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『100案思考』刊行記念 橋口幸生×田中泰延トークイベント 「仕事も人生も”下手な鉄砲も数撃てば当たる”でいい。」(全6記事)

どんな巨匠や成功者にも、必ず“迷作”はある 『100案思考』著者が語る、「だめなアイデア」も無駄ではない理由

代官山蔦屋書店にて、電通コピーライター・橋口幸生氏の著書『100案思考 「書けない」「思いつかない」「通らない」がなくなる』の刊行記念イベントが行われました。本セッションでは、橋口氏と同じく電通コピーライター職を経て、現在は文筆家として活躍する田中泰延氏との対談の模様をお届けします。橋口氏いわく、いいアイデアを考えてくる人の共通点は「とにかくたくさん数を出すこと」。本記事では、巨匠や成功者が通ってきた試行錯誤の歴史や、スマホでできるアウトプットの習慣についてが語られました。

だめなアイデアも、出すこと自体に価値がある

橋口幸生氏(以下、橋口):やっぱりだめな人ほど、1案だけ出して否定されるとふてくされる傾向があると思うんですよね。

田中泰延氏(以下、田中):はい。そういう人って、1案にプライドを込めちゃうんですよね。

橋口:そうなんですよ。やはりアイデアと人格は別だと思ったほうがいいと思っていて。「アイデアがだめだ」と言っているだけで、「その人がだめだ」とか「才能がない」と言っているわけじゃないんですよね。

そこが混同されがちなのが、アイデア会議とかでなかなか盛り上がらない理由の1つなのかなと思っていました。

田中:はい。そして否定されるとプライドが高くてふてくされるくせに、こういう人はおずおずと「いやぁ、たいした案じゃないかもしれませんが」と1案だけ持ってくるんですよね。いやいや、めっちゃそれ、自分のすべてをかけてるくせに、なんでそう卑屈になるのという。

橋口:「ぜんぜんつまんないんですけど」っていう前置きもすごくよくないと思っていて。だめなアイデアだろうと良いアイデアだろうと、アイデアを出す行為自体がすごく立派なことなんだから、堂々と出せばいいのにと思っているんですよ。だめなアイデアも、出すこと自体に価値があるから。

Appleにも任天堂にも“迷作”がある

橋口:どんな巨匠とか成功者でも、だめなものって作っていて。例えば、みんなAppleというと、iPhoneとかMacBookとか成功したものばかり取り上げるけど、歴史的にはやっぱり迷作・珍作があるわけですよね。このPower Mac G4 Cubeとか。

田中:Cube! すべての筐体に継ぎ目、割れ目が見えていたという変な……。

橋口:確か、むちゃくちゃ高かったんですよね。

田中:当時で、たぶん……。なんぼやったやろ、これ。

橋口:数十万してましたよね? 

田中:数十万した。そして、CDを上から出すという変な形でね。

橋口:そうなんです(笑)。

田中:熱がこもってまったく冷えないという、すごい筐体でしたね。

橋口:泰延さん、実物を見たことがあるんですか?

田中:いっとき使ってましたよ(笑)。

橋口:あ、使ってたんですね! 

田中:はい。最悪でした。

橋口:やはり最悪だったんですね。

田中:でもきれいでしたからね。

橋口:うん。まぁ、見た目はかっこよかったですよね。

田中:これなんか、今はまったく動かないけれども、部屋のインテリアにしてる人もいますけどね。

橋口:(笑)。

田中:この真ん中の機械はなんなんですか? 

橋口:泰延さん、これご存じないですか? 

田中:はい。

橋口:これは任天堂が作った、バーチャルボーイっていう。

田中:あ、バーチャルボーイってこれか!(笑)。

橋口:任天堂の最大の珍品といわれているハードですね。

田中:これは……(笑)。

橋口:これは、早すぎたOculus Riftみたいなものですよ。これ、スタンドなんですけど、頭に被って望遠鏡みたいに覗いてみると、赤と黒の3D映像が見られるというハードなんですよ。

田中:なるほど(笑)。赤と黒の立体ですね。

橋口:ボクシングゲームとかが出てましたけれども。みんなどうしてもNintendo SwitchとかWiiばかりをもてはやすけど、これを出したことを褒めないといけないと思うんですよ。

田中:今はこういうものを「黒歴史」って簡単に片付ける風潮がありますけど……。試行錯誤があるから、ヒット商品もあるわけで。

橋口:そうですよぉ。こういうのを、愛情を持っていじるのはいいと思うんですけども、ばかにするのはすごくよくないですよね。

ジェームズ・キャメロンのデビュー作、『殺人魚フライングキラー』

田中:そうですね。そして、『殺人魚フライングキラー』!(笑)。

橋口:これがジェームズ・キャメロンのデビュー作。

田中:ちなみにインタビューでジェームズ・キャメロンにこの映画の話をすると、そこでインタビューが打ち切られるといううわさです。

橋口:本当に怒るみたいですね。

田中:監督も途中でクビになってますしね。クレジットはされてるけれども、途中でお払い箱にもなったし、「やってられないわ」みたいなのもあったようですね。

橋口:ぜんぜん自分で作れなかったみたいですね。作品のクオリティ以前に、そういうフラストレーションがあったのか。でも、別にどんな巨匠でも駄作がない人はいないんじゃないかなと思って。

田中:ご覧になっているみなさん、ちなみにこの人はこの後に『ターミネーター』や『エイリアン2』や『タイタニック』、『アバター』を撮った人ですからね。

橋口:『殺人魚フライングキラー』を撮ってから、『タイタニック』『アバター』で、ハリウッドと全世界の興行記録を二度、自分で塗り替えた人ですからね。

田中:その原点がこれですからね。

橋口:そうですね。最近、ジェームズ・キャメロンの研究本を買って読んだんですけど、絵がめちゃくちゃうまいですね。

田中:あぁー、そうですね。

橋口:『ターミネーター』のコンセプトアートとか見ると、もうプロが描いたような絵。多才な人だなと思ったんですけど。

田中:ちなみに僕は、『殺人魚フライングキラー』は嫌いじゃないです。好きなんで。

橋口:僕は見てないんです。見たほうがいいですか?

田中:見たほうがいいです。警察署の死体置き場のシーンで、お金がなかったので本当の死体を撮ったといううわさがあります。

橋口:(笑)。すごいですね。ぜひ見てみます。

Twitterの一つひとつの投稿が「100案思考」のトレーニング

橋口:『読みたいことを、書けばいい。』の話を聞きたいなと思ったんですけれども。『100案思考』ってタイトルもけっこうたくさん考えたんですけれども、泰延さんはこの本を作る中で、そういう案出しってされました?

読みたいことを、書けばいい。 人生が変わるシンプルな文章術

田中:実はタイトルは、ダイヤモンド社の編集者の今野良介さんが最初に出してきた企画書に、「読みたいことを書きなさい」って書いてあって。「あれ、それいいんじゃない? まぁ、『書きなさい』はきついから、『読みたいことを、書けばいい。』でいいんじゃないですか」って。

だから、僕タイトルに関してはぜんぜん、1案も考えてないです。

橋口:そんなすぐ決まったんですね。

田中:そう。今野良介さんが書いたコピーが、最初っからよかったんですよね。

橋口:すごく長文の手紙を送ってきた方ですよね。

田中:はい。でも今野さんはタイトル案をたくさん書いて、それで自分で選んだのかもしれないですね。

まぁそこに至るまで、この本のタイトルも中身もそうですけど、12年間やっているTwitterで、僕は何十万ツイートもしていて、いわばその1ツイート1ツイートが僕にとっては100案思考なんですよね。

橋口:はい、はい。この本にとっては、下書きみたいなものですよね。

田中:そうなんですよ。同じことでも言い方を変えてみようとか、こういう言い方しちゃったら炎上するからマイルドな表現はなんだろうとか。Twitterでは100案思考を常にやってる感じですね。

橋口:Twitterはなんでも文字化してアウトプットして覚えていくって、すごくいいトレーニングになりますよね。

スマホでできる「メモの習慣」

田中:橋口さんが本の中で書かれていた「スマホにすぐメモを取っちゃおう」というのが、僕にとってのTwitter。自分のメモなんだけど、さらに人に見せちゃうかたちで、ちょっとだけハードルが上がるじゃないですか。それが、僕のメモ法なんですよね。

橋口:ハードルも上がるし。あと反応があるから、ただのメモよりも続けるモチベーションが上がりますよね。

田中:まぁ、たまに炎上もありますけど(笑)。

橋口:僕も、いわゆるモレスキンとか、ああいうおしゃれなノートを使いこなしてメモをするのが、どうしてもできなかった人間なので、スマホが出てきてすごく助かっていますね。

スマホのメモ機能ってナンバリングできるから、やればやるほど数が増えるのが目でもわかって楽しい。たまにTwitterとかに出せば、やはりそれも反応があるので。まめにメモする習慣がなくても、スマホですごくいい「メモの習慣」がついたなと思っています。

田中:僕は例えば車を運転しているとか、スマホを触っちゃいけないという時は、手探りで触って音声メモをとったりもしますよ。

橋口:そうなんですか。すごいですね。

田中:ただツイートしたいことなんですけど、それを140字ぐらいで、口で言ってメモを取るという。車を降りて、エンジンを切って、さっき言ったやつをそのまま書いたりしてますね。

橋口:朗読はすごく良いっていいますよね。音声メモはあまり使ってなかったな。やってみよう。

田中:音声、おもしろいですよ。

橋口:でも、自分の声を聞くのが恥ずかしかったりしないですか? 

田中:それは恥ずかしいですね(笑)。

橋口:そうですよね(笑)。

引っかかった1行をしつこく読む「遅読」のすすめ

田中:この『読みたいことを、書けばいい。』では、「たくさん本を読みましょう」って言ってるんですけど。橋口さんは読書に対して、どういうアプローチというか、量を決めたりとかジャンルを決めたりとかはされているんですか。

橋口:僕が逆にお聞きしたくて。本は普通に読むんですけれども、たいした読書家ではないので、もっと本を読みたい気持ちがすごくあるんですよ。「多読憧れ」が。

いわゆる速読本とかも読むんですけれども、一度も実践できた試しがなくて。なので泰延さんの読書に対する向き合い方をぜひ聞きたいと思っていました。

田中:いろんな方法論が出てますけど、速読をマスターしても、たぶん本の内容は身につかないと思いますね。

僕が読むのは、自然科学の本が一番多いんですね。もちろんフィクションも小説も好きなんですけど、読むのが非常に遅くて。小説なんかの風景描写とか人物描写とかが出てくると、どんな顔なのとか、どんな景色なのかとか、1行2行書いてあるところをしつこく想像してしまうので、読むのがとっても遅いんですね。

だから速読法の逆で、遅読のほうが脳にとってはいいんじゃないかなと僕は思っていますけど。

橋口:遅読のすすめ。

田中:はい。たくさん読むよりも1冊を。なにか引っかかることがあったり、ちょっとおもしろいなと思ったら、しつこく読むほうが実になるんじゃないかと思っています。

文章の構造を自分なりに分析する、書き写しのインプット術

橋口:ベテランコピーライターで、『名作コピーに学ぶ読ませる文章の書き方』というベストセラーを書いた鈴木康之さんという方がいるんですけれども、泰延さんとまったく同じことを言っていましたね。

名作コピーに学ぶ読ませる文章の書き方 (日経ビジネス文庫)

速読ブームはすごく嘆かわしくて、良い文章は何回も何回も時間をかけて読んだほうがいいに決まってるんだから、速読なんてするなって言っていて。確かに、今思い出すとあの文章には救われましたね。

『名作コピーに学ぶ読ませる文章の書き方』は、ボディコピーとかを何度も読み込んで、文章の練習をしようという本だったんですけど。時間をかけて、なんなら書き写して、その文章の構造を自分なりに分析するくらいやったほうが、よっぽどインプットとしてはよくなるということが書いてありましたね。

田中:そうですね。中島敦の短編小説なんかは書き写しましたね。

橋口:すごいですね。

田中:リズムがあるんですよね。文語調と口語体の混じり具合とかがいいなと思って。その真似した成果を、やっぱり自分でやってみないと身にならないので、去年書いた歴史小説(『東国の櫟』)で、そこで得た感じをどう自分が真似できたかなというのをやってみましたね。

橋口:タカシマタイ名義でしたっけ? 

田中:はい。髙島泰。

橋口:僕も読んだんですけれども、掛け値なしにものすごくおもしろいんで。Amazonとかで注文できるので、みなさんもぜひ。泰延さんのファンの方は読むことをお薦めします。何って検索したら出てきますか? みなさんと一緒に書いた同人誌ですよね? 

田中:『雨は五分後にやんで』。ぜひ、どうせなら遅読を。

雨は五分後にやんで: 異人と同人II (ネコノス)

倍速で視聴するのは、好きじゃないけど見たい映像

田中:速読に関しては、さっきのシリーズもののだめな広告と一緒で。最初の5分の1ぐらいを読んだら、これは本当におもしろくなりそうにないぞという本は、そこで止めればいいと思うんですよね。

橋口:そうですよね。おもしろくないものとか、自分のフィーリングに合わないものは、途中でやめちゃえっていう話は僕も聞きましたね。

田中:橋口さんは、ドラマやアニメを倍速でご覧になっているそうじゃないですか。

橋口:そうです。最近「倍速で映像を見る」というのは、よく今時の若者の嘆かわしい態度みたいな感じで報道されているじゃないですか。

田中:はい。

橋口:僕は、自分が本当に好きなものはちゃんと見ますけれども、やっぱり流行ってるものは、好きじゃないけど見ておきたいとかあるじゃないですか。それは作った方には申し訳ないけど、倍速で見ますね。

田中:それはわかる。知っておかなきゃやばい、とりあえず見とかな! というのはありますよね。

橋口:僕、『梨泰院クラス』は6倍速で見ました。

田中:僕、『愛の不時着』はけっこう倍速で見ました。

橋口:そうですよね。韓流ドラマは、展開がのんびりしてますよね。見つめ合ってるだけのシーンが5分ぐらい続いたりする。

田中:あるある(笑)。

橋口:「もう無理だ」と思って、字幕出して、6倍速で見ていました。

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