松本氏の経歴

菅澤 英司氏(以下、菅澤):つよつよエンジニア社長の菅澤です。今日のゲストは株式会社LayerXのCTO、松本勇気さんです。よろしくお願いします。

松本 勇気氏(以下、松本):よろしくお願いします。

菅澤:簡単に経歴を見ていたんですが、(大学は)東京大学の工学部?

松本:そうですね。工学部の中の精密工学っていうところをやってました。

菅澤:工学部のときからGunosyに関わっていたんですか?

松本:Gunosyの前に実は3社ぐらいやってて、起業したり、起業してる友だちの手伝いをやったり。

菅澤:学生時代からいろいろな起業を経験してきて、Gunosyに至る感じなんですね。GunosyでCTOにまでなったんですか?

松本:GunosyでCTOとかをやって、DMM.comという会社のCTOをやって、LayerXのCTOです。

菅澤:相当CTOを経験してきていると。

松本:そうですね。実はキャリアのスタートがCTOで(笑)

菅澤:さらに今はCTO協会の理事もされてるということで。

松本:そうですね。理事もやっています。

菅澤:これはすごいCTOトークがお聞きできるかなと(思います)。まず、今取り組んでいることを聞きたいなと思います。

松本:今だと所属は2つで、株式会社LayerXの代表取締役CTOという肩書きで、主に事業2つに軸足を置いて管轄しています。管轄と言っても代表なので、もう1人の代表の福島も同じように、僕も全体を見ます。福島は少しSaaS側にいて、僕はそれ以外の事業をサポートしている。

“代表取締役CTO”の理由

菅澤:代表取締役CTOというのも、またちょっと珍しいというか。

松本:少ないっちゃ少ないかもしれませんが、代表取締役CTOを意図して置いてる会社さんはいるみたいです。

菅澤:それはどういう経緯でしょうか。

松本:経緯は調べていませんが、例えばソフトバンクの宮澤社長、彼はもともとCTOですよね。僕らがそういう肩書きにしてるのは、とにかく「僕らはテクノロジーの会社だ」「ソフトウェアを使って経済活動をデジタル化する」というのがミッションなので、ちゃんとした意思表明という意味でも、代表取締役にテクノロジーの人間を置こうというのと、経営陣も半数以上をエンジニアにしていく。

菅澤:確かLayerXの社長さんがGunosy時代の(創業者社長)。

松本:そうですね。Gunosyの創業者社長なんで。

菅澤:創業者で、社長さんもエンジニアなんですよね。

松本:そうなんです。Gunosyの広告エンジンの最初のバージョンは彼が作っていたり、そもそもGunosyのアルゴリズムも作っています。彼がアルゴリズム系の開発を管轄して、僕はそれ以外のところを全部巻き取るようなことやっていたので。

菅澤:代表2人がバリバリのエンジニアだということなんですね。

松本:今、福島はコード書かないです。完全に代表取締役CEOの仕事をしている。

LayerXが取り組む3つの事業

菅澤:今、LayerXがやってる事業というか、取り組んでることはどのようなことでしょうか。

松本:主に3つあって、1つはみなさんがよくわかるSaaSです。経理活動の中で請求書を受け取って処理する部分を効率化するプロダクト、「LayerX インボイス(現:バクラク請求書)」というものを開発しています。

もう1つがMDM事業部と呼んでいるものです。何の略かというと三井物産デジタルアセットマネジメント株式会社という、三井物産との合弁会社。いわゆる不動産のファンドを組成して、投資家に販売してというようなことをやっている事業があります。

この中のソフトウェアを使って、アセットマネジメント自体を効率化していくこととか、新しい商品を作っていくとか。ミッションとしては、「眠れる銭をアクティベートせよ」と、すごいことを言っていますけど。

日本の社会は、みなさん知っているとおり、預金がいっぱい眠っています。企業も内部留保がいっぱいあります。これを市場に回していかないと、経済は大きくならないことはみんなわかっているけれど、なかなかできない。

だから、より魅力的な商品だったり、新しい商品とを作っていったりする。これまでの金融商品をデジタルで効率化して、誰でも手の届くところに置いてあげようという。

菅澤:個人が持ってる資産を見える化してあげるみたいな、そういうところですね。

松本:みんながアクセスできていない金融商品にアクセスさせるとかのほうが、近いのかなと(思います)。イメージは、ウェルスナビさんなどがみんなからお金を預かって、一括運用する。プライベートバンクなどでは、内部に持っていたりする商品だから、彼らがより広く提供してくれてるものだと思っていて。

菅澤:三井物産って大手財閥じゃないですか。持ち込んだんですか?「一緒にやりましょう」みたいな。

松本:僕自身入ったのが2021年3月なので、経緯としてはそういうふうに聞いています。三井物産の中のプロジェクトを一緒にさせてもらって、そこからもっと踏み込んだアセットマネジメントの次を作ってみようよ、という。

3つ目が「LayerX Labs」というR&Dチームがいて、特に今フォーカスしてるのは、プライバシーのニーズ。今日もいろいろなニュースが飛び交っていますが、僕らの情報を企業に預けるときに、不安は大きいですよね。

データはいろいろなところで人の生活にも関わってくるし、例えばレコメンドエンジンや広告って、僕らの行動を変えちゃうじゃないですか。それによって何らかの操作がされるかもしれないみたいなことで、「今やっぱりプライバシーは大事だよね」と言われている。

その中でもデータを守ったまま活用するという、相矛盾した2つを両立させる匿名化というか、秘密計算という技術の一群があって。その中の研究と、ブロックチェーンを組み合わせた技術の研究開発を今しています。

(その中で)1つ特許を取ったものがあって、それをさらに実際に活用しようということで、電子投票やそれ以外のユースケースがないのかを今探索してるところ。これは長期の取り組みでやっています。

菅澤:ブロックチェーンなどを活用して、実名かつ匿名みたいな。

松本:とかができたらいいよねと。僕の情報を預けるんだけど、企業の人はその情報自体は見れないと。だけど、それを使った計算はできるような。ちょっと不思議な技ですけど。箱の中に妖精さんがいて、妖精さんに直接情報を渡してしまって、企業はその妖精さんから決まった手続きでしか情報をもらえないというか。

例えば100人分の情報が集まって、「男性は何%ですか?」って聞いたらそれが返ってくる。「松本さんって男性ですか?」は返ってこない、みたいな。そうすることでプライバシーを守る、かつデータを集約して活用できるようにする、そんな感じのイメージの技術だと思ってもらえれば(いいと思います)。

菅澤:それが広まると、例えば投票とかもできるようになると。

松本:投票ってすごくシンプルな活動に見えてすごく難しくて。投票した結果って、ほかの人に見えちゃいけないんですよ。政治心情は見えちゃいけないし、もっと言うと、自分の意志で投票するためには、自分がどこに投票したかを知られてはいけない。

知られてしまうと、「お前でなんでここに投票したんだ?」っていう恐喝が入る可能性もあるし、投票前にいろいろと圧力をかけられて、投票したところまでモニタリングされてしまう。

これだと民主主義は成り立たないので、適切に成り立つためには、「どこに誰が投票したか」をちゃんと秘匿化しなきゃいけない。見えないようにしなきゃいけない。そこにちょうど今開発した技術がぴったりはまるので、使っているということです。

LayerXの組織設計

菅澤:LayerXさん自体は、今何名ぐらいいるんですか。

松本:今は37名ぐらいかな。

菅澤:37名ぐらいで、エンジニアが中心ですか?

松本:そうですね。半数はエンジニアですね。

菅澤:会社自体は何年ぐらい?

松本:もともとGunosyにブロックチェーンの研究室があって、そこが母体となってスタートした会社で、3年前ぐらいにスピンアウトして。

菅澤:スピンアウトして、またスタートアップとして始まって、3月にジョインということですね。

松本:そうですね。実は立ち上げも一緒にやっていて、研究室自体も僕の管轄でやっていたので、戻ってきたっていう感じです。みんなからすると「おかえり」っていう感じですね。

菅澤:どんどん人も増やしている感じですか?

松本:そうですね。特にSaaSの事業で一番大事なのは、プロダクトそのものではなくて、それを改善できるチームだと思っているので、そこを評価しなきゃいけないよねと。

プロダクトをエンジニアとして見ていて、とてもおもしろいんですよ。組織を大きくしていくにあたり、けっこうモジュラーに設計していくというか、例えばIDを管轄するものとか、請求書を管轄するものとか、OCRやるものとか、クラスターを分けて設計していったりとか。

菅澤:今、そういう組織設計をされてる? 

松本:そうですね。そういう組織設計をしないとスケールしない。組織設計と、そこにソフトウェアアーキテクチャも当てはめていくような。両面の設計をしながら拡大していくところです。

菅澤:ソフトウェアアーキテクチャも見ながら、組織のアーキテクチャも見ているという。

松本:そうです。

菅澤:ただ、(松本さんは)戻ってきたじゃないですか。けっこういろいろな動きをされてるんですか?

松本:そうですね。「こういうふうなチームにしていくべきだよね」「こういう採用があるべきだよね」「ここ拡大できるようにしないといけないよね」そういう話をしながら、それに合わせた採用活動もしています。

「これを今拡大していこうね」というタイミングで、「アーキテクチャ興味あるよ」「Go言語好きです」とか、事業とソフトウェアを組み合わせながら、どう設計していくか。「勉強してみると面白いな」と思っている人にはぜひ来てほしいなと思うので、マッチする人を今どんどん採用しています。

菅澤:前職はDMM.comのCTOで、エンジニアだと何人ぐらいいたんですか?

松本:ディレクションのメンバーも合わせて、見ていた管轄範囲で何人ぐらいいたのかな。

菅澤:そうすると、大きく変えるにはけっこう時間がかかることになる。

松本:そうですね。ただ、エンジニア組織が2年でけっこう変わったと思っていて、今はビジネスサイドをどうするかみたいなところも考えながら、いろいろあってLayerXに再ジョインした。“いろいろ”というのはコロナがきっかけなんですけど。

菅澤:そのあたりの話もあとでお聞きしますが、大きい会社のCTOもやりつつ、今またあらためてスタートアップもやる。学生時代はいろんな起業の経験をされて、今、またコードもけっこう書いてるみたいな。

松本:そうですね。毎日コードを書いてます。

菅澤:組織をいじったりしながら、コードも書くと。

松本:組織をいじることっては実は少なくて、僕がLayerXのメンバーを好きだなと思うのは、目的意識が全員しっかりはっきりしている。こちらからきれいにディレクションしなくても動けている状態なので、僕自身もコードを書いて、どちらかというと生産性が最大化するように、みんながちょっと忘れてることとか、ちょっとつまづいてるところとか。

菅澤:コーディングしながらのコミュニケーションと、経営的なコミュニケーションって、ちょっと違いあるかなと思ったりするんですけど。

松本:経営の話をするときは、とにかく自分と相手がそれぞれ知ってること・知らないことの整理をして、ファクトに基づいてちゃんと意思決定できているか、優先度がちゃんと見えているのかを整理する作業になるので、手を動かすというよりは、考えをまとめて上げる。コーディングは目の前の(ことをやる)。

菅澤:「そんなこと言ってらんねぇわ」みたいな。

松本:「この設計はこれでいいのか」みたいな。

菅澤:ちょっと楽しそうですね。

松本:コーディングは楽しいですね。

LayerXのこれから

菅澤:ちなみに、LayerXの名前は、どういう由来なんですか?

松本:もともとはブロックチェーンの中で、“Layer1”と“Layer2”みたいな技術名があったんですよ。ブロックチェーンそのものの上で処理すること、ブロックチェーンにもう1層かぶせて、より効率的な処理をする技術を総称して、“Layer1”“Layer2”みたいな名前があって。LayerXは、僕が適当に提唱したような気がしてるんですけど。

菅澤:命名したんですか?

松本:ただ、僕の中でちょっと経緯が曖昧になってますね。DMM.comに行ってる間に記憶が曖昧になっちゃって。

菅澤:LayerXという会社は、将来的にはどうなっていくんですか?

松本:僕らの取り組みは、今3つの軸に分かれてると僕は思っていて。セクター的には企業の経済活動と金融活動と、あとは行政系もやってるんですね。この3つの軸があるのと、取り組みとして短期・中期・長期とあって。

短期、明らかに見えているニーズは、SaaSで作っていこう。まず深堀りして、ニーズを明らかにしていくところで、合弁会社だったり、それ以外にも深い取り組みができる方法はあると思うので、1個の業態に深く入り込んでいくことをやっているます。

さらに長期のところでは、新しい技術を研究しながら、新しい事業を作っていく。実はこれってそれぞれがすごく関連していて。長期の技術があるからこそ、いろいろな会社と連携することができて、そこで生まれたニーズをもとに一般的なニーズを拾っていって、それがさらにSaaSにつながって、より多くの人にソフトウェアで届けられる。

それが届くと、さらにそれを使って自社の深掘りも効率化できる。これをぐるぐる回していきます。LayerX、僕らのあり方というのは「すべての経済活動をデジタル化し続ける」になるので。

菅澤:ありがとうございます。LayerXや今やってる活動についてはお聞きできたんですが、(松本さんの)エンジニアとしての論理的な部分と、熱い部分が同居していること。次回はどうやって今の松本さんができていったのかみたいなことを聞きたいなと思います。ありがとうございました。

松本:ありがとうございます。

(次回に続く)