたので、このへんにしますねが。“教育界のさだまさし”ということで覚えておいてもらえればと思います。

「コンクリートと鉄から、AIとロボットへ」という流れ

まず、みなさんには、これから起こる「最大の社会変化」を捉えてもらいたいんです。そこに狂気を起動してもらいたい。己の中に眠る、ちょっと狂った部分。それを起動して、自分の中に革命を起こしてもらいたい。そして、沈滞した現状を打破し突破しようと。そうした時には当然、この10年間で起こる最大の社会変化をチャンスとして捉えたほうがいいので。

まず最初に、この社会変化についてちょっとだけ解説して。さっそくチャットで、みなさんにあることを考えてもらおうと思っているんです。

(スライドを指して)左の時代から右の時代へ今はもう、動いてますね。真ん中あたりが1998年。Googleが生まれた年です。左の社会というのは、みなさんでいえば、子どもの頃。あるいは、お父さんお母さん世代が仕事した社会といってもいい。

コンクリートと鉄によって作られていた社会ですね。それが今、AIとロボットによって作られる社会へ。「コンクリートと鉄からAIとロボットへ」という流れが来ていると思います。

みなさんが新しいチャレンジをする場合でも、これを味方につけなきゃ損ですよね。どんな仕事でも、それが医者であろうと弁護士であろうと、たぶんAI・ロボットと協働になると思います。1対9なのか9対1なのか。その割合の違いこそあれ、補完しながら仕事するようになるでしょう。

すべての建設の半分がネットの中で、もう行われていますよね。都市建設、あるいは都市サービスの建設。みなさんもおそらく「ベンチャーを作るぞ!」みたいな思いを抱いているかもしれませんが。すべてのサービスがネットの中で作られますから、当然、リアルな仕事が半分なくなっていく。

とりわけ、ホワイトカラーの事務処理業務はなくなっていくんじゃないかなといわれています。その一方で、この右側の仕事がどんどん広がっていきます。プログラミングだったり、データマイニングだったり、データアナリストだったり。それからYouTuberという仕事なども、どんどん増えていく。

「処理脳」と「編集脳」

その時のイメージを膨らませてもらいたいので。家庭の中での家電製品に目を向けて、みなさんに、ちょっとした「1人ブレスト」をしてもらおうと思うんです。

テーマはなにかといいますと「お掃除くん」なんですよ。家庭の中で、洗濯機は「洗濯くん」っていうロボットになっていますよね。冷蔵庫は「冷蔵くん」というロボットだし、車も乗るタイプだからあまり意識しませんけども「移動くん」というロボットになっています。みなさんのスマホももうすでに「通信くん」というロボットですよね。

これと同じように「お掃除くん」。掃除機です。ルンバとかルーロという名前ですけれども、今は掃き掃除だけやってますよね。これが5年後に、どういう未来があるか? それをみなさんに想像してもらいたい。

というよりは、例えば次世代のルーロの開発をパナソニックから頼まれたと。そしたらみなさんだったら、どんなおもしろい「お掃除くん」を作り出すか? という感じで考えてもらいたいわけです。

これを考える時に「分析的に考える」、つまり、今ある「お掃除くん」の種類を全部挙げて、その機能すべてを挙げて整理して、その中から隙間を狙っていくみたいなやり方ではなくて。みなさんの、眠っている狂気を起動してもらって、みなさんの中に革命を起こしてもらいたいんです。どんな機能を付加すればすごいおもしろいマシーンになるか? ということで。おもしろさでいいんで、本当にバカな案を考えてもらいたいわけです。

あとで言いますけれども、情報の扱いには、情報の「処理力」と「編集力」という2種類がありまして、(スライドを指して)ここにちょっと書いてありますね。「処理脳」と「編集脳」です。処理脳というのは、要するに正解を早く正確に言い当てる脳なんですね。

編集脳というほうが、クリエイティブに、イマジナティブに、新しいものを考え出して、新しい世界観を生み出すほうの脳なんです。今、僕の解説を聞いているみなさんは、おそらくデフォルト状態が「処理脳」のほうだと思う。けっこう真面目に話を聞こうとして、要点をまとめようとしているかもしれません。

ノートなんかとってる人は、もう頭が処理脳のほうに傾いているわけです。当然です。仕事ができる人であればあるほど、処理仕事が速いと思いますし、正確だと思います。そうすると、どうしてもデフォルトがこっち(処理脳)になります。

さらにいえば、日本の教育現場では小中高と「正解至上主義」といって、正解を徹底的に叩き込まれますよね。あるいは正解の出し方を叩き込まれます。「4択問題を徹底的にやらせる」みたいな。

そうすると、やっぱり「正解を当てたい」というモードで、この情報処理モードがデフォルトになっちゃうわけです。これを、ガチャッと切り替えないと、クリエイティブ・イマジナティブな発想ができない。

なので、言い方は悪いんですが、自分の脳をだますことが必要になります。自分の脳をだますつもりで、わざとバカな案を何個も何個も発想してみるのをやってもらいたいわけです。

例えばなんですが、処理脳のほうで考えちゃうと「今は掃き掃除をしているけど、拭き掃除もしてもらえるとありがたい」ぐらいになっちゃうじゃないですか。これもうすでに発売されてます。そういう類のアイディアはおそらく他のメーカーが作っちゃってますし、もう来年・再来年、市場に出ることは間違いありません。

自分の脳をだまして“バカな案”を出す

ですから、もっとバカな案ですね。「えー……?」って驚くような案を考えて、チャットで送ってもらいたいわけです。例えばなんですが……あまり「例えば」っていわないほうがいいかもしれませんが「今は床だけ掃いてるけど、壁を這っていっちゃって、天井まで行っちゃって」とかですね。

あるいはドローンが全盛の時代ですから「飛んじゃうんじゃないの?」とか。「飛んじゃって、棚の上の埃も取ってくれるんじゃないの?」みたいな。とにかく、どんなに人から「バカ!」って言われても構わないんで、自分の脳をだましてください。「ここからはおもしろいことを考えていいのよ」「クリエイティブに考えていいのよ」「イマジネーションを発揮していいのよ」という感じで、脳を「編集脳」にガチャっと切り替えて、アイデアを寄せてもらいたいと思います。

ではいきましょう。3、2、1、どうぞ。「子どものおもちゃも片付けてもらう」「ゴキブリ駆除できる」「ペットの散歩をしてくれる」「掃除しないで済むようになる」。すごい、いっぱい出ました。「ゴミの分別をしてくれる」「階段掃除もしてくれる」「ゴミの再利用」ね。「食事も出してくれる」の? 

すごいですね。かなり出てます。ものすごくいい感じです。「ゴミを集めた後に、ゴミの収集の場所に行く」ということですね、わかりました。「100匹のアリ型の小さいやつがブワーッと掃除してくれる」と。

「さだまさしの歌を歌う」「悩みの相談」「アイロンをかけてくれる」。わかりました、こんな感じでけっこうです。今、みなさんの頭はこっち側(編集脳)に切り替わっていますね。「処理脳」がデフォルトだったんだけれども「編集脳」に切り替わっています。この状態で、いろんなことをぜひ考えてもらいたいわけです。

「生きる力の逆三角形」

ここで、先ほどから「処理脳・編集脳」といってますが、整理した図を見てもらいましょう。

(スライドを指して)「生きる力の逆三角形」という図です。僕の本には必ず載っています。僕の講演では、必ず見せる図です。もしかしたら、YouTubeでご覧になってるかもしれないから、今日は簡単に解説しますね。

ベースのところに基本的・基礎的な「人間力」というのがあります。これはもう家庭教育が基本になって、どんな経験をしたか・どんな環境で育ったか? 感情的な動きも含めて、普通は「人柄」とか、若い人は「キャラ」と表現することが多いと思います。これから迎えるのは“超”のつくネットワーク社会ですから、情報の扱いが大事ですよね。左側が情報の処理力。これは「正解がある問題に対して、正解を早く正確に当てるモード」です。

右側は「正解がない問題」ですね。日本は1998年から成熟社会に入ってますから、正解がない問題のほうがどんどん増えているわけです。正解がない問題のほうが多いんじゃないでしょうか。そうするとみなさんにとって必要なのは、どうですか。何を考え出すことでしょう? 

先ほどみなさんが出してくれた、たくさんの面白い案ですね。まだいろいろ出てます。「床が掃除機」とか「お風呂やトイレも」とか。これは要するに水回りも掃除してくれるんですね。「暖房も兼ねる」もいい。これって、みなさんは何を言ってくれたんでしょうか? 正解じゃないですよね。

なにを考え出したかというと、これらはすべて「仮説」ですね。仮説を出してくれたわけです。本当は3人から5人でブレストしたいわけなんですけども。人の言ったアイデアに自分が反応して、もっといいアイデアが出るかもしれない。

一人ブレストして出してもらったのは「仮説」ですよね。そしてその中には、自分が納得し、かつ関わる他者をも納得させられる仮説というのが混じっている可能性があります。つまり「そのアイデア、いいね」と。「やってみたらヒットするんじゃないか?」というような。自分が納得しなければ、人を説得できません。でも自分が納得し、かつ関わる他者をも納得させられる仮説のことを「納得解」と呼んでいます。

正解じゃなくて「納得解」ですね。それをどういうふうに「知識・経験・技術」のすべてを組み合わせて出していけるか? というのが、(スライドを指して)この右側の「情報編集力」という力になります。

では、この情報の処理力・編集力の運用の仕方、それらのバランスや切り替えが大事になりますよね。仕事を一生懸命やってる時は、処理脳のほうにいってますから。クリエイティブになるためにはこのモードを解除して、編集脳に切り替えなきゃいけないということはもうわかったと思うんです。

「情報編集脳」によるブレストから生まれた、大ヒット商品

では、ちょっと例題を出してみたいと思います。「処理脳による処理力」と「編集脳による編集力」の切り替えです。この例題として「かき氷のワーク」というのをやってみましょう。

さて、夏になりますと、かき氷が好きな人っていると思うんですよ。でもかき氷って、右利きの人は左手で皿を持って、右手でスプーンを使って食べますよね。だから両手がふさがるじゃないですか。そうすると、どっちかの手が汚れたりしますよね。たくさん盛ってもらおうとすると、こぼれたりもしますから。

さて、このかき氷なんですが、片手で食べられるようにするにはどうしたらいいでしょうか? ちょっと考えていただきたいわけです。片手で食べられるようにするには、どうしたらいいか? というのを、またちょっとバカな案から考えてもらいましょう。

「かき氷には今どんな種類があるのか?」とか「どういう店舗がどういうかき氷を販売してるか?」という分析から入るんじゃなくて。それだと「情報処理脳」から入る商品開発ですよね。

そうではなくて、もっとおもしろくする。世の中をおもしろくするために、かき氷をもし片手で食べられるようにすれば、若い人たちはスマホ片手にかき氷を食べられるでしょ。そうすると「片手で食べられて汚れなくていい」みたいなことで、大ヒットする可能性ありますよね。スマホ見ながら食べられるし。

本当はこれも3人から5人でブレストやってもらいたいぐらいなんですが、どうでしょうか。1人ブレストで恐縮なんですが。片手で食べられるかき氷。どんなふうにすれば食べられるか? ですね。

これもなるべくバカな案から、チャットで寄せてみてください。いきましょう。3、2、1。はい、どうぞ。

「スプーンからかき氷が出てくる」「固めてしまう」「コップを底上げする」「かき氷をおにぎりにする」「第三の手があるほうがいい」「アイスキャンディー型」「足に持たせる」「哺乳瓶タイプ」「細い筒に入れて出す」「ペッパーが横にいる」。それロボットがサーブしてくれるわけですね。「空から降ってくるあめみたいな感じ」。いいです、こういう感じですね。

「一口大にする」「誰かに食べさせてもらう」「かき氷味のアイス」「液体にする」「ドローンが運んでくる」「風船でぶら下げる」。すごくいい感じです。もうお気づきの人もいると思うんですよ。このバカみたいなブレスト「ちょっと狂ってるんじゃないか?」「そんなことできるわけないじゃん」と言われたら、もうそれでおしまいなんですが。

このブレストを徹底的に続けまして、1~2年かけてそれを商品化して、見事に大ヒットさせたメーカーがあるんです。赤城乳業という会社です。みなさんご存知、コンビニのどこにでもある、小学生・中学生・高校生であれば全員が知っている、あの「ガリガリ君」という商品は「片手で食べられるかき氷」という発想で、みなさんが今日やってくれた「情報編集脳」によるブレストを繰り返して生み出された商品なんですよね。

外側がちょっと硬い氷で、中にザクザクとしたかき氷みたいな氷が混じっていますよね。まずはソーダ味からスタートして、コーンポタージュ味とか、最近はいろんな味の種類が出ているようですけど。大ヒット商品ですよね。あれは「片手で食べられるかき氷」というコンセプトから生み出された商品だった、と。

実際に「編集力」によって商品が生み出されるんだ、ということをわかっていただいたと思うんですが。地球上で起こるほとんどの新商品開発、あるいは新サービス開発は、この「処理脳から編集脳への切り替え」で生まれているわけです。これ、おわかりですね。