動物は夜に夢を見るのか?

Stefan Chin(ステファン・チン)氏:うたた寝している犬の脚がピクピク動く様子を見ていると、「ウサギでも追いかける夢を見ているのかな」と想像してしまいますね。私たち人間と同様に、他の動物も夢を見るのだろうか、などと考えてしまいます。

イヌの脳は、人間の脳に比較的似ています。では、人間とはまったく異なる動物であればどうでしょう。例えば、魚は夢を見るのでしょうか。

人間の脳が、夜にファンタジーやホラーなシナリオを駆け抜ける理由はわかっていませんが、仮説は多くあります。夢を見るのは、脳が感情や記憶を処理する手段だとか、新たなシナリオに備えるためだとか言われています。

人間の睡眠は、一連のサイクルの中で起こります。夜、眠っている間に、だいたい70分から120分程度の、複数の段階のサイクルを繰り返すのです。

夢はほとんどはREM、つまり急速眼球運動という段階で起こります。名前からわかるとおり、急速に動く眼球がこの睡眠の特徴です。この眼球の運動が、夢と連動している可能性は十分にあります。研究者たちは、目の動きの一つ一つは、夢の中での新しいイメージとの遭遇に関係があるのではないかとしています。

魚の睡眠時のメカニズム

では、他の動物は、人間と同じように夢を見るのでしょうか。直接尋ねることはできませんが、興味はありますよね。この魅力ある題材は、1913年にすでに、魚の睡眠についての研究として行われていました。この研究では、魚の睡眠の際の行動基準を設けました。たとえばゼブラフィッシュでは、動かなくなること、いつも眠る時にいる場所への移動、呼吸率の低下などでした。

しかし、眠っている魚の脳内で何か起きているかを知るには、2019年の研究を待たねばなりませんでした。これほどまでに時間がかかった理由は、とても難しい研究だったからです。

睡眠時も含め人間の脳の活動を測定するには、脳波計、通称EEGという測定器を使います。通常は、脳の新皮質という部位の活動を測定します。

魚には新皮質はありませんが、ゼブラフィッシュには類似の部位があり、終脳の背側外套といわれています。研究者たちはこれを研究のターゲットとしました。

研究者たちは、稚魚が透明で脳の中までよく見えることをうまく利用しました。ゼブラフィッシュに、神経が活性化すると発光する遺伝子を注入したのです。これはとくにカルシウムに反応して発光します。

神経が信号を伝達するとカルシウム量が変化するため、魚が眠っている間でも脳の活動を観測できます。その結果、魚も人間と同様、睡眠パターンのサイクルを繰り返すことがわかったのです。研究者たちは、睡眠に2つの段階があることを突き止め、これを「徐バースト型睡眠 (SBS)」「伝搬波型睡眠(PWS)」と名付けました。このうち伝搬波型睡眠は、人間でいうREM睡眠と類似点が多くありましたが、魚の眼球には動きは見られませんでした。

研究者たちは、このようによく似た睡眠活動のパターンは、進化の過程で4億5000万年以上前、魚と人間とが分化する前にできたのではないかとしています。

これは魚が夢を見ることの証明にはなりませんが、人間が夢を見るREM睡眠に似たものが、魚にもあることを示唆しています。もしかしたら、魚も夢を見ているのかもしれませんね。