社会起業を志す学生が、社会課題を解決するビジネスプランをピッチ形式で発表し、社会起業家らのフィードバックを受けられるイベント「ゼロイチファイナルピッチ2025」。本記事では10人目のプレゼンターである横浜国立大学3年生の小室拓巳氏が、ECサイトとの協業で買い物をしながら寄付できる「ながら寄付」サービスの開発プランを紹介します。
寄付したほうがいいと思う日本人は75パーセント
司会者:さあ、それではいよいよ最後10人目の方にご登場いただきます。ご紹介します。10人目、小室拓巳さんです。どうぞ大きな拍手でお迎えください。
(会場拍手)
小室拓巳氏(以下、小室):はい、みなさんこんにちは。「ポチキフ」の小室です。ポチキフはあらゆる人に寄付のきっかけを提供する、少額寄付のサービスです。私のミッションは寄付する人を増やすことです。みんなで少しずつお金を出し合い、社会をより良くしていく。そんな世界を作っていきたいと思っています。

みなさん、寄付と聞いてどんなことを思いますか? 寄付はしたほうがいいと思っている日本人は、実に75パーセントいると言われています。一方で、寄付をしている人は12パーセントに留まっています。世界的に見ても、非常に寄付する人が少ない。これが日本の寄付の現状です。


寄付はいいものと思いながらも寄付をしない。そうした人たちを私は「潜在的寄付者」と捉えました。63パーセントもの人たちがここに該当します。ではなぜ私たちは寄付はいいものと思いながら寄付をしないのか。実際にあまり寄付をしていない30名以上の人たちにインタビューをしました。

Kさん。「寄付できるほどお金の余裕がない」。これは最も多かった声です。確かにネットからの寄付は1,000円からしかできないことも多く、寄付をしてみるハードルが高いです。次に多かった声、Hさん。「社会にいいことはしたいけど、正直めんどくさい」。わかりますよね。

確かに、ネットからの寄付は圧倒的にめんどくさいんですよ。会員登録をしたり、クレジットカード情報の入力をしたりする。これは非常にやる気がある人じゃないと寄付ができません。

まとめると、なぜ63パーセントもの潜在的寄付者は寄付をしないのか。理由としては、1,000円からしか寄付ができない上に、寄付の方法が非常に面倒くさい。その結果、寄付をするハードルが圧倒的に高いんです。
ネットの買い物ついでに寄付できる「ポチキフ」
小室:そのため私は解決策として、最小限の手間と金額で寄付のハードルを徹底的に下げていきます。そこで、この解決策を実現するのが「ながら寄付」です。いつもの買い物や移動をしながら少額寄付をする。こうした寄付の新しいスタイルを作っていきます。

そして、この「ながら寄付」の第1弾としてのサービスが「ポチキフ」です。ポチキフはネットで買い物をする際に「おつり募金」ができるサービスです。おつり募金とは何か。例えばお会計金額が2,970円の場合、100円未満の端数を切り上げて3,000円で切りよく会計することで、この30円を募金する。このような仕組みになっています。

では、実際にどのように寄付ができるのか見ていきましょう。ECサイトのお支払い画面でこのような寄付オプションが表示されます。あとはここのボタンを押すだけで、寄付が完了します。「活動報告を受け取る」のところにチェックマークを入れると、あなたのお金がどのように使われたのかレポートも届きます。

お子さんがいる方であれば子ども食堂を応援してみたり、ペットを飼っている方だったら保護犬を支援してみたり、地震があった時にはみんなで被災地を応援する。これまで寄付をしたいと思った、その瞬間に寄付ができなかった。

それはこれまで非常に複雑な手順だったり、めんどくささがあったから。しかしこれらの作業をすべて省略して、ワンタップで寄付ができる。これを実現していきます。

みなさん、想像してみてください。どうですかね? これなら寄付しちゃいませんか? 例えば実際に、寄付をあまりしてこなかったHさんは「ボタン1つでなら寄付したい」。Kさんは「10円から寄付できるならやってみたい」と言う声をもらっています。
ビジネスモデルです。まずポチキフをECサイト運営者の方に導入してもらいます。ちなみに、ポチキフの導入費用は0円です。次に消費者が、「ながら寄付」をして集まった寄付金をNPOに送ります。

NPOからポチキフはサービス利用料をいただきます。このような流れになっています。サービス利用料は寄付額の20パーセントです。50円寄付した場合、10円がサービス利用料となります。
ではなぜ、EC事業者はポチキフを導入するのか。それは3つのメリットがあるからです。1つ目、約3,000団体の中から企業理念やブランドの世界観にマッチするNPOを応援できる。2つ目、顧客と共創寄付という企業の新しい社会貢献の形を実現できる。その結果、ブランドイメージが向上する。
2035年に寄付者5,000万人を目指す
小室:3つ目、お買い物の最後に寄付をする、社会にちょっといいことをすることでポジティブな購入体験になる。そうすることで、顧客の満足度を高める。
こうした価値をECサイトにも提供していきます。もうすでに3社がポチキフの導入に合意いただいています。実際に4月からサービスが開始し、ECサイトで寄付できちゃいます。

ECサイトさんからの声です。「費用なしで寄付を活用し社会に貢献できる、導入しない理由がない」「寄付を通じて自社の理念を顧客に伝えることができる。ぜひ導入したい」。こうした声をいただいています。

実はこの「ながら寄付」の仕組み、アメリカではもうすでに実装されており、年間で約1,100億円もの寄付が集まっています。加えて成長率はなんと2年で24パーセント。私はこの少額寄付の市場を日本で作っていきたいと思います。
まず導入企業50社を今年度中に達成します。2027年には10億円の寄付、100万人の寄付者数を実現します。2030年、寄付者数は1,000万人を突破し、10年後の2035年には1,000億円の寄付、そして寄付者数は5,000万人、ここを目指していきます。

国内に留まらず、アジアを中心とした海外にも展開していくことで、僕たちはグローバルな寄付インフラになっていきます。買い物だけじゃ終わりません。例えば飲食、仕事、みなさんの日常のあらゆるシーンにこの「ながら寄付」のサービスを組み込んでいきます。
そして、そこで集まった膨大な寄付行動データを匿名化して活用することで、NPOの新規寄付者の開拓や獲得を支援していきます。また「ながら寄付」を入り口に寄付の金額や頻度をステップアップしていける、寄付のステップアップモデルも作っています。

寄付を通じて社会課題を知る、共感する、行動を起こす。つまり寄付をすることは、社会課題の解決に参画することです。みなさん、最後にお願いがあります。今日はたくさんの社会課題に触れたと思います。ぜひアクションに移していただきたい。まずは小さくてもいいから寄付から始めてみませんか?

1人が大金を出すのではなく、みんなが少しずつお金を出し合って社会をより良くしていく。一人ひとりのお金の使い方が変われば、必ず社会は良くなります。僕は1人の100歩より100人の1歩を作っていきたい。寄付をみんなのものに、今日この場所から僕が変えていきます。ポチキフの小室でした。ありがとうございます。
司会者:小室さん、ありがとうございました。
大手のECサイトと組むべき理由
司会者:それでは田口さん、お願いします。
田口一成氏(以下、田口):はい、ありがとうございました。すごくいい事業になると思います。いろいろな検証はこれからだと思うんですけど、いくつか課題はまだあると思います。
その1つが、EC事業者がこれを導入するかどうかという時のことです。結局、個人情報も入れてクレジットカード情報を入力して、最後の買い物の確定の瞬間に、もしこのボタンがあるだけでコンバージョン率が落ちるとしたら。たぶん、ちょっとどうしようということになる。コンバージョン率が落ちなかったかどうかの検証ってこれからですか?
小室:そうですね。4月からになります。
田口:これからですね、オーケーです。そこを早めにやったほうがいいかなと思っていて。たぶんこれを導入しない理由はけっこう明確なので、それをちゃんと潰すということ。
それと、導入するメリットもけっこう数字。やっぱりECの世界にフォーカスすると、ECマーケターは必ず数字で全部見るというのもはっきりしてる。逆に数字で全部出てくるのがECのおもしろさみたいなところなので、これは数字でもコミュニケーションを取れる世界かなと思うので、そこの検証をしっかりやる。ここのプロダクトの磨き込みを最初にガッとやっているのは1つ。
あと、営業ってどういうふうに考えてますか? どういうふうに顧客開拓していくか。
小室:今回はちょっと(プレゼンに)入れなかったんですけど、NPOの方と協力をして、法人寄付の際にポチキフを導入の提案をしていただいたりという形で、協力していければなと思ってます。
田口:ぜひおすすめしたいのは、大手通販会社とかむっちゃでかいところと最初にやるほうがいいです。たぶん志がある小さいところと、ちょこちょこってやると思うんだけど、やっぱりいきなり「大手の〇〇と組んでやります」っていう話になってくると、いきなりもう記者会見から始まるという。
どれくらいのスピードで導入を増やせるかが勝負
田口:この寄付市場を作っていきたいという考え方からすると、一番でっかいところでやる。そこに自分のパワーをフル投入するという形。そこが起業家の腕の見せどころという(社会の)変え方がある。
これはプロダクトとしてはすごく優秀だし、(可能性は)あると思うんだけど、結局どのスピードで導入する人は増えていくか。ここのステージに、事業としての焦点を移したほうがいいと思うんですよ。
もうプロダクトは分かったし、検証しましょうという話だと思うんだけど、やっぱり営業のほうが大切かなと思います。そうした時に、あともう1個あるのはECでドンと打ち上げた後、第2弾で行くのはやっぱりECカートシステムを持っているところ。そことの業務連携もその時点で組んでおくと、ニュースを見て、「あ、俺も実装したいな」と思った時に、一緒に開拓営業がバッと走れる。
そういうECカートとやってるところ、まあいっぱいありますよね。もういっぱいあるって、もうそこに何十万社ってぶら下がってるんで。なんかこういうPR戦略とかを考えていくことが重要かなと思いました。
あとは細かいところだけど、Shopifyとかああいう単独でやってるところもあるので、ああいうのもアプリを作って、リリースすれば世界中で行けたりとかするんで。まあそれはちょっとまた違う文脈だけど、それはそれで独自プロダクトをShopifyとか、思ったよりグローバルマーケットとして大きいんで、入れ込んでしまうってところかもね。それはそれでやっておいた方がいいかなと思いました。はい、以上です。がんばってください。
小室:ありがとうございました。
寄付をしたいと思えない企業もある
司会者:それでは中村さん、お願いします。
中村多伽氏(中村):ありがとうございました。うちも投資先としてECが何社かあってて、その理念ビジョンに共感する顧客がいるのも想像つくので、そういうのはすごく相性がいいなと思いました。
そう思いつつも、ジェットスターで航空券を購入する時に、環境保護団体に寄付しますかみたいなオプションが出てくるんですよね。私はたぶん月額数万円を何かしらに寄付してるんですけど、それはチェックを外すんですよね。
聞きながらなぜだろうって考えてた時に、たぶんジェットスターに対して「運用できるの?」って思ってるなと。私はたぶん、すごく理念が強いところだったら上手にやってくれそうだけど、どうせ「そこら辺のでかいところにやってる(流してる)だけでしょう?」みたいに思っちゃうんですよね。
とはいえ、田口さんが言ってくださったみたいに、でかいところとやらないとインパクトは出ないし、結局はあなた方の会社のPL的にも超厳しいと思うんですよ。
なので、これだけ社会課題ど真ん中にいる人でさえ、「チェックを外すよね」っていう心理があることを認知した上で、どうやったらチェックを外さないのかは、もうちょっと深掘りしてもいいかなと思いました、というのが1個。
ユーザー手数料以外のビジネスモデルも探すべき
中村:2つ目が、まあPLが厳しい期間がすごく長く続くと思うんです。そうなった時に……。最近聞いた某超大手小売りは、マーケ部門の中にサステナビリティの部署がある。サステナビリティを明確にブランディングとしておいていると聞いて。要は、企業にとっては悲しいかな、ブランディングとして効かない限り、サステナビリティの合理性が表現できないっていうことなんですね。
こういう仕組みってめちゃめちゃいいんだけど、ジェットスターの取り組みとかも、気づく人が気づくぐらいの感じになっていて、すごくもったいないんです。
もっとちゃんと「ブランディングにレバレッジが効くんだよ」っていうアピールができれば、企業側がお金を払って最初に導入することがあるかなって思っていて。ちゃんと、マーケに効くよみたいな話ができればっていう話。
いったん、そのユーザー手数料以外のビジネスモデルも模索してもいいのかなっていう文脈で思いました。(ポチキフの導入で)「このECサイトの選択率が上がる」みたいな、めちゃめちゃアピールできる仕掛けにできたら超いいなと思いました。めっちゃ応援しています。
司会者:ありがとうございました。それでは10人目の発表者小室拓巳さんにどうぞ大きな拍手をお送りください。
(会場拍手)