電子機器が発する放射線は人体に有害か?

オリビア・ゴードン:あなたが今このSciShowのエピソードをご覧になっているということは、あなたは電子機器のそばにいらっしゃるということでしょう。実は1~5パーセントの人たちは、電子機器のそばにいることで吐き気がしたり、めまいがしたり、皮膚にかゆみが出たり、不快な症状が出るというのです。

彼らは自分たちの症状が、Wi-Fiルーターなどから出る電磁放射線に体が過敏に反応してしまう「Wi-Fiシンドローム」というものであると信じています。彼らの症状は本当ですが、医師たちはその原因は全く異なるものであると考えています。

日々の生活で浴びているルーターの電磁波で、体に不調をきたすという考え方は理にかなっているように思えるかもしれません。

電子機器は放射線を出しますし、放射線は体に悪いですよね? しかし実際は、そのような電子機器から発せられる放射線は、原子炉から出るような電離放射線とは異なるものです。

30ヘルツから30ギガヘルツの周波の電子波は、原子の構成を変えることができるほど強力ではないのです。そんなに強力な放射線を体に受ければ、誰でも体に感じるでしょう。

何分かレンジで温めた食品を見ればお分かりになるでしょう。あなたのWi-Fiルーターは、あなたの細胞を温めるほどの放射線を放出していません。それだけでなく、非電離放射線が人間の健康に害を及ぼすという決定的な証拠は出ていません。

「電磁波過敏症」の患者でも、放射線は感じ分けられない

それがわかっていても、一部の人たちは、自分がEHS(electromagnetic hypersensitivity)とも呼ばれる「電磁波過敏症」を患っていると信じています。彼らは、ルーターなどの電子機器のそばにいると、かゆみや頭痛などのさまざまな症状が出ると訴えているのです。

彼らの訴えは、嘘ではありません。EHSの症状は本物です。ただ、その症状の原因となっているものが何なのかが明らかになっていないのです。頭痛や吐き気などははっきりしておらず、一つの原因であるとは言えません。たくさんの研究が行われ、そこでコントロールされた実験的環境下において、患者である被験者を非電離放射線にさらしましたが、実験は成功しませんでした。

2010年に発表された論文では、EHS患者とそうでない人を対象に、46件行われた実験のうち13件において、その症状の違いが見受けられましたが、それはみなの予想と反するものでした。

EHSの患者は多くの場合において、実際に放射線に当たっているかどうかを感じ分けることができませんでした。それに彼らは偽の放射線照射を浴びた場合にも、本物の放射線照射を浴びた場合にも、両方に対して体調に不調をきたしました。

そして、自分はEHSを持ってないと思っている被験者も、実際はそうでないにもかかわらず、放射線の出どころがそばにあると伝えると、不調を訴えました。

「プラシーボ効果」の反対は「ノセボ効果」

このような研究結果をもとに、この症状は「ノセボ効果」によって説明がつくと思われます。「ノセボ効果」とは「プラシーボ効果」の反対のものを言います。つまり、ある人が「電子機器は自分の具合を悪くしているのだ」と信じ込むと、実際に具合が悪くなるということです。

それに、EHSの症状には、他にも精神的な原因があると思われます。EHS患者にはよく、不安症、うつ病、高いストレスレベルが見られます。そして、強迫行為や妄想症のレベルを計るテストにおいても、彼らは高い数値を出す傾向にあります。

それゆえ、スウェーデンで行われた研究では、社会サポートやストレスの精神的対処法により、EHSの患者の症状が良くなったことが報告されています。また、彼らの症状は実際、電子機器の放射線ではなく、テクノロジーに囲まれすぎた環境によるのかもしれません。

明るくチカチカするスクリーンや、蛍光灯などは頭痛を引き起こす原因になりますし、座り心地の悪い椅子も筋肉を硬直させる原因になり得ます。

ですから、オフィスに長時間いて具合が悪くなっても、電子機器の放射線のせいではないということはできるでしょう。それでも、しばらく明るいスクリーンや、空気の悪いオフィスから離れる必要はあるかもしれません。