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パーソナルゲノム時代が拓く未来 〜 ゲノムが生命科学・医療へ引き起こすイノベーションと未来の可能性 〜(全6記事)

遺伝子情報をもとに作る「最適なリビング」 パーソナルゲノム解析が可能にする、究極のオーダーメイド

2019年9月4日、WASEDA NEOにて、「パーソナルゲノム時代が拓く未来〜 ゲノムが生命科学・医療へ引き起こすイノベーションと未来の可能性〜」と題したイベントが開催されました。株式会社ジーンクエスト代表取締役の高橋祥子氏が登壇し、起業のいきさつやパーソナルゲノムサービスを取り巻く市場環境、生命科学・医療分野の未来に向けた挑戦について語ります。本パートでは、パーソナルゲノムを活用することで、将来的にどのような課題解決につながるかという展望を語りました。

「オーダーメイド医療」と「病気の予防」の時代

高橋祥子氏:現在取り組んでいることの話をしましたが、パーソナルゲノムを取り巻く環境がどうなっているかという話もしたいと思います。個人が自分の遺伝子情報を知っているという「パーソナルゲノム」の時代がもたらすメリットは、非常にたくさん言われています。

これは言うまでもないかなとは思うのですが、まずは「オーダーメイド医療」の実現ですね。今、実際にがんの治療の領域では、今年から日本でも制度が整いはじめたことで普及しはじめています。

みんなに同じ治療法を提供するのではなく、その方の遺伝子を調べ、遺伝子に合わせた治療法を提供していくというものですね。がん以外にも、例えばリウマチのお薬でも遺伝子を調べてから投与量を決めたりということがなされています。

次のメリットとして「疾患リスクの回避」は、まさに私たちが取り組んでいるところです。将来のリスクを知ることで予防の取り組みをして回避していくということです。これまで私たちの寿命が延びてきた理由には、最初は「栄養状態の改善」があって、次に「医療の発展」がありました。

その次、これからは「予防」だと言われています。病気の予防も全員が同じ予防法をやるのではなくて、リスクが高い人がリスクの高いことに対して予防をすることが経済的にも効果的だという論文も出ています。

パーソナルゲノムのリスクは「知ること自体」と「遺伝子差別」

ただパーソナルゲノムのメリットは他にもたくさんありますが、新しいテクノロジーが社会に入っていくときは、必ず新しいリスクも一緒に出てきます。自動車が出てきたことによって移動は飛躍的に便利になったけど、やはり事故死というのは増えたわけですね。

包丁1つとっても、料理がとても便利になって食が豊かになったけど、同じ包丁1つ使うことで殺人事件も起こせてしまうわけですよね。インターネットが出てきたことで飛躍的に生活が便利になったけど、やはりそれによる犯罪も増えたわけです。

では、リスクがあるとダメかというとそうではなく、リスクは適切に把握して乗り越えていくものです。車による事故死というのも、社会的な制度整備やテクノロジーによってどんどん減ってきて、より安全になってきたわけです。

では、このパーソナルゲノムのリスクは何かと言うと、まずは「知ること自体」のリスクです。先ほどのように分析の結果からこの病気になりやすいと知ってしまうことで、精神的な負担を受けてしまう。健康診断結果とは違い遺伝子情報は変わらないので、やっぱり知らなきゃよかったと後戻りができない。

ほとんどの病気は遺伝子だけで決まるということはあまりなく、環境要因も影響すると理解していればいいんですけれども、遺伝性疾患の中にはまだ治療法も予防法もないものも存在します。

次に「遺伝子差別」も挙げられていますね。これは実際にアメリカで問題になった過去があります。雇用と保険に遺伝子情報が使われてしまい、それは問題だということで、アメリカでは遺伝子差別禁止法ができてもう11年になります。日本ではまだそういう法律はないですね。

超高齢化社会の人々の健康寿命を延ばす

あと私が懸念しているのは、疑似科学ビジネスの横行というのもあります。先ほどのように中国のある企業が「遺伝子で何でもわかります」と謳っているように、まったく科学的根拠のないものが先に広まってしまうと、結局「遺伝子検査って危ないよね」「怪しいよね」というリスクだけが先に広まってしまって、メリットの取れない社会になってしまうんじゃないかということを懸念しています。

実際にそうなってしまったテクノロジーの悪い事例が「遺伝子組み換え」だと思っています。「遺伝子組み換え」自体が危ないわけではないんですけど、「遺伝子組み換え」と聞いた瞬間に「それは危ない」という理解をしている人がかなり多いですよね。メリットが取れなくなってしまった。そうならないために今、きちんと適切に市場を広げていく必要があるんじゃないかと考えています。

日本という国では、言うまでもなく「超高齢化社会」を迎えており、2025年には団塊の世代が後期高齢者になる次のステージがきます。そこで重要なのは「健康寿命」の延伸だと言われています。寿命もいいけど、(重要なのは)健康でいる期間の寿命ですね。

その中でいろいろ施策はあるんですけど、パーソナルゲノムもそこに貢献すると言われています。リスクを知って予防することで健康寿命を伸ばしたり、個別化医療に寄与するということですね。

アメリカでは個人向け遺伝子解析サービスを受けた人が急増

(スライドを切り替えながら)これはアメリカで個人向けの遺伝子解析サービスを受けた人数の推移です。ここ1~2年で非常に爆速で伸びているということがわかります。これはやはり、解析のコスト自体が下がってきたということもありますし、遺伝子情報によってわかることが増えてきたという技術の発展によるところもあります。

あとはGoogleですとかIBMですとか、さまざまな巨大資本がゲノムの市場に入っているということもあります。日本はおそらく、まだこの(アメリカの推移で言えば)2015年から2016年あたりの状況かなと思うんですけども、今後やはり同じような波が来るということが予想されています。

個人向けの遺伝子解析サービスを受けた人の数が増えると、それに伴ってその周辺の領域というのも発展してきます。例えばGlaxoSmithKlineがゲノムデータベースを使ってパーキンソン病の治療薬を開発するということも実際になされてきています。

あとは保険ということでは、保険料を決めるためではなく、すでに契約された会員の方に、病気にならないため、予防のために遺伝子検査を提供することもなされています。アメリカではこのような大規模なデータを取得したり活用する会社が、業界を問わず増えてきています。

とはいえ欧米と日本、アジアとで言うと、遺伝的なバックグラウンドが極めて異なることがわかっています。例えば体格も違えば、肥満のなりやすさも違う。そうすると、肥満に伴う合併症などの疾患のリスクも違ってくるということです。例えば同じ糖尿病でも、アメリカ人に関係する遺伝子と日本人に関係する遺伝子は違うんですよね。

データを集めると何ができるのか?

「データを集めると、結局何ができるんですか?」というお話をちょっとしたいと思います。先ほどのGlaxoSmithKlineの例のように、今いろいろな企業がゲノムのデータベースを持つ会社にアクセスしています。

ジーンクエストで言いますと、今30個以上の研究のプロジェクトに取り組んでいます。大学とか国の研究機関、あとは食品企業さんや製薬企業さんと一緒に共同研究を行っています。

研究テーマはかなり幅広いですけれども、遺伝子のデータと、あとは環境因子に関するデータというものにアンケートでお答えいただいています。どういう生活習慣、運動習慣なのかというものです。あとはその遺伝子情報が集まることで、どういう特徴を持っている人がどういう遺伝子を持っているのかを統計的に解析できるんですね。

例えば藤田医科大学と、うつ病や心理学的な特性と遺伝子の関係を研究しています。また、お茶に含まれるカテキンには健康効果があると言われているんですけれども、カテキンを飲んだときの血中濃度、代謝はかなり個人差があるんですね。伊藤園さんとは、その個人差と遺伝子の関係を調べています。

とくにここ1年、研究の成果を非常にたくさんの論文として発表できています。ようやく最初に思い描いた、今の研究成果を活用しながらサービスを提供し、ユーザーが増えることでデータも集まって研究もでき、それをまたフィードバックできるというサイクルが回り始めてきたというような段階です。

私は会社を立ち上げる前よりたくさんの方にお会いして協働することができて、たくさんの方を巻き込みながら、結果新しいこともできて、本当に立ち上げてよかったなと今では思っています。

遺伝子情報をもとに作る「最適なリビング」

先ほど「疾患と遺伝子の研究は非常に多いけれども、それ以外のところはまだ現状ではなかなかない」という話をしたんですけれども、最近とくに注目されているものの1つがPrecision Nutritionというものですね。Precision Medicineは、2015年にオバマ元大統領が提言したことで有名ですけれども、その方の遺伝子や体質に合わせた最適な医療を提供していくことで、医療効率を上げて医療費も下げていくというような概念です。

Medicine(医薬)ということじゃなくて、Nutrition(栄養)ということも最近注目されています。遺伝子や生体情報をもとに、個人に合わせた「食」を設計することで、疾患のリスクを予測して低減していくというアプローチがなされています。実際、とくに欧米ではPrecision Nutrition企業への出資が相次いでいる状況です。このように研究が進めば進むほど、今はまだできないような手が打てるようになっていくということです。

(スライドを指しながら)例えば、これはジーンクエストが昨年、パナソニックさんたちと一緒に取り組んだコンセプト展ですけれども、遺伝子情報をもとに創る「最適なリビング」という展示を行ったんですね。これはまだ今の時点ではできないけど、将来的にできるようになるだろう、ということをいろいろ盛り込んでいます。

最近は、肌に対する特徴と遺伝子の関係もわかってきているので、自分の肌質に合わせたベッドのシーツとか枕カバーを仮想で作って展示しました。例えば保湿しにくい人だと、水分を含んだような素材を使うということです。

あとは睡眠と遺伝子の関係についても最近、研究がいくつか出てきています。睡眠にも多様性があることがわかってきているんですね。睡眠の質とか、寝る時間などの特性に合わせた照明を作れるんじゃないかと考えられています。

あとはPrecision Nutritionということで、その方に合わせて、例えば私だと葉酸を取りにくいタイプなので、それを多く含むようなスムージーを届けるとか、いろいろな生活に応用できるんじゃないかというのを具現化しました。

日本の課題を解決できれば、世界に輸出できる

私たちが今取り組んでいる遺伝子の研究自体も推進しながら、正しい使い方を広めていくことで、その結果、個人・国・世界が抱えている課題を解決できるんじゃないかと思っています。

とくに日本で言うと、超高齢化の次の時代を迎えます。2025年問題ということで言われていますが、団塊の世代が後期高齢者になるということで、世界の中でも日本が最初にこんな時代に突入するんですね。それに伴う課題というのももちろん出てきていて、例えば認知症の問題ですとか医療費の問題について、今は介護人材を増やそうということなどの人海戦術的な発想で取り組もうとしています。

しかし、そうではなくて、こういうサイエンスのアプローチで解決していけば、それを今後、世界の国々が超高齢化社会に入るときに世界に輸出していけるんじゃないかということです。今、私の分野では遺伝子の研究と活用に取り組むことで、日本が抱える課題を解決できて、世界に発信できるんじゃないかなと思って取り組んでいます。

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