2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
田中達也さま講演(全1記事)
提供:株式会社ベネッセホールディングス
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田中達也氏:それでは、DX推進の具体事例を1点、紹介いたします。よろしくお願いいたします。
私の経歴は新卒でメーカーに入り、IoTや工場向けのIT、インフラを担当したのちに、ボストンコンサルティンググループを経由して、2020年5月にベネッセにジョインしております。
先ほど紹介があった介護の事例や、このあとご紹介させていただく学校の業務の効率化、ディスラプターの分析を2020年度に担当し、2021年度よりテーマ・組織が拡大する中、現在はデジタルシフトを推進していく課の課長をやらせていただいています。
まずベネッセでDX推進を現場と進めるにあたって、大切にしていることをご紹介します。ベネッセの社名はラテン語で「よく生きる」を表現した「bene=よく」「esse=生きる」を組み合わせた造語で、企業理念も「よく生きる」となっております。
お客さまの「よく生きる」をしっかりと支援していくために、我々が提供するサービスの価値に非常にこだわっています。社内が効率化されるだけではなくて、顧客に対してどういう影響があるかといった、「顧客中心のDX」を非常に重要視して進めています。
弊社は学校向けに、先生や生徒が利用する商品・サービスを多数提供しております。学力や進路等に関する課題をヒアリングし、適切な商品の提案やより深い活用の促進を行うことで継続採択を行うBtoBの営業部門を有しています。営業部門では、1人当たりの担当している学校数や扱う商材が非常に多いため、業務負荷が非常に高いところがありました。
顧客は全国に広く満遍なくあります。それらをすべてカバーするために、エリアや類似の課題を有する学校ごとに営業担当者を設定し、活動を行っています。
商材や担当する学校数も多い中で、具体的な提案をする時間に加えて自己の振り返りをするにも、なかなか振り返りに割く時間がない。あるいはその部分に多少時間がかかってしまって、本来やるべき顧客に向き合うところに十分な時間が確保できないといった課題があります。
そういった中で、本来やるべきことに注力しながら、1人でも個人のスキルを高めて生き生きと働けるようにしていく。ひいてはスキルを高めた結果、先生やその先にいる生徒さんに対して、しっかりとした価値を提供することにつなげられないか、といったところで始まったプロジェクトになります。
大きく分けると、「営業日報の記載負荷軽減」と「日報を活かしたスキル育成」の2点に取り組みました。本来やるべきことに注力するため、営業活動の振り返りを可能な限り短時間でかつ漏れなく記載するために、負荷軽減では日報を代理入力するコールセンターを設置しました。
デジタルとは少し離れますが、純粋にBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)を進めることも行っています。
「スキル育成」では、そもそも自身の備忘録的な活用以外での出口が薄く、記載のモチベーションが上がらない面があったため、営業日報のテキストデータを使ってスキルを高めていく取り組みを行いました。
大きくこの2つの取り組みを進めてきましたが、本日は後者の営業日報を使って育成につなげていく部分についてご紹介します。
ベネッセの学校営業は、顧客の課題を詳細に把握し、適切・適時に支援するため、全国に支社を置き、学校ごとに営業担当を配置し、進路主任の先生や学年主任の先生方に対して提案を行っています。
実際に起きている課題を丁寧にヒアリングしながら、150以上の商材を踏まえて、どういうものが課題にフィットするのかを一緒に考えながら、コンサルティング的に営業を行っています。
(顧客と)話した内容は、Salesforceに営業日報として蓄積されています。1日あたり3校程度回れるようなかたちになっていますが、非常に多くの商材があり、多くの先生と会話をしていく中で、簡潔に書こうと思ってもなかなか難しい部分があります。1個あたりに25分と、非常に負荷が高いといった状況です。
また活用の出口感としても、自分の備忘録的な意味合い以外ではなかなか利用シーンがないため、あまり記載のモチベーションが高まらない。その結果、記載率が4割程度にとどまり、とても良い活動をしていても組織知化していかないといった課題がありました。
なので、育成というところに価値を見出すことで入力することに意義を感じられるように、スキルの測定につなげたという取り組みになります。
営業日報は、フリーフォーマットで、どなたと、どの商品について、何を提案し、どのような反応を頂いたかを記載しており、複数の商品を組み合わせて提案を行うため、おのずと分量も多くなる傾向にあります。フォーマット自体を効率的に、選択式などで記載できるようにする方向性もありますが、せっかく丁寧に記載できている強みを活かした出口の設計、特に育成の観点に活用できないか、を検討いたしました。
プロジェクトの体制としては、我々コンサルティング部門と営業企画の部門が集まり、営業現場の知見を最大限に活かしつつ、育成観点でのスキルの定義や日報データを基にした分析、レポートの構築を行いました。
本部主導の押しつけではなく、現場で活用できる仕組みにすることに重きを置き、営業支社の方々からも適宜コメントをいただき、幹部と現場との双方と丁寧にコミュニケーションをしながら進めていきました。
スケジュールとしては、育成にフォーカスしたテーマ立案を4月のうちに行い、本当に実現できるのか、3ヶ月で分析施行を行い、一部でのトライアルと修正を行い、1年間で形を作り、翌年度より全支社へ展開するスケジュール感で進めてまいりました。
この中で特に重点的に力を入れたところは分析施行です。まずはちゃんと効果が出るようなものなのか、をしっかりと見定める意味で、最初にかなり力を入れました。
先ほどのような分量の日報をプロジェクトメンバーで分担しながら、3,000件ほど1件1件読み込みました。営業成績の良い方とそれ以外の方で、書いている文言に違いがあるのか、話の流れの持っていき方に何か違いがあるのかといったところを見定めながら、必要なスキルを定義していきました。
その部分を有識者の方からもコメントをいただきながら、どういうレポートなら活用してもらえるのかというプロトタイプを作って、トライアルをしました。そこで現場の意見を参考にしながら修正していくといった流れで構築を進めました。この取り組みを行う上で大事にした観点は3点あります。
1つ目がブラックボックス化した仕組みにしないこと。育成に使っていくものなので、なぜこのスキルレベルなのか説明できない状態にならないよう、古い技術でも、しっかりと育成につながることを重要視するために、ルールベースでスキルの測定をするツールにしていきました。
2つ目が、ベネッセらしいスキルの測定になること。ベネッセ固有の内容について記載していただいているので、一般常識的なスキルや分類のみではなくて、ベネッセの中でしっかりと使える内容にするため、スキルの定義の仕方から工夫しました。
最後に、小さく回していくこと。初めから大きな絵図を描いて、それに向けて「3ヶ年計画です」というふうに進めると、どこかで歪みが起きた時に修正しきれない。そこで、実際にデータサイエンティストがPythonを使いながら分析して、レポートもExcelのような簡易な仕組みで展開するようにしました。
スキルは全部で12個を定義し、細かい部分はベネッセの特徴を入れながらスキルを作っていきました。スキルの判定方法としては、スキルの強弱を後から確認し、指摘できるよう、ルールベースでの判定としています。
例えば、「何々商品について紹介しました」とか「意義を感じてもらえました」という文言が組み合わされていたら、商品機能の優位性についてしっかり説明できている、ということをスキルとして設定していく。
加えて「紹介」といった時に「自己紹介」という話だと、ぜんぜん違う話になってくるので。除外ワードを組み合わせて、その中でスキルを簡易に測定できる仕組みにしております。
実際の流れとしては、日報はかなり長い文章なので、まずどの部分がどんなスキルに効いているのかをしっかり見定める意味で、1文ずつに分割します。そのうえで、先ほどのルールでスキルを判定しました。
それを月次で担当者ごとに集約してスコア化し、こういったレポートを発信して、フィードバックに使っています。
全体のレーダーチャートのかたちで、スキルの遷移が前月と比べて、あるいは全国の支社の平均と比べてどうなのか。細かいところでは、先月と比べてどうだったのかを見ていったり、上長からのコメントを記載できるエリアを設けています。
これらの取り組みを行うことで実際に見えてきた成果として、実際にこのレポートを使ってフィードバックをする中で、使っていただいている方々から頂いた意見を紹介します。
育成指導を行っていく立場の課長の方からは、日頃隣の席で働いていない中で、本当に得意/苦手がどこにあるのか把握しづらく、あまり強く言いづらいという雰囲気もある中で、客観的なデータに基づいて「君の弱みはここだよね」と見定められるので、(相手も)冷静に受け止められると。今までよりも指摘しやすくなり、活発なコミュニケーションがとれるようになったというところがありました。
少しベテランに入ってきた中堅の社員からは「最近営業成績が伸び悩んできたんだけど、どこを伸ばせばいいかがわかってよかった」とか。若手の社員からは、「自分の弱みはわかったけど、誰に相談したらいいのかが見えなかった。その部分に強みを持っている人が支社の中で誰なのかが可視化されるので、どの先輩に聞けばいいのかがわかりやすく、アドバイスにつながりやすかった」といった声をいただいています。
この取り組みは、社内で活用が促進されているところもありますが、今年度は外部の「IT賞」にも出させていただいて、独自性と発展性を評価されて「IT奨励賞(マネジメント領域)」を受賞いたしました。
最後に、「DXのポイント」を総括的にまとめています。冒頭で、「顧客中心のDX」「サービス中心で成果を出していく」とお話ししました。顧客に対して良い影響が出てくることをDXの目的としているので、しっかりとその意味で「成果を出していく」ことに強くこだわりました。
それから、新しい取り組みを進める際には、多かれ少なかれ現場と軋轢が生まれる可能性もあります。いきなり大きいものではなくて、まずは小さくてもいいので成果を着実に出しながら。「これもできたんだったら、これもできるかもね」という意見も貰いながら、前向きな気持ちで仲間を増やしていくところが重要な点だと思っております。
もう1つは、現実的な視点を持つことです。大きな成果を出そうとすると、コケた時に「ほら見たことか」となってしまう可能性もあります。冷静にリソースを見ながら、現実的に進められるステップで取り組むことを心掛けております。
最後は「現場変革を目指す」といったところです。この取り組みが単発的に終わってしまったり、「中にリソースがないから外部のベンダーさんに丸投げしていこう」と、なかなか知見が貯まらないところもあります。
社内のデータサイエンティストで入ったメンバーは、40代になってから自分で弊社の「Udemy」などを使いながらデータサイエンスを勉強し始めて、今ではAI開発などもできるようになっています。
そういったかたちで、社内でのリソースの育成を進めて、一過性で終わらせずに再現性を持たせる。横展開や、そこで培った技術を使ってほかでも着手できるようなことを目指して進めています。
株式会社ベネッセホールディングス
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