100年に1度のパラダイムシフト
中田真吾氏(以下、中田):デンソーの中田です。よろしくお願いします。私からはデンソーが電動航空機に取り組む理由として、まずは「今地上交通に起こっている変化」と「空の移動革命」、この2つの面からお話しいたします。その後、デンソーが定義する空飛ぶクルマとは? についてお話しします。
はじめに、デンソーが電動航空機に取り組む理由についてです。今自動車業界では、100年に1度のパラダイムシフトが起こっていると言われています。ではそもそも、100年前に何が起こったのか?についてお話したいと思います。
こちらは1900年のニューヨーク5番街の写真です。この写真を見てわかるとおり、当時、人々の交通手段は馬車でした。通りにいる乗り物は、すべて馬車です。
そしてこちらが1913年の同じニューヨーク5番街の写真です。見てのとおり、通りのすべての乗り物が馬車から自動車に変わっています。1908年にT型フォードが発売され、このようにあっという間に人々の乗り物が様変わりしたということになります。この時が、まさにモビリティに対して大きな変革が起こった時といえます。
そしてその後100年間、自動車は本質を維持したまま進化してきました。その本質とは、内燃機関で走り、閉ざされた環境の中でドライバーが自ら運転する。そして、その自動車を自ら所有して使用する、というものです。
その自動車が、取り巻く環境の変化によって大きく変わろうとしています。
「温暖化」「大気汚染」「都市化」という、社会環境の変化、「情報化」「知能化」といったテクノロジーの変化。そして、所有からシェアという「価値観の多様化」「消費行動の変化」も起こってきています。
自動車の技術革新「CASE」
こういった社会環境の変化によって、自動車は今まさに大きく変わろうとしています。それが「CASE」と呼ばれる技術革新です。閉ざされた環境だった自動車の車内が、インターネットによって外部とつながり、そしてドライバーが自ら運転していたのが自動運転化される。
また個人所有だった自動車が、シェアリングにより多くの人々が1つのクルマを使うようになる。そして内燃機関で動いていた自動車が、電動で動くようになる。このように、自動車は今まさにT型フォード以来の100年に1度の、変革期を迎えようとしています。
自動車だけでなく、地上交通全体を見渡してみますと、先ほど紹介したようなシェアリングで使われる自動車を含めて、地上交通すべてのモビリティがシームレスにつながって、すべての人々が自由に快適に、かつ安価に移動できる。こういう「MaaS(Mobility as a service)」と呼ばれる概念が社会実装されようとしています。
こうしたモビリティ社会の進化は、地上交通だけにとどまることなく、空の移動も含めて広がっていくと考えています。この図は私たちが描く将来のモビリティ社会像です。先ほど説明したように、最適化された地上交通を、手軽で身近な空の移動がつなぐ。それによって、快適で短時間に家から目的地までがつながると考えています。
こういうモビリティ社会実現の肝となるのが、空の移動革命であり、この空の移動革命を実現させる空飛ぶクルマは新たなモビリティ社会の象徴的な存在になると考えています。
私たちは地上交通の革新に貢献するのはもちろん、空の移動革命実現にも貢献することで、新たなモビリティ社会実現を目指します。
デンソーが定義する“空飛ぶクルマ”
次に空の移動が身近になることの“うれしさ”について簡単にお話しします。
1つ目は、点から点の直線移動が可能になるということです。地図で示しているのは、徳島市から海を挟んだ向かいの南紀白浜アドベンチャーワールドに行く道のりです。地上のクルマを使って行こうとすると、この青で示しているように、グルっと回っていくことになり、4時間弱かかります。
電車を使うとさらに回って行くことになります。高松まで行って、そこから瀬戸大橋を通って、新幹線で新大阪まで行き、そして特急でまた南に下ることになり、さらに時間がかかるんですね。これを空のモビリティを使うと、一直線で、15分で行けるので大きく時間を短縮できる。これが、まさに点から点への直線移動のうれしさといえます。
もう1つは右にあるように、渋滞の回避ができるということです。上の写真のように、都市の中は頻繁に渋滞が起こります。なので、物理的な距離は短いのですが、時間的にはとても長くかかる。こういうシーンに出くわすことは、よくあると思います。空の移動を使うと、当然渋滞知らずなので短時間で移動できます。
下の図がUberが試算した、サンフランシスコのマリーナからダウンタウンに行く道のりの時間です。自動車を使うと1時間40分かかるこの道のりが、空の移動だと15分で移動可能となります。このように、空の移動は移動時間を大幅に短縮し、快適な移動を実現できる。これがまさにうれしさだと考えます。
“空飛ぶクルマ”にデンソーが出した答え
次にそのような身近な空の移動を実現する空飛ぶクルマとは何か?ということですが、空飛ぶクルマに求められる要件としては、ユーザー価値という観点から見ると、利便性と低コストが必要になります。
また社会受容という観点からいくと、クリーンで低騒音であることが必要です。そしてこの両面に共通して最も重要な価値は、安全であるということです。このすべての要件を満たせる乗り物は、eVTOL、電動垂直離着陸機と考えています。eVTOLこそが、まさに私たちデンソーが定義する空飛ぶクルマといえます。
その理由を簡単に説明すると、利便性という面では、この空飛ぶクルマは滑走路がなくても垂直に離着陸できるので、より目的地に近いポイントに移動でき、Point to Pointの身近な移動が可能となり、すごく便利だといえます。
また電動で動きますので、燃料費やメンテナンス費用も大きく削減でき、移動コストも低コスト化できます。また電動化なので、当然ゼロエミッションでクリーン。あと内燃機関でなくモーターで駆動しますので、騒音という面でも低騒音が実現できます。
そして最も重要な安全面について。写真にあるとおり、eVTOLはローターを複数持つマルチローターの形式を取っています。こういう形式を取ることによって、仮に1つのローターが壊れても、残っている正常なローターで通常どおり飛行できます。
仮に2つが異常状態となっても、残ったローターで完全に機体を制御して着陸できます。このようにマルチローター化することによって、機体として冗長設計が取られているため、非常に安全な乗り物といえます。
従来、このようなマルチローター構成を実現しようと思っても、内燃機関は大きくて重たいので、それぞれのプロペラに内燃機関を搭載するのは不可能でした。ですが、電動化によって、より軽量で小型のモーターで駆動することが可能となり、マルチローターの構成を実現できるようになるということになります。
このように電動化技術は、空飛ぶクルマ実現の重要な要素となります。私たちは自動車で長年培ってきた電動化技術を進化ささせることで空の移動革命を実現させ、先ほど説明したような新たなモビリティ社会の実現を目指して行きます。
そのメッセージを込めた動画をご覧ください。
電動化製品ブランド「ELEXCORE」
最後に、デンソーの電動化技術を入れ込んだ、電動化製品のブランド「ELEXCORE(エレックスコア)」について紹介します。
このELEXCOREは、移動を持続可能にするための電動化製品のブランドです。デンソーは、よりよい電動化製品を普及させることで、サステナブルな移動の実現を目指していきます。そしてこの技術は、当然空用のモーター、インバーターにも搭載されます。
これが私たちが開発する電動航空機用の電動推進ユニットです。誤解のないように申し上げますが、私たちは空飛ぶクルマの機体自体を開発するわけではなく、空飛ぶクルマを実現させる肝となるローターを電動で駆動する電動推進ユニットを開発します。
それが右側にある写真の物です。黄色で書いていますが、この部分にモーターとインバーターが搭載されています。この電動推進ユニットはモーター、インバーターをそれぞれ2個並列につないで、この上にプロペラがつながります。
プロペラ1個に対してモーター、インバーターは冗長構成を持たせています。仮にこのモーター、インバーターがそれぞれ壊れたとしても、残っているモーターとインバーターでプロペラを正常に回せるような安全設計をしています。
ちょっと角度を変えた写真です。デンソーのロゴの下に、ELEXCOREというブランドのロゴが入っていると思います。私たちは、このELEXCOREの技術を電動航空機用の電動推進ユニットにも投入し、開発をしています。
以上、私たちが自動車で培った技術を空に転用して、空飛ぶクルマを実現させることを説明しました。私たちとしては、空で終わるのではなくて、空で磨いた技術をさまざまなモビリティに展開していきたいと考えています。
そしてあらゆるモビリティの電動化を実現することによって、クリーンで安心なモビリティ社会を築いていきたいと考えています。最後に、そのメッセージを込めた動画をご覧ください。
将来モビリティは、利用者のニーズに合わせて多様化していきます。乗用車、大型バス、パーソナルモビリティなど、あらゆる移動のシーンで電動化は進展すると考えられます。
デンソーは多様なモビリティの電動化に応えていくため、クルマの技術をベースに、電動化製品の開発を拡大します。その1つとして、空のモビリティにモーター、インバーターを展開します。
さらに空のモビリティで必要とされる製品の超小型軽量化の開発を進め、それを用いてほかのモビリティの進化へと還元します。