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商業連載作家のアタマのなか 畑健二郎×宮島礼吏(全6記事)

リモートで仕事する漫画家は「俺の憧れた姿じゃねえ」 畑健二郎氏×宮島礼吏氏が語る、商業連載作家のアタマのなか

紙本売上の落ち込みによる出版不況から始まり、スマートデバイスの普及やSNSの発達を通して、ここ数年で急伸してきた電子書籍市場。漫画業界でも各社によるデジタルシフトがニュースで取り上げられる一方で、漫画家たちに起こる変化について語られる機会は多くありません。そこで、ナンバーナインが主催で「いまの漫画家たちが何を考え、どんなキャリアを歩むのか」を考えるオンライントークフェス「漫画家ミライ会議」が開催されました。本記事では、畑健二郎氏と宮島礼吏氏が「商業連載作家のアタマのなか」をテーマに語ったセッションの模様を公開します。

「商業連載作家のアタマのなか」

工藤雄大氏(以下、工藤):お待たせいたしました。今回のセッションで登壇していただく、畑健二郎先生と宮島礼吏先生になります。よろしくお願いします。

(会場拍手)

工藤:まずは自己紹介を、畑先生からよろしくお願いいたします。

畑健二郎(以下、畑):漫画家で、週刊少年サンデーで『トニカクカワイイ』を連載している、畑健二郎といいます。よろしくお願いします。

トニカクカワイイ 1 (少年サンデーコミックス)

工藤:よろしくお願いします。

(会場拍手)

工藤:宮島先生お願いいたします。

宮島礼吏氏(以下、宮島):週刊少年マガジンで『彼女、お借りします』を掲載しております、宮島礼吏です。よろしくお願いします。

彼女、お借りします(1) (講談社コミックス)

(会場拍手)

工藤:ありがとうございます。本日なんですけれども、こちらの5つのテーマを用意させていただきました。

工藤:まずなんですけど、今回は大枠として、商業でバリバリ活躍されているお二人に登壇していただいて。今後、商業を目指されている漫画家さんに向けて……今回は「漫画家ミライ会議」という名前の通り、一般の読者さんには伝わりづらいことがあるかもしれないんですけれども、漫画家さんに向けて深くお話ししていただければと思っております。

約80平米あって最大7名も入れる、自宅兼仕事場

工藤:お時間が惜しいので、さっそくいきたいと思います。まず最初に「商業連載と職場環境」について。

:あぁ、なるほど。

工藤:コロナ禍というのもありますし、お二人とも仕事場を持たれていると思いますので。まずは「どういった職場環境でお仕事をされているか?」というところを、お一人ずつ……まず畑先生のほうから。今どういったかたちでされていますか? 「自宅兼仕事場」とかですか? 

:まぁ、自宅兼仕事場。広さは、具体的に言うと80平米ぐらいある。

工藤:でかくないですか!? 

:いや、それがねー……超古いから。

宮島:めちゃくちゃ、かっこいい(笑)。

:いやいや、めちゃめちゃ古いから。築35年ぐらいの、汚ぇマンションだから。

工藤:何名ぐらい入れるんですか?

:最大は7人。

工藤:7人!? 

:7人は入る。だって……こんな話をこんなところで話するのもなんだけど、(そこで)漫画家以外の仕事をしてたから。

工藤:あぁ、なるほど。

:「景品フェアリー」(注:2020年3月31日でサービスを終了した、景品サイト)という。

工藤:「景品フェアリー」込みでやられていた。そこで事務所兼職場みたいな。

:シェアオフィスだったからです。

工藤:なるほど! 

:社長は同じだけど。

工藤:今だと、どうなんですか?

:今だと、半分は在宅。

工藤:あぁー。で、もう半分は……。

:もう半分は(漫画作業のスタッフが)来てる。

工藤:ちょくちょく来ていただいている。

:ただまぁ、最近ね。こんなんじゃん! またやっぱり減らさなきゃいけないのかな? という気はしている。

工藤:そうですよね。やっぱりそこは、職場を持たれている作家さんの共通の悩みといいますか。

:でも今年(2020年)のコロナ禍になってスタッフの食事が、外に行くんじゃなくてめっちゃUber Eatsになった。外に食べに行かなくなった。

工藤:行けないですよね。行きづらいですよね、確かに。

漫画の現場も“リモート”になりつつある

工藤:宮島先生は、今どういった環境なんでしょう? 

宮島:環境はすべて、リモートになりました。

工藤:え、リモートなんですか!? 

宮島:もうすっかりリモートで、(仕事場に)ここ何ヶ月かは、僕1人しかいないです。

:あーそうなんだ。

工藤:めちゃめちゃかっこいい。

宮島:かっこいいですかね? でもまぁ、本当に急かされてというか、そうなりましたけど。だからもう今、みんなに合わせて新しいの買ったのに、まったく使ってないパソコンがバババって置いてあるんですよね。それぞれの家でみんな作業をしているんで、すごいもったいないんですけど。

工藤:リアルで来ていただいたところから、リモートに変わったわけじゃないですか。どうですか、やりづらさ。むしろやりやすくなった? 

:さっきパソコン余ってるって言ってたじゃない? こっちはリモートになったスタッフが「パソコンがないです。タブレットもないです」って言うから、買って送りましたよ。

工藤:えぇーっ!? 

:だから俺「今年になってパソコン何台買ったんだ?」って。

宮島:(笑)。

工藤:そんなにですか!? 

:マジでマジで。

宮島:サポートしてあげなきゃいけないですもんね。そうなってくるとね。

工藤:そうですよね、

宮島:あとDropboxの共有とか、向こうのストレージを使っていくから「あれ、これ俺がプランやってあげなきゃいけなくない?」とか。

工藤:はい、はい。

宮島:そんなのも生まれてきてはいるんですけれど。

「リモート環境で、若手は育つか?」問題

工藤:正直、どっちがいいですか? 

:いや、来てもらったほうがいいに決まってる(笑)。

宮島:僕はどっちでも(笑)。何も変わらないかな? という感じっすかね。

:いや、たぶん今は変わらないけど、新人を育てるということができなくなって。リモートだと、次に育っていかなくなる……。

工藤:今は大丈夫だけど。

:今は大丈夫だと思うけど、たぶん5年10年で大きな断絶は生まれてくると思う。

工藤:アシスタントさんはやっぱり、新人の方が多いんですか?

:うちは若い子を入れるようにしてます。

宮島:うちも若い子、新人を基本的には入れることにしていて。でもまぁ、確かにリモートになってから入れ替わりがないから、その前までの段階である程度は(育成が)済んでいたのは、あるかもしれないです。

工藤:じゃあ、新しい人が入って来た時にどうやって仕事を教えようか? と。

:そう、そう。

宮島:確かに。それはそうか。

:スタッフが3~4人いると、僕が教えなくても、代わりに上手い人が「こうしたらいいよ」とか技術を教えるというかたちができるので、楽なんですよ。

工藤:あぁ、なるほど! 

:教えなくていいから。

工藤:もう、勝手に回ってくれると。

:そう。勝手に回ってくれるから。

工藤:新しい人が入ったら、ちゃんと先輩が教えると。

:その先輩がいなくなったらそいつが育って、また下を教えるというサイクルができてたんですけれども。リモートだとこれがきつい。

「俺の憧れた“漫画家像”じゃねえ」

工藤:周りの作家さんってどうなんですか? 

:周りの作家さんは、どんどんリモートになっていると思う。

宮島:だと思いますね。マガジンなんてアナログの人もいっぱいいたと思うんですけれど。そういう人たちでも、もうリモートになっているって話が。

工藤:え、どうやってやるんですか。アナログの場合。

宮島:いや、だからそれをデジタルにしている人ももちろんいますし。

工藤:あぁ、これをきっかけに。

:強制的に。

工藤:そうですよね。家に集まって描けないと、アナログ自体もなかなか(厳しい)。最近の若手の方というか、20代前半でデビューした方々って、もうやっぱり最初からリモートで。仕事場を持たずに、リモートオンリーでやられる方がけっこう多いなというイメージなんですけど。

:多いと思います。

工藤:それはもう、時代の流れみたいなものですかね。

:コストカット。

宮島:そうですよね。

:仕事場がね。

宮島:でもそうなりますよね。

工藤:そっちにしていこうという気持ちはありますか? 

:このコロナ禍になり、わりとリモートになって自宅で仕事をするようになって「あ、俺の憧れた“漫画家像”じゃねえな」とは思った。

工藤:あぁ~。

:だから「俺はこれをやりたかったわけじゃないから、違うな」とは思った。

工藤:なるほど。

:効率はいいよ。当然、リモートのほうが。

工藤:効率はいいんですね。

:だって「お金を払ったらやってくれる感じ」とかはいいけど、いや、そうじゃない(笑)。

工藤:目指してた漫画家はそうじゃないと。

:そうじゃないってことに気づいた1年だった。

漫画家になる1番の近道は、アシスタントになること

工藤:宮島先生はどうですか? 

宮島:だからそれこそ、もうスタッフさん自体をTwitterで探したりとか、そういう「1回も会ったことがないスタッフさん」がいる職場も、いっぱいある。

:もう、いっぱいある。

宮島:うちはそうはいっても、雇う時に1回面接をさせてもらってて。

工藤:そうなんですか?

宮島:どういう人か? とか、それぐらいは見たいなって。実際、講談社を通じて紹介してもらうことが多いので、画力とかももちろんちゃんと描ける人たちは多いですけれども、それプラス1回会って。コミュニケーションを取ってみたいというのがあるから、一応、今の環境で成立してはいますけど。

これをいよいよ「Twitterとかで探す」ってなると「どうやってやっていいかわからん」という怖さは、ちょっとありますかね。

:そうっすね。

宮島:でも、そうなっていきそうな気がする。

工藤:だから今後、過渡期というか。まだリモートで弊害が起きていないけど、今後「教えられない問題」とかで後続が育ちづらくなって、アシスタントさんが見つけづらくなるみたいな。

:漫画家を目指している人たちに言いたいことは、漫画家になる1番の近道は、はっきり言うとアシスタントになることだと思う。その職場に行けば技術を勝手に教えてくれるし、お金までもらえるというところに入るのが、一番楽というか。

工藤:最近はあんまり聞かないですよね。

:だから結局、最初からできるやつだけが残っていくわけ。初めからぶっちぎりで才能があるやつが残っていくから「大変だろうな若い子は」っていう。

宮島:そうですね。なんか出し方の工夫とか、そういうのが上手い人っていう感じですね。

:“野生の強者”がいっぱい。

工藤:やっぱり(アシスタントに)教えたり、ネームや漫画見たりはされるんですか。

:してると思う。

宮島:最近、あんまりやってないですかね。

工藤:やっぱりリモートでなくなった? 

宮島:いや、でも、そういうわけでもなさそうかな。なんでなんでしょうね。でも描いてるとは思いますけどね。

工藤:でも、宮島先生のアシスタントの中からデビューされてた方が多い、という噂を。

宮島:そうなんですかね。調子よく、みなさん(笑)。

(一同笑)

宮島:サイクルは確かに回っていると思いますけど。最近はちょっと安定しているのかな? 早く売れて出ていってほしいと思ってるんですけれども。

工藤:そこら辺、デビューのアドバイスとかそういったところは次のテーマでいきたいと思うので。職場環境に関しては、そういったかたちですかね?

:そんな感じです。

工藤:今はそこも過渡期になってるんですねぇ。すごい勉強になりました。

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