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商業連載作家のアタマのなか 畑健二郎×宮島礼吏(全6記事)

漫画家・畑健二郎氏「すぐ連載が終わる新人は研究が足りない」 寄せるべきは“その雑誌で一番売れてる作品”のフォーマット

紙本売上の落ち込みによる出版不況から始まり、スマートデバイスの普及やSNSの発達を通して、ここ数年で急伸してきた電子書籍市場。漫画業界でも各社によるデジタルシフトがニュースで取り上げられる一方で、漫画家たちに起こる変化について語られる機会は多くありません。そこで、ナンバーナインが主催で「いまの漫画家たちが何を考え、どんなキャリアを歩むのか」を考えるオンライントークフェス「漫画家ミライ会議」が開催されました。本記事では、畑健二郎氏と宮島礼吏氏が「商業連載作家のアタマのなか」をテーマに語ったセッションの模様を公開します。

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「マガジンでアンケートを取るため」に、意識すること

工藤雄大氏(以下、工藤):なるほど、アンケートのところはぜひ伺ってみたかったので。結局、アンケートをこなしていって、そこから単行本へ結果的につながってくるという。

畑健二郎氏(以下、畑):うん。まぁつながっていくこともある(笑)。

宮島礼吏氏(以下、宮島):もはや雑誌によることになってて。アンケートがガッツリ機能している雑誌って、もはやそんなにないんじゃないか? と思う部分もありますけど。でも僕の体感だと、マガジンはやっぱりアンケートを取ったら売れていて。これはアンケートが機能してるということなので、もう「マガジンがすごい」と言わざるを得ないと。

工藤:読まれている読者数だったりとか、それぞれの購買率だったりで。

宮島:そうです。これはもう、ラインができてる。「マガジンでアンケートを取れば売れる」というラインができてるという。これを作ったのがマガジンの実績であり、ブランド力ともいえると思うので。

それはいったん、しっかり乗ろうと。なので「マガジンでアンケートを取る」って決めて、始めていると。

:なるほど。

工藤:ちなみに、どういったところを意識してらっしゃいますか?

宮島:マガジンのアンケートの取り方? 

:ほう、ほう。わりと核心をつくという。

宮島:アンケートの取り方、すごい細かいところで言ったらいろいろあるのはあると思いますけど。でも、漫画連載は最終回は誰も見てないじゃないですか。ずっと続けて。小説とか映画……小説でも連載だったらアレですけど、映画とかってゴールまでを決まって見られるワケじゃないですか。

でも漫画連載は途中途中で見られてしまうから、そこで判定されちゃう、評価されちゃうじゃないですか。だから何回見ても、基本的にはおもしろいものを作らないといけなくて。そういう意味でいったら……アンケートの取り方か……。

繰り返し見てもおもしろいものを作る、というのが根本にありますけれども。

工藤:根本です。

宮島:細かいところで言うんであれば、タイトルページを作るとか、見開きを入れるとか。それこそね、(『彼女、お借りします』のキャラクター)水原(千鶴)にデレさせるとか。

彼女、お借りします(1) (講談社コミックス)

(一同笑)

宮島:そんなことだとは思いますけど。

:いろいろあるね。

宮島:あとやっぱり冒頭の数ページで、ちゃんと主人公への感情移入をしっかり終わらせることが大事ですね。20ページあるんだったら「何ページまでにこれが終わってて、何ページまでにこれが終わっていて、何ページでこれをやる」というのは、確かにフォーマットとして自分の中にあるような気もしますけど。それが崩れてゆくという……。

工藤:畑先生の(お話)。

:新たな発明をしていくということです。

宮島:本当ですか!? できっかな?

すぐに連載が終わる新人作家に足りないもの

工藤:畑先生も、アンケートの取り方というか「この作品はこういう勝ち筋パターン」みたいな。

:あるよ! 具体的な方法はね、具体的な方法はいっぱいあるんだよ。

工藤:何か教えていただいてもいいですか? 何か具体的な方法はありますか? 

:たぶんいっぱい漫画家さんがいて、それぞれの雑誌でやっていると思うけど。その雑誌の中で、一番売れている漫画を研究すべき。

だってその雑誌を買っているお客さんの大半が、その漫画を読むために買っているから。

工藤:それは今までやられてきたんですね? 

:(小声で)……はい。

工藤:めちゃめちゃ、声がちっちゃかった……(笑)。

:だからサンデーで、その時、これから連載をしようという時に一番売れていた漫画は、もう徹底的に研究する。コマの数から何から。

工藤:コマの数。けっこう数字に落とし込むんです? 

:要は「どういうフォーマット、コマ割りが一番この雑誌の中で読まれる、読みやすいフォーマットになっているか?」を研究して、それに寄せると。

工藤:寄せると。

宮島:なるほど。

工藤:読み味とか、けっこう読みやすさを。

:新人で、すぐ終わってしまうという人がいるけど、それはその雑誌の研究が足りない。その雑誌の読者を見ていない。

商業連載と並行して、YouTubeでの配信も行う両氏

工藤:すごくいろいろなお話が聞けて、先に進むのがアレなんですけど。まだトークテーマがあと2個残っているのに、残り10分しかないという状況なので。次にいきたいと思いますね。

ちょっと毛色が変わるんですけど、お二人の共通点として、もう一つ挙げるとするのならば、個人での活動をけっこうやられているなという印象を受けているんですよね。畑先生だったらYouTube(『オルムズト・ナジャの小部屋』)

:そう、YouTuberだよ(笑)。

工藤:アカウント取ってる。

:もうゲーム配信もやるっちゅうねん。

工藤:登録者数、今は何人ぐらいいるんです? 

:今、3万ぐらいはいる。

工藤:宮島先生はオープンチャットという、LINEのファンコミュニティが。

宮島:やってますね。なんかいろいろやってるんですよね。

工藤:いろいろやってますね、本当に。

(宮島氏の)YouTube、僕も見てる

宮島:あー、そうだ。さっき伺ったんですよ。毎週見てるよって。

:毎週。

宮島:音が小せぇと(笑)。

:どうにかしてくれっていう(笑)。

宮島:がんばります。はい。すみません。

工藤:宮島先生は、毎週ヒロユキ先生とラジオ。その週のマガジンがどうだったか。

:あれ、すごいおもしろい。

宮島:本当ですか! 

:本当におもしろい。

工藤:ヘビーリスナーが畑先生だったというのがわかったという。

宮島:ぜんぜん顔が見えてなかったんで、誰が聞いてくれているか。

「新しい時代のものを取り入れないと終わる」という危機感

工藤:そうですよね。個人活動をやられているので、それをやっている理由といいますか。なぜYouTubeをやられているのか、なぜオープンチャットを開いたのかというところを聞けたらなと思っていまして。畑先生から。

:俺? まぁ当然だけど、一番は自分の、サンデーの漫画が売れることだよ。

工藤:当然。そこが目的。

:そこに戻ってこないといけないんだよ。

工藤:わかります。

:だけどやっぱり時代は進む。

(一同笑)

工藤:時代は進む。

:時代は進む。対応はしていかなきゃいけないってなった時に、やっぱり新しい時代のものを取り入れていかないと、終わってしまう。

工藤:あぁー、危機感。

:そうね。単純に危機感。

工藤:今回、YouTubeやりたいというところがあって、やられて。

:やってる。

工藤:他に目をつけているものとか、あります? 

:それはもう、今はどうにかpixivFANBOXを海外展開。

工藤:海外展開。なるほど。

:今はもう海外。

工藤:海外を見ている。

:そう。ニーハオ、ハロー(笑)。

個人活動が、漫画の取材にも繋がってくる

工藤:宮島先生は、オープンチャットはどうして。

宮島:オープンチャットの経緯ですか? オープンチャットの経緯は、本当に、衝動的にただ始めただけなんですけど。

工藤:結果、それを始めてみて、続けられているということは。

宮島:そうですね。基本は、僕は漫画に生きてくればいいなと思ってやってる、というのが根底にあって。

工藤:なるほど。

宮島:だからYouTuberのキャラクターが出てくるから、自分もYouTuberになってみたりとか、そんなことっス(笑)。

pixivFANBOXもあのかたちというのは、漫画家で新しいかたちではあるけれども、世にはああいうものっていっぱいあるわけじゃないですか。そういうのも触れてみたいとも思いましたし。オープンチャットならオープンチャットで、本当にもう一般の方がめちゃくちゃ好き勝手に書き込むわけですよ。それなりにルールはあるものの。

でもそういうところをこんなに近くで肌で感じられるんだったら、それは取材にもなるし、みんなどういう言葉でLINEのやり取りしてるのかなとか。それって僕はもう味わおうと思っても、学生とLINEできることなんかないじゃないですか。

工藤:確かに。

宮島:若い子たちの言葉って知ることができないから。スタッフとのやり取りともぜんぜん違うし。そうなってくると、どうしゃべってるのか、どういうふうにSNSを使ってんのか? とかいうのも調べる意味でも。Twitterもそうですし。それでもさらに、プラスアルファ宣伝になれば最高と思ってた感じですかね。

工藤:そうですよね。オープンチャット内には何人いる? 

宮島:1600人ぐらいですかね。

:(笑)。1600人! 

工藤:しかも宮島先生のファンじゃないですか。なにかあれば、その1600人にダイレクトマーケティングができるという。

宮島:そうですね。

工藤:お知らせもすぐできますもんね。

宮島:そうですね。

ファンがオープンチャットの共同管理人に?

宮島:あとすごいのはやっぱり、ファン同士で宣伝してくれるんですよ。だから僕はもうほとんど入っていかなくても、共同管理人の人へ任せていて。

工藤:共同管理人!? 

宮島:もともとファンの人なんですけど。

:すごい。

宮島:それを指名していて、3人ぐらい。なんかちっちゃい王冠がつくんですよね。その人たちは権限が与えられて、アンケートを取ったりお知らせができたりとかするんですよ。だからもう僕はしなくても、その人たちがみんなどんどん宣伝してくれる。

工藤:えー、めちゃめちゃいいじゃないですか!

:すごい!

工藤:助かってるって感じなんですね。

宮島:そうなんですよ、自分で全部やろうとすると大変ですけど。その人たちは、もともとpixivFANBOXのわりと高額の1000円プランのところで、僕とZoomで飲み会をやってたんですよ。

工藤:ファンの人たちと飲み会やってたんですか!?

:すご!

宮島:アニメが終わった後にも1回やったんですけど。そのところで、顔も知ってるし、話してるし、なんならオフ会も1回やってるんですよ。ずっと前の話にはなりますが。

工藤:オフ会やったんですか? 

宮島:はい。コロナがこんな状況になってない頃に、1回やっていて。本当はそれがやりたかったんですけど、できなくなっちゃったから「オンラインで飲もうよ」って話にして。

工藤:Zoom。

宮島:Zoomを使ってやって、そこで顔も知っているから「ちょっと(共同管理人)やってくれないか?」と言って、任命して。

工藤:え、宮島先生から……!?

宮島:任命して。やってくれるって言うから(笑)。

(一同笑)

工藤:いやいや、すごいっすね。

宮島:「お願いします!」ということで。

:ハイテク。

工藤:周りにいないじゃないですか。そんなやり方をされる……。

宮島:ちょっとおもしろいじゃないですか(笑)。

工藤:でも作品に生かされてるのは、すごい納得しました。

宮島:今、まさにやっているのは(pixivFANBOXで)1000円プランの人たちだけのLINEグループがあるんですよ。たぶんそこには、25人ぐらいしか人が入ってないんですけど。

工藤:1000円出してくれている人ですね。

宮島:今、たぶん何話か先のタイトルページに、クロスワードが載るんですよね。『かのかり』クロスワードをタイトルページにしようかなと思って。そんな遊びを考えてたんですけど「ちょっと一緒に作ってくれないか」って言って。

(一同笑)

:やーん、楽しそうやなぁ。

宮島:俺が作るよりもめっちゃ詳しい、めちゃめちゃ『かのかり』に詳しいわけじゃないですか。

工藤:そうですね。

:すごいな。

工藤:隅から隅まで読んでる人たちで。

宮島:だから一緒に作ってくれっていって、今、ずっと締め切りまでみんなでクロスワードを作ってます。

(一同笑)

:すごいな。

宮島:はい。やってます。

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