核心に迫るスペシャルゲスト編・第2弾

天野眞也氏(以下、天野眞也):みなさん、こんにちは。

ものづくり太郎氏(以下、ものづくり太郎):こんにちは。

大幸秀成氏(以下、大幸):こんにちは。

一同:AMANO SCOPEのお時間です。

天野:イェーイ。スペシャルゲスト編・第2弾ということで、すみません、前回メッチャメチャ大盛り上がりのところで、切ってしまいました。今回は、核心に触れていきたいと思います。

大幸:核心か(笑)。

(一同笑)

今、TSMCを誘致する意味とは何か?

天野:大幸さん、太郎さん、引き続きよろしくお願いいたします。

ものづくり太郎:お願いします。

大幸:お願いします。

天野:では、ちょっと時を戻しまして……前回、大幸さんが、今話題のTSMCを切り出したところから、よろしくお願いします。

大幸:みなさんもご存じだと思います。熊本にTMSCが進出してくるというか、日本からラブコールを出して応えたとも言われていますし、正確な報道がなかなか出てこない。

天野:そうですね。

ものづくり太郎:そうでしょうねえ。

大幸:なんせ民間の企業なので、すべてをさらけ出す必要はないとは思いますけれど。

天野:そうです。

大幸:なので、私の推測も含みます。なぜ、2世代遅れたプロセス、製造技術でわざわざ呼ぶのか。8,000億円のお金がかかると言われています。

ものづくり太郎:すごいですね。

大幸:本当に使えるのか、そこのあたりをちょっとお話したいと思います。

ものづくり太郎:うんうん。

大幸:ポイントは、日本の半導体産業がそもそも衰退化していった理由が、日本の産業が衰退した部分がやはり大きいということです。マーケットが外に出ていきました。特に民生関係、家電関係はそうです。あと、物量が出るようなものも、だいたい海外に出ていきました。

海外で作って海外で消費するというサイクル、また、場合によっては、海外で設計して開発するというサイクルが必要なんですが、そこに迅速についていけずに、水平分業化した海外に全部ビジネスが流れていってしまったんですね。今、TSMCが出てくるということは、実は裏を返すと、日本に産業があるということなんですよね。

天野:ああ、なるほど。

ものづくり太郎:それは新しい思想というか。それは実際にどこにあるんだろう。

残された最後の砦は“車載”

大幸:残された最後の砦は車ですね。車載です。

ものづくり太郎:なるほど。

大幸:なんせ、(日本には)世界ナンバーワンの車メーカーがあります。少なくとも(世界の)トップ10に入っている車メーカーが3社あるんですね。

Tier1メーカーと言われているメーカーと、Tier2メーカーと言われてる、いわゆる車を作るためのいろいろな部品やモジュールを作るメーカーのバリューチェーンと言うんですかね。いわゆる共同体みたいなものが、よくトヨタの章男さん(豊田章男氏)が流している『トヨタイムズ』というビデオに出てきますが、日本では550万人の労働者が車産業に関わっているわけですね。そのぐらいの産業がまだ、実は成長の途中にあります。

今はコロナの影響で、若干減産しています。また、これからガソリン車からEV車に変わっていくと言われていますが、やはり日本はドイツ、アメリカと比べても、同等以上に車産業がまだしっかりしているし、これからも伸び代があるということが、マーケット目線での1つの大きなポイントですね。

天野:なるほど。

大幸:車が進化していくということは、自動運転につながっていくということなんですよ。

自動運転には何が必要かというと、CMOSセンサが要ります。あと、当然LiDARとミリ波(これら3つは前方長距離並びに車周辺360度をセンシングし、場合によっては3次元マップを生成するセンサー)も必要です。でも圧倒的に数が要るのは、やはりカメラだと言っているんですね。モジュール単価が安く作れるから、複数個カメラを置いています。

天野:確かに、Teslaなんかメチャクチャカメラが入っていますよね。

大幸:そうなんです。なので、ソニーさんもTSMCが来ることに対して「出資します」と言っているわけです。なおかつ(誘致しているのは)熊本で、実はすぐ隣なんですね。

ものづくり太郎:隣ですよね。実は僕、近くの加工屋さんに行ったことがあるんです。呼ばれて行ったんですが、マジで東京エレクトロンとソニー、超近いんですよ。しかも、そこに土地があるわけですよね。「ああ、ここに来るんだな」って思っていたんですけど。本当に車で1分くらいですよね。

大幸:そうですね。

天野:車で1分! 隣じゃん。

ものづくり太郎:隣です。

車で重要視されるのは、信頼性と温度保証

大幸:それで、なぜ2世代遅れのプロセスでいいのかというと、車に使う半導体部品は、長期信頼性を問われるんですね。だからはっきり言うと、10年はもたないといけない。

天野:信頼性という部分が大事なんですよね。

大幸:そうです。信頼性を長くもたせようとすると、微細化は敵なんですよ。なぜかというと、チップ上に配線しているアルミの太さを細くすればするほど、寿命が短くなっていくんですね。だからある程度太く残しておきたい。

ものづくり太郎:なるほど。

大幸:太くすると、チップの中のレイアウトの余裕も広げていかないといけないんですね。絶縁性を保ったり、いろんな干渉を防ぐために。そうすると、デザインルール、つまり設計基準が緩くなるんですよ。

なので、その分処理速度が落ちるということがあります。ただ、車の中で、先端の7ナノ4ナノのプロセスが必要なほど演算が要りますかということなんですね。まあ、自動運転が本当にフルで動き始めて、クラウドに聞かずにエッジで処理するんだ、車の中は全部AIが処理するんだとなると、また話は別です。

それはレベル4やレベル5の自動運転なので、たぶんこれからです。10年、20年以上先の話になってきます。だから向こう10年20年は、車産業では実は緩いデザインルールの半導体が重宝されるということなんですよ。

ものづくり太郎:なるほどね。

天野:むしろそれが今のニーズなんですよね。

大幸:ニーズですね。あと、長期(信頼性)だけではなくて、温度保証もあります。一般民生の半導体は、せいぜいプラス60℃で、MOS系のデジタルだとプラス85℃というのが一般民生で使われているものです。

天野:車だと、やはり110℃、130℃、125℃とか。

大幸:そう。最近だと150℃という話が出てきています。SiCパワー半導体だと、150℃の保証が可能と言われています。チップの熱耐性が高いので、保証できないことはないんですけどね。

でも、そういう高温保証になると、実はこの、ちょっとデザインルールが緩いほうがいいです。なぜ緩いほうがいいかというと、微細化技術を使ったものだと、高温になると、例えば漏れ電流が流れちゃうんですね。流れてもらっちゃ困るところにチョロチョロッと電流が流れる。それが寿命にも影響を与えたりとか、いろいろなことをするんですよ。

なので、2世代遅れたクリーンルームだと10〜20nmぐらいだと思うんですが、それでも車産業ではたぶん最先端ですね。

ものづくり太郎:ああ、なるほど。

大幸:唯一例外があるのは、Tesla。

ものづくり太郎:また出た。

大幸:Teslaのプロセッサはちょっと違う可能性があります。

ものづくり太郎:そうでしょうね。違うんですよね。

大幸:あれはAIをエッジで持っているでしょうから、NVIDIA系のチップと同じような流れで作られていくものだと思います。

ものづくり太郎:そうなんですよね。

大幸:だけど、駆動部分に近い、なにか制御の半導体があるとすると、それはたぶん変わらないんですね。一方で演算系は、どんどん進化(微細化)していく必要性があります。でも車自身は、やはり制御のほうが重要なんですね。スマホは制御するところ(モーターで動く部分)がないので、人とのインターフェイスと演算なんです。

ものづくり太郎:確かに、演算ですね。

大幸:はい。でも車は相手がモーターなので、制御がいる。場合によっては人が触るということなんです。なので、徹底的に速いパフォーマンスよりも、やはり品質、信頼性が大事ですよねえ。

ものづくり太郎:そうでしょうねえ。

天野:制御をするためだというところが、たぶんキーポイントなんでしょうね。

ものづくり太郎:あと、人が乗っているということがそうですね。

大幸:そうですね。

ものづくり太郎:それらの両取りをするのであれば、そのプロセスが一番であろうと。

大幸:そうですね。

アナログ半導体で大事なのは、切れるべき時に完全に切れること

大幸:太郎さんと半導体の分類をやった時に「まだアナログが残っている」という話があったじゃないですか。リニアアナログの世界。あそこも、本当は古いんですね。

ものづくり太郎:そうですね、細かくないですよね。

大幸:下手すると、100nm、130nmとかというプロセスになっているんですよ。やはり、アナログは先ほども言ったように、切れる時は完全に切れないといけないんですね。

ものづくり太郎:モーターが動き出したらヤバいですからね。「あれ? 完全に切ってるのに、動き出しているぞ」みたいな。

天野:確かに。

大幸:プロセスを進めていくと、だんだん切れが悪くなるんですよ。

天野:ただでさえ「半導体」と書くぐらいですからね。

ものづくり太郎:導体の時と不導体の時が、合わさってるから半導体なわけで。

大幸:でもそれの漏れているのとは、ちょっと別の部分なんですけど。

(一同笑)

ものづくり太郎:なるほどね。そうかあ。

大幸:隣にあるソニーの工場もCMOSセンサを作っていることは一般に公表されていますが、やはりセンサと、それを後処理する車用の映像処理プロセッサというところをやろうとしているのは、ポイントだと思いますね。

日本が狙える新しい市場

ものづくり太郎:今は、熊本の工場がなくても、そこらへんは賄えているじゃないですか。

大幸:いや、微妙ですね。

ものづくり太郎:微妙なんですか。そこはどう考えているんですか。

大幸:本体の中でやっている日本企業は、あまりないかもしれない。むしろEMSに任せている。あとは本当にもっと世代の古いクリーンルームでだましだまし流している。

なぜなら、まだエンジン車でよくて、大丈夫だから。車の設計仕様も、昔のガソリンとかディーゼルエンジン車だと、やはりサイクルが長いんですよね。5年や10年をかけてモデルチェンジしていきます。

そう考えると、まだそこに供給しないといけない物量はあるんですよね。そこに供給するためのラインは、日本のメーカーが持っているし、継続している。

天野:でも増える一方だと思うんですよね。ADAS系の領域で搭載されているのって、一部の高級車とかでターゲットとしてはまだ少ないじゃないですか。

大幸:そうそう、そうです。

天野:画像処理系の技術が、汎用車にまで当たり前のように入って、例えば「レベル2の自動運転の全車種に搭載する」なんてことになると、確かに市場はまだものすごくありますよね。

大幸:はい。なのでそのへんのやつが、たぶんTSMCを狙っているんですね。

天野:そういうことですよね。

ものづくり太郎:なるほどね。やはりここでも経済合理性から考えられているわけですね。

大幸:間違いないですね。台湾の企業は商売人ですから。本当にすごいですよ。割り切りも早くて、判断も早い。

天野:逆にいうと、Tier1さんやTier2さんがその供給を追い風に、そういったレベル2、レベル3ぐらいの自動運転の部品系をかなり充実させて、世界中の自動車メーカーに(売ることもできる)。このへんは別にEVもガソリン車も関係ない技術だから、また新しい市場がどんどん狙える。

大幸:それはありますね。

天野:プラスに考えることができるんですね。

大幸:そうです。だからソニーさんに次いで、デンソーさんも出資すると報道に出ていましたね。

ものづくり太郎:あれ、本当なんですかね。

大幸:わからない。

ものづくり太郎:わからないんですか。

(一同笑)

大幸:すみません。出ていたよね、ということで、真実はちょっとみなさんで調べておいてください。

天野:でも今のお話からすると、デンソーさんなんかはすごく親和性がいいんだろうなと思いました。その領域をやられている会社さんはまだまだあると思うので、そういうところはすごくチャンスなんだろうなと思いますね。

大幸:そうですね。

ものづくり太郎:確かに全体的に見ると、日本の自動車産業にとってはプラスかもしれないですよね。

大幸:はい。

(次回へつづく)