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成功循環モデル(全1記事)

ダニエル・キム氏の成功循環モデルとは? 「関係の質」から組織の成果を生む好循環の作り方 [2/2]

関係の質を高める具体的なアクションプラン

心理的安全性を醸成し、グッドサイクルの起点となる「関係の質」を高めるためには、漠然とした掛け声だけでは不十分です。日々の業務の中に、具体的な仕組みや行動を意図的に組み込んでいく必要があります。ここでは、そのための具体的なアクションプランを紹介します。

まず基本となるのは、コミュニケーション機会の創出です。関係性は、接触の頻度と質によって育まれます。

・日常的な挨拶と声かけ
最も基本的ですが、極めて重要なアクションです。儀礼的ではなく、相手の目を見て自然な挨拶を交わすこと。「どう、うまくいってる?」といった気軽な声かけが、職場の心理的な壁を低くします。

・1on1ミーティングの定期的実施
上司と部下が定期的に1対1で対話する時間を確保します。業務の進捗確認だけでなく、部下のキャリア観やコンディション、悩みなどをじっくりと聴く場とすることで、信頼関係が深まります。

・感謝を伝え合う仕組みの導入
「ありがとう」という言葉が自然に行き交う文化は、関係の質を大きく向上させます。口頭で伝えるだけでなく、「サンクスカード」や、従業員同士で少額のインセンティブを送り合える「ピアボーナス」といった制度を導入するのも有効です。感謝の可視化は、相互扶助の意識を育みます。

次に、リーダーの役割は極めて重要です。特に管理職の言動は、チームの心理的安全性に直結します。

・傾聴のスキル
リーダーは、部下の話を途中で遮らず、最後まで真摯に聴く姿勢を持つべきです。うなずきや相槌を打ち、相手の話した内容を「〜ということなんだね」と要約して返すことで、部下は「自分の思いを受け止めてもらえた」と感じ、心理的な満足感を得られます。

・リーダー自身の自己開示
完璧なリーダーであろうとする必要はありません。むしろ、自らの「しくじり経験」や「ポンコツな部分」をオープンに語ることで、親近感が湧き、部下も自分の弱みを見せやすくなります。上司が失敗してはいけないという思い込みを捨てる勇気が、チームの心理的安全性を高めます。

そして、組織文化の醸成も欠かせません。個人の努力だけでなく、チームや組織全体で取り組むべきことがあります。

・共通の価値観やパーパスの共有
「自分たちは何のためにこの仕事をしているのか」という組織の存在意義や目指すべき姿を共有することで、メンバーは数字や目標を超えたつながりを感じ、一体感が生まれます。

・相互理解を深めるワークショップ
業務外の側面を知る機会も有効です。例えば、各メンバーがこれまでの人生の浮き沈みをグラフにする「ライフラインチャート」を共有し合うといった活動は、お互いの背景理解を深め、心の距離をぐっと縮めます。

これらのアクションは、一つひとつは小さなことかもしれません。しかし、これらを粘り強く継続することで、組織内の空気は確実に変わっていきます。挨拶が増え、会話量が増え、感謝の言葉が聞かれるようになり、やがてお互いを尊重し、率直に意見を交わせる文化が根付いていくのです。

地道な取り組みこそが、強固な「関係の質」を築くための最も確実な道筋です。

「思考」と「行動」の質へ繋げるマネジメント手法

良好な「関係の質」という土台が築かれたら、次はその上で「思考の質」と「行動の質」をいかに高めていくかが重要になります。心理的安全性が確保された環境を活かし、メンバーがより主体的かつ効果的に動き出すためのマネジメント手法が求められます。

まず「思考の質」を高めるためには、メンバー一人ひとりが当事者意識を持ち、組織全体の視点から物事を考えられるように促すことが不可欠です。

・組織の目標やビジョンの共有
「なぜこの目標を目指すのか」「この仕事が社会にどのような価値を提供するのか」といった組織のパーパス(存在意義)を繰り返し伝え、共有します。これにより、メンバーは日々の業務に意味を見出し、「自分ごと」として捉えるようになります。

・具体的で達成可能な目標設定
目標設定のフレームワークである「SMARTの法則」(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)などを活用し、組織全体の目標と個人の目標の関連性を意識させることが有効です。目標が具体的で納得感のあるものであれば、メンバーは自ら考え、工夫するようになります。

・1on1での対話を通じた意識付け
定期的な1on1ミーティングの場で、組織の目標を意識してもらう機会を設けます。上司から一方的に伝えるだけでなく、対話を通じて本人の考えを引き出し、目標達成へのモチベーションを高めます。

高まった思考を具体的な「行動の質」へと繋げるためには、主体性を育み、チャレンジを後押しする仕組みが必要です。

・コーチングによる主体性の育成
上司が答えを与えるのではなく、対話を通じてメンバー自身に気づきを促し、自発的な行動計画を立てさせるコーチングが有効です。現状の把握、ゴールの明確化、具体的なアクションプランの策定などをサポートし、メンバーの主体性を育みます。これを実践するためには、コーチングを行うマネジメント層の育成も重要となります。

・シェアド・リーダーシップの導入
チームのリーダーを一人に固定せず、課題や状況に応じて最適なメンバーがリーダーシップを発揮する「シェアド・リーダーシップ」という考え方も有効です。これにより、メンバー全員がリーダーの視点を持ち、当事者意識を高めることができます。リーダー役を経験することで、他のメンバーがリーダーシップを発揮する際には、優れたフォロワーシップを発揮できるようにもなります。

関係性が良好なだけでは、組織は成果を生み出せません。その安心できる土壌の上で、いかにメンバーの思考を深め、行動を促すか。目標の共有によって方向性を示し、コーチングやシェアド・リーダーシップによって自律的な動きを引き出す。こうしたマネジメントの実践が、グッドサイクルを力強く回し、結果の質へと繋げていくのです。

「急がば回れ」を実践する際の注意点とリーダーの心構え

成功循環モデルを組織に導入し、「関係の質」から始めるアプローチは、持続的な成長のための「急がば回れ」の思考法です。しかし、この実践にはいくつかの陥りやすい罠があり、特にリーダー層はその本質を正しく理解し、慎重に舵取りを行う必要があります。

最も注意すべきは、「関係の質を高める」ことの意味を誤解してしまうことです。良好な関係を築こうとするあまり、リーダーが「部下を傷つけないように」「意見が対立しないように」と過度に配慮し、言うべきことを言えなくなってしまうケースがあります。これは心理的安全性ではなく、単なる「ゆるい職場」「ぬるま湯組織」を生み出すだけです。こうした職場では、個人の成長も組織の業績向上も期待できません。

リーダーと部下は友人のように仲が良いことが目的ではなく、業務を共に遂行し、成果を出すための信頼関係で結ばれた「仲間」でなければなりません。部下の行動や言動が間違っているのであれば、的確に指導し、チームを正しい方向に導く責任がリーダーにはあります。

このバランスを取るために重要なのが、ストレッチ目標の存在です。心理的安全性を確保し、失敗を恐れずに挑戦できる環境を作りつつも、相応の努力をしなければ達成できないような、少し背伸びした目標(ストレッチ目標)を一人ひとりに持たせることが重要です。安心感と、仕事に対する健全な緊張感。この両輪が揃って初めて、組織は成長軌道に乗ります。

また、組織の制度との一貫性も無視できません。例えば、チームリーダーが心理的安全性の高いチームを作ろうと奮闘していても、会社全体の評価制度が個人の成果のみを重視し、過度な競争を煽るものであったり、失敗を許さない減点主義であったりすれば、その努力は水泡に帰します。

組織のミッション・ビジョンから、人事評価、日々のコミュニケーションまで、すべてに一貫性を持たせることが、組織変革を成功させるための鍵となります。自分たちのチームや部署だけで完結するのではなく、必要であれば会社全体の制度に対して「変えてやるぜ」という気概で働きかけていくことも、時には求められるでしょう。

リーダーは「部下に負担をかけたくない」という思いやりから、言いづらいことを伝えるのを避けてしまうことがあります。しかし、それは本当の意味での優しさではありません。気遣いと甘やかしは明確に区別する必要があります。

成功循環モデルは、単に優しく、寛大な組織を目指すものではありません。むしろ率直な対話を通じてお互いを高め合い、困難な目標に共に立ち向かう、強くしなやかな組織を築くためのフレームワークなのです。その本質を忘れず、硬軟織り交ぜたバランスの取れたリーダーシップを発揮することが、リーダーには求められています。

持続的に成長する「自律共創型組織」への道

成功循環モデルを組織の中で回し続けることは、単に業績を上げるためだけの手法ではありません。それは変化の激しい時代を生き抜くための、持続的に成長し続ける「自律共創型組織」を築くためのプロセスそのものです。このような組織では、個人と組織の関係性が新たな段階へと進化していきます。

「自律共創型組織」とは、以下の3つの要素を高いレベルで満たしている組織と言えます。

1. 全社員が組織の存在意義に共感している組織
会社のミッションやパーパスが全社員に浸透しており、日々の業務に意味と誇りを感じています。

2. 社員同士の関係性の質が高い組織
心理的安全性が確保され、信頼と尊重に基づいた活発なコミュニケーションが行われています。

3. ひとりひとりが主体性をもって成長・挑戦している組織
メンバーが失敗を恐れず、自律的に学び、新しいことに挑戦する文化が根付いています。

この3つの要素が満たされると、結果として社員の幸福度と組織の成果が共に向上していきます。この理想的な状態を実現する上で、キャリアに対する考え方の変革も重要になります。

現代のキャリア理論である「プロティアン・キャリア」は、組織や環境の変化に応じて、自分自身を柔軟に変形させていく主体的なキャリア形成を提唱しています。この理論もまた、成功循環モデルと同様に「関係性」を非常に重視しています。

これまでのキャリアは、会社に委ねられるものであり、個人がキャリアについてオープンに語ることは、昇進に響くのではないかという懸念から避けられがちでした。

しかし、これからの時代は、個人が自らのキャリアプランをオープンにし、組織はそれを積極的に応援するという関係性が求められます。
キャリアにおいても、個人だけが考えて「周りの人に言ったら昇給させられなくなっちゃう」とか「仕事を与えられなくなっちゃう」というのが今までのキャリアだったんですが、これからは個人はキャリアをオープンにして、組織は個人のキャリアを応援する。

この循環ができると、「私はこうなりたいから、こういうことがしたいです」「なるほど、わかりました。じゃあ、それをするためにはこういう業務ができるよ」「今の業務でも、あなたはこういう経験が伸ばせるよ」というふうに、上司が言語化して個人にアドバイスをしながら作業指示を提供することで、個人も意味を持って仕事ができる。

そして、成長する個人が組織を発展させ、組織は成長する個人をまた応援するという循環を生み出す。この関係性を築けるかどうかが、これからの選ばれる組織になるかどうか、そして個人が自らオープンに会話をして先輩から応援される自分になれるかどうかの分かれ目だと思っております。

引用:「退職者」との関係性が、変化に強い組織をつくるキーポイント 個人も組織も成長させる、自律的なキャリア開発の重要性(ログミーBusiness)

この個人と組織のポジティブな循環は、組織の境界線を越えて広がっていきます。例えば、「退職」の捉え方も変わります。従来のように「辞めたらおしまい。裏切り者」といった断絶的な関係ではなくなります。

退職者は、新たな環境で得た知識や経験を共有してくれる貴重な存在であり、「これからも一緒に世の中を良くしていく同志」として、継続的に応援し合える仲間になり得るのです。

成功循環モデルを回し続けることで生まれるのは、単なる「強い組織」ではありません。それは、一人ひとりの個人が自律的にキャリアを築き、成長を実感できる場であり、組織は個人の成長を力に変えて発展していくという、美しい生態系(エコシステム)です。

そして、その関係性は社内にとどまらず、社外のパートナーや卒業生をも巻き込みながら、共創の輪を広げていくのです。この持続的な成長と貢献のループこそが、成功循環モデルが目指す究極のゴールと言えるでしょう。

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