「プログラミングを学ぶ」ではなく「要件定義を学ぶ」

田中邦裕氏(以下、田中):あと13分ぐらいになったので、今後の展望にいきたいのですが、その前に、質問が7個ほど来ているので、みなさんに聞きたいと思います。

一番投票数が多い質問が、「非エンジニアでAIを使ったスマホアプリを作りたいんだけれども、プログラミングをそもそも学ぶべきか?」という質問です。

生成AIがある今、何をどのように学ぶべきなのか。プログラムを学ぶべきなのか、それ以外になにか手段があるのか。目的によっても違うのですが、ざっくりとしたこの質問に対して、なにか答えられる方はいますか?

比戸将平氏(以下、比戸):じゃあ、私から。

田中:はい、お願いします。

比戸:先週ぐらいに、NVIDIAのジェンスン(Jensen Huang氏)が、「今後はAIがプログラムを書くから、もうプログラムを学ぶ必要はないよ」と発言したのが切り取られて、ちょっと炎上しているみたいなことがありました。

田中:ありましたね(笑)。

比戸:あれはたぶんちょっと文脈を取り違えていて、これまでもアセンブラからC言語、C言語からもっと使いやすいPythonという、高次のプログラミング言語への移行みたいなことはありましたが、それの飛躍版が今は起きているかなと思っています。

例えば、データサイエンティストの業務で、データを分析するために今までいちいち書いていたようなコードは、たぶん今、ChatGPTでもうバッて生成できちゃうので、やる必要はありません。

しかし、本当に作りたいアプリが何で、それを実現するためにはどういう機能が必要かという、その仕様を考えたり、それをプロトタイプの言語に落とし込んだりするところは、やはり人間がこれからもやっていかなきゃいけないと思います。

何を作りたいかという気持ちや、それを企画に落とし込む能力と、それを実現するための手段としてのプログラミング言語の、後者のほうのレベル感がちょっと変わってきているだけだと思います。

「じゃあ、Pythonをやることにまったく意味がない(わけではない)ですか?」というと、これまでに比べると相対的にはちょっと薄まってくるかもしれません。なぜなら、その言語が担える機能が減ってくるからです。ただ、ゼロにはならないのでというようなところかなと思います。

田中:なるほど。確かに学ぶハードルは下がりましたよね。私はPerlerなのでPythonがそんなに得意ではないですが、「こういうコードをPythonで書いて」と言ったら書いてくれて、それを貼り付ければ動くので、それでPythonの勉強ができてきたりもします。

そういう意味だと、まったくできない人がやるとか、そこそこしかわからないけどプロになっていく途上において、生成AIを利活用してプログラムを学ぶのはありですよね。

中山心太氏(以下、中山):僕のスライドの中でも少し話をしましたが、今後は、要件定義を書いたらそのまま動く時代になると言いました。そういう意味では、「プログラムを学ぶべきか?」と言われるとちょっと懐疑的で、要件定義を学ぶべきなんですよ。

田中:なるほど(笑)。

中山:つまり、ITの言葉で何をやるべきかをちゃんと書き下せることです。それが書き下せたら、そのプログラムは最悪自動生成されるか、その言葉がそのまま実行されるかという未来には、たぶんそこそこ(の可能性で)なります。

田中:なるほどね。

中山:プログラミングが必要ないというのは、たぶんこういう文脈だったと思うんですが、ある程度の要件定義は絶対に必要なんですよ。本当にロジックが必要なところだけ人間が手でコードを書くみたいな感じになって。

今でもPythonやPerlでコードを書いて、本当に速度が必要なところだけCのライブラリを使う、もしくはCで書いたりするわけですね。

それと同じことがこの後起こると思っていて。ふだんはLLMでプログラムを自然言語で書くけれど、本当に速度が必要な場所、本当にセキュリティが必要な場所、本当に確実性が必要な場所だけ、LLMじゃなくてPythonやPerlやRubyでコードを書くみたいなことが将来来るんじゃないかなと思っています。

求められるのは「暗黙知を形式知にしてコンピューターで実行可能にする」人材

田中:あと、もう1つ質問が来ています。「賢い人材になる必要があると学びましたが、日本企業は均質人材を育ててきた。これからは、どういうふうな人材育成が必要か?」という質問がありました。

せっかくなので、中村さんいかがですか? 均質じゃなく、AI時代になると違う人材育成が必要なのかということなんですけど。

中村龍矢氏(以下、中村):そうですね。先ほどのプログラミングの質問もそうですけど、みなさんが学ぶことに対してすごくドキドキされているかなということを質問2個から感じています。

「コンビニ行ったらどうですか?」みたいなことだと思っているので。プログラミングを学ぶのはコンビニ行くぐらい簡単なので、「コンビニ行ったら?」と思うぐらいの気持ちしかない感じです。

未踏コミュニティで個人的にやりたいなと思っているのが、「プログラミングは簡単です」と言いまくることです。けっこう難しかった時代、先輩方が難しいイメージを出しちゃっている可能性はあるのですが、(プログラミングは)どんどん簡単になっていて、コンビニに行くぐらい簡単なので。悩む時間がもったいないので、やったらいいと思うんですよね。

というのが、先輩方がすごく真面目な回答をされている中での、すごく若者の非常にシンプルな回答です。

田中:ありがとうございます(笑)。私は車の免許がないのですが、ゴルフをせざるを得ない立場になって、ゴルフ場に行ってカートを運転して、いつもぶつけるんですよね。

正直、プログラミングよりも車を運転できることのほうがよっぽど学習コストが高い気がするので、みんなが車運転しているのに、パソコンを学べないのはおかしいんじゃないかって、雑な振りをしているんですけど……今、なんかマイクを持ちましたけど、なんかありました? 

中山:僕から今の話に対してちょっといいですか。均質な人材と言っているところにもうちょっと言語化が必要で、日本企業における均質な人材とはなにかというと、人事異動してもうまくやっていける人材なんですよ。

日本企業は基本的に人事異動と育成がセットなんですね。だから、どんな部署に人事異動していってもやれる人材が、これまでの人材だったわけです。

新しい部署でその場に埋まっているノウハウを肌で吸収して、暗黙知を暗黙知のままラーニングして実行する能力が、“均質な人材”の答えなんですよ。

これから先は何が求められるかというと、暗黙知を形式知にして、コンピューターで実行可能にする人材なんですね。だから、尖った人材がほしいというわけじゃなくて、暗黙知を形式知に変換できる人材がほしい。

人事異動をしてうまくやっていける人材の価値は、じわりじわりと落ちてきているというのが、今起こっていることだと思います。

田中:なるほどね。

比戸:そうですね。今お話しされたことは、僕もすごく納得がいくところですね。言葉にしてもらって、非常に腹落ちしました。

田中:なるほど(笑)。

比戸:形式知化すれば、デジタルの世界に落とし込めばいろいろな賢いもの、プログラミングやAIで効率化できたり、スケールさせられたりするので、「いかにその世界にいろいろな業務を引きずり込めるか」というところに価値があります。

なので、言われたことを手作業のままずっとやっている人材は、そんなに価値を生まないというところがどうしても出てくるんじゃないかなと思います。

田中:なるほど、ありがとうございます。

人材獲得・人材育成のどちらが早いかの結論が「年100人をAI人材教育に回す」だった

田中:ちなみに、比戸さんに対してなのですが、「ダイキンさんでは大学まで作って育てている。経営陣は、最初からAI利活用に理解があったのか? それとも、時間をかけて経営陣が変わったのか?」という質問です。(比戸さんは)2023年に入ったばかりだということですが、どのように感じますか?

比戸:たぶん前者に近くて。経営陣はどこかの段階で、「これからはデジタル人材がものすごく重要である」ということに気がついたと。自分たちの会社でやるためにはやはり人材が大事で、人材を獲得する、あるいは育成することのどちらが早いかというところで、年100人をAI人材教育に回すということをバンッて決めて、いきなり始めたというところですね。

そこはたぶん普通の会社とは違っていて、普通の会社はもっとボトムアップでやっていかないといけないのでけっこう時間かかると思います。人事部が「AI人材を揃えたいので、100人そうやって教育に回したいです」と言っても、絶対落とされると思うんですけど。

田中:そうですね(笑)。

比戸:(弊社では)それがトップから降ってきて、「やり方は任せるからやれ」と言って進めたみたいなところがあるので、そこはちょっと特殊な、稀有な会社かなと思います。

田中:なるほど。私は関西経済同友会というところで常任幹事をしていて、よく経営者の勉強会をするんですね。AIについてはやはり重要なテーマになっているんですが、ダイキンの会長も経営企画の役員の方も、やはりほかの会社と比べても異常なぐらいにAIに対して問題意識があったり、AIに限らず、スタートアップやオープンイノベーションにすごく力を入れている感じはするので、そういった、上の考え方次第で会社の将来が決まるのは、実は恐ろしいんじゃないかと思います。

ただ、絶対経営者は(このセッションを)見ていないから、ここで吠えてもしゃあないんですけど。ここにいるキャスティング・ボートを握っている方は、経営によって会社はいくらでも変わってしまうということが、今の話から伝わるといいのかもしれないなと思いました。

将来の展望を考えるなら過去を見てみるといい

田中:そろそろ締めないといけないのですが、今後のAIの展望やみなさまの考えを最後にお一人ずつ聞ければなと思っています。

ちなみに質問で残っているものは、「否定・推進、どのように対処しているか?」「リスクはどれぐらい許容できるか?」「『これを学んでおけばいい』というものはなにかあるか?」「LLMにファシリテーションができるか?」という質問が残っています。

ちょっと時間がないので、一応そういう質問があったということだけ会場と登壇者の方に共有させていただいて、最後にみなさまから、今後の展望と感想をお話しいただければと思います。お願いします。

中山:中山です。展望みたいなことはこの講演1時間通じてずっと話していたので、最後にまとめて話すことがないんですよね。

とはいえ、展望について話すんだったら、10年前どうだったか。「2015年何が起こっていましたか?」とか「2005年、20年前に何が起こっていましたか? 何がありましたか?」ということをちょっと考えてみたらいいと思うんですよ。

20年前、2005年とか2004年だったら、まだWebの記事がいくらでも残っているので、「当時の世界、どうだったかな?」とちょっと見てみるといいんですね。

そうすると、「20年でこうなったんだから、次の20年どうなる?」と、線形では引けないと思いますが、ある程度見えてくるんじゃないかな。

「当時、あんなこともできなかった」「こんなこともできなかった」みたいなことや、「何のサービスがいつリリースされた」とか(の情報)は、たぶんいっぱいあるんですよ。

なので、ちょっとそういったサービスを一通り並べてみるとか、過去に戻って10年前どうだったかをちょっと見てみるのが、展望を考える意味ではいいんじゃないかなと思います。

田中:ありがとうございました。

トレンドに影響されすぎず、自由な発想で興味のあるものを追いかける

田中:比戸さん、お願いします。

比戸:せっかく未踏なので、これから未踏をやるかもしれない若い人たちにメッセージです。このセッションは、5年、10年、生成AIやLLMブームにどう乗っかってどうトレンドを追ってやっていくかという話をしていたので、ちょっとそれをひっくり返すようで恐縮ですが、みなさんはそのトレンドに影響されすぎないでほしいと思います。

今だと、例えばベンチャーを始めるんだったら「やはりLLMブームに乗っからない手はないよね」みたいな感じにVCの人たちもたぶん言うと思いますが、それはもう国の方針みたいな、計画経済みたいなところに乗っかって予算がバンッてついて、進めている柱があるんですね。

(なので)それだけに行ってしまうとやはり不健全で、先ほど登さん(登大遊氏)もお話しされていましたが、もうちょっと遊び部屋みたいなところを作って、自由な発想で将来大きく跳ねるかもしれないものを探索する。そのために未踏はあると思うので、ぜひみなさんは影響されすぎずに、自由な発想で自分が興味あるもの、作りたいものを追いかけてほしいなと思います。

田中:ありがとうございました。

お金だけじゃなくて時間を使って使い倒す

田中:では、中村さん。お願いします。

中村:はい。今LLMはプチ幻滅期かなと先ほど話しましたが、2024年の1年間は、各業界各業種でおもしろいユースケースがバンバン見つかって、非常におもしろい1年になるかなと思います。

その時に、先ほどの経営陣の話にもありましたが、お金を使うのもいいのですが、お金だけじゃなくて時間を使ってほしいですね。時間を使って、「ChatGPT使って駄目だったから」というので諦めないで、そこからがスタートなので、そこからちょっと粘って、自分の業務で使い倒すところまでがんばるという時間を投資してもらえればと思います。今日はありがとうございました。

田中:ありがとうございました。では、以上となります。AIに関しては、先ほどお話しましたが、海外だとAI否定派の方もけっこう多いわけですが、日本は少子高齢化や生産性改善の中で、どうしてもAIを使わざるを得ません。おまけに著作権法的にも学習に非常に有利な法体系になっていたり、あとはIT人材が残念ながら相対的に安いということもあって、どんどん海外のAIベンダーが入ってきています。

ところが日本ではAIの利活用が進んでいない。これは非常にアンバランスかなと思いますので、今は(そのバランスが取れるようになるための)入り口にあると。

ただ、比戸さんがお話しされたように、あまり浮かれすぎるとどうなるかわからないところもあるので、未踏人材としては、やはりやりたいことをやる。「こういうチャンスもありますよ」という情報になればいいのかなと思っています。

では、本セッションは以上といたします。パネラーのみなさまにあらためて拍手をお送りください。ありがとうございました。

(会場拍手)

司会者:登壇いただいたみなさま、ありがとうございました。