絶対に自己分析ブームが来る

渋谷修太氏(以下、渋谷):箕輪さん的には、去年で書籍の観点ではなにがありましたか?

箕輪厚介氏(以下、箕輪):去年売れたのは『君たちはどう生きるか』。僕がやったのは『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』。

漫画 君たちはどう生きるか

お金2.0 新しい経済のルールと生き方 (NewsPicks Book)

前田裕二氏(以下、前田):たくさんありますね。

箕輪:ヒット書籍か……。傾向ってあまり考えないし、僕自身は売れた本でトレンドとか考えないんですよ。それよりも大事にしているのは、「もっと不正確でいい」「僕の単なる思いつきでもいい」と思うことなんです。仮説もそれが正しいかどうかはどっちでもよくて、そう思い込もうとするみたいな。

例えば『メモの魔力』で言うと、「前田さんがすごくメモをとっている」とか「メモだったら一般の人にも売れるよね」とかいろいろ思います。前田さんともずっと話していたんだけど、僕の裏テーマは「絶対に自己分析ブームが来る」と思っていて。

メモの魔力 The Magic of Memos (NewsPicks Book)

それはなぜかというと、こういうイベントやもっと学生向けのイベントを毎日のようにやっていて、質疑応答になると、絶対に「僕は箕輪さんみたいに、好きなこととかないんですけど」とか言われるんですよ。

前田:それは本当に言われる。

箕輪:「そもそもやりたいことがないんですけど」とか言われて。僕は先ほど言ったみたいにあまりヒット映画も観ないし、アプリが流行っていてもダウンロードしなかったりするんですよ。

でも、そういうリアルな現場で気付くこと、その数が実際にどれだけ多いかは僕にとってはあまり関係がないので、「なんかコイツら、ずっと同じことを言っていてムカつくな」とか思ったりします(笑)。

ヒットアプリは書籍から生まれる!?

箕輪:そうやって考えると、『君たちはどう生きるか』ということも、結局「どう生きるか」が問題の秤だなと思うんです。「自分とはなにか、そしてどうやって生きるか」が大きなテーマになるから、ど真ん中で「自己分析」という言葉でやったほうが、絶対にベストセラーになるという思いがずっとあったんです。

それで前田さんのメモの本をやっている時に、あの本の中でも1個の太い柱として入れようと思って。これは別に、僕が思っていてもしょうがないんですけど、前田さんは実際に大学時代にとんでもない数の自己分析ノートをやっていたんですよ。

渋谷:1,000問とか。すごいですよね。

箕輪:そう。それで、本当に前田さんにピッタリだと思ったんです。本はヒットしきってもニッチなので、僕は本当に現場に落ちていて、単純に「心が動かされる」とか「ムカつくな」とか「これ、やたら売れているな」というものを、ただ大事にしている感じですね。

渋谷:なるほど。それはおもしろいですね。(スライドを指して)「ヒットアプリは書籍から生まれる!?」と書いてあるんですけど(笑)。

前田:冒頭に言ったとおり、本を出す意味があったんですよ。

渋谷:要するにいろんなアプリをやっている会社があるけれど、みんな本を出していったほうがいいのか? という話ですね。

著書を出すことは「分厚い名刺」を持つようなもの

前田:結論で言うと、ちゃんと語るべきストーリーがあるのであれば出したほうがいいなと思っているんですけど、別にそんなに売れなくてもいいと思うんですよ。1万冊とか2万冊とか売れればぜんぜんいいと思っていて。「分厚い名刺を持っておく」という感じでいいと思います。名刺1枚では(相手のことが)よくわからないじゃないですか。

渋谷:そうですね。

前田:でも、本1冊にストーリーを封じ込めれば、その人となりとか、会社がどういうキャラクターなのかということがわかる。だから、本を出す前と変わったのは、面接で会社のビジョンの話をあまりしなくてもよくなったこと。来てくださる方が(著書を読んでいて)もう痛いほどわかってくださっているから。

渋谷:ああ、説明コストが減るという効果もありますよね。

前田:そう。だから面接で確認することは「こちら側が持っている価値観はこれです。あなたが持っている価値観はなんですか?」と。その後は「そこは擦り合っているよね?」という作業だと思うんです。

渋谷:確かにこれはすごくありますね。去年、フラー株式会社の7周年でコーポレートサイトをリニューアルした時に、たくさんコンテンツを入れたんですよ。そうしたら(自分たちのことを)わかってくれるようになったから、本当にいいんですよ。

前田:僕は単純に優しくて頭のいい人と働きたいんですけど、頭の良さは最終面接までにはだいぶスクリーニングされているので、「この人は本当に優しいかな」とか「愛情深いんだな」とか、そういったところばかりを見ればいいようになりました。

『人生の勝算』を出してから、採用の応募人数が約10倍増加

渋谷:面接の場でのフォーカスがね。

前田:そう。今まで一番時間を割いていたのは「うちの会社はこういう熱い思いでやっているんだけど、この思いは暑苦しくないかな? 大丈夫?」というビジョンのすり合わせ。

できれば「いや、僕のほうが熱いです!」みたいな人とやりたいんですけど、基本応募してくる人がみんなそういう人になった、という効果はありますね。数でいっても、『人生の勝算』を出してから応募人数が10倍ぐらい増えました。

渋谷:すごい!

箕輪:だって、普通に前田さんと働きたくなるもの。

前田:本当!? うれしい(笑)。

箕輪:本とか経営者の生き方みたいなものに心を奪われると、給料や会社の規模というものを通り越すよね。

前田:ああ、なるほど。

渋谷:(人によって)その判断基準がどこにあるかはわからないですけど、それこそ競合じゃなくなりますよね。

人の裏側にあるストーリーを最も伝えられる媒体は「本」

前田:そうそう。あと、プロダクトの分析をしているフラーさんに言うのもあれかもしれないですけど、これからプロダクトで差別化をするのも、ものすごく難しくなってくると思っていて。

箕輪:わかる。こういうサービス(「App Ape」)が出て、当たる理由などがわかるツールが出ると、「とりあえずそこまではいくよね」という感じになりますよね。

前田:逆にフラーがプロダクトのコモディティ化を促進するのかもしれないなと思うんです。フラーが優秀すぎて、「あれ、簡単にヒットって生めるね」という世界が来てしまう。

(会場笑)

渋谷:そうですね。Netflixのあれとか難しいですもんね。オリジナルコンテンツも。

前田:そう。ということは、プロダクトやサービスレイヤーには、サービスの差分などがなくなっていくときに「なにが差分になり得るか?」となると、やっぱり人なんです。

人の裏側にどういうストーリーがあるかは、名刺に書いてもあまり伝わらない。僕は今、それが一番伝わる媒体・エリアは本だと思っています。なぜかは未だに満足に言語化しきれていないんだけど、それこそ本の魔力はやっぱり強烈で。

渋谷:本の魔力きた!(笑)。

書籍が持っている没入感

前田:でも、魔法がかかりません? 本って。

箕輪:今、本は一周回って若い人に流行っているような気もするんです。

前田:そう。

箕輪:没入感がありますよね。僕はノスタルジーが嫌いなので、Kindleなのか紙の本なのかは関係ないんですけど、やっぱりスマホの中に入っていないというのは強いですよね。僕はKindleでマンガ以外を読みきったことがほぼないんですよ。だって、LINEとかTwitterとか見ちゃうもの。「本、つまらないな」と思うもの。Twitterに比べると。

(一同笑)

箕輪:Wi-Fiがないような飛行機とかで、初めてKindleを嫌々読むぐらいです。

渋谷:飛行機はやばいですね。

箕輪:別問題として、結局紙の本はこの中(スマホ)に入っていないとね。

前田:没入という観点。

箕輪:没入力はありますよね。