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安い日本で大丈夫?「どうありたいか」から考える価格戦略(全4記事)

「安くて良い」では、世界の富裕層は満足しない 裕福な訪日外国人が財布のヒモをゆるめるポイント

「日本の底力」をテーマに行われた第3回「インバウンドサミット」。本記事では、プライシングセッション「安い日本で大丈夫? 『どうありたいか』から考える価格戦略」の模様をお届けします。全国通訳案内士・白石実果氏のモデレートのもと、箕輪厚介氏、アフラ・ラフマン氏、そして高木新平氏が、他社と異なる料金設定を可能にするポイントや、プレミアムとラグジュアリーの違いなどを語りました。

他社と異なる料金設定にするには?

白石実果氏(以下、白石):お金を出す人の意見もおうかがいしたいなと思います。アフラさんの旅行会社の顧客層は、けっこう富裕層ですよね?

アフラ・ラフマン氏(以下、アフラ):はい、そうです。

白石:1回の旅行でどれぐらいのお値段?

アフラ:1週間で1人70万円ぐらいですかね。ホテルの宿泊や国内の移動、ツアーのコンテンツだったりで、だいたいそれが平均かなと思います。

白石:ありがとうございます。そういった方たちがお金をお支払いする時に、けっこう厳しい目で見ると思うんですよね。

アフラ:そうですね。

白石:高いから安心ではなくて、これだけのお金を出した時に、「本当にこれでいいの?」みたいなフィードバックも、私が実際にガイドしている中で聞くこともあるんです。そのあたり、みなさんから指摘はありますか?

アフラ:私たちも、最初の頃は料金設定をつけていました。例えば、ガイド費用1日何時間いくら、車何時間いくらと。たぶん、国内の旅行会社は、実際にかかった費用プラス手数料何パーセントと料金を設定されると思うんです。

でも、それは海外に通じないと思っています。まずライバル他社の価格を調べて、同じようなサービスがあったら、同じ金額に設定しないといけません。なので、最終的にボリュームで利益を出すしかないと思うんです。

プラスアルファで、他社とちょっと違うところを作れば、料金を自由に設定できます。例えば、相撲部屋体験や隈(研吾)先生との建築ツアーのようなオリジナルの旅行コンテンツだったら、わりと自由な料金設定ができると思います。1日1回しかできなかったり、いろんな方々の協力が必要だったりするからです。そこは高く売ってもいいと思うんですね。

私はオーバーツーリズム(観光地に訪問客が増えることで、自然環境や住民の生活に著しく悪い影響を与え、結果的に観光客の満足度を著しく下げること)の反対派です。例えば、日本の神社は金額が安すぎて、人数制限もされていない。修学旅行とか学生のためには値引きをすればいいんですけど、一般の価格はもっと高くしてもいいと思います。

米国やスイスとの「時給」の開き

アフラ:私が30年前に初めて日本に旅行に来た時から、日本の水の値段はそんなに上がっていないんですよね。海外はたぶん4、5倍ぐらい上がっています。今は特に、かなり円安になっているので外国人はすごく安く感じます。

なので、今までお客さんに「すごく高い」と言われたことはないかもしれないですね。京都とかニセコのホテルは、最近だいたい1泊10万円ぐらいが平均になっていますが、そこに関しても、ぜんぜん何も言われないし。まあこれが相場だなと思われていると思います。

ただし、ガイド料金とかは比べられるので、他社で売っている内容を平均に設定して、私たちしか持っていないものを盛り込んで、利益を出します。なので、まずユーザーを増やすために、例えば、ハイヤー会社の料金設定は、空港送迎は一番安くしています。まず私たちのサービスを知ってもらって、もし気に入ったら、ゴルフ送迎とか12時間の貸切とかでも使ってもらえるように、という考え方でやってきました。

白石:ありがとうございます。今の話で、私が2点お話ししたいと思ったことがあるんです。1つ目が、他と比べてそこを平均にするというもの。2つ目が、1泊10万円のホテルでも大丈夫ということです。これに関して、さっき新平くんと箕輪くんがお話ししていたみたいに、偽のマーケティングではなくてちゃんと満足しているのか、そういうものだと思っているのかをお話ししたいです。

ちなみに、他社と比べるという例に関して。このインバウンドサミットの前に、オンライン前夜祭が一昨日あったんです。その時に他の方から聞いた世界的な値段についてお話しします。

アメリカのスタバは、今時給はいくらでしょうか?(笑)。いくらだと思いますか? みなさん。

箕輪厚介氏(以下、箕輪):あれ、最近聞いた。ヤバいんですよね。3,000〜4,000円じゃなかったでしたっけ?

白石:おっ。今スタバは2,000円です。

箕輪:ああ、そっか。

白石:ただ、これは先日私が読んだニュースですけど、カリフォルニアでは収入が2,000万円は貧困層に入るので、政府が14万円支給すると決定したというニュースがありました。年収2,000万円が貧困というレベルなので、スタバの時給はそんなに高いところじゃないけど、2,000円です。

スイスは特に難しいスキルがなく、誰でもできる仕事の時給は3,000円です。ニューヨークのガイドは、プライベートガイドを1日雇うと600ドル。スイスのプライベートガイドを1日雇うと、質の良いガイドさんとかだと、1日15万円から16万円、というレベルです。

プレミアムとラグジュアリーの違い

白石:これをさっきの1個目のトピックに当てはめると。他と比べてスタンダードを決める時に、おそらく日本での私たちの、特に観光事業者をはじめ消費物の値段は、けっこう日本国内と比べて決めてしまっているような感じがあるんです。

実際に私たちが働いている業界は、日本国内ではなくて、海外の方がゲストなので。そこの部分を意識しておくのは、1つ重要なポイントかなと思いました。

箕輪:それぞれが絡んでくるんですけど、今の話はインフレ・円安問題と、価値と価格の問題という2軸がある。海外がガンガン値上がりしている話は、インフレ・円安・為替問題なので。別にそれはそのとおりだから、別にそれに合わせて日本も上げられるし、インバウンドだったら高く取れるからいいじゃん、というのはそのとおりだけど。

でも、スタバで時給2,000円もらっていても、アメリカでは家賃も上がっているわけだから。関係なくはないんだけど、それだけでもないなと思います。

白石:確かに。

箕輪:要は、昔の東南アジアとか普通に“おいしい”から、別に高い値段でも外国人観光客とかが「高っ」って思わなかったかもしれないけど、物価が安いからそうだっただけでしょ、と。そのへんは、専門家ではないので間違っているかもしれないけど。

高木新平氏(以下、高木):わかる、わかる。僕もそれは自分たちでは解決できないことかなと思っています。もし、事業者サイドが何か考えられるとしたら、もう1個、価値と価格の話があると思っています。僕も明確な答えがあるわけじゃないですけど、プレミアムとラグジュアリーは違うなと思っていて。

さっき箕輪くんが言ったようなものは、けっこうプレミアムな感じだと思います。価格が釣り上げられているというか、レア度を上げるとか限定とか。スニーカーもそういうものが多いと思いますし。

でも、フランスのブランドとかは、どちらかというとラグジュアリーと言われる世界かなと。「HERMES(エルメス)」とかもそうだと思いますし、それってすごく、さっきアフラさんの言葉でもありましたけど、唯一無二のものになっている。

周りがこうだからこれぐらい値段を上げていこう、ではなくて。それ自体がもう唯一無二すぎて、ある意味、価格の自由な意思決定権を持った状態になっている。そこらへんについて、みんなで話したいなと思いましたね。

海外の富裕層が財布のヒモをゆるめるポイント

白石:実際、私が富裕層と言われる方たちをご案内する時、ゲストが大切にされているなという部分があるんです。自分しかできない特別な体験をすること、が1つ。あとは、待たないこととか。というよりも、待てない。本当に、歩かないとか待たないとか。あとは、「ノー」も言われないこととか。洗練されたサービスを受けることとか。

そういうものさえ体験することができれば、きちんとお支払いします、という方が海外のゲストは多いかなと思います。

アフラ:そうですね。あともう1つ、私たちの富裕層の定義は、「3つの選択肢の中で一番良いものを選ぶ人」だなと思っているんです。

箕輪:確かに。

アフラ:富裕層の方々は、「せっかく旅行に行くなら最高に楽しみたい」という方が多いんですね。もし、旅行中に「自分が選んだサービスよりもっと良いサービスがある」と知ったら、旅行会社としてはすごく良くない。例えばコロナ前の話ですけど、北海道のニセコのリフトに乗る時に、特別な入り口を使える会社があったんですが、私たちは別の会社を手配してしまった。この会社を選んでいたら待たずに乗れたんです。

飛行機などで通常は8時間かかるものが、ある会社だと2時間で到着するとなったら「それを選ぶでしょ」という方が富裕層に入ると思っています。

箕輪:おっしゃるとおりです。たぶん、本当に唯一無二のエクストリームな体験ができるなら、お金より体験価値のほうが高いとか、お金より時間が大切だという人が一定数いるんです。

たぶん足りないのは、そういうお金より体験や時間を大切にしている人たちがいるよ、と認識して、完全にぶっ飛んだコンテンツやサービスを作るという意識のほうですよね。

新平の日本酒もそうだけど、コンテンツはできてるけど、「引いてしまうマインド」もある。それが日本の「安くて良い」という文化を作った良さでもあるんだけど。

グローバルなすごい人たちが日本に来るのは、値段が理由ではまったくないから。唯一無二のとんでもないとこだから来る。「それを作ってもいいんだ」という、ある種そういう村上隆的銭ゲバみたいなものは、大事なのではないか。そのマインドをうまく理解して、価値を創造する力が要る。

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