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成功循環モデル(全1記事)

ダニエル・キム氏の成功循環モデルとは? 「関係の質」から組織の成果を生む好循環の作り方 [1/2]

【3行要約】
・多くの組織が短期的な結果を重視するあまり、従業員の疲弊を招き「バッドサイクル」に陥っています。
・成功循環モデルでは、心理的安全性に基づく「関係の質」が起点となり、思考・行動・結果の質へと好循環を生み出すことが実証されています。
・組織のリーダーは「ぬるま湯」と混同せず、率直な対話と適度な緊張感を両立させながら、自律共創型組織への変革を推進することが重要です。

成果を求めるほど組織が疲弊する「バッドサイクル」の罠

多くの組織が、目先の成果や結果を追い求めるあまり、かえって組織全体の活力を失い、長期的な成長を阻害してしまうというジレンマに直面しています。この負のスパイラルは「成功循環モデル」における「バッドサイクル」として説明されます。

バッドサイクルの起点は、多くの場合、「結果の質」への過度な執着です。短期的な業績向上や目標達成を最優先するあまり、現場には強いプレッシャーがかかります。必達のノルマが課され、未達は許されないという空気が蔓延すると、従業員は精神的に追い込まれ、疲弊していきます。

このような状況では、コミュニケーションは一方的な「命令」や「強制」になりがちです。上司と部下の間には「対立」が生まれ、部門間では責任の押し付け合いが横行します。これが「関係の質」の低下です。従業員同士の信頼関係は失われ、職場は不信感と閉塞感に包まれます。

関係の質が悪化すると、次に「思考の質」が低下します。従業員は自ら考えることをやめ、指示されたことだけをこなす「受け身」の姿勢になります。

仕事に対する面白さややりがいは感じられず、創造的なアイデアや前向きな意見は生まれなくなります。自分の意見を言えば否定されるかもしれないという恐怖から、思考は停止してしまうのです。

思考の質が低下すれば、当然ながら「行動の質」も下がります。従業員の行動は「消極的」になり、自発的な挑戦や協力的な行動は見られなくなります。言われたことしかやらない、失敗を恐れて新しいことに手を出さないという風土が定着します。

そして最終的に、これらの質の低下は、皮肉にも追い求めていたはずの「結果の質」のさらなる低下を招きます。従業員が自律的に動かず、チームワークも機能しないため、思うような成果は上がりません。

そして、結果が出ないことへの焦りがさらなるプレッシャーを生み、関係性を悪化させるという、抜け出すことの困難な悪循環に陥ってしまうのです。

業績の悪い組織ほど、短期的な成果を求めてメンバーに強いプレッシャーをかけ続ける傾向があります。期待した成果が得られないと、さらにプレッシャーのレベルを上げて一人ひとりを追い詰めていくのです。

このような状態は、時にコンプライアンス違反といった深刻な問題を引き起こすリスクもはらんでいます。強力なプレッシャーから逃れたい一心で、不正な手段に手を染めてしまうことにもなりかねません。

多くの組織がこのバッドサイクルの罠に陥るのは、日本企業が長年抱えてきたコミュニケーション不全の問題や、短期的な成果を重視せざるを得ない経営環境が背景にあります。

この負の連鎖を断ち切り、持続的な成長を実現するためには、サイクルの起点を「結果」から「関係」へと転換することが不可欠です。

なぜ「関係の質」から始めるのか?

組織を持続的に成長させる「グッドサイクル」は、バッドサイクルとは対照的に、「関係の質」を高めることから始まります。一見すると、成果を出すためには遠回りに見えるこのアプローチが、なぜ最も確実な方法なのでしょうか。その答えは、従業員のエンゲージメントと「内発的動機付け」にあります。

グッドサイクルのメカニズムは、まず従業員同士の相互理解や尊重といった「関係の質」を高めることからスタートします。お互いに信頼し、安心して意見を交わせる関係性が築かれると、従業員は仕事の中に「面白さ」や「気づき」を見出すようになります。これが「思考の質」の向上です。前向きなアイデアや自発的な意見交換が活発になり、当事者意識が芽生えます。

思考の質が高まると、従業員は自発的・積極的に行動するようになり、「行動の質」が向上します。新しいことに挑戦したり、仲間と協力して課題解決に取り組んだりするようになります。その結果として業績が向上し、「結果の質」が高まります。

そして、共に成果を上げたという成功体験は、従業員間の信頼関係をさらに強固なものにし、再び「関係の質」を向上させるという好循環を生み出すのです。

このサイクルがうまく回ることで、従業員のエンゲージメント、すなわち組織への貢献意欲や仕事への熱意は自然と高まっていきます。ここで重要なのが、エンゲージメントの源泉となる「動機付け」の性質です。

心理学者・レデリック・ハーズバーグ氏の「二要因理論」によれば、仕事における満足と不満足は、それぞれ異なる要因によって引き起こされるとされています。給与や労働条件、会社の制度といった「衛生要因」は、整えられていないと「不満足」を引き起こしますが、これらを改善しても「満足」を積極的に生み出すわけではありません。あくまで不満を防止する役割に留まります。

一方で、従業員のエンゲージメントを真に高め、仕事への満足感をもたらすのは、「動機付け要因」と呼ばれるものです。これには、仕事そのものから得られる「達成感」や他者からの「承認」、責任ある仕事を任されること、そして「成長」の実感などが含まれます。これらはすべて、人の内側から湧き出る「内発的動機」に根差しています。
この研究でいうと、ワークエンゲージメントが上がる理由は「達成」です。仕事をして何かを達成できたとか、それが認められたとか、責任の重い仕事を受けてがんばれたとか、本人の内発的なものによってワークエンゲージメントは上がるという研究結果が出ている。

ワークエンゲージメントを下げる要因もあるんですが、それは制度や給与、外発的なものです。ただ、上げる要因にはなり得ないんですよね。

外発的要因を整えても、不満を防止することはできるけど内発的要因ではないので、ワークエンゲージメントという意味では上がってこない。なので、内発的な動機付けはエンゲージメントとすごく関係があるんだろうなと、我々も把握しています。

引用:給与や制度を整えても、あくまで“不満の防止”にしかならない 従業員エンゲージメントを高める「内発的動機」の重要性(ログミーBusiness)

成功循環モデルにおいて「関係の質」から始めるアプローチは、まさにこの内発的動機付けを促すための土台作りと言えます。良好な人間関係という安心できる環境があって初めて、人は挑戦し、達成感を味わい、成長を実感することができます。

結果だけを求めて外的なプレッシャーをかけるのではなく、まず関係性という内的な土壌を耕すこと。それが従業員一人ひとりのエンゲージメントを高め、組織全体を持続的な成功へと導く鍵となるのです。

組織の状態を可視化する「4つの質」のフレームワーク

成功循環モデルは、組織の状態を客観的に捉え、改善に向けた具体的な道筋を立てるための強力なフレームワークです。このモデルの中心となるのが「関係の質」「思考の質」「行動の質」「結果の質」という4つの要素です。これらの質を深く理解し、自身の組織に当てはめてみることで、現状の課題や目指すべき姿を明確にすることができます。

「関係の質」とは、従業員同士の関わり方や交流の質を指します。これは、単に仲が良いということだけではありません。具体的な要素としては、以下のようなものが挙げられます。

・相互尊重・信頼関係
役職や経験にかかわらず、お互いを一人の人間として尊重し、信じ合っているか。

・コミュニケーションの活発さ
日常的な挨拶や声かけが自然に行われ、誰とでも気兼ねなく話せる雰囲気があるか。会議などで活発な意見交換がなされているか。

・一体感・協働
組織の目標やビジョンを共有し、役割や立場を越えて協力し合えているか。

2つ目の「思考の質」は、物事の考え方や意識の状態を指します。関係の質が土台となり、人々の思考に影響を与えます。

・当事者意識
組織で起きていることを「自分ごと」として捉え、主体的に考えているか。

・ポジティブ思考・創造力
現状の良い側面や可能性に着目し、今までの枠組みを超えた新しいアイデアや方法を生み出そうとしているか。

・共同思考
問題が発生した際に、個人で抱え込まず、チームで一緒に考え、解決しようとする意識があるか。

3つ目の「行動の質」は、人々の具体的な振る舞いや働き方を指します。思考の質が高まることで、行動も変化していきます。

・主体性・積極性
 指示を待つのではなく、自らやるべきことを見つけ、積極的に行動しているか。

・支援行動・共創行動
困難な状況にある仲間を助けたり、知識や経験を融合させて新しい価値を創造したりする行動が見られるか。

・アジャイルな行動
アイデアが出た際に、迅速に共有・相談し、すぐに行動に移せているか。

「結果の質」は、これら3つの質が相互に作用して生み出された、組織全体の成果を指します。

・業績・生産性
売上や利益といった財務的な成果や、業務の効率性。

・目標達成度
組織や個人が掲げた目標を達成できているか。

・顧客満足度や従業員エンゲージメント
外部からの評価や、内部の従業員の満足度・貢献意欲。

このフレームワークを活用するメリットは、組織の現状を客観的に振り返るきっかけになることです。今の組織において、これら4つの質がそれぞれどのような状態にあるのか、そしてグッドサイクルとバッドサイクルのどちらに近いのかを把握することができます。

分析は組織全体だけでなく、部署やプロジェクトチームといった小さな単位で行うことで、より詳細な現状把握が可能になります。その結果、理想の組織像を目指すために、どの質を重点的に改善し、高めていくべきかを明確にすることができるのです。

漠然とした「職場の雰囲気」や「チームのパフォーマンス」といった問題を、具体的な「質」の言葉で言語化・可視化すること。それが、組織変革の第一歩となります。

グッドサイクルの鍵を握る「心理的安全性」の本質

成功循環モデルのグッドサイクルを回す上で、起点となる「関係の質」を高めるために最も重要な概念が「心理的安全性」です。心理的安全性とは、単に居心地が良いとか、対立がないといった状態を指すのではありません。その本質は、「組織の中で、自分の意見や考え、あるいは疑問やミスを率直に発言しても、罰せられたり、屈辱的な思いをさせられたりすることがないと信じられる、共有された感覚」にあります。

この概念は、ハーバード大学のエイミー・C・エドモンドソン教授によって提唱され、Google社が「成功するチームの最も重要な因子」として特定したことで広く知られるようになりました。

心理的安全性が確保されたチームでは、メンバーは対人関係のリスク、例えば「無知だと思われる」「邪魔をしていると思われる」といった不安を感じることなく、本来のパフォーマンスを発揮することができます。

心理的安全性の高い組織で具体的に見られるのは、以下のようなポジティブな行動です。

・活発な意見交換
メンバーは役職や経験にかかわらず、気づいたことや懸念事項を自由に発言します。これにより、多様な視点が集まり、より良い意思決定や革新的なアイデアの創出につながります。

・失敗からの学習
ミスや失敗を隠すのではなく、オープンに共有し、チーム全体の学びの機会とすることができます。失敗を恐れずに挑戦する文化が育まれます。

・効果的な協力
わからないことを素直に質問したり、助けを求めたりすることが容易になるため、メンバー間の協力が促進され、チーム全体の生産性が向上します。一方で、心理的安全性が低い組織では、メンバーは自己防衛に走り、本来の実力を発揮できません。

・発言の抑制
反対意見やネガティブな情報を口にすることをためらい、結果として問題の発見が遅れたり、誤った意思決定がなされたりします。いわゆる「イエスマン」ばかりの会議がその典型です。

・失敗の隠蔽
ミスを報告すると非難されるため、個人で隠蔽しようとします。これにより、同じ過ちが繰り返されたり、問題が深刻化したりします。

・モチベーションの低下
自分の意見が尊重されず、貢献している実感も得られないため、仕事への意欲やエンゲージメントが低下します。

ここで重要なのは、心理的安全性を「ぬるま湯組織」や「仲良しクラブ」と混同しないことです。心理的安全性が高いチームは、必ずしも常に快適なわけではありません。むしろ、建設的な意見の対立や、お互いの成長のための厳しいフィードバックも率直に行われる、健全な緊張感を持った場です。

安心感という土台があるからこそ、メンバーは困難な課題や高い目標に共に挑戦することができるのです。

成功循環モデルにおける「関係の質」とは、まさにこの心理的安全性が確保された状態を指します。メンバーが互いを信頼し、安心して自分をさらけ出せる環境を整えること。それが思考の質、行動の質、そして結果の質へとつながる好循環を生み出すための、すべての始まりとなるのです。

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