2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
ビズリーチ取締役対談(全1記事)
提供:株式会社ビズリーチ
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竹内真氏(以下、竹内):よろしくお願いします。多田さんがビズリーチに入社したのは2012年ですよね。
多田洋祐氏(以下、多田):そうですね。前職は人材紹介業の領域で起業していたので、ビズリーチに入社して、ものづくりの人たちと働くことやものづくりの会社の考え方を学びました。竹内さんからは、プログラミングの研修もしてもらったりしましたね。
竹内:PHP研修をやりましたよね。
多田:そうですね。それまでは、コードがきれい・汚いというのも、何を意味するのか正しく理解していなかったのですが、Hello Worldから書かせてもらい、構造を理解できるように説明してもらいました。
竹内:多田さんは前職では人材紹介事業を経営していたので、領域は大きく変わっていませんが、ビズリーチはインターネットでビジネスの構造から大きく変革をしようとしてきましたよね。これまでの経験と比べて、どのような点で違いましたか?
多田:経営の在り方と、ものづくりの考え方という2つの観点から話したいと思います。
人材紹介事業で起業していたときは、自己資本1,000万円からのスタートでした。キャッシュフローを過剰に気にして、目の前のお客様に価値提供をしていくことがメインになり、中長期の投資を考えられる状態ではありませんでした。
私がビズリーチに入社した2012年は、まだ20、30人のときで、キャッシュが潤沢にあったわけではないにも関わらず、目の前の売上よりも中長期でプロダクトを作る投資期間がどのくらいあり、投資に対してこれだけ回収しようということが重視されていました。当たり前の話だと思いますが、経営の在り方において、ものづくりとはこういうことなんだと体感しました。
また、ものづくりの考え方で言うと、竹内さんがとにかく私たちに伝えていたのは、「セールス側の要望はHOWまで伝える必要はない」ということです。何を実現したいのか? という要望を伝えれば、アーキテクトや作り方はエンジニアがやるから、と。
例えば「このボタンはここに設置してほしい」と伝えると「なぜ?」という質問が飛んできます。「顧客は何に困っているのか」「どういうことが実現できれば良いと感じているのか」をどんどんと聞いてきてくれる。そこから先は自分では思いもつかないような方法で、ものづくりに携わるみなさんが顧客のペインを解決してくれたりしました。
そのときに学んだのは、エンジニアの方々に対して、WHYやWHATを伝えても良いが、HOWに口出しするのは良くないということです。「こうしたい」という要望に対して、ものづくりの人たちがクリエイティビティを持って、どうやったら最適なものが作れるのかを考えてくれます。もちろんセールス側としてこういう要望がある、こんなものを作ったほうがいいという要望はいくらでも伝えるべきだと思います。
ただ、受託的な考え方で、言われたものを作ってほしい、と要望してはいけない。ビズリーチには、僕がセールスを見る前からその文化は浸透していたので、とても健全な関係だと思います。
竹内:当時から「エンジニアとセールスが対等に意見を言い合い、コミュニケーションを取ることが重要だ」ということもよく話していて、会議もエンジニアとセールスで一緒にやっていましたね。
多田:そうですね。その前提として「お互いを理解することが大切である」という考えが、当時からありました。
セールスも、ものづくりの人の気持ちを理解しながら言うことは言うべきであると。エンジニアも言われたことをそのまま受け取るのではなく、対等に議論できなければ会議をやる意味がない、と。その前提のなかで、毎回ミーティングを始めていました。
それは未だに、ビズリーチの文化として根付いているものだと思います。お互いちゃんと背中合わせで近くでコミュニケーションを取りながらいいものを作っていく。事業とは、セールス・エンジニア・デザイナーなど、すべての職種が協力し合いながらものづくりをして初めてプロダクトが存在し、成り立つのだと考えるようになりました。この文化は、入社当時の僕にとっては衝撃でしたね。
竹内:売る側と作る側が健全に話せたら、最もコミュニケーションロスがないはずですからね。僕自身もこれは創業時から掲げていました。
僕自身の経験のなかで、営業組織とエンジニアリングの組織が分断されている環境もありました。そのような環境では、プロデューサーを介してコミュニケーションするのですが、開発するエンジニアからすると、どうしても、誰の何のためにやってるかよくわからなくなることがあります。
竹内:多田さんにとって、プロダクトのチームと一緒に働くのはビズリーチが初めてですよね。これまで働く中でギャップを感じたことはありますか?
多田:僕は2013年の8月のタイミングでビズリーチ事業の事業長を担うことになりました。それまでは、プロダクト組織は竹内さんがマネジメントをしていて、マーケやCSは創業メンバーの1人である永田信さんが見ていました。
その時にはじめて、ものづくりのメンバーのマネジメントに関わることになりました。当時、エンジニア組織は10人くらいだったのですが、最初の1、2ヶ月で壁にぶつかったんです。
冒頭で話したような、HOWに口を出してしまったことがあって……エンジニアの方の信頼を得られず、竹内さんに仲裁してもらったこともありました。
竹内:そんなこともありましたね。
多田:そのとき、開発のチケット棚卸し会議に竹内さんが出てくれて、ファシリテーターを務めてくれました。エンジニアがバックログを見ながら細かい仕様の話をするところに、僕は議事録担当で入ったこともありました。ものづくりのメンバーがどのような思考でプロダクトの要件定義を行い、優先順位をつけているのかを間近で見ることで、多くのことを吸収していきましたし、竹内さんがその場で翻訳して説明してくれたのはとても貴重な経験でした。
その1年間、決裁者は僕ですが、竹内さんや永田さんと共に整理をしながら、ものづくりの人たちとどのように事業を共創していくのかを教えてもらった時期でもあります。
竹内さんに言われて印象に残っているのは「知らないからといって、聞かないのはやめたほうがいい」と言われたことでした。理解できるまで聞け、と。それは説明できないエンジニアが悪いんだからエンジニアにちゃんと聞くように、ということでした。この時期は、僕自身が大きく変化した時期だと思います。
竹内:その後、多田さんは2017年に、エンジニアが8割9割を占めるスタンバイ事業部の事業長を兼任していますよね。
多田:そうですね。昔の僕では考えられなかったと思うのですが、ビズリーチ事業で事業長を担った経験が活かせていたと思います。
竹内:多田さんが管轄するHRTechカンパニーでは、ビズリーチ事業があり、人材の市場価値について、よく見ていますよね。
多田さんの観点から、エンジニアがこういう力を持てばさらに市場価値が高まりそうだよね、と思うことや、こういう能力を持ってるエンジニアは市場価値が高い、と思うのはどのような方ですか?
多田:そうですね。ビジネス感覚が備わっている方といいますか。それをどこまで追求するかは人それぞれだと思いますが、テクノロジーにビジネス感覚や経営・事業づくりにまつわる知識を掛け算したら、それは、エンジニアとして最強だろうなと思います。
当社でもビジネスの研修にエンジニア職の人が手をあげて参加することがありますが、マーケティングや、問題解決能力など、そのような力をつける研修に職務問わず応募してくれるのはとてもいいことだと思います。
そういう人が当社には比較的多いと思いますし、「こういう世界を実現したい」と伝えたときに、その意図を理解して「こうやってやったらできるよね」とビジネス面も理解しながら提案してくれるメンバーに、いつも感謝しています。そういう方がいればいるほど、たくさんの事業を生み出せる可能性が広がります。
竹内:そうですよね。僕自身も、そうあってほしいなと思います。これは経営者としてではなく自分の成功体験も含めて、そう思っています。一般的にエンジニアが憧れるエンジニア像を極めることは、本当に市場価値が高いのか、ということについて疑問に思うこともあります。エンジニアとして神様のような存在にはなれるかもしれませんが、市場価値というのは、最終的にその人に、稼ぐ力が備わっているかだと思うんです。
「稼ぐ力」を意識していないと、技術力に対してはお金がつくかもしれませんが、それでは誰かに使われるだけになってしまいます。エンジニアはせっかく自分で生み出す力があるので、生み出したものにそのまま価値が転化されてほしいと思うんです。
どんな価値になるかを考えてつくることができる人は、「給料」という概念よりも高い価値がつくので、そこに向かってほしいなと思います。だから、ビジネスを間近でみれるように、お金やビジネスの話をしているフロアにエンジニアにもいてもらいたいと考えています。
最初は聞いているだけでもいいんです。「あ、ビジネスの観点では、そういうことを考えてるんだな」くらいでも。ビズリーチでは、それはずっと意識的にやってることですね。
多田:事業の戦略発表も、全職種を集めて実施するじゃないですか。その時も、エンジニアの方から沢山質問をもらいます。「なぜそのように考えているんですか?」と。ビジネス上の意図をちゃんと理解して納得したうえで、関わりたいという思いが出ているんだと思います。
竹内:とくにWHYはけっこう聞いてくれますよね。
多田:はい。すごく鋭い質問がたくさんきます。WHYがしっかり伝えられるかどうか、事業長としてはエンジニアのみなさんを巻き込んでいけるかも重要だと思います。
竹内:その他にも、エンジニアの方が、お客様先に同行するプロジェクトなんかもありましたね。
多田:ありましたね。今も、エンジニアの方が同行することもありますよ。
竹内:良い取り組みですよね。多くのエンジニアが、新たな気づきを得ていたし、お客様のところへ行くと、自分たちは誰にどんな価値を提供しているのかがわかりますからね。
多田:前提に、相互理解をしようっていう文化がありますよね。そこはすごくいい文化だと思います。
竹内:そう考えると、もっとビジネス職の人たちがエンジニアの現場に入ってみるのもいいかもしれませんね。プログラミングを行うのは難しいですが、スクラムの会議に参加してみるとか。
多田:いいですね。僕がやったようにエンジニアのチケット棚卸し会議とか、言葉がわからなくても検索すれば出てきますからね。それで「ああ、こういうこと言ってるんだ」と分かりますし。
竹内:理解して、分からないことを聞いてもらえるのはエンジニアにとっても嬉しいですからね。
竹内:ちなみに、他社から組織運営について相談されたりしますか?
多田:ありますね。「ものづくりが強い会社で、セールスが全く評価されないんです」という相談をセールスのトップからもらうこともあります。そういう場合は「ものづくりのトップとセールスのトップは対等に話すことが重要」と話しています。
ビズリーチでも、お互いにリスペクトする文化が初期からあったことが、とてもよかったと思っています。人数や他の要因でそのバランスが崩れたりすることもありましたが、どちらかが弱くなったらまた戻そうとする力が働いてお互いがお互いのバランスをとろうとしていました。そうするためには、まずは組織長同士がちゃんと理解し合わなければいけないと僕は思っています。
竹内:一方で、セールスが強い会社では、なかなかプロダクトや新規事業ができないという話も聞きませんか?
多田:聞きますね。そういう場合は、「テクノロジーのトップを採用し、経営チームに入ってもらうこと」を伝えています。僕が、組織や経営を見ていくうえで、竹内さんが常にいい意味で指摘をし続けてくれました。ビズリーチでは、必ずものづくりの人が経営会議にも参加し続けています。テクノロジーに強い人材を、経営者として登用していくということをやらないと、新しい事業を創り続けられないのではないのかと思います。
竹内:多田さんは、社会人人生でプロダクトの組織がある会社のほうが長くなったんじゃないですか?
多田:そう言われるとそうですね。お陰様で。
竹内:今の多田さんには、ビズリーチのエンジニアたちはどういう人に見えますか?
多田:僕はメーカーで働いたことはないのですが、松下幸之助さんや京セラの稲盛和夫さんなど、日本の製造業界をリードされてきた経営者が大好きなんです。日本を創ってきたメーカー各社には当然「製販」両方の役割があります。今の事業をみていても同じだと思うのですが、製造と販売というのは、常に1つだと思っています。
まずは製造の役割がないと、なにも始まらない。エンジニアの皆さんは「0から1」を生み出してくださる存在です。僕には出来ないことで、とても尊敬しています。そして、信念を込めて創ったプロダクトに社員みんなの想いを乗せ、ラスト1マイルをお客様に届ける役割がセールスなのだと僕は言い続けています。
そういえば、いくつか印象的なエピソードがありまして。昔、システムに障害が出たときがありました。そのとき竹内さんは席にいなくて、僕のとなりでエンジニアのみなさんが立ってどうしようかと議論していました。
そうしたら、数分もたたないうちに竹内さんがバッと入ってきて、「1分間でお客様にどれだけ迷惑かかっていると思ってるんだ。すぐに手を動かして!」って言ってエンジニアを動かし、すぐに障害が解消されました。傍から見ていた僕は気持ちが改めて引き締まりましたね。お互いがお互いの職域に責任を持って取り組んでいるんだと実感する出来事でした。
そのような経験を通して、僕もセールスには「作ってくれる人がどれだけ努力して、プロダクトが世の中に出ているか」「それを最後に届けるのが僕らの使命なんだ」ということを伝えるようになりました。それはセールス職能を経験してきた僕の役割だと思っています。
株式会社ビズリーチ
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