2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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田中泰延氏(以下、田中):読書もインプットですけど、この『100案思考』の中でも、インプットのやり方みたいなことをたくさん書かれています。「観察」に関して、さっき、100案出す時は見え方を変えるように、いろんなものを見ないとどうしようもないと言いましたけど。橋口さんが「観察」の主体にしているのはどこですか?
橋口幸生氏(以下、橋口):そうですね。こういう世の中になってしまったので、たまに外に出た時は、なんかしらコピーの元ネタがないかなという視点で見るようにはしますね。
田中:橋口さんがおっしゃっていたことでおもしろかったのは、「このことについて見よう」とか、「今はこのことが問題だ」と自分が思っていることは、自然に見えてくるという話ですね。
橋口:そうなんですよ。僕、何週間か前に肩こりがむちゃくちゃひどくなって、整体院に行ったんですよ。そしたら嘘みたいに良くなったんですけれども。その日、街中にはこんなに整体院があったのかって気付きを得ましたね。
田中:確かに。それまではわかんないでしょ。
橋口:本当に、駅前は整体院だらけですよ。
田中:めっちゃありますよね。僕は、虫歯になった時に歯医者ってこんなにあるんだって思いますね。しばらくして虫歯が治ると、また忘れるんですよ。
橋口:ですよね。あと、大きかったのはやっぱり子どもですよね。自分に子どもができてから、街中にこんなにベビーカーがあるのかとか、自分が今までなにも思わず歩いていた道路が段差だらけで、こんなに歩きにくかったとか、いろいろ思うようになって。
田中:なるほど。
橋口:たぶん、観察力って年を取るほど上がるんじゃないかなと思っています。
田中:観察力は年を取るほど上がる。なるほど。
橋口:例えば子どもがいなくても、自分がおじいちゃんになって足腰が弱くなったら、「このビルはこんなにバリアフリーじゃなかったのか」って気付くようになるだろうし。目が悪くなれば、「この本のこんな小さい字は読めねえよ」とか思うようになるだろうし。世の中の見え方の解像度が上がるというか、年をとっていくことのいいところだと思うんですよね。
田中:なるほど、そうですね。例えばTwitterとかでも、なにか極端な論が展開されていた時に、やっぱり自分が若くて経験もないとすぐ同調して怒ったりするかもしれないけれども。ある程度年かさを増してくると、「いや、逆の見方もあるんじゃない?」って探すようになりますね。
橋口:そうですよね。
田中:新聞だって1紙だけ取ってるとその意見に染まりますけど、まったく意見が逆な新聞もあるわけですから。両方を見るというのも観察の1つだと思いますね。
橋口:そうですね。今思えば、会社に行って新聞がばらーっと全紙並んでたのって、恵まれた環境だったなって思いますね。
田中:電通は全紙ありましたからね。今はないでしょ?
橋口:僕も最近会社にあまり行かなくなってしまいまして。でもコロナの前まではありましたよ。
田中:あっ、そうですか。
橋口:だから僕は、特に夕刊を各紙で見比べることをよくやっていましたね。新聞の夕刊って、世の中のことを浅く広く知るのにすごく良いんですよね。映画のことから美術館のことから、ベストセラーとか映画のことまで、浅くいろんなものが載っていて。意外とそういうものってないんですよね。
田中:夕刊って、「毎日発行される雑誌」っぽいところもありますもんね。
橋口:そうなんですよ。朝刊より気楽なかたちで読めるし、よく読んでいましたね。
田中:なるほど。インプットのやり方はいろいろですけれども、インプットする方法論は、はっきりしたものはなくても「習慣」のかたちで持っておきたいですよね。
橋口:そうですね。
田中:こっちを見るようにしようとか、逆を見るようにしようとか、見回してみようとか。結局はそういうことになっちゃうんですけどね。
橋口:僕がインプットで1つ意識してるのは、「人に薦められたものは自分が嫌いなものでも絶対に見る」というのを決めてます。
田中:なるほど。
橋口:やはり映画でも本でも、アニメとかなんでも、自分が買うものって絶対好きじゃないですか。僕はヒーロー映画が好きなので、ヒーロー映画って時点でどんな映画でもそれなりに楽しめちゃうんですけれども。
自分とぜんぜん違う人に「おもしろい」と言われて観るものは、それが自分にとって良いものでなくても、すごく意義のあることだと思っていますね。
田中:なるほど。じゃあ橋口さんに会った若い人は、必ず橋口さんから『デアデビル』の話をされると思うんですけど。
橋口:(笑)。
田中:それで「よくわかんないけど『デアデビル』見てみようか」という人は、1つインプットの幅が広がるわけですからね。
橋口:そうです。それで『デアデビル』がつまんないと思っても、僕はいいと思うんですよ。「『デアデビル』はつまんない」って感想を持てたことだけで、十分価値があると思っていて。
田中:なるほど。
橋口:僕がそれに気付いたきっかけは、すごく尊敬している映画解説者の中井圭さんという方がいるんですけれども。彼が薦める映画を、僕にとって好きなもの嫌いなものがあっても片っ端から見るようにしたら、映画に対する理解がすごく深まったんですよね。
田中:なるほど。
橋口:これまで僕は、「自分が好きな映画が好き」なだけで、「映画好き」ではなかったと思うんです。年間数百本を見るプロの解説者が見るものを見ることによって、初めて「自分は映画が好きなんだな」って思える境地に、ちょっとは立てたというか。
田中:確かにそうですね。例えば映画の解説をしていますという仕事の人が、年間50本しか見ないってことはありえないですからね。
橋口:そうなんです。本当そうなんです。
田中:400本とか500本とか、日付の数よりも多く見ているのが普通ですよね。そんな方がやっと「これはおもしろい」とか「これはよろしくない」とかいう評論ができるわけで。それも数ですよね。
橋口:やはり200~300本見ると、自分の好き嫌いとはぜんぜん違う次元の「意見」が出てくるんですよね。だからインプットの数はある程度重要ということですよね。
田中:これも橋口さんにお伺いしたかったことなんですが、何度もインプットもする、それから100案出してみようとアウトプットをする、アイデアもいろいろ並べてみる。
でも、何度も繰り返しおっしゃられていることが、インプットでも1回入れるだけ入れて、忘れていい。アイデアもいっぱい書いてみたけど、24時間保留してみよう。それから最後を選ぶ段階になっても、1回選んで、選ぶけれども寝かせてみようと。
発想をいったん放置することが大切だって、繰り返しおっしゃっていますね。この辺はちょっとお伺いしたかったんですが。
橋口:まず、「インプットは忘れていい」。これはある意味開き直りなんです。僕はインプットって言葉自体が、実はそんなに好きじゃないんですけれども。やっぱりインプットという言葉に、「なにか役に立つものを吸収しよう」というニュアンスがあると思うんですよね。
でも、人生なにが役に立つかなんてわからないんだから、とりあえず自分の中に吸収したほうがいいと思っていて。なので、インプットしてこれを覚えておいて、いつか役に立てようって思った時点で、発想がすごく落ちると思うんですよ。逆にインプットの質が下がるというか。
田中:なるほど。インプットという言葉があんまり好きじゃないとおっしゃいましたけど、つまりインプットって言葉がアウトプットと対になっているからですよね?
橋口:そうですね。
田中:本当はそうじゃないんですよね。
橋口:僕の場合、単純に自分の挫折経験で。憧れがあっていろんなメモ本とか読んで、インプットしたものを都合よく引き出せる人間になろうとしたんですけれども、まったくできた試しがなくて。
落ち込んでいた時に、以前一緒に仕事をした、ヒットをたくさん作っているクリエイティブディレクターの先輩に、「どうやってインプットを活かしているんですか」と言ったら、「昨日見たDVDを企画にしているんで」みたいなことを言ったんですよ。
田中:(笑)。
橋口:そう思って彼の作ったのを見てみると、確かに、ふだん話してることをまんま使っていたんですよね。
田中:なるほど。
橋口:その時読んでた本をコピーしてたりとか、確かその時は、前日の夜に見たみうらじゅんのDVDがおもしろかったから、それを企画に利用したみたいな感じだったんですけれども。だから別に、インプットしたことをハードディスクみたいにしまっておいて引き出す必要はないんだって思ったんですよね。
この本を一緒に作った編集者の能井聡子さんが、「インプットってストックじゃなくフローだ」って言ってたんですけれども。ストックじゃなくフローって意識を持っておいて、今来ているものを使うって意識でいれば、忘れてもいいんじゃないかと。
そう思っておいたほうが、「役に立てよう」という呪縛から解放されるから、自分の中に入れるものの幅が広がると思うんですよね。
田中:役に立てようと思って入れたものが役に立った経験は、本当はものすごく少ないはずですよね。
橋口:そうなんですよ。
田中:確かにそうですね。そしてアイデアでも選び方でも、1回は寝かせるところがコツだなと。
橋口:やはり人間誰もが「自分のアイデアが良く見える」という不治の病にかかっていて。絶対良く見えるんですよ。
僕もハードディスクを整理していて、数年前の最高の自信作のアイデアとかを見るとまったくおもしろくないこととか、今でもたまにあるので。自分の見る目を一切信用しないために、忘れるようにしていますね。
田中:自分の見る目は信用しない。その代わり冷静になったら粗が見えてくるということですよね?
橋口:はい。意識して冷静になるやり方とすると、例えば、企画会議がある前日の夜までに企画出しを終わらせておいて、次の日の企画会議に「みんな、このアイデアを見てよ」って言って出した時に、「あ、このアイデア説明するの恥ずかしい」と思う時があるんですよ。それはだいたいダメですね。
田中:やっぱり(笑)。広告なんか最終的には何万人、何百万人、場合によっては何千万人の目に触れるのに、どこかの時点で「ちょっとこれは恥ずかしい」と思ってるものが進んでいくというのは恐ろしいことですよね。
橋口:そうなんですよね。
田中:あとは脳の作用というか。『100案思考』では、ジェームス・W・ヤングの名著『アイデアのつくり方』が引き合いに出されていますが。この本の中でも、いろいろ考えたり資料を集めたり書いてみたりしても、ちょっと忘れるという時間がすごく大事だと言っていますね。僕も頭の中に入れるだけ入れて、寝るんですよ。
橋口:はぁ。本当に寝ちゃうんですか?
田中:本当に寝ます。Twitterには「朝やる作戦に変更」って書くんですけどね。
橋口:(笑)。
田中:でも入れるだけ入れて寝ると、朝ぱっと起きた時に、それが答えになってたりする時があるんですよ。
橋口:へぇー。
田中:でもそれは、「もう入れるのもしんどいわ」というぐらいいっぱい入れるか、もしくは「メモを書くのもしんどいわ」と、力尽きて寝た時にしか訪れないです。そういう人間の脳の作用はあるかもしれないですね。
橋口:確かに、僕は世代的にギリギリ、徹夜で企画だったりの経験をしていますけれども、寝ないでいいことって1つもないですね。
田中:なんにもない(笑)。糸井重里さんがいつも言ってるけれども、「よく食べてよく寝てるやつにはかなうわけがない。」
橋口:本当に。さすが。それは真理ですよね。「寝ないでやる」って、ある意味一番サボっているというか、楽なやり方だと思っていて。
事前に作業量を見積もって、睡眠時間を確保して計画的にやるというのが、むちゃくちゃ大変なんですよね。そういうことをするよりも、寝ないで徹夜でやっちゃったほうがずっと楽なんですけれども、結局そのほうがパフォーマンスが落ちるので。
だから僕は最近、睡眠時間をスケジュールに入れて、絶対寝るんだって決めてやっています。
田中:なるほど。
橋口:仕事が終わったら寝るんじゃなくて、寝るという予定をこなす感覚でやっていますね。
田中:あぁ~。最近僕は、自分のMacのカレンダーに「IZ *ONEのYouTubeを見る」という時間を……。
橋口:(笑)。でも、真面目な話、そうですよね。「IZ *ONEのYouTubeを見る」ってスケジュールに入れないと見ないですよね。
田中:そうなんですよ。
橋口:仕事の「ご検討いただけないでしょうか」みたいなうざいメールを3~4時間見ていて、IZ*ONEのYouTubeが見れなくなってしまうので。
田中:そうなんですよ。しかも決めておかないと、仕事が嫌で逃げてYouTubeをちょっと見た時に、今度は止まらなくなるというのがありますからね。
橋口:そうですね(笑)。
田中:「2時までこれをやったら2時からは見ていいんだ」っていうのは、すごく良いと思います。
橋口:そうですね。健全ですよね。仕事にも張りが出ますもんね。
橋口:ありがとうございます。もう1トピックぐらい話したら、そろそろ質疑応答いきましょうか。時間が過ぎてしまっているので。
田中:はい。橋口さん、大丈夫ですか。この話はしておこうというのがあれば。
橋口:僕は大丈夫です。
田中:視聴者からご質問は寄せられてますか?
司会者:はい。お申し込みいただいた方から、何個か質問がありまして。お答えいただければ。まず1つめが「泰延さんはBLACKPINKへの興味もありますでしょうか?」。
田中:おい!(笑)。もちろんBLACKPINKもTWICEもMAMAMOOも、最近は男性アイドルにもはまっています。K-POPは、本当にすごいと思うので、そのすべてのレベルの高さに驚いています。今はまってるのは、ITZYです。ありがとうございました。
橋口:僕も「人のお薦めは全部見る」に従って、今日帰ったらIZ *ONEを見ます!
田中:ぜひご覧ください。
橋口:興味なかったですけど、全員見ます。
田中:見ながら、僕が横で4時間ほど解説してもいいんですけど。
橋口:わかりました。ぜひお願いします。
田中:邪魔やろ!
橋口:(笑)。
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