職人の世界の仕事を選んだ女性

ナレーション:残暑が残る埼玉・川口。

三好佑果氏(以下、三好):おはようございます。

スタッフ:おはようございます。今日はよろしくお願いします。

ナレーション:さわやかな印象のこちらの女性は、三好佑果さん。24歳。今年社会人となった彼女の職業、それは日本独自の美しい庭園を手がける庭師。

豊富な植物の知識と熟練の技術により庭全体を1つの芸術作品として作り上げる、まさに職人の仕事。彼女が庭師の仕事を始めたのは半年前。そこに待ち受けていたものとは?

安藤潔氏(以下、安藤):もっとよ、手はこうだよ。こうじゃないよ。遅い。もっと早く丁寧に。さっさとやんだよ!

ナレーション:仕事に対し妥協を許さない職人の世界。さらに現場には自然相手ならではの脅威も。

三好:この間初めて(虫に)刺されました。あることです。あるある。屋外の庭作業なので、熱さとか虫とか蜂など、外的なつらさはあります。高所の作業とか怪我の危険性もあるので気をつけてやらなければいけない。

ナレーション:現場には常に危険がつきまとい、熟練の技術が求められる。なぜ彼女は厳しい職人の世界の世界に飛び込んだのか?

三好:お寺のお庭とかにとても興味があったので、庭師になりたいという気持ちにもつながったんだと思います。

ナレーション:庭師として働く過程には、彼女の中である強い決意があった。

三好:大学に入って1年で放棄して中退してしまって。今まで自分が全部中途半端で投げ出してきたので、ここで踏み出さないとまた変わらないので。

ナレーション:自身の過去と向き合いながら働く。彼女の仕事に対する思いとは!?

この番組は「働くって“だから”おもしろい!」をテーマに、全世代に向け、転職や学生たちの就活など、働き方のおもしろさとその魅力を伝える番組です。

女性が少ない庭師という仕事

友近氏(以下、友近):こんばんは。友近です。

原田修佑氏(以下、原田):テレビ東京アナウンサー、原田です。

そして、これまで企業や求職者のサポートを続けながら、就活や転職などをテーマに国内外で年間200回以上の講演を行ってきた仕事のエキスパート、佐藤裕さんです。よろしくお願いします。

佐藤裕氏(以下、佐藤):よろしくお願いします。

原田:さて、今回は女性の庭師ということですけれども、いかがですか?

友近:そうですね、庭師になりたいという人は周りにはいないんですけど、でもやっぱりかなり危険なお仕事ですよね。あんなに高い。

佐藤:あんなところもやるんですね。

友近:そう。誰も下を支えてないでしょ。かっこいいですよね。「庭師してます」っていうのね。

原田:裕さん、庭師はいかがですか?

佐藤:そもそも職人になろうとする女性が少ないから華やかに見えるという時代なので、まだまだこれからという中で、かつ、庭師というところ。都市化とか洋風庭園なんて言われているなかで「どうしてそこに?」というのも興味ありますよね。

友近:ねえ。

厳しい職人の世界

ナレーション:彼女が勤めるのは造園会社安行庭苑。主に個人宅の庭園づくり、さらに家の外回り空間まで、トータル的な設計・施工を手がけている会社。

三好:おはようございます。

安藤:はい。おはようございます。

ナレーション:こちらの男性は社長の安藤さん。現役の庭師で、三好さんにとっての師匠にあたる。社員の中でも三好さんは一番の若手。

スタッフ:今日の仕事ってなにが入ってるんですか?

三好:今日は剪定工事です。

ナレーション:剪定工事とは、植木の形をきれいに整える作業。この日は社長と植木職人、三好さんの3人体制。打ち合わせでしっかりと作業内容を共有します。

三好:社長がいつもこうやって行く前の道具リストを書いてくれて。

ナレーション:道具の用意、車の積み込みは、新人の三好さんが率先して行います。

スタッフ:ああ、そうやって縛り付けるわけですね。

三好:やっと慣れてきました。

ナレーション:20分後、積み込みが完了。ところが……。

安藤:おーい。よう。ゆるいよコレ! ゆるいゆるい。ほら。もう1回縛り直しだよ。

三好:はい。

ナレーション:準備作業から厳しい指導が。新人とはいえ、職人の世界は甘くはない。再度ひもをきつく結び直し、ようやく現場に出発。

――目指すキッカケ

三好:もともと神社巡り、お寺のお庭とかにとても興味があったので、そこが今の庭師になりたいという気持ちにもつながったんだと思います。

ナレーション:移動することおよそ30分。この日の現場は以前から取引のあるお客様のお庭。このあと、さらに厳しい職人の世界が。

枯れ葉1つ取るのも難しい

ナレーション:庭師歴6ヶ月の三好さん。道具の積み下ろしを終えると、社長から作業の指示が飛ぶ。

安藤:ずーっとこの草むしって。

三好:はい。

ナレーション:新人の三好さんの最初の仕事は庭の草刈り。

スタッフ:仕事始めるまでは、こういった草むしりとかって?

三好:実家も生えるんですけど、自分でやったことなかったです。わりと大変な作業だなって。けっこう地道な。

ナレーション:この日の気温は31度。

スタッフ:夏でもこの制服なんですか?

三好:夏でもこれなんです。虫とかに刺されたり、枝葉とかで肌を傷つけたり怪我をしたりするので、夏でも長袖です。

スタッフ:なるほど。汗だくになりますよね。

三好:なります。

ナレーション:草刈りを始めて30分後、続いて指示された作業は、松の枯れた枝葉の剪定作業。

安藤:ここの間に手を入れていく。それで葉っぱをこういうふうに取っていく。ね。

三好:はい。

安藤:そうすると、幹に沿うようなかたちで自然と葉っぱが取れる。無駄が少ない。また木も傷めない。その過程でこういうふうに枯れ枝が出てきたら鋏で切る。

ナレーション:三好さんにとって初めて経験する作業。しかし、次々と厳しい指導が飛び交う。

安藤:違う、こっち。逆だよ。こうだよ。小指入れろよ。もっとよ、手、こうだよ。こうじゃないよ。こう。そうそう。もっと早く丁寧に。さっさとやんだよ。

三好:枯れ葉1つ取るのも難しくて。自分のやっていることが合っているかわからない。技術や経験が本当に必要だと思います。

蜂に刺されるのも“あるある”

ナレーション:作業開始から1時間30分。枯れ葉の目立った作業前と比べ、作業後は、一目瞭然、生き生きとした表情に生まれ変わった。

12時を回り、お昼の休憩。日差しを避け、軒先を借りて昼食をとります。

スタッフ:なにしてるんですか?

三好:日焼け止め塗ってます。最強のやつです。

安藤:大事(笑)。

ナレーション:厳しい職人の世界で働く彼女ですが、休憩中に見せる素顔は普通の女性そのもの。しかし、いざ仕事に取りかかれば、一気に真剣な表情に。

休憩後の作業は、裏手の庭で剪定されていた落ち枝の収集。一度に集める枝の重さはおよそ15キロ。

三好:どんどん男らしくなってきます。

――仕事で大変なことは?

三好:屋外の庭作業なので、暑さや虫、蜂など外的なつらさはあります。

ナレーション:実は三好さん、以前作業中に蜂に襲われた経験があると言います。

三好:この間初めて刺されました。あることですね。あるある。

ナレーション:そしてこの日も、職人さんが蜂に襲われた。

職人:変な太さになってきてます。これでちょっと冷やしといて。

安藤:うん。冷やしてね。

安藤:おお、すげえ。

ナレーション:作業の妨げとなるため蜂の巣を駆除。

ナレーション:害虫駆除も庭師の仕事の1つ。

スタッフ:どうですか?

安藤:今年は多いです。

ナレーション:自然の脅威に晒され、体力的にもハードな庭師の仕事。なぜそんな厳しい職人の世界に飛び込んだのか? そこには過去の自分と向き合うある強い決意があった。

三好:簡単に考えてしまっていたところもあって。自分の将来とか進学とか。

ナレーション:進路が決まらないまま高校を卒業した三好さんは、自分探しのため1年間、語学留学へ。

三好:もう少しいようかなと思って悩んでいたんですけど、たぶんいてもずっと一緒なので、進歩もないので、1回戻ってきてもうちょっとじっくり考え直したほうがいいのかなと思って。

ナレーション:その後、依然、将来の目標が定まらぬまま、漠然とした思いで大学に進学。しかし……。

三好:そこでもやっぱり中途半端で1年で投げ出してしまったんです。

ナレーション:そんななか、趣味で庭を見ることが好きだった三好さんはガーデニングの専門学校に入学。そして飛び込んだ庭師の世界。

三好:今まで自分がもう全部中途半端で投げ出してきたので、ここで踏み出さないとまた変わらないので、もう思い切ってやってみようって。

ナレーション:中途半端だった過去の自分と決別する。そんな強い意志が彼女を庭師として働く決意へと導き、一人前を目指す努力の源となっている。

「日々を支配するほどの目標」

友近:見れば見るほどお仕事がハードですね。でも、自分探しって言う方もいますけど、本当に自分と向き合ってお仕事してるなというのが出てましたね。

佐藤:自分の言葉になっているのがいいですね。ダメだった自分をちゃんと言葉にしていて、すごく気持ちのいい状態になっていますよね。

原田:みなさんにとって、一人前ってなんですか?

友近:私たちの世界であれば、芸人というものでいけば、芸で人を食べさせていける人。芸でお客さんからお金を取れる人という感じはしますけどね。

佐藤:なるほど。

原田:裕さんにとって一人前はなんですか?

佐藤:まず自分の名前でどこまで人が集まって、そしてその人たちがなにか変化するか? この数で決まるんだと思うんですね。

原田:じゃあ裕さん、今日のキーワードを教えてください。

佐藤:はい。今日は「日々を支配するほどの目標」ということです。中途半端であったり曖昧な目標だと、どうしてもつらいことがあると逃げ出してしまったり、「まあいいや」となってしまうんですが、今、三好さんのように、強い意志があるとどんなにつらいことでもそこを乗り越えられるんですね。

なので、もうそれが頭の中にずっと回っているような思いがあると、1日がそれで支配されて、すべての行動がそれで変わるというような話ですね。

友近:なるほど。

胸に秘めた仕事への熱い思い

ナレーション:自身の過去と向き合い、庭師として働く三好さん。続いての現場作業は生け垣の剪定。

安藤:いつもやってる感じでやってみな。

ナレーション:生け垣の刈り込みは何度も経験している三好さん。多少の自信はある。しかし……。

安藤:そうじゃない。(ハサミの刃の)全部を使うんじゃなくて、半分ぐらい使う意識でもっと細かく。

ナレーション:剪定作業1つを覚えるのにも長い修業と鍛錬が必要。だからこそ、必死に学び、努力する。そんなひたむきな彼女の胸中にある仕事への熱い思いとは!?

お客さんからもらえる感謝の言葉はやりがいの1つ

庭師歴6ヶ月の三好さん、この日最後の仕事は、高さ8メートルの紅葉の剪定。

不安定な足場。少し気を抜けば大事故につながる。

スタッフ:怖くないですか?

三好:いや、大丈夫です。

ナレーション:どんなに厳しい作業でも決して弱音は吐かない。そこには秘められた仕事に対する熱い思いがあった。

三好:やっと自分が夢中なれるものだったり、没頭できるものが見つかったと思うので。高校卒業してから全部中途半端で投げ出してしまって、後悔も多いし、その分投げ出せないし、もう逃げられないという思いがあるから続けられるんだと思います。

ナレーション:日没前に無事すべての作業が終了。最後に依頼主の方に作業報告。

依頼主:きれいですよね。なかなかここまできれいにできないよ。

三好:ありがとうございます。

ナレーション:三好さんが剪定した生け垣の仕上がりに感謝の言葉がかけられました。

――仕事のやりがい

三好:正直なにがやりがいというのはよくわからなくて。でも、自分で剪定とか掃除してきれいになった庭とか木を見るとうれしいし、それに対してお客さんからもらえる感謝の言葉はやりがいの1つなんだと思います。

ナレーション:始めたばかりの庭師の仕事。まだ明確なやりがいは見つかってはいない。一人前になればやりがいはもっと広がっていく。だからこそがんばれる。

素直で勉強熱心な子がどんな庭を作るのか

友近:やっぱり依頼主の方に褒めてもらうとうれしいですよね。

原田:そうですね。

友近:ねえ。

原田:さて、本日は三好さんが勤める安行庭苑の社長、安藤さんにお越しいただきました。よろしくお願いいたします。

安藤:よろしくお願いいたします。

友近:よろしくお願いします。あ、作業着じゃない安藤さん、オシャレですね(笑)。

安藤:いえいえ、とんでもございません。

友近:ちょっとブティック系の人……。

(一同笑)

友近:そういう服飾系のお仕事をしていてもおかしくないような感じでございますけれども。

今回、女性である三好さんを採用した最大の決め手というのは?

安藤:まず一番が、素直であることですね。やっぱり私であったり先輩の指示や話を素直に聞けるということですね。あと、目の前の仕事をしっかりと成立させようとする姿勢がすごく感じられたということですね。

友近:今、女性の庭師の方は増えつつあるんですか?

安藤:基本的には、庭師という中ではそれほど増えてはいないんですけれども、10年前ぐらいのガーデニングブームとかもありまして、またやはり2020年のオリンピックもあって、日本というものがもう一度見直されている。

そのなかでやはり日本庭園だったり神社仏閣とかの外回り空間というものも、とくに若い子のほうが興味を示しているというところが多いんですね。

友近:今、女性のなかでミニチュアの盆栽みたいなのが、流行ってますもんね。

安藤:ああ、はいはい。ありますね。

友近:あれは言うても自分のものやから失敗してもいいけど、やっぱり本格的に人の庭となると、すごい責任感もね。

安藤:そうなんです。お客様のお宅の中に入るという、その責任感ですね。それが非常に大事になってきます。基本的にまじめで一生懸命やって、ズルをしないという人間でなければ、まず任されない。また私も、そういうちょっとズル賢いような人間とはあまり仕事はしたくないというところはありますね。

友近:これから女性の庭師の方に期待することというのはどういうところですかね?

安藤:そうですね、女性の庭師には基本的には「らしさ」を出していただきたいと。庭というのは人となり、という言い方があるんですね。その人の持っているものだけが作れるというところがあるんです。

今、実際問題として、洋風庭園では女性が設計して施工するというものが意外とあるんですけど、和風庭園においてはやはり男性ばかりなので、三好のように、若くて、一生懸命やって素直で勉強熱心だというのが、どんな庭を作るのかなって私自身もすごく興味があります。

友近:そうですよね。

安藤:はい。

中途半端な自分と決別するために

友近:では裕さん、今日の仕事のジョブポイントお願いします。

佐藤:今日は勉強になりました。本当にがんばっているんだけど、まだやりがいが見つかっていないという表現はすごくおもしろくて。

なので、意外と、まだなにか見つかっていないけれども、やっぱり自分の目標。今回でいうと強い意志ですね。そこに従ってまずがんばってみるということで本当にやりがいが見つかったりするということもあるんだなと感じました。

友近:では、庭師にとっての一人前というのは?

安藤:いや、実はまだまだ私ももっと勉強しなきゃいけないなというところはありまして。基本的にはお客様の要望をまず100パーセントこなせる。それが普通にこなせるという状態がまず第1段階だと思うんですね。

それプラス、やはり作業だけではなくて、営業であったり設計であったり管理であったり、すべてをトータルで普通にこなせるというのが第2段階なのかなと思います。

要望とかもどんどん変わってきますし、そのニーズに合わせた対応ができてはじめて一人前なのかなというところがありますので、一生勉強というのが、やはりそこじゃないでしょうかね。

友近:すばらしい。

ナレーション:中途半端で逃げ出していた過去の自分。そんな弱さと決別するため、勇気を出して飛び込んだ庭師の仕事。そこで待ち受けていたのは厳しい職人の世界。しかし、同時に発見できたこともある。それは全力で仕事に取り組み夢中になって働く前向きな自分の姿。

――将来の夢は?

三好:今は目の前のことにいっぱいで、仕事を覚えることで精一杯なので、一つひとつこなしていきたいと思っています。最終的には数年後、十数年後に一人前に認められるようになりたいです。

ナレーション:諦めない心が夢へと近づける。庭師として働き始めて6ヶ月。一人前になるまでの道のりは果てしなく遠い。しかし、この先どんな困難が待ち受けようと、決して投げ出すことはない。

その熱い思いとともに、彼女は今日も汗を流し土にまみれながら、一流の庭師の道へと突き進んでいる。そんな彼女の仕事に対する思いとは?

BSジャパン「ジョブレボ!」にて9月22日(金)放送