畑氏「マガジンって、どうやったら連載になるの?」

工藤雄大氏(以下、工藤):じゃあ次に行きたいんですけれども「商業連載と企画の立て方」というところで。

お二人が作品を立ち上げる時、どこまで考えているか? をお話しいただいて。

その後、お互いに聞きたいこととか「そういう時どうしてるの?」「ああいうのどうしてるんですか?」みたいなお話をしていただいて。私から途中で質問とかを投げさせていただく、みたいな流れでいきたいと思います。

畑健二郎氏(以下、畑):じゃあ聞きたいことを……マガジンって、どうやったら連載になるの?(笑)

工藤:もう、聞きたすぎて(前のめりになってる)(笑)。

(一同笑)

:どうやって連載になるの? 担当が3人いると、最初にネームを誰に見せるの?

宮島礼吏氏(以下、宮島):連載になる時の話ですか? 

:まぁなんでも。新人にも3人(担当が)ついてるの? 

宮島:そんなことないです。今は新人は、基本1人だと思いますよ。

:賞取るじゃん。賞取ったら1人担当がつくの? 

宮島:はい。

:そしたら、その人とセッションをしていく? 

宮島:そうです。たぶん今はけっこうそこを減らして、1対1のことが多いと思います。それはもう連載している作家さんでも、1対1の人もいるかな? というぐらいだと思いますけれども。でも大抵は2人ぐらいついているんですよね。

:連載が決まったら2人になる。「あ、増えた」みたいな。

宮島:たぶん、そうですよね。

:「誰だ、こいつ?」みたいな(笑)。

宮島:僕も途中から……連載が始まったぐらいかな? 1人増えて、2人になり。もう1人の人は、まだ本当に新人っていっても、もうすぐ2年ぐらい経つのかっていう感じなんですけど、うちのチーフが教育担当になっている。

だから新人の教育として、教育(担当の)編集者がついている作家に一緒に入るというかたちになっているので、僕のところはそれで3人。もともと2人だったんですけど、1人入っていて合計3人になっているから、そういう意味でちょっと特別かもしれないですけど。

でもだいたいその人がやってますけどね、実労働。すごく忙しそうにしているから。

工藤:へ~。

宮島:こき使われているのかなって感じですけど。

“担当編集者3人体制”では、ネームは誰が見る?

工藤:その場合って、ネームとかは3人とも見るんですか? 

宮島:はい。

:そんなの、よく意見まとまるね。

工藤:本当に。

宮島:まとまってからですかね。ある程度まとめてから伝えてくれるので。たぶん1回、向こうで会議やっていますね。

:え、大変!

工藤:3人で会議してるってことですか? 

:マジで!? 

宮島:はい。やってると思います。やってない時もたまにはあって、ドタバタして。それこそ休日とかに返事をもらうことも、実際にあったりするので。そうすると、みんなもうそれぞれ家にいたりとかして集まれないから、それぞれの意見を持って、俺との打ち合わせの時に「ちょっと今回、打ち合わせできてないですけど。ここでその辺、擦り合わせながらやっていきましょう」みたいなこともありますけれど。

大抵は意見がまとまった状態で。

:それじゃ、例えば編集の田中と佐藤という人がいたとして「俺はおもしろいと思うんだけど、佐藤がこれ絶対ダメだって言ってるんだけど」みたいなこともあるの? 

宮島:あると思います。

:あるんだ、すごいね。それもどうしていいかわからなくなる。「お前はいいと思ってるんだよな!?」っていう(笑)。

宮島:結局はチーフの人がいて、その人がたぶん編集さんの意見の中ではまとまったというか、一番力があるので。

工藤:仕切って。

宮島:仕切っているので、その人がメインにはもちろんなってるんですけど。その方その方で「自分はそうじゃないと思ってても、この2人がいいって言うんだったら、そっちがいいのかもしれない」と思うような目線も持っている。

工藤、畑:なるほど~。

宮島:だから、2人の意見が分かれちゃった時は、たぶんこのメインの人の選択になっていて。でも他の2人がそっちがいいって言うんだったら、そっちに合わせようかということはありますかね。でも、僕の意見も踏まえたうえではありますけれど。

工藤:今回企画の立て方というところなので、新連載を立ち上げるときもそうなんですか? 担当さん3人体制。

:新連載。そうだね。新連載どうやって立ち上げるの? 

宮島:新連載の時は1人、2人でしたかね。でもその立ち上げの時というか、初稿のネームを描いた時にいた担当さんは、もういないんですよね。『彼女、お借りします』に関しては。

彼女、お借りします(1) (講談社コミックス)

その初稿を描いている時にちょうど入ってきて。1話か2話ぐらいの時にもそこにはいたんですけれども。その時はもう1人が上に、これまでやってくれた担当さんがついていて。なので、実際2人とか1人だから、まぁそんなには変わらないですかね。

2話3話とかも、まだ1話が載る前で、立ち上げという意味では立ち上げなので。そういう意味では、2人の意見をまとめて……。

:最初の会議も(担当と自分の)2人きりではないんだ。

宮島:最初の会議はどうだったかな? 2人きりじゃなかったような気がしますね。でも、今のメインの担当さんじゃなかったような気もしますけど。最初の『彼女、お借りします』になった時ですよね?

作家によってまったく異なる「担当編集者の交代スパン」

工藤:けっこう変わるんです? 

宮島:変わります。僕めちゃくちゃ担当が変わって、十何人ぐらい。

:嘘でしょ!? 

宮島:10年ぐらいで、もう十何人くらい変わってますね。

:ちょっと待って、そんなに変わるの? 

宮島:年1ぐらいで変わっているというか、もう2人まるまる変わったりとかいうのがあるとか。1年ごとじゃないですけど、コロコロ変わりますね(笑)。

工藤:それは新連載を立ち上げる時にいた担当さんと考えて、途中で代わってみたいな話。

宮島:そうですね。『かのかり』に関しては、一応そこで……難しいですね。初稿描いた時の担当さんは外れてるんですけど。その時にほぼ同時、1話だったか2話だったかがあやふやではあるんですけど、その時に入ってきた担当さんが、今メインでチーフをやってくれているので。

そういう意味では立ち上げの人として、やり取りはもちろんできているんですけど。それこそ『AKB49』とかに関しては、途中でもうメインの担当とかも変わっていますし。

AKB49~恋愛禁止条例~(1) (週刊少年マガジンコミックス)

:全員変わってる。

宮島:はい、もう全員跡形もなく。

(一同笑)

:寂しくない? だって俺、アシスタント時代から入れても4人だもん。

工藤:えっ。

:相当少ないって言われているけど。

工藤:相当少なくないですか。

宮島:なるほど~。

:相当少ない。

工藤:今の方って何年ぐらい。

:今、何年だろう。『ハヤテのごとく!』の終わりからだから、もう5年はいってるのかな。わからない。

ハヤテのごとく!(1) (少年サンデーコミックス)

工藤:けっこうサンデー編集部はそういう……?

:いや違う。

工藤:違うんですか。

:人による。

工藤:人によるんですね。

:年1で変わる人もいる。

工藤:そこはあまり「こう」っていう決まりではない? 

:ないと思う。

宮島:それ、たぶん大手出版社のほうが統計的には多そうな気がしますけどね。印象的には。

:でも僕は、マガジンってずっと変わらないんだと思ってた。

宮島:まぁ、そういう作家さんもたぶんいるとは思います。

:いますよね。とある作家さん、1回も変わってないみたいな。

工藤:そこは作家さんのご意向が大きいんですかね。

宮島:そうですね。たぶん……。「嫌だー!」って言ったらいいんですかね? 

(一同笑)

:「(担当さん)いかないでー!」って(笑)。

宮島:やだやだって言えばいいのか……。でも「変わることになりまして」って言われたら「あ、そうですか」ってなるじゃないですか。だからそんなことを言ってたら、コロコロ変わってしまい。

工藤:「あぁ、大丈夫なんだ。むしろ」と。わからないですけど。

宮島:「変えていいんだ、この作家さんは」ってなったのかもしれないですけど。

真面目に打ち合わせするが、家に帰ると違うものを描いている

工藤:じゃあその話のところを戻すんですけど。企画の立て方のところで、今回『彼女、お借りします』は、そういったかたちで担当さんと(進められてきた)、というかたちなんですけど。

『トニカクカワイイ』とか、どういう案を……担当さんにどの段階で持っていくんですか? 

トニカクカワイイ 1 (少年サンデーコミックス)

:もうネームを描けたら見せる。

工藤:ネームなんですね。

:もう僕の場合、打ち合わせが打ち合わせになってない。

工藤:どういうことですか?(笑)。

:すごい真面目に打ち合わせはするんだよ。真面目に打ち合わせはするんだけど、家に帰ると違うものを描いていることが多い。

(一同笑)

:で「あぁこうなったんだ」って、向こうは思っていると思う。「あの話し合いから、こうなるんだ」って。

宮島:破天荒だなぁ。

新連載の候補に残す基準は「俺のハートに響いてるか」

工藤:畑さんは『ハヤテ』が終わるじゃないですか。

:終わる。

工藤:『トニカクカワイイ』が始まるまでどれくらいの……。

:もっと言うと『ハヤテ』が終わる2年前から、新連載の準備はしている。

宮島:なるほど。

:『ハヤテ』の合間で、いっぱいネームを描いてる。その間で、何本描いたのかな? たぶん8本ぐらいは描いてる。

宮島:うおぉ……! 

工藤:『トニカクカワイイ』までに。

宮島:すげぇ。

:で「これはいける」と。「これはいいじゃないか?」ってなるけど、やっぱり連載って長い付き合いだから「ここからこれを5年描くか?」って問うた時に、ちょっと難しいってやつは没にする。

工藤:あ、没にするんですか。それはどういった……。描きやすさとか。ポイントを何個か挙げるとしたらどういう……。

:まず、俺のハートに響いてるか。

(一同笑)

工藤:かっこいい! 

:なんだろう……。本当に自分の内側の、一番芯の部分にどれだけ触れられるかだと思う。でもそんなのね、なかなか見つからないよ。

工藤:だから8本も。

:本質的に自分がいて、何を描きたいのか? という。

工藤:描きたいのかなんですか、そこは。

:描きたい、何が作りたいのか? ということを問うた時に「これであろう」というところのやつを描いてる。

工藤:それでじゃあ、最初が『トニカクカワイイ』。

:『トニカクカワイイ』というのは、まずキャラクターの(由崎)司ありきなんですよ。あのキャラクター自体、もう10年以上前に考えているから。「こういうキャラを描きたい。こういうキャラがいて、じゃああれがいたから、このキャラでそろそろ描けるんではないだろうか?」と思って描いてみたという感じ。

工藤:そしたら心に響いて来たと。

担当編集者に驚いてほしい!

:心に響く。だけど当然、ネームはめっちゃ直す。

工藤:直しますよね。そこまでって、お一人でやられる作業?

:1人でもやるし、やっぱり作家によるんだろうけど、ネームで見せたいの。途中でネタバレしたくない人なんで。

宮島:わかります。めっちゃわかる。

:驚いてほしいんだ!

宮島:驚いてほしいですよね! 驚かせたいんですよね!

:オチまでわかってる話を、読ませたくないじゃん。

工藤:それで担当さんに見せるわけじゃないですか。反応はどうだったんですか? 

:反応見て「俺の思っている反応になってないな」と思ったら、考え直す。

工藤:というかたちで進めていって、連載まで。

:ただ、逆に言うけど「100パーセントだ」と。俺の中で100パーセントで(担当に)「うーん」って顔をほぼされたことないけど、した時は「いや、お前の理解力どうなってんだ」と。

(一同笑)

工藤:ストロングスタイルすぎる、これ。

宮島:これ本当に。すごい。