「事業を創る人」に天才性は必要か?

司会:最後は、これまでご登壇いただいた5名のみなさんに再度前に出て来ていただいて、約1時間にわたってパネルディスカッションを行っていただきます。モデレーターは、光村さんにお願いいたします。

それでは「天才を活かす組織とは?」というテーマなんですが、その前にみなさんからいろんな質問をいただいていますので、それを選びつつ、あるいは光村さんから投げていただいてもかまいませんし、登壇者の方から出していただいてもかまいませんので。ぜひよろしくお願いいたします。それでは拍手ではじめましょう。よろしくお願いします。

(会場拍手)

光村圭一郎氏(以下、光村):改めまして、よろしくお願いします。この時間は、みなさんから質問もいただいていますので、それをうまく拾いながら話を展開できればと思っております。その前に今日、麻野さんの方から、なかなか衝撃的な一言が飛び出したなというふうに思っておりまして。今日は北野(唯我)さんがいないので、ちょっと分が悪いなと思うところもあるんですけれども(笑)。

先ほどの麻野さんのお話の中で「天才なんかいないんだよね」という話があったと思っています。今日は、天才と秀才と凡人、というようなテーマもあったんですけども、天才がいるのかいないのかとか、起業家みたいなものの天才性というものがあるのかどうかという問いですね。

例えば、社内新規事業をやる時も、そういうものがあるのかないのか。ちょっとその辺で、みなさんのお考えがあるようであれば、簡単に聞いておきたいなと思っておりまして。例えば田中さん、「事業を創る人」という定義の中に、ここで話題になっている天才性のようなものは、はたして含まれるのでしょうか。

「天才」には二通りある

田中聡氏(以下、田中):いきなり難しい問いですね。僕の研究では「天才」という表現をこれまで扱ったことはないのですが、どうなんでしょう。ちょっと遠回りな話をしますが、人が誰かを見て「天才だよね、この人」と言うときって、何を見ているかというと、その人の可能性じゃなく、成し遂げた成果を見て言っているような気がするんですね。

例えば、ジョブズの成し遂げた偉大なる成果、彼が率いたアップルという会社が創り上げた偉大なる成果を指して「ジョブズは天才だ」と人は言う。ただ、幼少期のジョブズを見て、一体どれだけの人が彼を天才だと評価できたのか。だから、人が天才という時、その人の将来の可能性ではなく、過去の実績に目を向けてますよね。

ただ、ビジネスの世界は受験の世界とちがって、一発勝負ってあまりないと思うんですよ。つまり、ある偉大な成果を生み出すために、1,000回、2,000回の失敗をしている可能性はある。でも、人ってそのプロセスにあまり目を向けないじゃないですか。

光村:うんうんうん。

田中:だから、ちょっと話をまとめると、天才には「結果としての天才」と「可能性としての天才」がいて、「結果としての天才」は容易に評価できる。結果を見てればいいわけですから。一方、「可能性としての天才」は事前の評価が難しいんじゃないかなと。もちろん、天才性という言葉があるぐらいですから、「可能性としての天才」もいるにはいると思うんですが。

光村:それは、結果的に「天才と呼ぶに値する人」がいるということですよね。

田中:はい。ただ、繰り返しになりますが、それを事前に見極めるのはかなり至難の技。あえて僕の研究に引きつけて言うと、どれだけトライ&エラーできる人なのか。言い換えると、1回の成功を打ち当てるためにどれだけの失敗を積み重ねられるのか。そういう行動特性の中に、なにか天才性(「可能性としての天才」)を見極めるヒントがあるんじゃないかと思います。

「顧客のところに300回行けば新規事業ができる」

光村:麻生さんの話をうかがっていると、再現性というものをすごく大事にして、人の育成や組織制度の設計をされてたりすると思います。やっぱりこの再現性というのは、ある種、天才性のようなものに依存しない、と見えたりもするんですけれども。そういう考え方についてはどうですか?

麻生要一氏(以下、麻生):そうですね。誰でも新規事業を創れるという宗教なんですけど、新規事業を作るときの方法として、僕はいつも「顧客のところに300回行けば新規事業ができる」と言っているんですね。なので、(天才性が)唯一あるとすると、その300回に行けるかどうかなんですよ。

光村:うーん。

麻生:これは行けばいいだけだから、本当に誰でもできるんですね。

光村:うん。

麻生:とにかくいろんな顧客や潜在顧客のところに300回行って、話を聞いてきてください。ぶつけてきてください、というだけなんですけど。そんな簡単なことなんだから誰でもできるはずなんだけど、それができる人とできない人はやっぱりいますよね。

光村:これはユーグレナの出雲さんがおっしゃっていることで、それこそ300回、500回と営業の足を運んで、ようやく買ってくれる人が見つかったということもあったりします。そういう努力を、人はもしかしたら「天才だからこそできる努力」と言うのかもしれない。天才って、定義自体が揺れる言葉なので、なかなか一概には言いにくいところがあるのかもしれませんけれど。

麻生:イチローが「コツコツと積み上げると遠くまで行ける」というような話をしていたじゃないですか。新規事業もそれに似ていて、あるとき降ってくるものではなくて、やっぱりちょっとずつたどり着いて行くものだと思います。だから、その大量の行動ができる人かどうかということはありますよね。

光村:なるほど。大室さんにちょっとお聞きしたいんですけど。新規事業などで、まさに大企業のなかでこういう立場になったときに、先ほど田中さんがおっしゃった死の谷のような話があって。それこそ、そこでけっこう精神的に病んでしまったり、悩む方もいらっしゃると思うんですよ。

そういう方々に対して、もちろん、つらい状況などに陥りがちということは当然あると思うんですけれども、産業医の立場から、なにかコメントや見地をいただけないでしょうか?

空気を読めなくても読みすぎても、メンタル不調になりやすい

大室正志氏(以下、大室):はい。まず一般論の話をすると、会社のなかでメンタル不調になりやすい人は、簡単に言うと、空気を読みすぎるか空気を読めないかなんですよ(笑)。

光村:読めなくても病む。

大室:そうです。読めなくて病む方というのは、簡単に言うと、発達障害と呼ばれる方がいらっしゃいますよね。

光村:あ〜。

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