社会起業を志す学生が、社会課題を解決するビジネスプランをピッチ形式で発表し、社会起業家らのフィードバックを受けられるイベント「ゼロイチファイナルピッチ2025」。本記事では3人目のプレゼンターである大学2年生の古川陽登氏が、児童養護施設の出身者の社会進出を促進するビジネスプランを紹介します。
児童養護施設の出身者が陥る「どうせ」の呪縛
司会者:それでは3人目の方にご登場いただきます。古川陽登さんです。どうぞ大きな拍手でお迎えください。古川さん、準備はよろしいでしょうか?
古川陽登氏(以下、古川):はい。
司会者:それでは古川さんのピッチスタートです。
古川:児童養護施設の子どもたちの「やりたい」を叶える。「ハツトライ応援団」の古川陽登です。フィリピン、アフリカのケニア、子ども食堂……。私は今までいろいろな子どもたちと向き合ってきました。
その中で出会った施設の子どもたちに感じた、ある1つの違和感。それは彼らが頻繁に口にする「どうせ」という言葉です。実際、僕が仲良くしている都内の施設のN君。彼はとても魅力的で頭もいい。何気なく聞いてみました。「将来どうするの?」

でも彼は言うんです。「どうせ大学に進んでも、どうせ僕はニートだよ」と。「え、なんで? 奨学金があるじゃん。職員さんのサポートもある」と言っても、実際全国的に見て、(施設出身者の)大学進学率は全国平均の約半分。1年での離職率30.8パーセント。路上生活者の10人に1人が施設出身者だと言われています。

施設の子どもたちは、もともとは家庭内で約75パーセントが虐待経験を経て、誰かが通報し、児童相談所の職員さんが彼らを保護するために児童養護施設に連れて行きます。よし、社会によって守られた。しかし、子どもたち目線で考えてみてください。
家庭にいた時の友達、よくしてくれたおっちゃん、いつも遊んでいた公園、施設に来ることでこれらすべてを一気に失う。私はこれを「保護ゆえの孤立・喪失」と呼んでいます。「施設に来るまでに、社会に見捨てられたんだ」。そう思ってしまう子がいるんです。
じゃあ、施設内ではどうなのか? もちろん職員さんをはじめいろいろな方々がサポートをしてくれる。プロ野球選手が来ることもある。でも実際、ふとした時に子どもたちは思うんです。「〇〇ちゃんだけよくしてるじゃん」「あれ? 職員さん17時になったら帰っちゃうんだ」。
せっかく仲良くなった職員さんが、半分で3年以内に辞めてしまう。プロ野球選手が来ても、「あの人と僕はどうせ違うから」。そう思ってしまう。自分には「どうせ」、あの人は「どうせ」が止まらない。社会が生み出す「どうせ」の連鎖。これを私は止めたい。この「どうせ」を「自分でも」に変えたいんです。

それが、施設の子どもたちの「やりたい」を叶えるハツトライ応援団です。何が「自分でも」に変えるのか? それは、(誰かが)自分のことを真剣に考えてくれる経験です。説明します。

子どもを支援したい人たちの動機とは
古川:子ども1人に対して「ハツトライナビゲーター」と呼ばれる大人が2人がつきます。3人でワンチーム。子どもたちの挑戦、やりたいこと、ハツトライの実行まで、3ヶ月の伴走を行う事業です。

福祉系の大学生、子育て卒業の主婦さん、探求志向の社会人。ハツトライナビゲーターには(立場の違う)いろいろな方々が関わってきます。でもこれ、ぜんぜん関係ありません。役割はあるけど、役職や肩書きのない大人が子どもたちと対等に向き合う。これが子どもたちに意識の変化をもたらしていくんです。
1ヶ月目、遊びを通して信頼関係を作ります。やってみたいことを一緒に考えます。6つのパターンを考えます。「ハツトライの設定条件」に合うように落とし込んでいきます。1ヶ月、1万円以内で実行できること、子ども自身が「これならできる」と思うこと、社会と接点を持つこと。

実際の例です。高校生のAさんはオーストラリアで飼育員になりたい。じゃあ、1ヶ月で英語や動物の勉強をしたり、1日飼育体験をやってみよう。2ヶ月目、1万円はどうする? 1ヶ月どうする? それを3人1組で一生懸命考えていく。そして実行(する)。

これが実際の子どもたちと大人が、対等に向き合っていたワークショップです。子どもたちは、社会に対して不信感を持っているかもしれない。でも(同じチームの大人が)対等に向き合ってくれることで、「あれ? 意外とこういう大人がいるんだ」。自分が1歩踏み出す経験ができるんです。
実際、子どもたちがこれでアルバイトを始めたという声も聞いています。これが実際の子どもたちの声です。うれしかった。こういった声が届いています。
でも、ハツトライ応援団にはもう1つ重要な役割があります。それがハツトライサポーター。子どもたちのチャレンジに支援を出してくれます。実際、どういう人がなるのか。都内在住の会社員。子どもが2年前に一人暮らしを開始した。「もう一度子どもと関わりたい」「子どもを支援したい」。

「時間はないけど、子どもの役に立ちたい」「子どもとのつながりを持ちたい」。「子どもたちとの距離が遠く感じた」。彼はアフリカのケニアの子ども支援団体に寄付経験があったけど、やめてしまった人です。「もっと見える形で応援したいんだよ」。彼らが欲しているのは手触り感、繋がり、透明性。


この3つを、子どもたちの目に見えるハツトライの成果と感情の共有、子どもたちから来る定期的な活動報告、そしてハツトライ応援団としてのコミュニティで担っていきます。
「どうせ」が「自分でも」に変わる瞬間が醍醐味
古川:ハツトライ応援団を開始すると、子どもたちから1枚の封筒が届きます。ハツトライ計画シートです。何をやるのか、期間中の実際の活動レポート、活動中の写真(が届きます)。そして、オンラインにて子どもたちとリアルに会話をすることができる。終わると実際にハツトライで何をやったのか、活動報告が見えます。

そして「ありがとう」。この手紙をいただけるんです。「生活支援のイメージが強かったけど、これは“未来支援”って感じがして素敵」「ナビゲーターがいるからリターンの質も安心できる」。そういった声をいただいています。

そしてこういった情報を一部SNSで書いて、共有することによって、こういった子どもたちをサポートする方をどんどん集めていきます。ご存知の通り、いろいろな方々が子どもたちに関わります。
ハツトライサポーターだけではありません。ハツトライをする中で出会った人、施設職員さん、そういった子どもたちを取り巻く人たち全員が応援団なんです。彼らの「やりたい」を応援する人たちを巻き込んでいく。
実際にハツトライ応援団1期生(の募集)を7月に開始します。そこから2026年までに5施設に導入、ノウハウを獲得し、まずは50人にハツトライを届ける。そして2030年に60施設に導入、オンラインも活用してハイブリッドに運営します。

2035年、全国600施設に展開し、自治体との連携を挟んで児童養護施設に来たなら、ハツトライ応援団に勝手に組み込まれる。そんな仕組みにしていきたいと思います。
「今日はマジでありがとう。最高でした。楽しかった。今まで発表するのが無理だったけど、自信を持ってできた。夢に向かってがんばるので応援ください」。「どうせ」が「自分でも」に変わる、この瞬間。

でもこれ、子どもたちだけじゃないんですよ。この手紙をもらった時、僕はこう思いました。子どもを中心とした「自分でも」の連鎖。この事業で子どもたちが変われるか心配だったけど、この手紙をもらった瞬間に「自分でもいける」「自分でも社会を変えられる」。そう思ったんです。
ここで聞いているみなさん、ぜひハツトライ応援団に入りませんか? ハツトライサポーターになりませんか? 私はハツトライ応援団でお待ちしています。これが私のゼロイチです。ありがとうございました。
支援のリターン設計が魅力
司会者:古川さん、ありがとうございました。それでは審査員の櫻本さん、コメントください。
櫻本真理氏:グッと来ました。ありがとうございました。本当にこういう体験が増えていくといいなと、本当に心から私も願うところです。子どもの貧困の話って経済的なリソースの話にフォーカスが当たりがちなんですけど。やっぱり心理的なリソースが圧倒的に不足しているのが構造的に起こっていて。
まあお金がないから心理的なリソースもなくなる悪循環に入っている中で、お金だけを提供したとしても、なかなか解決しない問題がある。その悪循環を、お金と心理的な面の両方からサポートしていける仕組みとして回っていくと、とっても素敵だなと思いました。
こうした取り組みって、私自身もそのサポーターになりたいなって思うんですけれど、そこでけっこう難しさが出てくるのが、持続可能性。そこに関わる人も心理的リソースを奪われる事態になりがちです。
今(のプレゼンが)とっても良かったのは、そのリターンをしっかり設計されていて、レポートが来るとか、その成果を確実に受け取れるようになっているところ。それがこう喜びになって、循環していく形が設計されてるのが素晴らしいなと思いました。
その一つひとつの関わりからのリターンを受け取れる、とっても素敵なものがデザインされてるので。それが蓄積していくことで、「どんな素敵なことがあるんだろう」っていうの(期待)があると、サポーター側もどんどん増えていくんじゃないかなと。その辺りもさらにデザインされていくと、すごくいい仕組みになるんじゃないかなと思いました。
それで、お金の出所として、企業からお金をいただくモデルになっていくと持続可能性もあるのかなって思ったんです。感情的な成長って、今の企業のビジネスパーソンが必要としているところで、子どもと関わることで得られるものってあるんですよね。
私も以前の会社でボランティアをやってた中で、おにぎりとか作りに行ってたんですけど。それを作るよりは、こういうところで子どもと関わらせてもらった方が、従業員側も得るものがあるんじゃないかなと思いました。
企業の中にいるからこそ受け取れない価値が、そこに溢れてるんじゃないかなとも思ったので。そういう意味でも、ビジネスを作っていく上で企業を巻き込めると、さらに持続可能性が高まるのかなと想像しました。とても素敵でした。ありがとうございました。
トライアルで得た学び
司会者:山中さんお願いします。
山中礼二氏(以下、山中):素晴らしいプロジェクトだと思いました。イコールではないと思うんですが、「(全国高校生)マイプロジェクト」っていうのがありますよね。そのマイプロジェクトの児童養護施設版っていうふうに考えることもできるかな、と思いながら聞いてました。
1個質問があるんですけども、実際に「お試し」で1回やってみましたか? その結果掴んだ学び、または変えなきゃいけないポイントは何かありましたか?
古川:はい。トライアルとしては1日で、短期間でまだ子どもたちが実行するまではいかないけれども、やりたいことを発掘して、それを落とし込んで今何ができるかっていうことをやりました。
(掴んだ学びは)やはり実行まで持ってかないとだめだなっていうところと、関わる大人が重要だなと思っています。私ももちろん企業の(協力を得る)形は考えたんですけど、やはりまず最初は子どもたちに積極的に関わりたいと思える大人だったり、何か見返りを求めずに、とにかく子どもたちのために考えている人たちを巻き込んでいかなきゃなと。そこでビジネスモデルも悩みつつ、今この形に落ち着いた感じです。
山中:なるほど、わかりました。試しにやってみて、フィードバックを得てっていうその事業開発の質が高い印象を受けました。
お金の点は悩みにはなるかと思いますが、櫻本さんがおっしゃったように企業を巻き込む手もありますし、小さな成功を積み重ねることで、クラウドファンディングから始めて、財団からの助成、そして行政の資金投入にまで繋げたりっていう展開もあり得ると思います。そこは恐れずに突き進んでいくのがいいんじゃないかなと思いました。
細かいアドバイスですけども、「JAMネットワーク」という団体が出してるリリースで、児童養護施設にいる子どもたちは、けっこう心に傷を負って、コミュニケーション能力にハンディキャップを抱えるケースも多いという調査結果を見たことがあるんですね。
そこで、プレゼン能力やヒアリング力とか、コミュニケーションのトレーニングも合わせて体系化してプログラムに組み込むと、さらに効果的な、良い成功体験を与えられるプログラムになるんではないかなと思いました。
素晴らしいプロジェクトなので、ぜひ突き進んでいただきたいと思います。がんばってください。
古川:ありがとうございます。
司会者:ありがとうございました。それでは発表いただきました古川陽登さんに大きな拍手をお送りください。素敵な発表ありがとうございました。