営業マンを育てるのと同じくらいの確率で「事業開発マン」を育成できる

麻生要一氏(以下、麻生):そうですね。社内起業家というのは、やっぱり起業家的要素は必要で、何にもないところから事業を作るという”0→1”の能力が必要なんですよね。

これは光村さんとスタンスが違うのかもしれないんですけど、僕はあらゆる人が社内起業家になれると思っていて。それは何千人と見てきているので、確信を持って言えるんですね。

確かに語弊があって、100人中100人はできません。でも、何にもわからない新卒を採って、3年も営業現場に配属したら、まぁ一定確率で営業マンは量産できる。 それと同じぐらいの確率では、事業開発マンを育成できると思うんですね。

光村圭一郎氏(以下、光村):おぉ〜。はい、はい。

麻生:日本企業って、営業マンとか、生産管理の人とか、あらゆるプロを育成できるじゃないですか。

光村:職種としてのある種のプロフェッショナルですね。

麻生:その既存事業のプロフェショナルを育てるのと同じぐらいの確率では育成できると思うんですね。

光村:僕がなんで、サラリーマンが起業家になれないと感じているかというと、僕自身が数多くの優れた起業家と出会ってきて、自分との間にスキルや能力の面で違いを感じることが多かったからんです。

傲慢に聞こえるかもしれないけど、僕も一応イノベーター的に扱われることがあるし、起業家が提示する世界観やビジネスモデルをものすごく早く理解したり、共感したり、というスキルは、かなり上手いほうだと思うんですよ。

だけど、やっぱり、自分で“0→1”を発見することができない、というコンプレックスはあるんですよね。起業家の人の話を聞いて、初めてその課題の存在に気づくというか。「課題発見」みたいな本当の”0→1”は、本当の起業家に必要な能力なんじゃないかと思っているんですよね。

日本企業のサラリーマンに足りないのは能力ではなく機会

麻生:あ〜。でも、それはそうですよね。僕は「再現性を持って誰でも思いつかせられる」というスタンスに立っているんです。課題の根深い現場に放りこんだら、けっこう見えて帰ってくるんですよね。

今、日本企業の中で働いている人って、そりゃあ新規事業なんて思いつくはずがなくって。立派なビルの中で、きれいな机と椅子に座って、パソコンをカタカタやっていたら、それで日常が過ぎていくじゃないですか。そこには社会課題も何もないので、そんなの思いつくはずがないんです。だけど、それは思いつく能力がないんじゃなくて、単に思いつく場に触れてないからだと思うんですよね。

光村:なるほどね。さっき「越境機会」みたいなことも出ていましたけど、やっぱり、そういうことを繰り返しながら、社会課題の本当の現場を泥にまみれてみる必要があるという。

麻生:そうです。だから、それをよくやっていたんですよ。リクルート時代もやっていましたし、いま支援しているいろんな会社の人を社会課題の現場によく放り込んでいるんですよね。

光村:はい、はい。

麻生:山の中とか。 貧困の現場とか。根深い課題はいろんなところにあるので、人口が減少している過疎地とかに放り込んどいたら……すごく雑なことを言いますけども。

光村:ははは(笑)。

麻生:そういう場所では、課題が何重苦にもなっています。でも、日本の企業で働いてる方って優秀なので、そこに放り込むと、本当に生々しく困ってる人の姿を見たら、課題もしっかり見て帰ってくるんですよね。それでちゃんと思いつくし。

光村:そういうことを繰り返していくというのが、さっき言ったような再現性をもって、社内起業家、ゼロイチを産める人を作っていけるという根拠なんですね。

麻生:そうですね。

社内起業家の能力は、自社の人とお金を動かせること

光村:そういう人材って、いま大企業は「必要だ」「育てたい」と言っているわけじゃないですか。でも、そのための投資や機会設計をなかなかしてくれない部分もあるなぁと思っていて。「人材が欲しい、欲しい」と言うわりには、その時間をかけないですよね、って感じますけどねぇ。

麻生:それがやっぱり社内起業家の、起業家とはちょっと違った、ものすごく重要なスキルで。大きい会社の偉い人を動かして、大きい予算を動かすっていう。さっき稟議の話もありましたけど、そこの能力は起業家は絶対に持っていなくて、社内起業家は持っている。

光村:そうですね。

麻生:それって、この国の経済を動かすには最も重要な能力の1つだと思うんですよ。だって光村さんとか、「BASE Qって、どうやって作ったのかな?」と思うし。

光村:まぁ、なんとなくなんですけどね。

麻生:なんとなくなんですか(笑)。

(会場笑)

光村:なんとなくですけどね。まぁ、確かにこの「BASE Q」を作るにしても、運営するにしても、それこそ億単位のお金が必要で。

でも、さっきの起業家の方がどれだけVCを回しながら、数千万単位のお金を最初に取っていくかという苦労話があると思うんです。それに比べたら、圧倒的に苦労してないですよね。だから、なんか役員とかのところに行ってコチョコチョって話すと、億単位の資金が下りてくるっていうあたりが。

麻生:それ本当ですか?(笑)

光村:そうなんですよ。もちろん、どんな話であれば通りやすいとか、社内の風を読むみたいな努力はしますけどね。

麻生:(そうやって資金を調達できるのは)むちゃくちゃいいですよね。

光村:大企業内で新しいことを仕掛ける場合は、完全にアドバンテージですよね。これを利用しない手はないっていうのが、まぁ率直なところで。

麻生:光村さん以外の人が、偉い人とゴチョゴチョっとやっても、万人が億単位のお金を動かせるわけじゃないと思うので。

光村:まぁ、そうですね。そこは、会社の中でも明らかにとんがっちゃったことによって……。

麻生:とんがっちゃった?

光村:うん、もう北極星みたいなもんだなぁと。

麻生:北極星みたいなもん(笑)。

新規事業担当として経験した苦労と、そこで得られた発言力

光村:会社というのはありがたいもので、こんな僕でも新規事業担当として居場所を設計してくれて、数年間にわたって毎月給料を払ってくれているわけです。それで、僕は僕なりに情報を集め、考え、アイデアを提案する。それが簡単に却下されていたら、なんで僕をそんな立場に置いてるんだって話になっちゃいますから、まあ提案したことは下手な扱いはされないんじゃないかなあと。

麻生:なるほど、なるほど。

光村:そう勝手に解釈している僕は、堂々とふるまうんですけど。

麻生:なるほど。尖りすぎると逆に重宝されるみたいな?

光村:こんな立場に置きながら、やりたいことやるというときに予算をつけないんだったら、「じゃあ俺のことクビにしろよ」みたいに思っちゃっていいんじゃないですかね。それくらい開き直っていいんじゃないかと。

麻生:なるほど。

光村:もちろん、そういうところまで行くにはすごい苦労がありましたけどね。先ほどの田中先生の「死の谷」とか……。

麻生:そうそう、死の谷があるじゃないですか。

光村:僕、何回も会社を辞めようとしているし、2年くらい前には本当に辞表を出してますから。

麻生:あっ、そうですか。やっぱり死の谷があったんですね?

光村:ありますよねぇ。4段階でしたっけ? 「他責思考期」とか。あれって僕にぴったり当てはまりまして。

麻生:はぁ〜。3年ぐらいって言ってましたけど。

光村:3年ぐらい。そう。僕、新規事業と関わり始めて5〜6年とかですから。3年ぐらいかかったかもしれないですよね。

麻生:あぁ〜。

光村:本当にこう……。(「事業を創る経験によって生じる学習プロセス」のスライドが表示される)

他責思考期は「他人が全部バカに見える期」

麻生:これ、どういう感じだったんですか?

光村:これ自分で名前をつけると、1番は「他人が全部バカに見える期」ですよ。

麻生:はっはっはっ(笑)。

(会場笑)

光村:僕はどんどん外にでて、いろいろな起業家と会話して、「未来はどんどん変わっていく」という風に、まあ軽く洗脳されちゃってるわけですよ。さっき言ったように、理解したり共感したりするのも早いので。ところが、会社に帰って話をしても、みんなよくわかんないって顔をする。「いやいや、こんな自明なこと、説明しなくてもわかるでしょ?」というのが本音でしたよ。

麻生:あぁ〜、なるほど。それは偉い人とかを?

光村:偉い人、というか年齢が上の人に限らずですね。それで、これは理論的に正しいかどうかわからないんですが、僕にとっては「現実受容期」と「反省的思考期」、そして「視座変容期」は一気に来た感じがしています。ちょうど会社を辞めるという話をしている時に……。人生訓みたいな話になっちゃうんですけど、いいですか?

まぁ、上司からは「辞めるな」と説得されてたんですよ。で、その時に言われていまだに印象に残っている一言があるんです。「結局お前はそうやって、俺たちのことをバカにして辞めていくんだな」って言われたんですよ。

麻生:おぉ〜。

光村:「あ、バレてた?」みたいな感じです。

(会場笑)