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ライフシフト・ジャパン設立1周年記念フォーラム/パネルディスカッション1(全2記事)

ロールモデルはもういらない 「当たり前の前提」なき時代の人生設計のヒント

2018年12月4日、ライフシフト・ジャパン株式会社の設立1周年記念&『実践!50歳からのライフシフト術』の出版記念イベントが開催されました。「人生100年時代」に突入した日本で、一人でも多くの人が「人生100年時代」をワクワクしながら生きていける社会づくりを目指すライフシフト・ジャパン。日本発のライフシフト社会を創造するためのさまざまな提案や、有識者らによるパネルディスカッションが行われました。本パートでは、人生100年時代のキャリア選択について語りました。

みんなにとっての「当たり前の前提」が通用しない

和光貴俊氏(以下、和光):今ちょっと私が感じている1つの変化というか、最近「インクルージョン」という言葉がけっこう普遍化してきています。「ダイバーシティ&インクルージョン」じゃなくて、「インクルージョン&ダイバーシティ」というふうに、順番を変えて表現されることがすごく増えたなと思ってるんです。

その時に、インクルードされる対象が非常に広がってきているというのはその通りだと思うんですけれど、例えば、当たり前のこととして我々にインプットされていたり、あるいはそう思っているものは、本当に当たり前なのかとか、そこに含まれないということは悪いことなのかというのが、だいぶ潮目が変わってきてるんじゃないかなと思っていて。

例えば、男性と女性で結婚して子どもを作って、それを育てるという家族のあり方。これが当たり前ですよね、と。まずここに幸福の前提がありますよね、ということがどうも今まではあったように思うんですけど、「そうとは限らないんじゃないの?」というのを前提に話されることがすごく増えているような気がしています。

私が今いるヒューマンリンクという会社は、子どものいない女性もいるし、未婚の女性もたくさんいて、女性の比率が8割なんですけど、むしろお子さんがいて家庭を持っている人の数のほうが少ないようなところなんですね。

したがって、当たり前の前提というものが、もうすでにそうではない。あるいは、そうではない人たちのことも含めて考えることが、これから必要になってくるのかなぁと思っています。そういった前提のところのアンラーンというか、「いったんその枠組みを外して考えません?」という視点も、これからは必要になっていくんじゃないかなぁというのが、今非常に思ってるところです。

ちょっと遅ればせながらですけれど、ちょうど最近『万引き家族』という映画を見たばかりで。あそこに出ている登場人物たちは、家族って言ってるんだけど、誰一人血でつながってないんですよね。全員バラバラの理由で集まってきたけど、でもあれは家族だよね、というのが、たぶん映画の1つのメッセージだと思うので。

そういったインクルージョン&ダイバーシティの考え方も、ライフシフトの中では、1つの重要なファクターなんじゃないかなというふうに思います。

人生は「転換」するのではなく「緩やかに移行していく」

大野誠一氏(以下、大野):はい、ありがとうございます。(スライドを指して)今画面に、先ほど豊田がご説明した「ライフシフトアセット10」というのが出てきました。この1年間、ライフシフト・ジャパンのほうで10か条というものをブラッシュアップをして、わりと共通項になりそうな変身資産として、この10の項目をまとめてみたんですね。

やっぱり、変化に対する受容性を高めていくためには、こういう変身資産がすごく重要なんじゃないかなぁと思っているんですけれども、こういった日本のとくに若い世代などを見ていった時に、変身資産(というものは)、まだなかなかすぐには入ってこないのかなぁとは思うんですが。

既存のイメージや3ステージ型の人生のイメージなど、今お話があった、いろいろな意味での固定観念みたいなものを変えていく、揺さぶっていく意味でも、こういう変身資産がだんだん広がっていくことが大事なんじゃないかな、と僕たちは思っています。

就職活動、新卒の就職の現場は、今いろいろな提案をされている田中さんの目から見て、変身資産というものについては、今どんな状態なのでしょうか?

田中研之輔氏(以下、田中):ありがとうございます。今、ご登壇されている方のお話を聞きながら、私自身1つ確認したいなと思っていることがあって。グラットンが言っているライフシフトの「シフト」を、日本語だと「転換」と訳すじゃないですか。でも、転換っていう言葉だと、けっこうキツいんですよね。

要は、こうやってまっすぐ進んでいます。そこからあるとき、急に変わります、というような。実はそうじゃなくって、シフトというのは英語の語感からすると、緩やかに変わっていくことでもいいと思うんですよ。だから、ニュアンス的に近いのは「トランジション(緩やかな移行)」なんだろうなと私自身は思ってるんですけど。

若者にロールモデルを提示するより、さまざまな選択肢があることを伝えるべき

田中:例えば、新卒の若者を見ていて、大学から社会に出ていく時は、いくつかの選択肢の中で、急にA選択だ、B選択だ、Cだというふうに決められないんですよ。決めるというロールモデルを提示していくんじゃなくて、「まずAに行って、停留していいよ」と。それで、「Bもあるよ」と。「その先にCもあるよ」というような緩やかなシフトを伝えるようにはしています。

無形資産というのは、資産なので。これは大野さんとも授業の時にお話ししたことがあるんですけど、グラットンは資産と言っていますが、ソシオロジーだと「キャピタル(資本)」なんですね。

キャピタルということは、要は貯めていくという考えで、急にチェンジするんじゃないんです。この10のアセットというのはまさにそうだなと思っています。私自身も、先ほどのアンラーンが難しいというお話は、確かにそうだなと思っています。

この10のうちのいくつかは、緩やかなシフトに向けて準備していきながら、そんなに大きな変化は迎えなくていいけど、キャピタル・資産が貯まってくると、どこかのチャンスや出会いで、なんらかのタイミングで、本人にとっては大きなチェンジが訪れると考える。そうじゃないと踏み出せないじゃないですか。だから、そこはすごく大きいのかなと思っていて。

今の就活では、「大企業を目指そうよ」「ベンチャーで独立しようよ」と選択肢が増えてきたんですけど、その意思決定というのは、暫定的に変身資産を貯めていく段階での1つの答えでしかないよ、ということを伝えるようにしています。そうすると踏み出しやすいのです。

そうじゃなくて、選択肢を限定的に絞り込み「Aしかないよ」となってしまうのが重いだろうし、今のいわゆるデジタルネイティブ世代にはフィットしてきていない価値観なんだろうなというのを日々感じています。

大野:はい、ありがとうございます。変身資産はキャピタルと捉えて、増やしていくんだよっていう(お話でした)。僕たちもすごくそういうふうに思うんですけど。

ユニリーバ内定式で役員たちが涙した理由

大野:島田さんが人事をやっていらっしゃる中でも、こういう変身資産やキャピタルというものは、けっこう意識されていらっしゃいますか?

島田由香氏(以下、島田):ぜんぜん。

(会場笑)

もう言葉が難しくて、私にはちょっと。でも、何が必要で大切か、ということで言えば、否定したり反対しているんではなくて、やっぱり資産とかキャピタルと思っちゃうと、「それを得ないと」「身につけないと」というふうに、またそれがマストになってしまう感があって。

さっき(田中)先生がおっしゃってくださった、シフト(という翻訳で)は、グイッといくような転換と一緒だと。「絶対に違う人生にしなきゃいけないんだ」というふうになってしまうのは違うんじゃないかと。たぶん同じことを言ってると思うんですよね。

そうじゃなくて、さっき宮城さんもおっしゃってくれたように、やっぱり「自分はすでに豊かなんだ」と気づくとか、さっき田中先生もおっしゃってた(ように)、自分の人生というものに気づくとか。そういうすごく当たり前のことを考えてみたり、感じてみたりすることが、とても大切になってきているんですよ、ということのお知らせのように感じているんですね。

だから、私も、たぶんミレニアルズと言われる最近の学生に会うことがすごく多いですけれど、本当に違ってますよね。何が違うかって、実は10月1日は台風の恐れがあったので、うちは内定式の日程をちょっと変えたんですよ。それで、もう1回全員が集まれる日ということで、11月の終わりに内定式をやりました。

当日、なぜユニリーバに入って、どんなことがしたいのかということを、自己紹介とともに全員がプレゼンしてくれたのを聞いて、もう涙が出てきちゃって。あぁ、彼らの世代は、社会に対してなにか貢献したいという気持ちが本当に強いんだなと。

そこはもしかすると、さっき和光さんがおっしゃられていた、大企業で「これが幸せなんです」「こういうふうにして生きていくことがお手本なんです」ということについて。私は、それはそれで当時はよかったと思うんですよ。

でも、今は時代が変わっていて、何が自分にとって大切なのか、好きなことをしていくこと、生きている意味や価値を感じる瞬間を増やすことに、最近の若い人たちはもっと素直なのかなぁと感じています。それを素直に表現してくれるから、もうね、感動。ちょっとね、役員みんなこう、ウルッとなって。

田中:ははは(笑)。

島田:そんな変化が見えているなぁと思います。

好きなことと社会課題の解決は、仕事として両立できる時代

大野:なるほど、ありがとうございます。宮城さんの活動は、今、社会課題を解決するリーダーづくりというところがわりとメインのテーマになってるんじゃないかと思うんですけれど、「好きなことをやる、得意なことをやる」というのと、「課題に向かっていくんだ、この課題を解決するんだ」ということで、宮城さんが接している方々はどんなバランスをとっているんでしょうか?

宮城治男氏(以下、宮城):社会課題に向き合うというのは、私としては、なんだか逆に振ったという感じで、みんなが社会の課題に向き合うというよりは、社会の課題に向き合うなんて儲からないことだったわけです。そういうことを大事だと思うなら、それを生き方として選んで、正面から仕事にしてもいいんだということを伝えたかったので。

どちらかというと、大野さんの言ってくださったことで言えば、「好きなことを仕事にする」。それを生き方にしていくことのほうが、自分の中では本質なんですよ。一方で、社会が社会起業家を求めているというニーズは、それはそれであります。

なので、それ(課題)を感じた人がいれば、その人が素直にそれ(課題解決)を行動に移すためのチャンスを提供したかったということでやってきました。

それでいうと、ある意味生まれた時から……。私が社会起業家とか言い出したのが2000年くらいなわけですけど、その時に生まれた子が18歳、もう成人し始めというか、大学に行くわけですね。彼らはまさにネイティブなわけなんですけれども。

本当に、どちらかというと、我々より上の世代で社会課題解決に向き合ってこられた方は、すごく苦闘してこられた。お金もまったく回らない中で挑んでこられたんですけど、今の大学生・高校生を見ていると、なんだかそれが普通であり、好きなことを仕事にしていった結果がソーシャルだったという。その好きなことを探していくきっかけが課題解決だったという感覚なのかなと思っています。

大企業の人材は、地方・中小・NPOでも活躍できる?

大野:ありがとうございます。最後に和光さん。もう一度、この10の無形資産・変身資産の話に戻るんですけど、大企業の中で、こういうふうに定年後もずーっと100年と考えると、サラリーマン人生の枠の中だけ考えると、「こんなこと余計なことだよね」と感じる方もいらっしゃるのかなと思ったりもするんですが。

大企業の中では、こういったフォーカスに対して、今どんなふうに取り組んでいらっしゃる感じでしょうか?

和光:本当になんて言うんですかね……。自戒も込めて言うと、やっぱり今のお話とも非常に関係すると思うんですけど、本流・傍流みたいな考え方があるかなぁと思っていて。

例えば第2のキャリアみたいな話をすると、必ず出てくるのが、「大企業に優秀な人材が集まっちゃってるから、これはちゃんと世の中に還元していったほうがいいよね」と。「その先はやっぱり、地方と中小とNPOだよね」みたいな。

(会場笑)

それって本当に実態に合っているのかな、と思うんです。大企業でやっていた人間が、地方に行ったり中小に行ったりNPOに行ったら活躍できるかというと、そういうケースも中にはあると思いますけれど、それは確定したことではぜんぜんないと思うし。

大企業の経験は「どこでも通用する」という思い込み

和光:なんだかそういう論理がいまだにまかり通っていて、「優秀な人材が足りないところに供給をするんだ」「そこに(大企業での)経験値もあるから、なおいいでしょう」と。なんだかここにすごく誤解というか、思いこみがあるように思えてしょうがないですね。

ちょうどリクルートさんと一緒にやっている研修で、この週末に奄美大島に行っていろいろな方のお話を聞いてきたんですけれど、やっぱり、そこにはものすごくギャップがあって。例えば、行政や県などが良かれと思ってやっていることと、地元の人が実感を持ってこうしたほうがいいなぁと思っているところに、ものすごくギャップがあるんです。聞いてみると、やっぱりそこでけっこう苦労されてるんですよね。それは典型的な例じゃないかなと思っていて。

だから、大企業や官庁なんかが人材を独占していて、それを供給する側に回るんだというような考え方から変えていかないと、ちょっとダメじゃないかなと。最近は本当に、自戒も含めてそういうふうに思っています。

大野:はい、ありがとうございました。やっと2回りしたところでだいたい30分という感じでございまして。

(会場笑)

まったく事前打ち合わせなしの、ぶっつけ本番のパネルディスカッションだったんですけども、島田さんにもすごくタイムマネジメントしていただきまして、ありがとうございました。いったん今日のパート1はここで終了させていただきます。みなさま、ネットワーキングパーティーのほうにも参加されるので、直接のお話、ご挨拶などはまた後ほどしていただければと思います。どうもありがとうございました。

(会場拍手)

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