メモの特集をやるなら前田さんに取材したほうがいい

渋谷修太氏(以下、渋谷):『メモの魔力』自体は、どうして「やろう」と思われたんですか?

メモの魔力 The Magic of Memos (NewsPicks Book)

前田裕二氏(以下、前田):これは、箕輪さんがきっかけを作ってくれました。

箕輪厚介氏(以下、箕輪):そもそも『メモの魔力』は、最初にNewsPicksから「メモの特集をする」みたいな話を聞いた時に「ああ、それだったら100パーセント前田さんに取材したほうがいいですよ」と言ったんですよ。それでNewsPicksが前田さんのメモやノート術をやったら、それこそ「バグじゃないか?」と思うぐらい爆発的にPicksが付いたんです。

前田:そうそう、しかも有料記事だったんですよ。

箕輪:有料記事なのに、見たことがないぐらいのPicksの付き方だったから、「これを本にしたら確実に売れるな」と思って、2人の間で「いつかしよう」と言っていて、(そこから出版するまでに)ちょうど1年ぐらいかかった感じです。

前田:まさに。

箕輪:1年といっても、お互いにいろいろ忙しくて。でも、いざ本気でやり始めると超速いんですよね。ずっと走らないで、いざ走ったらすぐゴールするみたいな(笑)。制作期間はやり始めてから2~3ヶ月ぐらいでした。実際に前田さんが書いたのは、1~2週間とかかな。

もともとノートやメモがコンプレックスだった

渋谷:「メモだったら前田さんだな」と思われたということは、すごく記憶に残っていたということですよね。

箕輪:もう本当に、一緒にいる時も隣でずっとメモをとっているんですよ。なによりも『人生の勝算』という1冊目の本を出した時に、取材で僕が一番「おもしろいな」と思ったのが、起こったことや気付いたことを書いて抽象化して、具体的に「明日からなにをするか」のアクションに転用するというノートを見せてもらったことです。

人生の勝算 (NewsPicks Book)

これはちょっと異常で、「コンテンツとしてものすごいものだ」と思ったけど、それを『人生の勝算』の中に入れると、強すぎて意味がわからなくなってしまうんですよ。要はお寿司と焼き肉みたいなもので、おもしろすぎて(一緒にすると)逆にブレるから、『人生の勝算』の中ではまったく言わなかったんです。だから「これは改めて1冊の本にしよう」というのが頭の中にあって。それがメモというかたちで、より一般的な感じで本になったという流れです。

前田:「抽象化ってなんですか?」と言われて、自分の実際のノートを見せたりもしていましたね。思えば僕はもともと、ノートやメモがコンプレックスだったんですよ。みんなからあまり理解されにくいところなんですけど、あまりにもノートをとるので……(メモ帳を取り出して)例えばこれにも、けっこうな分量を書いています。

渋谷:リアルメモだ(笑)。

前田:(メモ帳の半分あたりを指して)昨日から始めて。昨日がここだったんですよ。

渋谷:メモ帳からしたら、(ここまで使ってもらえて)喜んでいますよね(笑)。

前田:(メモ帳が)「生まれてきて良かった」って思ってくれたら本望だなと(笑)。

(会場笑)

渋谷:前田さんのメモ帳になりたいということですよね。

前田:確かに、すごくヘビーユースされますので。

ロジカルに考えすぎないことが余白を生む

渋谷:僕がすごく聞いてみたかったのが、『メモの魔力』(というタイトル)。「メモ」はすごく硬そうな感じで、「魔力」はちょっとエモそうというか。前田さんの話を何回かやらせていただいた時に、ロジカルな話をしつつ、エモさみたいなものを入れるにはどうやってバランスをとっているのかなと(笑)。

箕輪:エモさもロジカルも計算してますよ。前田裕二は(笑)。

渋谷:あっ、そうですか(笑)。

箕輪:そこらの天然でやっている素人とは違います。天然性までも余白として計算をしないという計算をしていますよね(笑)。

前田:(笑)。

渋谷:それ、どうなんですか(笑)。

箕輪:「あえて計算しない」というバッファーも残すということです(笑)。

渋谷:ああ、メモの余白の話?(笑)。

前田:でも、ちゃんと自分の中から余白が出るように設計しているので、その余白は嘘ではないです。

箕輪:決めすぎないよね。ロジカルに考えすぎないところがある。勝手な感想だけど、前田さんはとくに、この1年間はそうしているような気がする。

前田:そうですね、すごくしています。

渋谷:おもしろいですね。

スケジュールの中にあえて無駄を入れる

箕輪:結果に直結することだけをやるんじゃなくて、あえて雑味というかノイズを入れていますよね。

前田:そうそう。

箕輪:この1年間は、すごくそんな気がする。だって、もっと昔だったら「えっ、この会社には来ないでしょ」みたいなところには来なかった気がする。前田さんは本当にいい人だから、一瞬顔だけ出すようなこともすごく丁寧にやっていたんだけど、今は忙しいのに、たまに「えっ、ここに時間割くの?」という時がある。

前田:確かにね。

箕輪:僕、前田さんの忙しさは死ぬほど知っているから。あえてノイズを入れることを意識していないと、その無駄は生活のスケジュールに入れようがない。前田さんと一緒にいるとヤバイですよ。パスタとか選ばないで、勝手に秘書の人が頼んで、口に運んでいるだけなんだもん(笑)。

前田:いや、ご飯を忘れちゃうんですよ。

渋谷:選ぶのも疲れますからね。

前田:そうなんですよ。本当に(笑)。

箕輪:そこまで効率化しているのに「えっ、ここに来る必要ないでしょ」というところにゆっくりいたりするから、「これはあえて、スケジュールに自分の中での無駄も入れているんだろうな」と思うわけです。

箕輪氏との仕事を通して身についた、結果が出るものを考える癖

渋谷:実際に今日も、Slush Tokyoとのはしごで来てもらっていますからね(笑)。

前田:こういった登壇系イベントに出るかどうか、最近優先順位として、そこまで優先度高くなさそうにも見えるじゃないですか、登壇って。

箕輪:結果からの距離で言うと。

前田:そう。本当に逆算で目標達成に向けて走るなら、1~2時間あれば「それ、やってもいいよね」みたいな企画なんて、100個ぐらい考えられる。でも、それをやらずに、あえて外れすぎない範囲でのノイズを取りに行くのは大事だなと思うんです。

あと、ノイズの話から少し逸れるんだけど、僕が箕輪さんと仕事をしていて思ったのは、なにを提案しても基本的に箕輪さんはきっと「やろう!」と言うから、「僕がちゃんとしなきゃ」という気がするという設計の上手さ。たぶん僕が「ご年配をターゲットにしたいから、巣鴨でビラ配りをやろう!」と言っても、「いいね、最高!」と言うと思うので(笑)。

箕輪:振るだけじゃなくて、「とりあえずやろうよ」と(笑)。

前田:「やろうよ!」と来るんですけど、「やろう!」になっちゃうから、僕自身が精査して、「これはというアウトプットを出さねば」というマインドが働くんです。すごく良い企画を投げないと、全部「やろう!」になっちゃうから気をつけよう、みたいな(笑)。

箕輪:「やるよ! やっちゃうよ!」みたいな(笑)。

前田:そうそう(笑)。だから僕は、これは箕輪さんが「やろう!」といって、実際にやったとして、本当に結果が出る確率が高いような質のものを考える癖がつきました。

「なんでもOK」という向き合い方が、周りの力を引き出す

箕輪:ちょっと論点がずれるけど、それで言うと僕は内容を見ていなくて、人でしか考えていないんですよ。僕は「レスがすごく速い」と言われるんですけど、そのツイートを見て「あれ? ぜんぜんレス来ないよ」と思っている人もいっぱいいて。

僕は人でしか判断していないので、もう前田さんが言うことやホリエモンが言うことは「Yes」と言うと決めているんです。じゃないと、判断するのは疲れませんか?

前田:疲れる。

箕輪:そう。精査ができないから。

前田:箕輪さんはあえて「自分はもうなんでもOKと言う」というスタイルで生きているから、周りが「ちゃんとしなきゃ」となる。その結果、「箕輪さん、ちゃんとマーケティングのこと考えているのかな?」「自分が全部やらなきゃ」みたいな気持ちになって、僕の力が引き出されるんです(笑)。編集者としてすごいと思う。

渋谷:そんな編集者の箕輪さんは……。

箕輪:(スライドを見ながら)全部任せると写真のチョイスが……こういう謎の写真になってしまって(笑)。

前田:どうしてこの写真になったんですか?

箕輪:ふざけているんですよ。僕は編集者なので、こういう「THE IT系」のところにはあまり来ないんですけど、NewsPicks Bookというものの編集長をやって、1年間で100万部以上売ったんです。

渋谷:すごいですね。

売れる人に書いてもらえることが編集者としての強み

箕輪:でも、本当に僕というよりも、みんなのおかげ。売れる人が書いてくれたところが大きいんです。本をお寿司屋さんに例えて、釣るところ・調理をするところ・最終的に出すところがあるとすると、(その寿司がおいしい要因の)半分は釣るところだと思うんですよね。

ほかに調理をするところ・最後のプロモーションがあるとしたら、僕はプロモーションもそれなりに自信はありますけど、やっぱり釣るところが強い。ほかの編集者と違うのは、最高級の魚を釣るというか、もう釣り堀で一緒に泳いでいるみたいな感じなんです。前田さんをほかの出版社の人が口説こうと思ったら大変だと思うんですよね。

出せば売れるし、話題になるから、前田さんに書いて欲しいに決まってる。だから、前田さんとかホリエモンとか落合陽一さんとか、メタップスの佐藤航陽さんとかが書いてくれることが半分ぐらい。

本の中のつくりは、もうチャチャッという感じで、最後にプロモーションがあるから5対2対3ぐらいなのかな。プロモーションはできないですけどね。どれが売れるかは人にもよるし、本当に素晴らしい人が書いてくれることが強みで、ヒットする感じです。

渋谷:編集者以外の肩書をご自身に付けるとしたら、何になるんですか? スカウトマンですか?

箕輪:難しいですけど、そういうのも引っくるめて「編集者」と言うのが楽ですね。世の中のあらゆるものを組み合わせて、「集めて編む」みたいな感じですね。

渋谷:すごくしっくりはしているということですね。

箕輪:うん。しかも「編集者」って真面目そうじゃないですか。「プロデューサー」となるとちょっとチャラそうだけど「編集者です」と言うと真面目そうなので、「編集者」の肩書はすごくいいなと思っています。

出版業界の編集者はブルーオーシャン

箕輪:あと編集者は、本当に今出版不況なので……。みなさんもお気付きかと思うんですけど、とくにみなさんのいるIT業界・アプリ業界は、次から次へとモンスターみたいなやつが出てくるじゃないですか。

渋谷:うーん、出ます。

箕輪:本当に出版業界は、新しい人がぜんぜん出てこないんですよ(笑)。

前田:なるほど(笑)。

箕輪:出版不況なので、中小以下の出版社は新卒採用を止めていますし、集英社・講談社・小学館みたいな本当の大手は会社の力がすごく強いから、謎の進化を遂げるような若手編集者はいないんです。僕なんか若いし編集者みたいに見えているけど、もう33歳で、このIT業界だったら僕みたいなやつがいっぱい出てくるはずだけど、出版業界は誰もいないでしょう(笑)。

前田:いない。

箕輪:そう。だから編集者は最高なんです(笑)。

渋谷:ブルーオーシャンですね。

箕輪:ザ・ブルーオーシャン。

渋谷:そんなお三方でお送りしています。