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森山高至「真国立競技場へ」(全6記事)

「コンペそのものが欺瞞に満ちている」新国立競技場が建たない理由を森山高至氏が解説

2020年の東京オリンピックを目指して建てられる新国立競技場をめぐっては、ザハ・ハディドのデザイン案や、下村大臣と舛添都知事との対決など、さまざまな論点が浮かび上がってきています。しかし、そもそもなぜザハ案に疑問の声が上がっているのでしょうか? あるいは、下村大臣と舛添都知事の話はどの点が食い違っているのでしょうか? 当初からザハ案による新国立競技場の建築の問題点を指摘してきた建築エコノミストの森山高至氏が、勉強会の場で論点を整理、解説しました。

生活の有り様を考える建築の専門家がいてもいいじゃないか

森山高至氏(以下:森山):今、大橋さんにご紹介もいただいたのですが、私も建築学科卒業しているのですが、その後いろいろ仕事をして行く中で、建築業界全体のいろんな問題に自分の中で気づきました。

それで「このまま建築業界だけのやり方ではいかんだろう」と思いまして、早稲田の政治経済学部の大学院に来まして、経済のことを学んだのです。それでそういったところを少し自分としてはわかりやすくしたほうがいいかなーと思って、建築エコノミストなんて名乗っています。

実はエコノミーや経済というのは、みなさんは銭金のことだと思ってらっしゃると思うけど、もともとの意味は「オイコノミー」といいまして家とか家庭とか家政とかいう意味なのです。

だから経済っていうのは、経世済民って言われるように、何もお金の勘定をしてお金儲けをする話をじゃなくて、社会とか家庭とかの生活のことを考えるのが経済だと。

建築も家を考えたり、いろんな社会のことを考える仕事ですから、もっとそういう包括的な建築とか、生活の有り様を考える建築の専門家がいてもいいじゃないかと思って、今こんなふうになっているわけです。

先ほど大橋さんのお話にありましたように、何かにわかに新国立競技場問題が変化してきています。これ本当にこの2、3週間の間ですけど、突如最初お話にありましたけれども5月15日でしたか? 報知新聞の報道がありましたけれど。あれも今「どんなとこが何を出してんだ?」っていろんな噂が流れていますけど、僕はどこが出したかも知っています。それはブログを読まれている方には告知しましたけど、アンダーアーマーというアメリカのスポーツマネジメント会社が今の新国立競技場の計画がそのまま進んだら大変なことになると。

もちろんアンダーアーマー本社ではなくて、アンダーアーマー日本法人のドームという会社が、どうやら本当のスポーツの運営を考えるのだったら今のような箱はいらんぞと、その辺を心配して政治家の方とそういう動きをなさっていると聞いています。ただ彼らも建物について専門ではないので、どうしても建物のハードのことについてはそれほど突っ込んだ提案にまでには至ってないと聞いています。

今、新国立競技場をめぐって何が起きているのか

同時にこの後も説明しますが、槙文彦先生がやはり今の再度「今のザハ案が進んでいくとどうなるのだ?」と、非常に心配されて記者会見をなさっています。

皆さん今まで建築に関心ってあんまりなかったと思うけど、この問題を通じて是非建築物の成り立ちというか、成り立ちといってもただ基礎があって柱があってという話じゃなくて、建築物を造る上で公共工事のほうはどうなっているとか、それを造っていく上での社会の仕組みはどうなっていくのだということを、是非知っていただきたい。

知ることによって初めて、例えば「こういう公共工事がおかしいじゃないか?」とか、「もっとこうした方がいいじゃないか?」ということを、みんなが言えるような、そういう世の中にしていこうと、僕はみなさんに本当に子供たちからおじいちゃん、おばあちゃんまで建築の専門的な知識をどんどん、どんどん、わかっていただいて振りまいていこうと考えています。

それは前置きですが新国立競技場について、「今、何が起きているのか? 何ができるのか?」ということを順番にお話をしていきたいと思います。

新国立競技場から真国立競技場へ

1ページ目に「真国立競技場」と書いていますが、これは新しい新国立競技場じゃなくて、真実の「真」を使いまして本当の国立競技場ってどんなもんだってことを、ちょうど今ブログでも連載していますが、そういうタイトルをつけてみました。

それは一応表向きというか建前ですが、実はこれはアニメファンならよく知っていて、「ゲッターロボ」というロボットアニメがありまして、それを永井豪先生とダイナミックプロが作っていて、そこが新しいという字じゃなくて真実の「真」という字を使って「真ゲッターロボ」っていうタイトルの作品を作っていて、これが非常に印象深かったものですから使わせてもらっています。

このマークは僕がちょうどこういうコンセプトを思いついた時に、「誰かマークを作ってくれませんか?」という呼びかけをしましたら、インターネットを通じまして内田さんという方が、タイポグラフィのデザイナーの仙台在住の方ですが、早速作っていただいてお贈りいただいた素晴らしいロゴです。

この「真」は、ダイナミックプロの特長の迫力のある文字、そして「場」のところにうまく日本の国旗も入っていて、ちょうどあの昔の壊されちゃった国立競技場のスカイラインのような、ゆるいアーチで上を繋いでいるというもので、非常にカッコイイし、ウイットに効いていておもしろいロゴだなぁと、今日これを使わせていただいています。

今日は配布資料の中にも何とかして間に合わせようとシールを作りまして、みなさんに配っています。たぶんお一人ずつあると思いますが、もしまだもらってない方がいれば足りていると思いますのでもらっていってください。

なぜ新国立競技場は建たないのか?

それでは「真国立競技場へ」というタイトルでお話を始めたいと思います。次お願いします。まず問い1。「新国立競技場は建たないの?」という、これたぶん今、皆さんがいちばん関心あることだと思います。

実際に先ほどもお話がありましたが、お金が足りている、足りていないとか、間に合う間に合わないとかいうお話がいろいろ連日報道で変わっています。

これはまぁ僕の答えですが、あの計画案では建ちません。なぜ建たないかいう理由が書いてありますが、理由1、まずお金が足りない。

ここに書いてあるのは最初1300億円でこのコンペは始まったわけですが、蓋を開けたら最初にザハ・ハディドさんのデザイン画とともに発表されたのが、3000億だったと思います。「3000億、大変だぁ」ということで、あそこを切ってここを切って、出っ張りを取ってという、そういう作業があって、3,000億円がいち時期1,600億円になりました。ちょうど1年ちょっと前だと思うのですが。この3,000億となったときから、たぶんこの新国立競技場の問題というのは、だんだん皆さんに周知されていったんじゃないかと思います。

それで「1,600億円でできるのか?」ということで、この1年間、ずっと続いていたと思うんですね。ちょうど1年前の5月28日に基本計画書が出たときにちょうど僕なんかも取材を受けまして、「この設計はどうなんだ?」みたいな話があった時に、終始僕は「建ちませんよ」と言い続けてきたと思うんですけど、それが1年経過しまして、「2,500億円でも建つかどうかわからん」という話が今、出てきています。

そこに対して「もっとお金をよこせ」とか「あれを止める、これを止める」と言う話がありますけど、なぜそうなっているかはおいおい説明します。

10月着工は無理

建たない理由の2。時間が足りない。着工を10月と言っていますが、10月着工はできません。なぜかというと、今、設計図が仮に完成しているとしても、完成した設計図を持って許認可を取らないといけませんから。いわゆる建築確認申請とかいうものですけど、これを取るのにおそらく、どんなに急いでも4ヶ月ぐらいかかると思うのです。その許可が取れて初めて見積りなのです。

これ皆さん大きな公共工事だからとか、そんなこと考えなくていいのです。自分の家とか友達、親戚の家とか親の家とかで考えてもらえればいいと思いますが、間取りが決まってもすぐには建たないと思うのです。建築確認申請というのがあって、役所にその書類を出してOKをもらわないと着工できません。

特にこの新国立競技場ほどの施設になると、通常の建築確認の許可申請ではなくて「適判」とか、いろいろ複雑な経路が通じて二重審査とかいろんなことがあります。だから普通の住宅やビル以上に時間がかかるのです。許認可に。まだ許認可ルートに入ってないはずなので、10月着工はできません。

竹中工務店と大成建設が建てると決まったわけではない

理由の3。やる人がいない。これはまだ明らかになっておりませんが、上部構造という部分は竹中工務店がやる予定になっています。下部構造は大成建設がやる予定になっています。あくまでこれは予定でしかないです。

だから正式には設計図が上がって許可が取れて見積りがあって、見積りが承認されて初めて着工なので、まず10月着工はありえないです。

これを文科大臣や森元首相なんかも、もし10月に出来ると思っているとしたら、それは正しい情報が彼らのところに上がっていません。それはJSCが正確な情報を上に上げてないということは、ここ数日の報道を見て明らかだと思うのですが、彼らはおそらく常に全部を説明していないと思いますね。もしかしたら、JSCすら全部を把握していないかもしれないですけど。

次いきましょう。「竹中工務店と大成建設が建てるんじゃないの?」に対する答え。あくまでも実施設計に協力する施行予定者なのです。

ここがまた変則的な契約というか動きになっていて、普通のケースだと設計図にあわせて工事会社は入札するのですが、今回、去年の11月に大成建設と竹中工務店に決定したのは、あくまでも施行予定者として実施設計に協力するという形なのです。

なぜそういうことになっているかと言いますと、おそらく非常に難しい工事なるだろうと。難しい工事は設計も難しいだけじゃなくて施行のやり方に問題が起きるだろうと。

建築工事も費用の全体像を見ますと、材料代が3割ぐらいです。人件費が6割ぐらいです。それ以外、1割が間接経費みたいなものです。大きな建物でも小さい建物でもだいたいそんなもんだと思っていただければいいですけど。

だから、建物のコスト割合の中で人件費がいちばん大きいんですよ。人件費がいちばん大きいということは、作業効率とか、途中で工事がスムーズに進むか、ということによって値段がすごく変動します。

だから今回は設計図の段階から施行会社に是非入ってください、そして設計中に施行会社が気づくことがあれば教えてくださいね、施工会社のほうの意見があれば、それを設計にフィードバックします、というような形で竹中工務店と大成建設がどうやら入っているようなのですが。

この2社から出ている工事金額がどうやら2,500億円でも足りないじゃないかという噂が流れて、大変なことになっているというのが今の話ですね。

下村大臣と舛添都知事の対決

それが原因で、下村大臣と舛添知事がなぜ揉めているのか? これはもう2週間ぐらい経ちますか? 舛添知事が「びっくりしました。寝耳に水です」と。突然、文科省が東京都に500億円払ってくれるはずだとやってきたという事件があったと思います。

これがなぜ起きたかというと、工事費が1,600億円を超えてしまうのではないかということが文科省に情報が届いたようです。それについて内閣官房のほうで、たぶん菅さんだと思うのですが、「どうなってんだ」という話になって文部大臣の下村大臣が呼ばれまして、文部事務次官の山中さんも呼ばれまして、「お金が足りません」「そのお金どうするんだ?」という話になったときに、どうやら「東京都が500億出すことになっているから大丈夫ですよ」とお答えになったようです。

そしてその話を舛添さんがお聞きになって、「そんな馬鹿な話は無い!」ということで、あの記者会見になったと聞いています。

舛添さんが知事日記というのを書かれていまして、結構この間の経緯も詳しく書かれているので、ここを読んでいただくとわかるのですが。まず東京都知事になったときに、東京都が競技場の建設費の500億円を負担するなんて話を聞いてないと。引き継ぎも無いと。もしそういうことがあるなら書類があるはずだし、公文書も無い。それにその予算を出していくためには当然議会の承認もいるので、そういった話も無い。それを「口約束でそういう話があったって言われて出せるわけがないでしょう」と。まぁこれ正論ですよね。

それに対してその後、森元首相が「飯食っている時に言ったとか」言われていますよね(笑)。「石原知事と話がついていたんだ」とか。それについては猪瀬さんが「一切そんな話は無いし、そんな話をしても断った」とおっしゃってると思います。

この話は本当に面白いんですよ(笑)。だから、もっとみなさん注目していただきたいんです。これって競技場だから、オリンピックだからじゃなくて、すごく珍しいことに、公共事業とか政治家の動きがものすごい可視化されている珍しいケースで、僕は本当にプロレスみたいだなと思っていつもニュースをワクワクしてるんですけど(笑)。

だからこれは舛添さんの勝ちです。舛添さんが、「あっ、そうなんですか」じゃなくて「なんだそりゃ!」と言って「情報を出せ出せ」と言っていると思うのですが、未だに文部科学省もJSCも、これに関して「なぜお金がかかるのか」とか、そういう説明は今なされてないというのが現在の状況ですね。

ザハの事務所も混乱している

そういう「建たないじゃないか」という話になって、つい最近ですけどザハ・ハディドさんの事務所の方がインタビューに答えられて、「いやいやいやあのまま建つよ。あのまま変更しないで行く」というようなお話が、ちょうど2、3日前に出たと思うのですけど出ました。じゃあこのザハ事務所はどうしているのだろうということについては、実はザハ事務所もこの件混乱しています。

ザハさんと所員の方の意見が全く食い違っているのです。ザハさんは、去年の12月の時点で「自分が外人だから日本人の建築家は私のことを悪口言っているでしょ。そういう話で勝手に設計を直してって知るか!」みたいな、そんな話しているのです。「デザインそっちのけで勝手に進めている日本の建築家たちは、外国人嫌いの偽善者である」とザハ本人さんは言っています(参考:Zaha Hadid says Tokyo stadium criticism is "embarrassing" for Japanese architects - Dezeen)。

ところがスタッフのヘベリンさんは、「今発表しているデザインは完成形に近い」とおっしゃっている。だから、同じ事務所の所長とスタッフの方でも意見が結構違っています。なぜそんなことになっているのかというのも非常に不思議な事件です(参考:「設計変更、時間失うだけ」 新国立競技場デザイン者側 - 中日新聞)。

下にザハ事務所のスタッフのヘベリンさんのお話があるんですけど、槙さんとかいろんな方々が「これ大丈夫?」と言うことに対して、「今からやり直しても工事が安くなったり、工期が短くなったりする保証は無い」「我々のデザインは公平なコンペを経て選ばれて、私たちは正しい方向を向いている」という、まぁ非常に頑張ったご意見ですよね。もう立派だと思いますよ。スタッフとしては。

ここで「いやいや本当はこうなのです」ということを言うようなスタッフは絶対に雇っちゃだめです。やっぱりここは大将を守って、「大丈夫だ!」と言えるこのヘベリン、本当に頑張っていると思います。

新国立競技場コンペはデザイナーに対する欺瞞に満ちている

ところが、実はこのヘベリンさん、先ほど設計はちゃんといっていると言っていましたけど、ザハ・ハディドさんはこの建物の設計者ではないのです。実はデザイン監修という契約になっています。

これはJSCがコンペの時に応募者に対して、確約書を取っているんですけど、それのコピーで重要なところを黄色に塗っています。

これはどういうことが書いてあるかというと、このコンペはデザイン監修を決めるだけであると。そしてデザイン監修の人は、日本側の基本設計とか実施設計の人にアドバイスしてもいいけどねと。後は日本側の設計事務所と実施設計会社で適当に変えちゃうよと。そういうことが書いてあります。

現時点で基本設計者は、日建設計さんを中心とした日本設計と梓設計のチームだと聞いています。だから今の設計者は、本当は日建設計さんなのです。これは契約上もそうなのです。

だからなぜ、日建設計の方も、今回の事件があるときに出てこないのかと、僕は非常に疑問を持っています。

確かにザハ・ハディドさんはデザイナーとしてあのデザインを発表されていますから、当然そういう形でマスコミ発表もあるし、たぶんデザイナーの方とか建築以外のデザインとかアートの好きな方からすると、おそらくザハ・ハディドが一生懸命やっているのに、こんなことになって可哀想だというお話があると思います。

でもこれは、はなっからザハに設計させないような契約になっているんですよ。だから、コンペそのものが、設計者とかデザイナーに対する欺瞞に満ちた、そんな内容でできあがっています。

だから今のこの基本設計までは、先ほどのチームですけど、じゃあ今度実施設計は一体誰何だっていう問題が残っていまして。先ほど竹中工務店と大成建設が実施設計に協力するって言っていますが、実施設計を一体誰がやっているのか、ここはまだよくわからないのです。実施設計の契約っていうのは、結ばれているかどうかもわからないっていうのが実情なのです。

設計は設計図を書いて工事の契約をして、その工事内容まで監督するっていうのが普通のやり方なのですが、今回の場合は既にこの段階で誰が責任者かわからないっていうような状況になっています。

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