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箱根本箱のゆくえ。そして、これからの場づくりで考えること。-岩佐十良×海法圭×染谷拓郎-(全7記事)

全室露天風呂つきの「本好きのパラダイス」 ブックホテル箱根本箱の仕掛け人たち

2019年1月17日、文禄堂高円寺店にて、「箱根本箱のゆくえ。そして、これからの場づくりで考えること。-岩佐十良×海法圭×染谷拓郎-」が開催されました。書店とホテルが融合した施設、『箱根本箱』。 蔵書数は1万2,000冊で、基本的にすべての本が買えることが特徴です。今回は、 箱根本箱のクリエイティブディレクター岩佐氏、 設計を担当した海法圭氏、ブックディレクションを担当したYOURS BOOK STOREの染谷氏が登壇。箱根本箱のこれまでとこれから、企画の立て方などについて語りました。本パートでは、箱根本箱プロジェクトの始まりを振り返ります。

ブックホテル「箱根本箱」の立役者が登壇

スタッフ:それでは、そろそろお時間となりましたので、イベントを開始させていただきたいと思います。拍手でよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

染谷拓郎氏(以下、染谷):まだ揃っていないということなので、ゆるく始めていきたいと思います。今日は司会進行を務めさせていただきます、日本出版販売の染谷拓郎と申します。よろしくお願いします。今日はお二人に来ていただいています。『自遊人』の岩佐十良さん。

岩佐十良氏(以下、岩佐):岩佐です。みなさんよろしくお願いします。

(会場拍手)

染谷箱根本箱の建築を担当された海法圭さんです。

海法圭(以下、海法):はい。海法と申します。よろしくお願いします。

(会場拍手)

染谷:さっき打ち合わせで、今日はみなさんがどういうモチベーションで来られているのかを聞いてみたいね、なんてお話をしていて。

岩佐:この中にいらっしゃる方で、実は本屋さんが半分くらいだったとかね。そんなことがあったりするのかな。あと本好きの方なのか、それとも街づくりなどの場所づくりに関わっていらっしゃる方なのか、もしくは出版関係の方なのかとか、そのあたりがちょっと知りたいなと。

幅広い属性の来場者が参加

染谷:もし手を挙げたくなければいいんですけど、「純粋に箱根本箱の話を聞きに来たよ」という方。

(会場挙手)

あ、けっこう多い。

岩佐:複数回答可です。

(会場笑)

染谷:じゃあ、『自遊人』さんの動きというか、ソーシャルデザイン、場づくりや街づくりにご興味がある方。

(会場挙手)

おお、やっぱり多いですよね。じゃあ、出版の方は。

岩佐:出版社の方。出版社、もしくはライターさんカメラマンさん含む出版関係の方は、どのくらいいらっしゃいますか。

(会場挙手)

染谷:けっこういらっしゃっていますね。

岩佐:書店の方、「実は私、書店経営をしているんですよ」という方は。

染谷:ああ、いないんですね。

岩佐:じゃあ、書籍ではないけれども、広い意味でなんらかのマスコミ業界にいる方は。

(会場挙手)

染谷:なんか、みんなすごく……微妙に(笑)。

(会場笑)

挙げづらそうに(笑)。そんなに挙げづらいことはないんですけど(笑)。

岩佐:なるほどね。

染谷:指名して「なにか言ってください」というのはないですから大丈夫です。

岩佐:あとは、地方創生的な商店街の活性化や、ソーシャルビジネス的なことをしていらっしゃる方、もしくは(そうしたことに)ご興味のある方はどのくらいいらっしゃいますか。

(会場挙手)

染谷:すごい。

岩佐:これはけっこう多いんですね。ちなみに、宿泊業をやっている方はいらっしゃいますか? 1人。宿泊業は都市部ですか? それとも、温泉旅館的な地方ですか? 

来場者:高架下です。

染谷:横浜の近くで、高架下の再活用みたいな感じでやられています。モバイルハウス。

岩佐:おもしろい。あと、建築関係の方は1人ですね。

染谷:設計をされている? なるほど。じゃあ、今日は海法さんのこのラインで(笑)。

海法:このライン(笑)。

(会場笑)

テーマは本そのものよりも「場づくり」

岩佐:あと、本が好きで好きでたまらないという方は。

染谷:いない?

(会場笑)

どうしよう(笑)。

岩佐:今日はいないみたいですね(笑)。でも実は、僕らは「今日、本が好きで好きでたまらない方が多かったら、ちょっと話題提供が少ないかもしれないね」という話をしていたので、むしろ良かったなという感じではあります。じゃあそんな感じの話の中で……。

染谷:今日はイベントが21時までですが、ビールとかもどんどん飲んでいただいて、おかわりもどんどんしていただいて。声掛けすれば、なにか買ったりもできるんですか? それは難しい?

スタッフ:喜んで。

染谷:喜んで、はい(笑)。

(会場笑)

岩佐:ビールがいっぱい売れたほうがうれしいんですよね。

スタッフ:そうですね。1杯500円なので、よろしくお願いいたしします。

岩佐:これはどうしましょう。途中で「ビール欲しい方」とか、ちょっと注文取りましょうか?

染谷:そうですね。

(会場笑)

今日は第1部・第2部と考えていまして、第1部が終わったら1回、ビール飲みたい人タイムを入れたいと思います。

岩佐:そうですね。

「箱根本箱」は本好きにとってはパラダイス

染谷:今日はコーナーを大きく2つに分けています。第1部は箱根本箱は2018年8月に開業しまして、足掛け3年くらいかかったプロジェクトでした。私たち3人がどっぷりかかわったプロジェクトになりますので、そのあたりの経緯などをお話しさせていただきたいなと思っています。

第2部は、岩佐さんと海法さんに、場づくりを中心にアイデアや企画も含めて、いろいろお話をうかがっていきたいなと思っています。みなさんからの質問もそこで取って、場の空気を見ながらどんなトピックスを話していこうかなと考えているところです。

さっそく第1部を始めていきたいと思います。よろしくお願いします。箱根本箱に泊まったことがある人。

(会場挙手)

岩佐:そんなにいらっしゃるんですか。ありがとうございます。

海法:ありがとうございます。

染谷:ありがとうございます。いきなりですが、(箱根本箱の)感想を聞いてもいいですか?

来場者:クリスマスの前日に行ったんですけど、ツリーが飾られていて、見たときに「わっ」と。抜け感がとっても良くて、本好きにとってはパラダイスですよ。温泉に入って美味しいものを食べて、本を読んで。非常に良かったです。

岩佐:ありがとうございます。

大手出版取次会社の保養施設をリノベーション

染谷:ありがとうございます。箱根本箱は、今おっしゃっていただいたとおりで、本がたくさんある施設になっています。こういった感じで本が1万2千冊あって、すべて購入できる感じです。

岩佐:言われてみれば、ここの空間と似ていますよね。海法くん、ここ見てパクったの?

(会場笑)

海法:(笑)。

染谷:ここ(文禄堂高円寺店のオープン)は、2016年2月。(プロジェクトの時期と)ちょうど被るって、そんなことはないですけど(笑)。もともと、日本出版販売(株式会社)という出版の取次・流通の会社の保養施設だったところをリノベーションしています。そこがどんな場所だったかを見ていきたいと思います。もともとは「あしかり」という施設でした。

岩佐:あしかりは、そもそもなんで「あしかり」なんでしたっけ。

染谷:僕もはっきりとは……なんででしたっけ? 古今和歌集的な作品に「芦刈(あしかり)」という言葉が出てきていて……ぐだぐだになっちゃうので止めますね(笑)。

(会場笑)

岩佐:なにかに(あしかりの由来になった言葉が)出てくるんだね。

染谷:はい、なにかに出てくるんです。

吹き抜けを占領していた「巨大な階段」を壊す

岩佐:(写真を指して)あしかりの一番の特徴はこれだったんですよね。先ほどの本がある吹き抜けの空間に、結婚式で花嫁と花婿が降りてくるような巨大な階段がありました。しかも、これが鉄筋コンクリートで、ご丁寧にものすごく頑丈に作ってあったんですよ。

上から見た絵もありましたね。(階段を)上から見たらこんな感じ。これを見ておわかりいただけると思うんですけど、ロビーの中心にこの巨大な階段があって、最初にこれを見たときに僕が海法くんに言ったのは「これは壊そうね」と。

(会場笑)

染谷:海法さん、これを最初に見たときどう思いましたか。

海法:壊したかったです。

(会場笑)

吹き抜けを全部占領してしまっているので。

岩佐:ねえ。気持ちのいい吹き抜けを占領していて。部屋はどんなだったかというと……。

染谷:(写真を指して)これですね。これは一応スイートルームで一番広い部屋で、これが普通の客室です。

岩佐:ザ・旅館みたいな感じですね。これ、実は意外と……ちなみに今日は、日販の偉い人はいないですよね。

染谷:偉い人はいないです。大丈夫です。

岩佐:大丈夫ですよね。

(会場笑)

20年前に作られた頑丈な「昭和のザ・旅館」

岩佐:これ(あしかり)は平成何年築でしたっけ?

染谷:96年なので、平成10年くらいですね。

岩佐:意外と新しいんですよ。意外と新しい建物なんだけれど、決してセンスのいい建物……とか言うと、これを設計した方に怒られてしまいますが。

染谷:今日は大丈夫ですよ。いないです。

岩佐:いないですよね。「なんで20年前(平成初期)のこの新しい時代に(昭和の)ザ・旅館みたいなのを作っちゃったのかな」という建物で。そしてまた、これを作ったゼネコンさんが「頑丈なものを作ろうよ」と言ったんでしょうね。

すべての壁が、がっちりした鉄筋コンクリートの強烈なぶ厚い壁で、間仕切りの変更がぜんぜんできない。さっきの階段も、やめておけばいいのに、猛烈な厚みのコンクリートだよね。もう壊すに壊せないような。ある意味、すごくしっかり作ってあるので、壊すのがものすごく大変な建物だったんですね。

染谷:あとからすごく苦労しましたよね。(写真を指して)こういうスペースは、のちのちには客室になりました。これも元は研修スペースでした。あとは、宴会スペースや食堂スペースがあったり。これ(娯楽室)がシアタールームになりました。

岩佐:これはカラオケルームですね。今はシアタールームになっていますが、このシアタールームは娯楽室という名前でした。

染谷:お風呂があって。お風呂はそんなに変わってないですね。これが2015年10月ごろ、岩佐さんに初めて箱根に来ていただいたときの写真だそうです。このころ僕はまだ現地に入っていないんですが。

岩佐:はい、そうなんですね。髪の毛がまだふさふさしてました。

(会場笑)

変わらない? そんなに変わらないか(笑)。

1年がかりで話を通し、ついにプロジェクトが始動

染谷:2016年の年明けくらいに岩佐さんから箱根本箱の企画書をいただいて、日販のほうでそれを検討していく期間が始まります。2016年末にこのプロジェクトがゴーできることになって、そこから具体的に設計などに入っていくフェーズになりましたね。

岩佐:最初に行ってからゴーが出るまでが長かったですね。僕らの社内では「もうこのプロジェクトはないだろうね」と言っていたくらいなんですよ。こういうことを日販さんがやるという話を(日販の社員である)染谷さんがしたら、やっぱり他の(社員の)人たちに気を遣いながらになるかな(笑)。

染谷:もちろん、ご存知の方もいらっしゃるかもしれないんですが、日販という会社は、もともと本の流通の会社なんですね。トラックで本を本屋さんやコンビニさんに運ぶ仕事の中で、「ホテルやるの?」という。

あしかりを保養施設として持っていたんですが、「そもそも稼働率も低いし、どうするんだ」という感じでした。「もうこれは売り払った方がいいよ」「どうにかしないと経費ばかりかかって大変だよね」という話もあったときに、ちょうど新規事業部のようなかたちで、僕が今いる部署が立ち上がったんです。

プロジェクトをスタートさせたんですが、やっぱり社内の風当たりは厳しくて「なんでやるの?」という。それが1年くらい続いて、社内や社外を奔走しながらじわじわと体制を作っていって、ようやくです。本当に1年かけて話を通しました。

その間は、もう岩佐さんにはずっと待っていただいているというか。まさに「もう無理だよね」という感じになってきていて。

壊しながら作るのが「岩佐流」

岩佐:僕らは企画をして、事業計画書を作って、収支のいろいろな計算書を作って、修正をして、いろいろなご質問をいただくたびに「ここはこうで」と説明をしていました。でも、決まらないんですよね。これは大きな会社だから当たり前で、その詳しい話は……。

染谷:Webメディアで『DOTPLACE』というサイトがあるんですが、そこで「僕らがブックホテルをつくる理由はどこにある?」という連載を持たせていただいております。そこで生々しい話をさせていただいているので、もしよかったら検索をよろしくお願いいたします。

海法さんがこの話を最初に聞いたのは、どれぐらいのタイミングだったんですか?

海法:まさに、岩佐さんがこのプロジェクトが動くのを待っている途中に初めてお話をお聞きしましたね。僕も(このプロジェクトが)なくなったんだと思っていたくらいでした。

(会場笑)

「あ、やるんだ」という。再開したところでまたお話をいただいて、動き出した感じですね。

染谷:今回の箱根本箱の事業スキームを簡単に言うと、もともとこの建物は日販の持ち物だったので、この箱根本箱用の小さい子会社を1つ作って、そこが事業会社として経営をしています。今回プロデュースと運営に『自遊人』さんに入っていただいています。

その事業を行うにあたって、最初の部分ではやっぱり日販に事業の決済を取らなければならないため、そのあたりの時間と社内を通すのに時間がかかってしまったということですね。このへんの話を続けると本当にこれだけで21時になってしまうので、次に行きます。

岩佐:「あとは『DOTPLACE』を見てね」という。

染谷:そうです。『DOTPLACE』をよろしくお願いします。無事に決裁が下りたあと、どんどん(保養施設のあしかりを)解体していこうということで、「なにが起きているんだ」という状況がここで続いて。この文禄堂のプロジェクトも僕がやらせていただいたんです。

高円寺のこのお店もインテリアデザイナーさんと一緒にやったんですけど、もう図面や予算はしっかり決まっていて、「こういうふうに進めていきましょうね」「よし壊そう」という感じだったんですよ。

今回のプロジェクトは岩佐さん流というか。もう本当にどんどん壊しながら作りながらというところが、すごく新鮮な進め方だったなと感じました。

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