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森山高至「真国立競技場へ」(全6記事)

「絶対に間に合うから落ち着け」新国立競技場をゼロから考え直せる理由を森山高至氏が解説

2020年の東京オリンピックを目指して建てられる新国立競技場をめぐっては、ザハ・ハディドのデザイン案や、下村大臣と舛添都知事との対決など、さまざまな論点が浮かび上がってきています。建築エコノミストの森山高至氏は勉強会において、問題解決に向けて政治家が果たすべき役割や、建築家の槇文彦氏が提示した解決策について解説。さらに自身が考案した「真国立競技場」案についてもプレゼンテーションを行ないました。

JSCをめぐる複雑な事情

森山高至氏(以下:森山):先ほどここまでお話して、ちょうど配布資料でもここから話が変わっていくので、キリが良いところではあるのですが、もう1回これ説明します。本当だったら、文部科学省が建物を建てればいいのです。有識者会議の審査員のところに設計者がいればいいだけなのです。

だけど非常に複雑な構造になっているのはJSCがtotoの売り上げを、実は管理するようになりまして、JSCの売り上げって1,000億ぐらいのすごい企業ですよ。言ってみれば、1,000億もの収入がある会社なのです。それが自由になるっていうことですから、「文科省の言うことなんて聞かなくてもいいや」っていうぐらいになっているのです。

JSCはその独自の財源があるにもかかわらず、文科省からのいろんな支援も受けられるという。つい最近も国立競技場のことで、財務省から130億円とかもらっている。競技場の施設に対するお金は、まだ設計も工事も決まってないから、出せないからJSCに財務省が出資という形で130億円入れていると、これは猪瀬さんがおっしゃっていました。

だから、このJSCという組織が立場的にもどんどん強くなっているけど、ここでは一番人の言うことを聞かないといけない組織になっている。だからJSCの立場からすると、この問題の責任を取れといわれても、言われた通りやっているだけなのに、なんで責任を取らないといけないのだろうとたぶんなっていると思う。

そこのところを、やっぱりみんな理解して話を進めていかないと、単純に誰が悪い悪いってやっちゃうと絶対に情報が出てこなくなっちゃうので、まあ推理小説みたいなパズルみたいなものをぜひみんな理解して、頭入れて欲しいなと思います。

槇文彦氏が解決策を提案している

この状況でどうするのだということで、槇(文彦)先生が出てこられました。槇先生はもう85歳です。ところが、先週もニューヨークからこの問題を訴えておられました。

ちょうど僕が先週、お昼のニュースとか、恵さんの「ひるおび!」という番組に出たときに、ちょうどビデオでは槇先生がニューヨークでこの問題を講演されているのを聞いてすごいなと。

槇先生は確かニューヨークだけじゃないのです。シンガポールでも仕事をやっているはずだし、インドにも行っていたはずだし、槇先生は現役の設計者、建築家です。

槇先生は本当に大勢の方も育てられていて、今あの槇グループと仰っているのも槇先生の教え子さんの先生方が多いです。槇先生の事務所におられた先生方が。

ここでも槇先生ははっきりと言っておられますけど、「キール取れよ」と単純な話だよって言われています。だから「解決策あるの?」「これからどうなっちゃうの?」という時、解決策は全然あってここに書いていますけど、槇先生のご意見をそのまま僕が代わりに説明するみたいなものですけど。

円形のスタジアムは設計も施工もしやすいもの

スタジアムっていうのは、そもそも形が決まっている建物です。なぜかというと真ん中に競技フィールドがあり、その周りを観客がとりまくっていうことで必ず丸くなるのです。

その丸の具合はそれぞれ違うと思います。本当にまん丸になれば、横長い楕円形になることもあるし、楕円形も全部が曲面じゃなくて真ん中だけまっすぐな楕円もあるでしょう。

だけど、真ん中にアスリートたちが戦ったり技を見せたりしている、それを観客が見てっていう、そういう仕組みだから中心があって、周りがとりまくっていうのは当たり前です。だから、その形にすればいいでしょって槇先生は仰ってます。

なぜその話が違うかというと、僕は下に解説用に丸い写真をいくつか並べていますけど、ちょうどいちばん左の写真が、ザ・ローリング・ストーンズのレット・イット・ブリードという名アルバムがありますが、このアルバムの表紙がまさにこのことを全て物語っているのです。

いちばん上にショートケーキがあるでしょ、その下にタイヤがあってピザとかあって、あと映画フィルムの缶があって、レコードがあるっていうことですが、円形でも楕円でもいいのですが、半分に割ることもできる、4分の1にすることでやることもできる、っていうことで、ちょうど今ピザを切っているように、あの部分の形をある一定の角度で設計を終わらせてしまえば、それを回転させれば、全体の設計が終わるということなのです。

だから、ピザ1枚三角の1枚を構造体とか中の内装とか配管とか含めて設計ができるならば、それを円形に回せば建物の設計が終わる。もちろん左右とかで違う部分もあると思いますよ。こっちにはトイレが何個あるけど、こっちには無いとか、こっちは事務所があるとかあると思うのですが、建物の構造とすれば、全く単純な形ですから設計もすぐ終わるし、施工する側もその部分だけを検討して掛ければいいのです。12倍すればいいとか。

だからこれでいくと設計も早いし、施工も早い。もちろんいろんなパターンが世界中で考え出されているので、それに合わせて検討した資料もありますから、許認可も早いし。

競技場を新しいデザインでやりたいという気持ちはあると思いますが、それでここまで大変なことになっているわけですから、もう1回原点に返って競技場はいったいどういうふうに造るのがいちばんいいのかって思えば、ほとんどの建築家は楕円か円に収斂させるはずなのです。これ世界中どこも一緒なのです。

その丸のいち部の円弧の構造体の柱だとか、梁だとかというものをある人は細くしようとするし、ある人はもっとなんかわざと太くしようとしたり、クラシックにしたりとか、いろんなデザインのパターンがあって、この構造のシステムさえ踏襲すれば、槇先生が今からこれ間に合うよって言っているのです。

政治家の迅速な動きが必要である

で、それに対して、先程言いましたけれども、ザハ事務所のスタッフのヘベリンが、「いや間に合わないんだ!」と言っていますけど、彼は全然わかっていない。全然わかってないどころか、デザイン監修契約だから言えちゃうのです。だからそこはみんな惑わされないでくださいよ。ヘベリンはこの建物が完成するかどうかは責任無いのですから。

(会場笑)

これ責任が今ある人は、日建設計です。だから、槇先生は日建設計に対してこれを見直せばいいじゃないかと呼びかけているけど、まだ日建設計は反応しません。だからたぶんJSCの契約内容がどうなっているのか非常に重要で、ここでどうやったら見直しができるかっていうのは、技術者はこれみんなわかっていますから、もう政治的な問題です。政治家の方が見直しのためにはこういうプロセスを踏んで、誰の顔を潰さないように早くそういう仕事をやっていただきたいです。

それは政治家の仕事だと思うのです。良い悪いとかそういう杓子定規じゃなくて、誰か1人に話が集中して死人が出ないようにするのが政治家の仕事ですよね! 死にましたよ、小保方事件では人が! 優秀な人が! だから早く政治家の先生は動いていただかないと、この問題が固まったまま収拾しないのです。

これ、技術者は、みんな対応方法をみんな持っていますから。そこは今から間に合うじゃなくて、今だって全然前に進んでないのだから、今から建築の設計図をやり直して許認可をとっても同じゼロスタートです。だから、許認可取れた後は、今度は早いですから、施工工事の時間が。だからそっち方向に早く向いていただきたいと思っています。

ところが、今、世の中の人を含めて持っているデータは、「間に合わない!」「もうダメだ!」「ラグビーもできない、どうしてくれるんだ!」みたいな話になっていて。

森元首相をはじめラグビー議連の方々も「なんとかならないのか!」というふうに頭抱えていると思いますし、下村大臣もね、今のところ「どうなってるんだ!」とやっていると思うので、怒鳴り合うとね、みんな関係者がびびって嘘つくようになりますから、ぜひ怒鳴らないでいただきたい。

怒鳴らないで落ち着いてどうすればいいかをちゃんと専門の人に聞けばいい。怒鳴っちゃうからみんな隠すのですから、もう本当に怒鳴らないで何が起きているかを考えて、時間的に余裕があるっていうことを確認して、ラグビーに間に合わせることができますから、そこを本当にわかっていただきたいと思います。

森山高至氏が考える新国立競技場の建設案

そのために僕が、提案も作りました。僕はその状況下でどうしたらいいだろうと思いまして、今みんなが焦っている理由は「時間がない、時間がない」でしょ。「お金はいくら払ってもいいから間に合わせろ!」みたいなことを言い出しているけど、さきほどの話でおわかりのようにお金いくら払っても間に合わない。だから早く造るにはどうすればいいかっていうことを考えてみました。

これ見ていただくといいですけど、これね、初代競技場です。最初の霞ヶ丘競技場。これは、屋根は無いです。だけどこの競技場は、地形を活かしてある。それはなぜかというと、これを建設した頃は、まだ重機ってそんなに進化していない頃です。ブルドーザーとかショベルとかが。

だから土木工事のほとんどが人力です。だからお金をかけようがかけまいが、なるべく人の手でできる範囲にしたいのです。だから当時の設計者の人がなるべく土地を削ったりしなくても良い方法でできないかなと考えたのが、この初代の競技場です。

ちょうど今、左下に解体現場の写真がありますけど、この脇の道をちょっと僕、歩いてみて、右の写真がそうですけど、やっぱり段差がある。

だから街もどんどん入れ替わって、ビルが立ったり道路も広い道路に変わったりしている。「ブラタモリ」とか、中沢新一さんの「アースダイバー」じゃないですけど、地形は、いろいろなものが変わってもまだ残っている。100年経過しても。

だからこの地形は100年前と大枠は変わってないのです。ちょうど絵画館のところから外苑西通りに向かって土地が下がっている。この初代競技場っていうのはその形をうまく利用しているのです。

スタジアムの建物はなくても大丈夫

そして図面を入手しました。これは土木学会かな、「工事画報」という大正15年の雑誌がありまして、完成した時の記事がありました。神宮外苑の競技場の写真と平面図と断面図です。これがちょうど今の土地と同じようにスッポリ入っていて、これだったら土地を触らなくてもいけるじゃないのと、そうすると何がいいことがあるかというと。

これが僕の作った3Dのデータ、CGですけど。観客席のところは建物じゃないです。土地をすり鉢状に削っただけで、ということは内側の手前の細長いところだけが建物です。

するとこの三角形の建物……というか観客席ですよね。これだけです建築物は。これは許認可ってスッゴイ早いですよ、これ。コンクリートの平家ですからね。

(会場笑)

わかりますよね、うふふふふ(笑)。マンションですらないですよ。コンクリートの平屋の建物長さ200メーターで幅が約20メーター弱の建物だから平家でしょ。すぐ建ちます。許認可もすぐ取れます。

だからさきほどの話で「どうしよう?」と言っているのだったら、まず「これがあるから絶対に間に合うから落ち着け」と。そのためにこの計画を僕は発表をしています。最悪これを作れば間に合うから「騒ぐな」「怒鳴るな」と思っているのですよ(笑)。

(会場笑)

設計図は既にある!?

これがどういうふうに作れそうかなと検討してみました。

これが今、当時と違っているのが昔、外苑西通りのところが川だったけど、今は外苑西通りという道路になっているから、当時よりもすごく便利な場所になっています。

意外だったのは、この三角形の段々の観客席の反対側は結構いい。なんかホテルみたいで。いわゆる近代建築、銀座とかね、そういうところに昔建っていたような建物のファサードになっているからいいじゃないと。でこれを復元すればいいじゃないかっていう。

理由はですね、左上に学徒出陣の時の写真がありますけど、戦時中の学生が兵隊に取られちゃった話ですけど、その時のフィールドはこの初代の競技場です。

これで説明をします。これはですね、工程を考えてみました。今間に合わない間に合わないって言って頭抱えている人たちに言いたいのは間に合うよと。まず来月からね、もし復元をやるのだったら設計図あったでしょ。さっきのありましたよね?(笑)

(会場笑)

あれをそのまま写しますよね。それで今の構造計算でチェックする。そうするとおそらく鉄筋もとか、そういったものが昔よりよくなっているから、たぶんすぐ許可が出ます。あの建物の。そうするとすぐに着工ができます。コンクリートの平家建築ですから、細長いから。まぁ工区を南側と北側と分けて造ってもね。たぶん来年の3月までに建つのです、ふふふふ(笑)。

(会場笑)

だから来年の3月までに初代の競技場が復元工事終了ですよ。

日本のスタジアムの原点を見なおそう

ただ、今の時代にアレは本当に競技場としていいか、どうかっていう問題があります、設備が。だけど、とりあえずあれを建てておけば、落ち着きますよ。みんなが落ち着いたところで、そいつをどういうふうにバージョンアップしていったら、ラグビーワールドカップとか、オリンピックまでに、あの建物が今の時代に沿うものができるのかっていう増築の設計をみんなで考えたらいいじゃないの。

そしたら1年間そのことを考えている時間が生まれて、1年間の間はあの初代競技場をどうするのっていう話ですけど。そこでオリンピックのいろいろなイベントをやりましょうと。復元された初代競技場でスポーツのイベントをやりましょうと。

それで学徒出陣の碑も移しちゃって、出陣された学徒の方にまだご存命の方がいらっしゃるし、ご家族の方もいらっしゃるから、やっぱりその方々を含めて追悼の会も開いて。

1年間、最も初代の日本の近代の最初のスタジアムの原点みたいなものを、みんなで見つめて、それで1年後に再着工すればいいのです今度は。1年間かけてみんなで設計を練っていますから。

新しいものを作ることだけがデザインではない

これは実はギリシャのアテネの遺跡みたいなスタジアムって、たぶんみなさんご覧になったことがあると思うけどあれもね、実は何百年か前に再建築されたものです。古代ギリシャ時代、ローマ時代にあったものを、何百年か前に再建築したものをこの間、また改修したのです。

だから昔あったもの造るっていうのは、別にずるいことでもなんでもないですよ。なんかデザイナーとかね、みんな古いものを造ちゃったりすることがダメなことみたいに思い込んじゃっている人が多いですね。もうとにかく新しいものを造らなきゃいけないと思い込んじゃっているけど、別に古いものを造っていい。

自動車だってそうだと思うけど、今自動車が売れない、売れないって言っていて、僕ね、売れないと思うよ。あんなどのメーカーを見ても同じ形で。

だけどもし今の技術で、ハイブリットカーでフェアレディZの復元をするとか、ハコスカ(箱型のスカイライン)を、ハイブリットカーで作ってくれたら、やっぱりちょっと乗ってみたいですよね。

やっぱり昔の車にはエアバッグもないし、危険性もある、いろんなこと、燃費も悪いっていうのもあると思うけど、もしレストアじゃなくて、昔のみんなが自動車大好きだった時代の自動車を、今の技術で再生というか復元して、限定100台とか作ったら絶対に買うと思うけど。だから建物だってそういう方法があるじゃないかと、ちょっと今回思いついたので提案しています。

結局これは増築できますから、1回1回の工事が少ないから許可も早いし工事も早いし、良いこと尽くめなのです。ただすり合わせとかありますから、設計する人も工事する人も真剣にやんないといけないし、今度は日本中うるさいですよ。機能についても、サッカー界もうるさいですよ。今までみたいに誤魔化して進められないと思います。

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