2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
提供:一般社団法人 環境共創イニシアチブ
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北洋祐氏(以下、北):ピクシーダストの星さんにも開発ストーリー、連携ストーリーをお聞かせいただければありがたいです。
星貴之氏(以下、星):はい。弊社で今回の事業で取り組ませていただいたのは、先ほど写真でお見せしました「Sonoliards」と名付けております、音のビリヤードをする装置です。
超音波ビームスピーカーをご存知の方はどれくらいいらっしゃいますか? 超音波を使ったビームスピーカーや超指向性スピーカーなどとも呼ばれる装置です。
(会場挙手)
あ、意外といるんですね。知らない方のためにご説明するんですけど、超音波はまっすぐに飛びます。その超音波は空気を揺らしながら進むので、本当はスピーカーから出すと、いろいろな方向にワーっと広がってしまう音を特定の方向に絞って出すことができます。こんなビームスピーカーがすでにあります。
例えば、清水寺で設置されていたんですが、境内で足元を気をつけてほしいところだけに「足元に気をつけてね」という言葉を届けるような使い方をします。ビームスピーカーを天井に設置して、ある特定の方向を向いているというのが主な使い方でした。
しかし、弊社でやろうとしたのは、それにパンチルト機構、いわゆる首振り機能を備えて、いろいろな方向にグイーンと向ける。そうすれば、できることがもっと増えるという、サービスソリューション化を試みています。
そのために、スピーカー部分は、我々ががんばることで、良いスピーカーを作ることはできます。
一方、首振り機能をどうしようかなと考えていました。どのくらい振りたいかと言うと、スピーカーの真横から真上くらいを振りたいです。そうすると、例えばここから天井にスピーカーを打ちますと、誰かのところだけ上から音が届く感じです。パーソナルな音空間を作ることを試みたいんですよね。
それで、上は90度向けて、横は180度向きたいみたいな、ざっくりとした指標はあったんですけど。これを量産に耐えるかたちで作れる人を探すと、なかなかいない。
それまでは大学の研究ということもあって、レーザーカッターで切り抜いたものにサーボモーターを買ってきて付けたものは開発していたんですが、チュイーンと音が鳴っちゃうし、精度もガタガタなんですよね。
星:そのへんをどうしようかなと考えていたところ、スタートアップファクトリーの中に名を連ねられているシナノケンシ様が首振り機能を作ったことがあると知りまして。ぜひご協力いただきたいというところから始まったのが、最初のところです。
そのとき、私たちは「どういう性能であれば、何ができるのか」を落とし込めていなかったんですよね。とりあえず、「できるだけ、いいものをください」みたいな感じでお話をしてしまいました。
それではわからないので、シナノケンシ様からは「とりあえず試作機があります」と言われました。「別件で作ったものがあるんですけど、これの性能を見てもらって、『ここが足りない』『これはやりすぎだ』とか、そういうところはお互いに寄り添っていきましょう」みたいに提案していただきました。
一番最初に試作機を見せていただいたのが学びというか、よかったところかなと思っていて。そこから「じゃあ、次の試作機ではこの機能でお願いします」みたいな話に進められたところが、シナノケンシ様とのやりとりです。
実は、本事業の中でVAIO様のEMS部門の方ともお話しさせていただいて、そことも取り組んだものがあります。こちらは試作機ができたあと、量産に向けて進むことがどうすればできるのか、トータルなコンサルティングをお願いしようと思って相談をもちかけました。
こちらは最初はEMS部門に頼んだので、仕様がカッチリしてないとお話がなかなかしづらいというか。今振り返ると、お互いに助け合いたいんですが、どう助け合ってよいのやらみたいな、ちぐはぐなところがありました。これ、全部言っちゃっていいんですか?(笑)。
北:ぜひぜひ言ってください。
星:じゃあ、どうやったかと言うと、「今の段階では、一緒にやれないかもしれないから、後でやろう」みたいな気持ちになりつつあったんです。そんなとき、VAIO様のソリューション部門の方とお話ししたときに「これはどういうところでどう使えて、どんなことができると、うれしくなりますか?」みたいな話を聞かれました。
こちらはもともとは大学だし、私自身も大学で先生をしていたということもあり、アプリケーションのアイディアはいろいろ話せるんです。「音声をビームしたい」「天井に音声を跳ね返して、下へ向かせたい」「遊園地でいろいろな人に向けたスピーカーを開発したい」などと相談しました。
先方は「あ、イメージつきました」「だったら、こういうふうな機能に落とし込んで……」みたいな感じで少し話が通じました。そこから仕様に落とし込めて、「だったら、こういう機能検証が必要だよね」みたいな話ができて。
当初は当然伝わると思っていたイメージみたいなものが伝わらなくて。「デバイスがほしい」みたいな感じでバッと行ってしまったので、なかなか話が伝わらなかった。共通のイメージを持つコミュニケーションをとることが、けっこう重要だったことが学びとしてはあります。
しかもこのあたりのやりとりは、北様と話をする中で「それって学びですよね」「あー、学びだった!」と認識したというエピソードでした。という、そんな感じでシナノケンシ様、VAIO様とはいい関係でお付き合いさせていただきました。
星:本事業の中で完全な試作機ができたところまでは到達できなかったんですが、首振り機能の仕様がある程度見えましたし、今後も開発を続けていきたいなと思います。
北:ありがとうございます。ピクシーダストさんはこのモデル事業にご参加いただくとき、量産に向けて開発をするのは初めてのケースだったので、本当に想定外のことがモデル事業の期間中にもいろいろ起こりました。それをリアルタイムで聞かせていただいて大変楽しかったです。
すごく印象的だったのが、当初引いてらっしゃったスケジュールで試行錯誤に要する期間を見込んでいなかったんですよね。実際にやってみたら、そこにすごく手間がかかって、スケジュールを引き直した話もありました。どこにどんな試行錯誤が追加で必要になったイメージなんでしょうか?
星:言っていただいたとおりかなと(笑)。我々がスピーカー部分を作ると言いましたが、そちらの機能開発は止めるわけにはいかないし、エンジニアや私自身は開発に気を取られる中で、今までにやったことのないコミュニケーションが必要でした。
どうすれば前に進めるかと、しばらく先が見えなかったときもありました。その先は遠いから見えないのではなくて、なにかしら目の前を塞ぐ壁みたいなのがあったと思います。その1つが、お互いに同じイメージを持つ会みたいなものだったりしました。この会があることで、その壁がファーっと取れた感じです。
あとはなんですかね。北さん、なんだと思いますか?(笑)。あのころ、毎月お話ししていたので。
北:そうですね(笑)。そもそも、シナノケンシに相談しにいけば、すぐ開発に取り掛かって、そのまますぐ量産にいける想定をもともとは持ってらっしゃったと思います。そこの意識合わせのところに、すごく時間がかかりましたね。
そのためにはまず仕様書を作るところで、スタートに戻るみたいなことに時間をかけていらっしゃったなと思います。それがすばらしいなと思っていました。ありがとうございます。
北:それでは次のテーマにいかせていただきたいと思います。ここでお話をうかがいたいのは、スタートアップと製造業の役割分担というところです。今回、エンジニアの中でも、よく出たテーマなんですけど。
どこからどこまでをスタートアップ側がやって、どの状態で製造業側に渡すと一番うまくいくのか。先ほどのお話でもかなり出てきた情報ではあると思うんですが、ここについて、改めてコメントをいただければと思っております。MAMORIOの増木様、いかがでしょうか?
増木大己氏(以下、増木):例えば、ビジネスモデルをお互いに双方が描ける仕組みのほうがいいなと思っています。どうしても、モノづくりの場合だと、お金や時間がかかったりすることもあります。
どうしてもスタートアップというのは、やっているうちに変えていくことがすごく多いんですよね。「こうだと思ったけど、実は仮説が外れてこうだった」みたいな。そんなところが、開発ミーティングでもけっこうあったりします。
それは実際、モノづくりの側からすると、怖いと思うんですよね。スタートアップとしては当たり前のことではあるんですが、「前まではこう言っていたのに、次の打ち合わせにはこうなってた」みたいなことになったときに、実際にモノを作られる企業さんからすると、言っていることがコロコロ変わって、「結局、この仕様はいつフィックスするんだ!?」みたいなかたちになることはあると思います。
そこはリスペクトをある程度持ったうえで、「ここは妥協できるけれど、ここは絶対に変えません」というところを、お互いきっちり作っていくのが大事だと思ったりします。
北:ありがとうございます。今回、BraveridgeさんはMAMORIOさんとやられたときは、役割分担も含めてうまくいったという理解でよろしいでしょうか? もう少し「こうしたほうがよかった」という思いはありますか?
吉田剛氏(以下、吉田):そうですね。先ほどMAMORIOさんのケースでは……途中からと言ったらおかしいですけども、再設計から取り組んだので、基本的にはやることは決まっていました。弊社がやって、お渡しする状況だった。その点に関しては、回答しにくいんですけれども。
今、増木さんが言った仕様の変更は、製造業に関してはけっこうキツいんですよね。多かれ少なかれ、けっこうキツいです。弊社としましても、仕様に一番時間をかけるようにしています。要は開発設計に入る前に、どういった仕様にしたいのか。ここに一番時間を積むべきなのかなと思っています。
北:ありがとうございます。まさにそこをピクシーダストさんも、かなりご苦労された部分があったと思うんですけれども。
星:役割分担というよりは「ここからここは自分」という線を引かないで、お互いにわちゃわちゃできたらいいですよね。
スタートアップがやっている、「今までにないものをいかに作り出すか」という研究にも足を踏み入れてみることも、こちらとしては製造業の人にお願いしたくてですね。プロの視点というか、これまでの経験から「こうすると多分うまくいくよ!」みたいなやり方を提案いただける、みたいな。
役割分担ではなく、役割融合とまで言っちゃうとおかしいけど、境界領域をうまくつなげるマインドをお互いに持てるといいなと思います。
北:ありがとうございます。まさにその通りですよね。放っておくと両者の間に微妙に隙間ができてしまって、そこを誰が埋めるのかわからなくなって困ることがある中で、そこを積極的にお互いに取りに行くんですよね。
星:お互いに気持ちがあるのに近寄れないタイミングがあっただけに、そのへんがもはや事例集にもならないかもしれないですが、それぞれが「ここは踏み込んでおいたほうがいいのかな」という思いをあらかじめ持っておくと、スムーズにいくのかもしれないですね。これは共有です。
北:ありがとうございます。そのための仕様書というところもあるんだと思います。
北:次のテーマに行かせていただきますと、スタートアップと製造業がうまく連携していくために必要なことがございます。実際に開発に取り組まれている中で、こうやったからうまくいったポイントを来場者のみなさまに共有いただけるとありがたいです。
吉田:先ほどのテーマに少し関係するんですけど、実際スタートアップと製造業の間には、意外と踏み込んではいけない聖域があると思うんですよね。ここはお互い尊重し合わないと、それをやりすぎると、うまくいくものもいかなくなります。
大事なところは、製造業はとくにあると思うんですけど、「ここにこないで」というのはやはりあるわけなので。ここまでガッと来られると、「来ないで」となります。ここは長年製造業されている方は必ず聖域を持ってらっしゃると思うので。そこだけは踏み込んでほしくない思いがありますね。
北:そこがどこかを教えていただけると、大変ありがたいです。
吉田:弊社の簡単な例で言えば、弊社は製造業で生業を立てています。基本的には、どうやって作るか、生産治具をどう作るか、どういう工程で作るか。そういうところは製造業の、作る工程での聖域です。
結局、それを踏まえながら開発設計をやっているので。そこは弊社の中ではちょっとした聖域です。
北:もちろん、完成品の仕様や機能まではちゃんと擦り合わせて、それが決まったあとの製造工程は「もうプロに任せてくれ」というところですかね?
吉田:正直そうです。
北:なるほど。ありがとうございます。実はこの事例集のケーススタディの中で、逆のことも書いていまして(笑)。これはケースバイケースだと思います。「もっとスタートアップは踏み込まなければいけない」みたいなことを書かせていただいていたりするので、本当にこういうことはケースバイケースだと思います。
北:MAMORIOさんとしても、そのあたりの聖域を尊重するイメージなのでしょうか? ちょっと答えにくいかもしれないですけど(笑)。
増木:難しいですね。会社さんによって違ったりするので、一概に「こうだ」ということはないと思います。自社の中での優先順位を付けておいたほうがいいのかなと思います。
とくにハードウェアを作る場合ですと、あれを入れると、こっちがなくなるということが必ず頭の脇にあるんですね。「あれもこれも」となったときに、絶対にそれはうまくいかないので。ここのラインを決めておいて、「こうなったら、こうする」ということを自社で線引きしておいて、意思決定を早くする。
あとは、なるべくコミュニケーションしやすい体制をうまく作るイメージですかね。例えば、「カレーを作ってください」とお願いするのは、わりと近しい知識や同じ文化がある中だとそれほど要件を伝えなくても、みんな共通のイメージをもっているので詳しく説明しなくても作ることはできるんですけれども。
実際のモノづくりだとそうはいきません。「そのカレーってどのくらいの費用ですか?」「どれくらいの辛さなんですか?」と、当たり前のことも丁寧に確認しておかないと大変なことになってしまうようなことが、いくつかあるんですよね。
そういうことをちゃんと決めたうえで、レシピを渡せばオーダーできるところまで掘り下げていかないと、「お互いがカレーと思っていたものが、実はまったく違った」みたいなことが、モノづくりでは非常に多いので。そのあたりを同じ目線でできるようなものをしっかりと社内で作っておくのは大事かなと思います。
北:ありがとうございます。このディスカッションを通して、そのあたりは本当に重要だと改めてわかりました。完成品のイメージというか、最終的にたどり着くべきゴールを一緒に作り込んで進んでいく。その中身は役割分担などはケースバイケースということかもしれませんが。ありがとうございます。
北:お時間も迫ってまいりましたので、今日ご来場のみなさま方に対して、パネリストのみなさまから一言ずついただいて終わりにしたいと思います。
スタートアップの領域へ、これから取り組まれようとしている製造業の方へ向けたメッセージや、今後製品を開発していこうとするスタートアップの方へのメッセージなどをいただければありがたいです。
じゃあこれは、星さんからですかね。よろしくお願いします。
星:今回弊社では「首振り機能が欲しいんですよ」と言って、スタートアップファクトリーに入っていらっしゃるシナノケンシさんに名指しで、具体的なところからご相談を始められたのですけども、ものによってはおそらく誰に相談していいのか、わからないところから始まることもあると思います。
ここにいらっしゃるみなさまは、製造業の方々ということもあると思うんですが、「よくわからないんです!」と相談に来る人たちがいたら、「話くらい聞いてやろうか」ってあたりからちょっと目をかけてやっていただけると、日本も盛り上がっていくんじゃないかなと思います。よろしくお願いします!
北:ありがとうございます。続いてMAMORIOの増木様、お願いします。
増木:スタートアップは急成長が求められている業態もあって、どうしてもスケーラビリティの面で非常に負担が大きいところです。
海外の事例を見ていると、最初は海のものとも山のものともわからなかったスタートアップのものを作ったら、それが世界中でたくさん売れて、一気に製造企業側との両者とも成長して大成功したという事例がいくつかあります。
そういうこともあるので、ぜひ、お互いにリスペクトして、どうしたらうまくいけるのかも一緒に取り組んでいけるきっかけになってもらえたらなと思っております。
北:ありがとうございます。ではトリということで、吉田さんお願いします。
吉田:おそらくこの会場の中にもスタートアップの方がいらっしゃると思うんですが、みなさんは間違いなく成功したいと思っているはずです。その鍵を握るのは、基本的にここにいらっしゃる製造業の方です。
今回のスタートアップファクトリー構築事業を推進していただきました関係者様方には、本当に大変感謝しております。この事業をきっかけとして本日講演された藤岡さんを始め、みなさんで日本人にしかできないモノづくりを未来に継承していくべきだと、強く思っています。
北:今日はパネリストの御三方、本当にありがとうございました。
(会場拍手)
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