社会起業を志す学生が、社会課題を解決するビジネスプランをピッチ形式で発表し、社会起業家らのフィードバックを受けられるイベント「ゼロイチファイナルピッチ2025」。本記事では9人目のプレゼンターである市川高等学校2年生の中能真之介氏が、ナイジェリアの学生のプログラム技術を底上げして、就職先も探せるアプリの開発プランを紹介します。
大学を出てもレジ係の仕事しかない……
司会者:さあ、それでは残すところ、あとお2人です。9人目の発表者をご紹介します。中能真之介さんです。どうぞ拍手でお迎えください。中能さん、よろしくお願いします。それではピッチスタート。
中能真之介氏(以下、中能):ナイジェリアからアフリカを変える「FrontierPass(フロンティアパス)」の中能真之介です。最初に、私はゼロイチ2期唯一の17歳の高校生です。この高校生という言葉、少し覚えておいてください。
よくアフリカ大陸のことをラストフロンティアというふうに言いますが、私はこのラストフロンティアに、純粋な好奇心や自己への挑戦といった意味合いを見出しました。これが自分が起業を始めようと思った最初のきっかけです。
最初に、ナイジェリアという国について説明させてください。総人口約2億2,300万人、GDPは約5,050億ドルと言われています。これはともにアフリカ最大で、公用語は英語である点から、ナイジェリアという国はアフリカの巨人と呼ばれています。

しかしこのアフリカの巨人は近年、大きな課題を抱えています。ここで僕が会った2人の学生の意見を聞いてみましょう。最初はエンジニアのCさんです。「主に『大卒』を得るために、多くの人が大学で5年間高額を学んだ後、銀行でレジ係として働いている」。

大学院生のJさんです。「大学を卒業した同僚の多くは失業中か、自分の専門分野とは違う仕事をしており、著しく低賃金になっている」。
つまり、人口増加によって飽和した国内の人材市場があり、大学を出ても高給な職につけないのがナイジェリアの現状です。さらに残酷なのが教育格差です。そもそも大学に辿り着ける人が少ないんです。
富裕層の学生の約5パーセントは国内・海外の大学に進学できますが、中堅層、そして低所得層の学生、およそ9割以上が難関大学への入学は困難と言われています。それでもみんな大学進学を目指すんです。国内の高給な職種につくためには、少なくとも大学を出る必要があると言われています。

それだけではありません。より優秀な人材を求めて、雇用者は労働者に教育以上のスキルを求め始めています。つまり、大学で学んだことだけでなく、職務に必要なスキルを求め始めているんです。
自学と就職斡旋を同時に行うアプリを開発
中能:しかし、そもそも大学への入学(という条件)を満たさない多くの高校生が、就職競争から脱落しています。そもそもスタートラインに立てていないんです。あえて言いましょう。多くの高校生が、基礎教育のまま社会に放り出されていると言っても過言ではありません。
そこで私が作っているのが、誰もがスキルを自学し、就職先を探せるモバイルアプリ「FrontierPass」です。先ほどから左に出てきたこのピラミッドですが、FrontierPassはこの赤と緑、大学、高校から世界中の労働市場へ選択肢を開きます。

最初に、高校卒業時点のスタート地点からステップ1としてITスキルを取得し、実際にポートフォリオ(を構築)、そして実践開発を積んで就職をします。FrontierPassはこのすべてのステップを伴走します。
アプリに落とし込むと、ダウンロードしてテストに合格し、そして一定の成果を積んだ時に就職という道が開けるようになっています。そしてステップ2、ステップ3の実践、就職という点においては給与がもらえるシステムになっています。

実際に現地の教育者・事業者からヒアリングをして、初心者向けの6つのコースを開発しました。ベータ版時点での提供コースは、デジタルリテラシーやMicrosoft Office スペシャリスト、Google Workspaceなどとても初歩的な資格ばかりですが、まずはナイジェリアの高校生たちに資格を取ってもらって、さらに難度の高い資格に挑戦してもらおうと考えています。

しかし、ここで1つの疑問があると思います。どうやって実践開発を積むのか。ナイジェリアの多くの高校生は、実践開発ができるようなコンピューターを持っているわけではありません。しかし、答えは簡単なところにありました。学校のコンピューター室です。
ビジネスモデルです。私たちFrontierPassは学校、そして学生個人をステークホルダーとして認めています。携帯で使えるITスキルを携帯の中で提供し、そしてIT人材のプールとなってもらいます。

しかし、それだけではありません。月額の料金を高校からもらい、コンピューター室の提供もいただきます。そして生徒のスキル教育と、それだけでなくスキル教育指導校としての認証を我々は高校に与えます。
3,000万人のユーザー獲得と1,200万人の新規就職者の創出を目指す
中能:そして創業2年後は、それだけではありません。海外での就職の道を開いていきます。学生、そしてFrontierPassが実際に受託開発を積みながら、米国のIT中小企業への就職を目指していきます。我々はその中で、人材紹介手数料として新たな利益を生んでいきます。

そして2025年3月9日より、実際にサンデースクール(EYN Utako Sunday School:ナイジェリアの教会の日曜学校)にて試験運用を開始します。最大の競合は既存のスキルトレーニングプラットフォームと言われているUdemy、Khan Academy、Courseraといったものです。
しかし、これらには致命的な弱点があります。それは既存のグローバル教育サービスでは、就職まで伴走してくれるわけではないんです。つまり、私が最初に言っていた放り出されている高校生を助けることはできないんです。しかし、FrontierPassはこのすべてのステップを伴走します。
また、近年Andelaというナイジェリアのスタートアップが、トップクラスのエンジニアをアメリカでの就職に結びつける事業をしていますが、トップエンジニア以外はそもそもグローバル市場には出られません。そもそも高校生の構造は変わっていないんです。逆にFrontierPassは誰でもエントリーでき、誰でも学べるところから、トップエンジニアを目指すことができます。
10年後のナイジェリアは総人口2億8,000万人を超え、ナイジェリアは世界の超国家になると言われています。FrontierPassも同様に、ゼロからエスカレーターのように、最速で優秀な人材にリーチできるHRサービスとなっていきます。3,000万人のユーザーと1,200万人の新規就職者を創出していきます。


それだけではありません。我々はFrontierPassから、ナイジェリアのITインフラを構築していくスタートアップを作っていきます。実際に投資をし、その中で新しいインフラを作っていきます。アフリカ中のITインフラをナイジェリア、そしてFrontierPassから作り出します。

基礎教育のまま社会に放り出される。明日の生活が見えない毎日が、高校卒業から始まる。これらはすべて、私の同年代の学生に起きていることなんです。だから、「なぜナイジェリアなの?」「ルーツなんかあった?」ってよく言われるんですが、そうじゃないんです。
我々は今までラストフロンティアと言われてきたアフリカをニューエピセンター、新たなITの中心地に変えていきます。障壁なき教育による、国家を超えた才能が飛び交う社会をFrontierPassは作ります。ご清聴ありがとうございました。
司会者:中能さん、ありがとうございました。
人口が増えている国では、社会課題解決がビジネスにつながる
司会者:それでは中村さんからお願いいたします。
中村多伽氏(以下、中村):むちゃくちゃいいです。ぜひがんばっていただきたいですね。(言いたいことが)3つくらいあります。
まず1個目がビジネスモデル。学校に対しては絶対に無料のほうがいいです。最初に検証するところは公立ですか?
中能:最初は私立です。
中村:抜本的に課題解決するためには、たぶん公立のほうがタッチポイントとして必要なのと、逆に量が確保できたことが、むしろあなたたちのあっせん実績にもなるから、学校は無料でいい。
だからその代わり、まずはオフショアで自分たちで案件を探してきて受託して、一部ソーシングして、それが成立するようになってきたタイミングで人材あっせんするとか。たぶん順番も稼ぎ方もいくらでもあるので、学校は絶対無料のほうがいいと思います。
人口が増えてる国って本当にめちゃくちゃ良くて、その社会課題解決がビジネスになりやすい。極端な例ですけど、例えば、1億2,000万人全員から1円もらったら1億2,000万円の貯金ができるのに……みたいなやつが実現できるわけですよね。
例えばオフグリッドの領域で、基本的には無料でサービスが受けられるんだけど、ちょっとグレードを上げようとすると月200〜300円かかりますみたいな。まあもしかしたら、彼らの日給ぐらいかもしれないですけど。
でもそれが、例えば1,000万人に広がれば、月商何千万円みたいな世界線になれるので、学校から(お金を)取らずに、まずは企業から取る。
その次は、もしかしたらユーザーのマネタイズができるかもしれないっていうのは、例えばインドネシアみたいな人口増加している(他の途上国の)エドテックでけっこうやっているので、それはちょっとぜひ調べてみてください。
あと競合に出していたところは、競合ではないです。むしろ組んだほうがいいです。自分たちで教材を開発するコストをかけるぐらいだったら、自分たちは人材紹介や仕事を取ってくるという、パートナーシップにフォーカスする。むしろそっち(仕事につながる事業)のほうが参入障壁は圧倒的に高いので、そこをまず強みにして、彼らの教材を使わせてもらう。
そしたらその分のコストって、彼らにお金払ったとしても、たぶん自分らで作るより浮くと思うんですよ。なので協力関係になって、一緒にパートナーシップを広げられたらめっちゃいいので。すごくテンション上がって今日イチしゃべりました、すみません。そんな感じで、めっちゃ応援してます。
司会者:ありがとうございます。
ハイエンドの仕事以外はAIに代替される可能性も
司会者:では安部さん、お願いします。
安部敏樹氏(以下、安部):はい、ありがとうございました。正直言うと、出口のつく仕事の感じがちょっと見えないなって感じがしてて。出てくるハイエンド人材が、例えばMicrosoftに行きますとか、Facebookに行ってAIエンジニアになりました、というのはイメージつくんですけど。その場合って、たぶん今言ってる大学まで行ってさらにそこから訓練してたやつだと思うんですよね。
それで、さっきGoogleの比較的初歩的な資格取りましたみたいなところから入っていった人材が、その後、どういうチームに入ってBizDevをやったり、PMの下でどうやって動いて開発を進めてくのかみたいなところがちょっと(イメージがつかない)。
正直、ナイジェリアの高校生が1年間それでやった時の、1年後の開発力がどれぐらいかっていうので話が変わってくるんですけど。正直そこがなんとなく……。僕はこれ、好きなんですけどね。
それで教育プラス就職は、まず鉄板でいいと思ってるので、もちろん事業モデルとしてはあるんだけど、ちょっと出口の仕事の感じが完全にイメージしきれないところが気になったのが1個。
もう1個は、今から2年間学んで、2年後の出口になるわけじゃないですか? 2年後の出口がめちゃくちゃハイエンドのエンジニアリングじゃない場合、正直、けっこう大部分がAIでやっちゃえになってくるかなみたいなところがあったりする。
コーディングまで含めても、基本的にAIにお願いしますみたいなところがある時に、ナイジェリアの若者たちの未来が広がるフロンティアなのかどうかっていうのは、ちょっくら……。もちろん、そういうもの(仕事のチャンス)が残ってる可能性もあると思うけど。
それはぜんぜん否定するものじゃないんだけど、この辺の、エンジニアのキャリア的な未来像に対しての、中能さんの目利きはどんなもんなのかなってのを聞いてみたいなと思いましたね。
ハイエンドのジェネラリストは残る
中能:はい、ありがとうございます。まず、私はこの1つのスキルに尖らせることは絶対にしないなと思っています。現在、既存のAIでコーディングができるようになっているのは間違いないですし、さまざまなアプリ開発がどんどんAIに代わられてきているのは確かなんですけれども。
それぞれを接続したり、全体を見下ろすことができるような、ジェネラリストと言われる分野は、まだまだITの中では必要だなと思っています。
だからこそ私だけではなく、そういうジェネラリストがその後スタートアップになっていくモデルが一番いいのかなと。そこまでハイエンドのエンジニアになり切る必要はないのかなと思っています。
安部:ありがとうございます。まさにそこですね。たぶんかなりハイエンドのジェネラリストは2年後でも残るんですよ。つなぎ合わせをするっていうのも、あらゆるコーディングの知識と実践経験が相当なきゃ厳しいので。そうなってきた時の出口が、結局スタートアップを作るだけだと、本当に大きな雇用口になるかどうかっていうところは検証したほうがいいと思います。
たぶんその辺を分かっているんだとしたら、非常に実践型のビジネスとして高い能力のところまで一緒に教育してあげるといいだろうなと思いました。ただ、もちろんポテンシャルがあると思うんで、めちゃくちゃ応援してます。
司会者:ありがとうございました。それでは発表いただきました中能真之介さんに大きな拍手をお送りください。ありがとうございました。
(会場拍手)