物語のコツがちょっと掴めてきた

設楽:逆に(サイバーエージェントを)辞めてみてどうなんですか? 今。もう1回やっぱり企業で働こうかなとかないんですか?

矢島:あ、それはないです。もう漫画描くの楽しいので。幸せなので。

設楽:けっこう決断でした? 迷いました? 辞めるか辞めないかみたいなの。

矢島:いや、あんまり。

設楽:もう漫画描こうって?

矢島:はい。1回休職させてもらっちゃって。もう漫画描かないと思って休止したんですけど、でもやっぱ漫画描いちゃうから。

これ以上やったらサイバーさんに迷惑かけちゃうなぁって悩んでいた時に、辞めるきっかけがあって、スって辞めました。「あ、辞めるタイミング」って思って辞めました。

りょかち:察したんですね。

矢島:察しました。

りょかち:今矢島さんが描いていらっしゃる作品とか、オープンにしていいかわからないんですけど、『彼女のいる彼氏』みたいに体験をもとに描かれているのですか?。  

矢島:はい。次は高校時代の経験を描こうと思っていて。

矢島:やっぱ自分が経験してきたことしかまだ描けないんだろうなって思っていて、『彼女のいる彼氏』はけっこうそのまま描いちゃったんですけど……。

設楽:おー、マジすか。

矢島:読んでみたらわかります。で、物語のコツがちょっと掴めたというか、ここのこういうところを掴めればフィクションの部分を増やせるようになってきていて。

でないとたぶんプロになれないと思うんですよね。一流には。

だからそのコツが掴めてきたのが反映されたのが次の作品だなと思っていて。わりとフィクション入っていて、『彼女のいる彼氏』よりはフィクション多めで描けるようになったっていう感じです。

……なんの話でしたっけ?

彼女のいる彼氏 1巻 (バンチコミックス)

設楽:体験を漫画の題材にしているかっていう話です。それで『彼女のいる彼氏』を読んで思ったのが、この作品いわゆる日本で言う西海岸の渋谷のことが描いてあるんで。

今度は逆に矢島さんに東海岸側の丸の内あたりの会社に8年くらい入ってもらって、ドメスティックな丸の内の、いわゆる東海岸系企業のこういう話を読みたいなと思いました。ぜんぜんテイストがたぶん違うと思うんですけど。

次の舞台は丸の内?

矢島:でも次の主人公、丸の内OLなんですよ。言っちゃった!

りょかち:おー、楽しみ!

矢島:なんで丸の内に資料写真撮りに行ってます。でもまぁ本題は会社のことじゃなくって、運動を描くんですけど。丸の内で働く日々と運動をする自分と対比しての話です。

でもそれ自分はやってないけど、物語は描けることをちょっと掴んだので描けるようになったなぁっていう実感はあります。

設楽:それはまだいつごろからどことは言えないやつなんですか?

矢島:まだ言えない。でも今週なんかちょっと呼び出されていて、編集部に。「なになになに!」みたいな(笑)。そのうちTwitterで言います。

設楽:わかりました。

りょかち:他のインタビューで、あんまり『彼女のいる彼氏』はストーリーを決めてなくてSNSの反応を見ながら決めてったっていう話を聞いていて。具体的にどんな感じで作ってったんだろうって思っていて。

矢島:もうね、あれなんですよ。「再来週の話まだ決まってない」みたいな。

りょかち:やばい!

設楽:(笑)。

矢島:再来週の話をここ3日くらいでネームをガーって投げて、戻しがきて、投げて戻しがきて、フィックスで。

みたいなので3日くらいでネーム3個ぐらい描いて、「じゃあ作画入ります」って言って5日ぐらいでバーって描くみたいな感じで。

なんかもうギリギリのヤバい感じでした。だから担当さんにもいっぱい迷惑かけたし。

例えば、例で言うと主人公の咲ちゃんっていう子がけっこうフワフワしてて無意識ですぐ寝る子みたいな子なんですよ。

(一同笑)

りょかち:おそろしい。

矢島:なんかフワーとかしてたらイケメンがやってきて「好きだよ」とか言ってくれて「えーっ!」とか言ってる間に持ち帰られちゃうみたいなエピソードがあって(笑)。けっこういるじゃないですか、そういう子。

それで、SNS見てたら「マジ咲ちゃんビ◯チ」みたいになってて主人公が嫌われていると思って、担当さんと「どうします!?」って好感度を上げなければいけないって。

「咲ちゃんの好感度どうしたら上がりますか?」みたいなことを担当さんに泣きついたら、「やっぱそこは正直な気持ちをモノローグで入れるしかないっすよ」ってなって、「あーあ、また寝ちゃった」みたいなのを入れたら、けっこう共感がきて(笑)。

(一同笑)

矢島:「よかったー!」みたいのがあります。

設楽:へぇー。

りょかち:現代的ですよね、そうやって作っていくって本当に。

設楽:だって逆もあるでしょ? 「こういうふうに予想されてるから、逆に当てにいこう」みたいな。それはあまりしなかったですか?

矢島:11話くらいで佐倉君っていうイケメンと咲ちゃんが寝ちゃう会があるんですけど。

設楽:寝てばっかりだな(笑)。

SNSの反応を見てストーリー決め

りょかち:そういう漫画じゃないんですけどね。

矢島:寝てばっかなんですけど(笑)。佐倉君の人気が爆上がりしちゃって。

りょかち:へぇー、たしかにかっこいいあのシーン。

設楽:僕がさっきすごい良いって言ってたシーンですよね?

矢島:そうですそうです。本当は佐倉君じゃない男の子と良い感じにしようとしてたのに、本当に読者全員が佐倉ファンみたいになっちゃって、そこから「じゃあもう佐倉サイドを描こう」みたいになって。デートを描いたりして。

りょかち:えー! そうなんですか!

矢島:まぁでも「彼女のいる彼氏」って徳永君っていうもう1人の男の子のことだったので、そっちを描かないわけにはいかないだろうってことになって、「じゃあ1回佐倉と別れさせるか」みたいな操作して、とかありました。

けっこう佐倉に寄せちゃったのはSNSの反応を見てですね。

りょかち:いやもう佐倉ファン湧いてましたもんね。SNS上に。

矢島:湧いてた。徳永を描けば描くほど、「徳永はいいから佐倉出せ」みたいな(笑)。

(一同笑)

りょかち:厳しい。

矢島:マジか、っていう。

設楽:徳永くんがどちらかと言えば軽くてオラオラ系のわかりやすいプロデューサーみたいな人。

矢島:代理店にいそうな。

設楽:で、佐倉君がどっちかと言えばイケメン眼鏡でクリエイター、文化系みたいな。

矢島:そう、サブカル男。

設楽:でも両方とも彼女いるんですよね? いずれにしても。

矢島:ふふふ。

りょかち:最初はいましたね。

矢島:でもいるじゃないですか、かっこいい人ってみんな。

設楽:わかんないですけどそうかもしれないですね。

矢島:わからないですよね(笑)。

りょかち:だいたい順番待ちですもんね。

設楽:順番待ち……?(笑)。

(一同笑)

りょかち:だいたい順番待ちですよねっ?

サイバーエージェント時代は「青春」

矢島:順番待ちですよ。りょかちちゃんはゆくゆく……会社辞めたりするんですか?

(一同笑)

りょかち:すごい。これあれですよね? このイベントの記事メディアに出るんですもんね。

設楽:メディアに出ますよ。全文基本的に出ちゃいますよ。

りょかち:お、厳しい(笑)。いやでも、なにも考えてないです。

矢島:でもそうですよね。

りょかち:うーん、なんか今までで言うとそんなに漫画ほど文章って書くの時間かからないんで、片手間じゃないですけどできるし、そのやったことが仕事に活きるし。

なんか両方やっているのはバランス良い感じなんですよね。

でもなんか本出して忙しい時期で、今。これがもし続いて本がとてもとてもとても売れたら、もしかしたらっていう瞬間は2、3回あったかもです。2時半とかに起きていろいろしてる時はとくに。

でも辞めたいとかは一切ないですね。

矢島:良い会社なんですね。

りょかち:そうですね。元々矢島さんみたいに意思があったわけじゃないからだと思います。漫画家になりたいとかイラストレーターになりたいみたいのはあんまりなくて。

矢島:でも辞めたいと思いながらもう1個の方やるの不健全ですよねぇ。

設楽:そう。本当にそう思います。

りょかち:サイバーのお仕事、絶対楽しいですもんね。

矢島:楽しかった。青春。

設楽:青春! でもこれ読むと青春ですよね、思い切り。

矢島:青春です。でも社内恋愛はしたことないですけど。

りょかち:えぇ!

設楽:そうなんですか?

矢島:友達の話を聞いて描いてました。

設楽:そういうことにしましょう。

(一同笑)

矢島:「(モノマネしながら)時間ずらして出社するよっ」とか言って、「おぉマジか、良いなそれ」と思って。

りょかち:時間ずらして出社してぇー!

(一同笑)

はあちゅうが切り拓いた新たな生き方

設楽:でもやっぱりそういう子の方が強いですよね、仕事もできるような気が。全体的にそうとは言えないですけど、さっきもすごいおっしゃってた、「辞めたくて副業やる」ってのはナンセンスだと非常に共感してて。

たぶんどっかで繋がって生きるところがあるし、両方のパフォーマンスが上がるような。時間の使い方もぜんぜん効率上がりますよね。

りょかち:どっちも好きじゃないとやってられないかもしれないです、もしかしたら。本業も好きだから6時に起きれるし、だと思うんですよね。

仕事をちゃんとやりたいから6時に起きて。

設楽:そうだし、そういうふうにも言われたくないし、みたいな。

りょかち:なんで、どっちかが楽しくないとメンタルやられそうと思いました。

矢島:でも、はあちゅうさんの生き方が1つ職業っぽくなってるなと思って、本読んでてすごいなぁと思いました。

りょかちちゃんはこういうふうに生きていくのかな? とか。

りょかち:うふふ。ありがとうございます。

矢島:道が増えてて「はあちゅうさんすげー」と思いました。

設楽:『インカメ越しのネット世界』の中にある、はあちゅうさんとの対談で載せられなかった話がその場ではたくさんありましたね。

たぶん10年前、新卒で入ってきた女の子が「副業してます」っていうのは、はあちゅうさんがその時入った会社がどうこうじゃなくて、世の中的にもぜんぜん違ったし。

「その子がSNSで顔出してるはしたない!」みたいな雰囲気っていうのが今よりもあったし、おじさんたちも無意味に怒られたりして、ほんと今と状況違って大変だったと思うんですよね。

りょかち:みんながこんなライトに副業できるようになったのは、はあちゅうさんあってこそかもしれませんね。

設楽:切り拓いたっていう感じは。

りょかち:それをまた発信できるっていうのは、やっぱり「パイオニアの人やべー」って思いましたね。

矢島:やべー。

インカメ越しのネット世界 (幻冬舎plus+)