体験してもらえないとアジャイルの良さはわからない

杉井正克氏(以下、杉井):最後にご紹介させていただくのは体験からの反応です。2022年にプロジェクトを4つやったのですが、プレイブックには参加されたみなさんのインタビューが載っています。(スライドを示して)こういうかたちで気づきや学び、「こういうのが楽しかったです」みたいなところとか、満足度を掲載しています。

これを抽出すると、「やってみたらわかりました」とか「実際に開発を進めてみて」とか「実際の会議の中で意見交換をして」みたいなことがけっこうコメントとして上がってきたのがおもしろくて、気づきだったなと思っています。

良さを体験してもらえてよかったなというところと、体験してもらえないと良さはわからないんじゃないかなという逆の思いもありました。やはりアジャイルと言っていくだけではダメで、どんどん実践してもらって良さを広めていく必要があるなとあらためて思って、2023年度や2024年度も進めていこうかなと考えています。

アジャイル型開発を通して発見したこと

下家昌美氏(以下、下家):最後にアジャイルの開発で発見したことです。都庁には、現状の業務を改善したいという前向きな職員がたくさんいます。先ほどのインタビューのところで紹介しましたが、やはり私も開発に一緒に参加させていただいていた中で、アジャイルという言葉はわかるけれども、実際にどうやって進めていけばいいのか。プロダクトオーナーとしてどういうことをしていけばいいのか。

本来業務という言い方はあれですが、やはりふだんとは違う業務、相談業務や学校の業務などをやっている方にはイメージがつかない。我々がいかに説明したとしても伝わらない部分があると思います。あとは杉井課長からもお話があったとおり、請負契約とアジャイルは、ちょっと今までの都庁の開発の仕方とは違うわけですよね。

ウォーターフォールの開発のやり方とは違って事業者さんと一緒にワンチームとなって働くって、どういうふうにすればいいんだろうと思う方が多い中で、現状を改善したいという前向きな気持ちを持っている方がすごくいて、どんどん自分の意見ややりたいことが叶っていって、「じゃあもっとこうしてみたい、ああしてみたい」という夢が膨らんで、それが実現する。

それを実現してくれるパートナーとして、エンジニアだったりスクラムマスターがいるというのが、ご本人たちも「おもしろい」と言っていました。そうやって意思疎通が図れているところを私も見ていて、すごく良い気分になったというか、こういう開発の仕方もあるんだなというのを本当に感じました。

下家:2番目ですが、職員が主体的に開発に参加する機運が醸成されました。これは1番目につながるところですが、アジャイルの手法を体感することで参加者の満足度が向上しました。自分たちの意見が反映されるというところで、よりプロダクトが自分の愛着のあるものになったという感想も寄せられていて、業務を進めていく上で、そういった気持ちは大事だと思いました。

また、アジャイル型開発を実践できる枠組みを都庁で浸透させるというのが、やはり一番大事だなと思っています。やはり試行錯誤して改善の繰り返しを許容できるという組織風土がアジャイルには絶対的に必要で、なかなか都庁では難しい部分もあるんですけれども。まずは身近な業務改善というところで我々は取り組めたらいいなと感じて、2024年度もできれば実施していきたいという考えです。

今後の展望です。このアジャイル型開発を2022年度から繰り返している中で、今度はガイドラインを作りたいなと考えています。先ほど参加してくださった組織がアジャイル型開発を実際に行う際に活用できるものを作っていきたいと思っています。それによって我々デジ局もサポートしながら、アジャイル型開発はこんなに楽しいものだということを伝えていきたいです。今開発に参加している方たちも、やはり楽しいと。大変だけど楽しいと言う。

だから考えるよりも、まずはやってみてほしいというのは、2023年の参加者も感想として持っているところです。そういった方たちが1人でも増えるようにこういったガイドラインを作って、アジャイル型開発が都政の中でも浸透していければいいなと思い、今後も活動していきます。こちらで以上になります。ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)

プレイブックに対する内部と外部の反応は?

司会者:ありがとうございました。ここからAsk the Speakerに移ります。ご質問のある方は挙手をお願いいたします。いらっしゃいますか?

(会場挙手)

質問者1:ありがとうございました。プレイブックは5月に外にオープンに共有されたと思うんですけど、都庁内からの反響とかフィードバックないし都庁外からの反響やフィードバックはどんなものがあったかをちょっとお聞きしたいなと思いました。

下家:内部。外部は杉井課長に話していただくとして、正直内部よりもみなさんがいるような外部からのほうがすごく反響が良くて、ありがたいなと。我々の取り組みを受け入れてくださって、理解を示してくださったこと。外部というか、アジャイルをよく知る方々が応援してくださったというところに本当に感謝しています。我々も今後も続けていきたいし、もっと良くしていきたいという気持ちになっています。

内部の話ですが、やはり「アジャイル」がキーワードとしてありつつも、なかなか取り組むのは難しいし、現状の業務はあるし、それにプラスαで参加するのはやはり難しい面もあります。なので2023年の課題としては、ここにはちょっとなかったんですが、情報発信で職員一人ひとりに着実に届くように「アジャイルとは何か」のアジャイル通信みたいなものを漫画にして発行しているんですけど、おもしろく知ってもらえばいいかなという取り組みをやっているところです。

杉井:そうですね。外はちょっと今アレなんですが、内部もあるというか、2023年も6月か7月くらいに「今年もアジャイル事業をやるので、やりたい局とか組織はありますか?」と言ったら、何件ぐらい? 20件ぐらい? 15件ぐらい?

下家:そうですね。そのぐらいです。

杉井:応募があったので、やはり東京都庁の中でも「やってみたいな」という方が着実に増えているんじゃないかなと思っています。僕はふだんは都庁にいるというよりは、62の区市町村の支援でいろいろな島だったり、多摩のほうだったりを回っているんですけど、そこでもたまに「杉井さんのアジャイル、良かったですね」みたいなお話を聞くので、都庁だけじゃなくて東京都の62の区市町村の中でもどんどん広まっていけたらいいなと思っています。

質問者1:ありがとうございます。私も5月に拝見した時に、すごくワクワクした気持ちと応援したいなという気持ちになりました。

一同:ありがとうございます。

質問者1:ありがとうございます。

司会者:ありがとうございました。

アジャイルな組織にするために工夫していることは?

司会者:その他にご質問はいかがですか?

参加者1:「Miro」から1個ピックアップします。「官公庁だとすごく上下関係や所属の違いを大切にしていそうだと思うのですが、フラットな組織でやっていく、アジャイルにしていくためにどのような工夫をされていますか?」と。これは各企業さんもいろいろあるような気がしますが、いかがでしょうか。

下家:そうですね。私もそれをすごく思っていたんですけど、やはりデジタルサービス局は違うんです。デジタルサービス局から全局に発信して変えていくという気持ちが我々の局としてはあると思うのですが、すごくフラットで隣に部長と呼ばれる私から2段階上ぐらいの偉い人がいたり、フランクにいる空気で言いたいことを言えるんですね。

我々の組織の一番偉い人は宮坂副知事(宮坂学氏)ですが、宮坂副知事も本当にフラットというところを大事にしていて、一般職員だったり新しく入ってきた職員の意見を聞いて、それを吸い上げてもっといい組織にしていく。フラットな組織にしていこうということを積極的にやっていらっしゃいます。

その中でアジャイルにしていくために、やはり他の組織の人は「そうは言っても、デジタルサービス局がそうだと言っても、うちは違うよ」というスタンスだとは思います。アジャイル開発の中でチームワークがとても大切です。チーム組成やチームビルディングでよくゲームをやってチームも仲良くしていこうとか、そういったことはあるかと思うんです。

ですが、デジ局としてやってきたことは、まずわからない単語はわからない。質問したいことは素朴に質問する。誰であっても何を言っても躊躇しないというところで、まずデジ局から「こんなリテラシーぐらいの人間が、この開発においてこの言葉を発言してもいいんだよ。やりたいこともいったんは言ってよくて、そこからどう実現するか、実現できるかどうかはチーム次第だよね」というところを自らやっていたという感じです。

司会者:よろしいでしょうか?

参加者1:はい、ありがとうございます。

「楽しい」に持っていくまでに工夫したことは?

参加者1:あとお一方、時間としては目一杯な感じなんですけれども、いらっしゃいますか?

(会場挙手)

参加者1:じゃあ、目が合った方で最後にしたいと思います。

質問者2:お話をありがとうございました。株式会社Phone Appliの杉山と申します。付箋にもありますけれど「一般化されていない横文字はできるだけ使わない」というのは、私もすごく共感しています(笑)。

質問させてください。最後にやはり「楽しかった」という感想がすごく強く響いて、私もやるなら楽しくやりたいなというところがすごくあります。その「楽しい」に持っていくまでになにか工夫されたこととか、みんなが自発的に自然にそうなっていったのかというところをお聞かせいただきたいなと思いました。

下家:そうですね。まぁ、楽しめるように工夫したというよりも、公務員の仕事をしていると、わりとまったく違う手法で物事を進めていくんですね。普通の業務だったら自分が作ったものを上司に見せて、その上司がまたさらに改変を加えて、またさらに上の上司というふうに物事が決まっていって、自分の意思が直接作りたいものに影響を与えられるかというと与えられないものも往々にしてあります。

そんな中で、アジャイルはステークホルダーがいて、随所随所でステークホルダーの意見は取り入れるものの、ただ物としてすぐに1週間や2週間で自分の思い描いていたものが出来上がって、それをレビューしたらすごく受けて、またさらにこうしたいねというアイデアが閃いてくる。そこはたぶん都庁の文化にはあまりないものだったので、それが我々にとっては楽しいんですよ。

なのでアジャイルがけっこう楽しいなというのは、いろいろ工夫したからとかではなくて、本当にエンジニアと同じ目線でスクラムマスターもお互いに言いたいことというか、みんなで言いたいことを言って作り上げていくという風土がとても楽しかったんだと、私は一緒に会議に入っていて思いました。

質問者2:ありがとうございます。

司会者:それではお時間となりましたので、ご講演を終了させていただきます。杉井さま、下家さま、ありがとうございました。

(会場拍手)

杉井::ありがとうございました。