社会起業を志す学生が、社会課題を解決するビジネスプランをピッチ形式で発表し、社会起業家らのフィードバックを受けられるイベント「ゼロイチファイナルピッチ2025」。本記事では7人目のプレゼンターである東洋大学4年生の竹田遥氏が、パラアスリートによる研修で“無意識の偏見”に気づくきっかけを作るプランを紹介します。
ブラインドサッカーと出会い、引きこもりから抜け出せた
司会者:ゼロイチファイナルピッチ、ここからは4人続けての発表となります。それでは7人目の方にご登場いただきます。竹田遥さんです。どうぞ大きな拍手でお迎えください。
竹田さん、よろしくお願いします。準備はよろしいでしょうか?
竹田遥氏(以下、竹田):はい。
司会者:それではピッチ、スタート。
竹田:“無意識の偏見”に気づくきっかけを作る。「パラレルダイアログ」の竹田遥です。
何かに対する偏見。偏見を持つことは良くない。社会にあってはいけない。みなさんそう思っていらっしゃると思います。しかし、もしもあなたの考え方の中に無意識の偏見があるとしたら、それに気づくきっかけはいつでしょうか?

無意識の偏見とは、例えば「女性は家庭を優先するもの」という固定観念を持った上司によって、昇進の機会を与えられない女性社員がいる。「障害があると何をやるにも苦労しそう」という先入観を持った同僚によって、本来できることや挑戦の機会を奪われてしまう、障害のある社員がいる。

社会で活躍する可能性がある人の可能性が奪われてしまう。私はそんな社会を変えたいんです。そう思うようになった原点は東京オリンピックの学生ボランティアです。
そこから3年間、私はたくさんのパラアスリートの方々と活動してきました。その1人に、今日も会場に来てくださっている加藤健人さんがいます。彼は17歳の時(から)、視覚障害によって徐々に視力が低下していき、現在は全盲の状態です。

視覚障害が分かった時。「何もできない。」そう思って高校生活が一変し、引きこもってしまった時期もあるとお伺いしました。しかし彼は、「ブラインドサッカーと出会ったことで、いろいろな経験をし、たくさんの人との出会いによって、徐々に前向きに変わっていくことができた」と話してくださいました。
無意識の偏見に気づくためのきっかけ
竹田:当時落ち込んでいた自分と同じような状況の人に、このきっかけを届けたい。その思いを持って、彼は今、埼玉市内の小学校を回って、子どもたちにパラスポーツの体験の機会を届けています。
そんな加藤健人さんの他にも、たくさんの強く温かく、そして切実な思いを持ったパラアスリートの方々がたくさんいらっしゃいます。このようなパラスポーツの体験の場は、歴代のパラアスリートの方々の思いと、パラアスリートと互いに支え合う関係にあるボランティアの善意によってつながってきた、きっかけの循環があります。

私もこの循環の中で今、社会貢献家のたまごとしてここに立つことができています。次は私がこのきっかけを誰かに届けたい。もっと多くの人に届けるために、今、ボランティアベースのゼロから事業としてのイチを生み出したいと考えています。
それが、企業向けの研修とメンター事業です。私がパラアスリートと協働し、企業の方々にパラスポーツの価値を届けます。その1つ目が、研修事業「パラレルダイアログ」です。これは、パラアスリートの経験を活かしたコミュニケーション研修です。パラアスリートと研修を開発し、社員の方に実施します。

(この事業で)解決したい社会課題は、「無意識の偏見に気づくきっかけがない」ということ。この研修をもって、そのきっかけを提供します。無意識の偏見といってもさまざまなものがあります。まずは、障害に対する偏見に気づくことから、無意識の偏見を問い直す人が増えたらいいなと考えています。
ゲームを通じてセンシティブな障害の話題に触れる
竹田:パラレルダイアログの3つの特徴。1つ目は企業ごとに異なるニーズに応じて、最適なパラアスリートの講師を提案することです。

例えば、コミュニケーションの活性化を目指す企業には、味方の声を頼りに動くチーム競技、ゴールボール(視覚障害者が鈴の入ったボールを互いに投げ合い、得点を狙う対戦型競技)の選手を紹介します。努力型のストーリーが響く企業には、厳しいリハビリ期間を乗り越えた車椅子バスケットボールの選手を紹介します。

2つ目、体験×対話から生まれる双方向のコミュニケーションです。この研修は気づき、実践、対話、変化といった流れで進んでいきます。この中でパラアスリートがどのように困難を乗り越えたのか、体験しながら知ります。そしてそれを、自分自身の課題と照らし合わせて、どのように課題を乗り越えるのか、対話しながら考える設計です。
そのツールとして、ゴールボール選手の川島悠太さん(電通デジタル所属)とパラアスリートの経験をもとにした人生すごろくを作成しました。障害の話はセンシティブで、踏み込みにくいことが課題としてあります。すごろくを体験しながら、気軽に知ることができることで、対話のきっかけを生み出します。

3つ目、実践的な体験ワークで「明日から自分もできる!」と行動の変化を促すことです。アイマスクを用いたワークで、見えない世界でもできるという感覚を体験してもらいます。具体的には、このように(動画を再生)2人ペアになって、1人の人がアイマスクをし、もう1人の人が声かけだけでどのような体操をしているのか説明をする。そうすると、「思っているよりも、声だけでできる!」「見えない世界でも怖くない」と思う人が増えていきます。
20代の男女38名の検証結果
竹田:ベータ版検証の効果です。20代の男女38名に実際に体験していただきました。その中で、「視覚障害に関する自分の中の誤解や偏見に気づいた」と思う人が90.9パーセント。「障害や難病などさまざまな困難と向き合っている人とともに、誰もが働きやすい環境を作りたい」と思う人が100パーセント。「障害や難病などさまざまな困難と向き合っている人が社会で活躍する姿をより想像しやすくなった」(と感じる)人が96.9パーセントいらっしゃいました。

ここまで社会課題の解決、体験者の変化をお伝えしました。最後に、企業のメリットです。私は、「障害者雇用の社員の離職率の高さ」に課題を持っている企業をターゲットとして置きました。
人事担当者のインサイトです。「障害者に対して、こんなにもバリアフリーで働きやすい環境を整えているはずなのに、なぜ離職してしまうのかわからない」。だけど、ある身体障害者のNさんからの話を聞いてみると、すごく共感できるんです。「環境は整っているけど、自分の障害特性を理解してくれる人が周囲に少ない」「すべてのことに配慮をされて、自分で責任を持てる仕事が1つもない」。

これ以上要望を伝えると、「障害者イコールわがまま」とくくられてしまいそうなので、避けたい、我慢する、そして同じ職場で働き続けることを諦めてしまう。すごく共感できます。

そこで提案したいのが、パラアスリートが仲介者となって、障害者雇用の社員に自分の可能性を広げるメンタリングをすること。そしてパラアスリートの経験をもって、人事の方に効果的な職場改善の方法を提案することです。
研修とコンサルティング、そして個人向けの提供を組み合わせた領域にビジネスを展開していきます。
競合比較です。同じような経験をもつ当事者がメンターとなり、寄り添いながら支援を行う「ピアサポート」をすることで、実際に効果がある、お互いにとってより良い形で職場への定着を目指すことができます。
最後に、ソーシャルインパクトです。研修を受講した人数として、10年後に5,340人を目指したいと考えています。そして、このように研修の受講者数が増えていくことで、さまざまな社会課題を解決するきっかけを生み出せると考えています。
私はさまざまな困難に向き合い、それを乗り越えてきた人の努力の軌跡は、誰かの可能性を広げると考えています。まずはパラアスリートとともに、あなたにとっての、社会にとっての希望を生み出したいと考えています。ご清聴いただきありがとうございました。
司会者:はい、竹田さんありがとうございました。
障害の中の多様性をどう定義するか
司会者:それでは櫻本さんお願いします。
櫻本真理氏(以下、櫻本):はい、ありがとうございました。やっぱり感情が動かされる体験を企業の中に取り込んでいくのは、すごく価値があることだと思います。
本当にこういう取り組みが広がって欲しいなと思った時に、おっしゃった通り、やっぱり企業にとってのメリットは何だっけというのが、一番のハードルになると思います。いろいろな選択肢がある中で、これを選択すると。
アンコンシャスバイアス研修を1時間で済ませるみたいな話ではなくて、これは体験型で、実際に苦しみを乗り越えたパラアスリートの方が来てくれて、いかに共感できる場づくりをしていくかということが本当に問われていて。
逆に言えば、そこがうまくいけば素晴らしかったという口コミもどんどん広がっていくと思うので、このトレーニングで生み出される感動体験をどんどんブラッシュアップしていけるといいんだろうなと思いました。
たぶん特に「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」なんかは、ベンチマークにされているんじゃないかと思います。ああいったところって、もう本当にいろいろな人から「素晴らしかった」って口コミでいろいろな広がりがある。
企業研修だけではなくて、個人向けに提供しているものが、じゃあうちの会社でもやってみようという形で、B2CがB2Bになっていくみたいな可能性も含めてあるのかなと思いました。
一方で1つあるなと思ったのは、「障害と言っても多様である」みたいな。障害かそうでないかという以上に、障害の中の多様性をどう定義していくのか。
どの価値をどのように届けていくのかが、さらに見えてくるといいなと感じています。アンコンシャスバイアスも抽象化すると、「自分に見えてない世界を、人は見ている」ということだと思うんですけども、そこのリアリティと抽象度のバランスが問われる。
そういう意味では、マッチング方式のように、いろいろなパラアスリートの方を送り込んでいく形がいいのか。あるいはもう1つダイアログ・イン・ザ・ダークみたいにめちゃめちゃ強いコンテンツを作って、自信を持ってぶつけに行くのか、みたいな選択肢があるのかなと感じています。
さっき「企業のニーズに合わせます」とおっしゃってたんですけど、そう言われると逆にわからないみたいな。「自分のニーズって何だろう」とわからなくなったり、その一つひとつの品質が落ちたりすることも起こってくる。
最初は1つ、もう「これをやるとこんな感動が生まれます」みたいなキラープロダクトにフォーカスして、そこから少しずつ広げていくルートもあるのかなと感じました。とても応援してます。がんばってください。
企業から選ばれるプログラムにするための課題とは
司会者:山中さんお願いします。
山中礼二氏(以下、山中):東京オリンピック2020とパラリンピックが日本に残したレガシーは何かとずっと考えていたんですけれど、もうまさに竹田さんのような社会起業家を生み出したこと自体が最大のレガシーだったのかもしれないなって、話を聞いて思いました。
1個質問なんですけれども、これまで実際にプロダクトを開発したり、トライアルして、企業にもマーケティングをしてみたかと思うんですが、そこで何か壁にぶつかったことはありますか?
竹田:ありがとうございます。ちょうど壁にぶち当たって考えたのがメンター事業です。やっぱり社会課題の解決とパラアスリートの活躍。私がいただいたきっかけを社会に発信していくには研修が一番ソーシャルインパクトもあって、これを導入していただいたら、社会課題が解決されるだろうと思っていたんですね。
ただ実際、社員の方の満足度や成長度のポイントは高くても、やっぱりビジネスに貢献をしなければ、たくさんのコミュニケーション研修だったりDEI(多様性・公平性・包括性)の研修がある中で、人事担当者の方から選んでいただけない。
そこで企業にお与えできるメリットは何かと考え、たくさんのヒアリングを重ねた上で、1つ離職率の高さにアプローチできたらなと。
かつ、それは障害者の方にとっても、成長可能性というか……。やっぱり今のサポートがかなり福祉的で、やりがいのない仕事も中には多い。その中でパラアスリートは、壁を乗り越えて自分の可能性を広げていっていらっしゃるので、そのようなマインドがもっと多くの方々に広がっていけばいいなという思いで、この事業を選択しました。
企業が雇用する障害者とのマッチングも重要
山中:なるほど。わかりました。ありがとうございます。1回ピボットして、提案するとまた跳ね返されることもあるかもしれない。でもそうやって「絶望サイクル」を3回転ぐらいすると、すごいいい感じのプロダクトになりますんで、それを諦めずにやっていただきたいなって思いました。
ちょっと自分自身が企業の人事部ではないんでわからないんですが、企業が雇用する障害者はけっこう精神障害を経て復帰した人も多いんですね。そういう方にそのパラアスリートを生かした研修、ソリューションが刺さるかどうかは、ちょっと聞いてみないとわからないなと思いました。
もし刺さらなかったら、その時にはパラアスリートからもう少し幅を広げて、いろいろな方の力を借りてもいいかもしれない。例えば、視覚障害者で、あんまやマッサージをやっているような方々もたくさんいらっしゃる。そういう方はひょっとしたら、精神障害を経て企業で働く人に対していいメンタリングができるかもしれないですよね。
ちょっと幅を広げながら、うまくピボットしながら、企業にも刺さるポイントを見つけていただけたらなと思いました。
櫻本さんのおっしゃるようなダイアログ・イン・ザ・ダーク方式で、1つのプロダクトを徹底的に有名にするアプローチでいくか。またはうまく企業のニーズに合わせにいくか、両方のアプローチを試行錯誤してみるといいかなと思います。がんばってください。
司会者:それでは、発表いただきました竹田遥さんに、大きな拍手をお送りください。ありがとうございました。どうぞお戻りください。
(会場拍手)