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チームで育児介護と仕事を BREAK & THROUGH(全4記事)

「やりがいのあった仕事から外されるのが一番しんどい」 犬山紙子氏が感じた、女性が抱える「出産とキャリア」の問題点

大阪府が運営する「OSAKAしごとフィールド」は、「働きたい」と思うすべての人が利用できる就業支援拠点です。今回は、ルクア大阪協力のもと開催されたトークイベント「はたらく学校夏やすみ Career Break&through」より、エッセイスト・犬山紙子氏の講演の模様をお届けします。介護と育児の両方を経験しながらキャリアを築いてきた犬山氏。本記事では、育児で「1対1の時間」が1番大変だった理由と、それを乗り越えるための工夫、さらに女性達へのインタビューの中で感じた出産後のキャリアの問題点について語られました。

育児で1番悩んだことは、子どもと常に1対1だったこと

司会者:次は堂々1位に輝く、犬山さんが育児で悩んだこと、ピンチだったことを発表いただけますでしょうか。

犬山紙子氏(以下、犬山):これは今でもなんですけど、やはり「1対1の時」ですね。

司会者:1対1の時。

犬山:子どもはまだ4歳なので、私が育児がこうだと語れるものではないと思うんですけど、大人が2人いると楽さが4倍くらいに感じるんですよ大人の人数が多ければ多いほど、すごく楽になるんですよね。

逆に、大人1人対子ども1人だと、大人もけっこう余裕なくなっちゃったりとか、時間に追われていたりすると、一気に疲れちゃうんです。例えば隣に夫がいて余裕ある状態だったら、子どものイヤイヤ泣きもめちゃくちゃかわいく天使に見えるんですよ。「うわー、またイヤイヤ、この泣き顔かわいい~」みたいになるんですけど、1対1で、しかも公共の場で、電車の中とかで泣かれちゃうと、「かわいい」とはなれないんですよ。「ああ、泣き止んで」って、アタフタする気持ちになっちゃって。

もちろん1対1になる日だって絶対に出てくるし、それが悪いという話ではないんですけれども、ずーっと1対1という状況は本当に大変というか、避けるべきことなんです。これは1位から3位まで全部同じなんですけど、そのための保育園だったり行政の役割もあったりなので、そういった頼るべきところに頼るところが本当に大切だなと身に染みております。

頼るべきところに頼ることで、子どもの命と自分のメンタルを守る

司会者:なるほど。犬山さんの場合は、1対1の状況をできるだけ1対2だったり1対大勢だったりにして、時間を作っていったんですかね。何を活用されていかれました?

犬山:まずは保育園ですね。20個落ちたんですけど。

司会者:ええ!

犬山:めっちゃ落ちましたね。私の友だちは40個落ちていたんで。

司会者:ええ!

犬山:私がまだマシだったというびっくりな話だったんですけど、それでもなんとか、(国の)認可保育園ではないんですけど、(東京都の)認証保育園にギリギリ入れて。本当に保育園がなかったらもう、もう……本当に何もできないので、保育園のお世話になっています。

あと産後お世話になっていた病院から、「こういうサービスがありますよ」というので、シルバー人材センターの方が家事やベビーシッターをやってくださるサービスが何時間か無料で使えることを教えてくださって。もちろん使おうと思ってシルバーの方に来てもらったら、1人目の方がどんぴしゃで、めっちゃいい人に当たりまして。その後も継続的に契約して、ちょっと手伝っていただいたりしています。

司会者:なるほど。今現在もそういうサービスを活用して、仕事と育児を両立されているんですか?

犬山:そうですね。コロナなのでシルバーの方がちょっと難しかったりもするんですけれども、もうワクチンを打った方だったりとか、あと公共のサービスではないんですが、人の力を借りることはしています。

最初の育児の何年間か、小学校上がるまでは「あ、借りててええわ」という(笑)。今はお金を気にせず、とりあえず子どもの命と、自分のメンタルと命を守ることを最優先にして舵を切るようなやり方でやっていますね。

子育ての環境作りを、夫婦一緒に行うコツ

司会者:なるほど。ありがとうございます。いろいろとコメントもいただいているんですけど、これはいい質問ですね。「子育ての環境作りや工夫は、いつも私から始めなきゃ何も始まらないです。その後、夫も自分から工夫してくれるようになりますか?」(笑)。

犬山:(笑)。いや、残念ながら自分から全部やっちゃうと、そのまま夫は「そういうもんや」と学んでしまい、やってくれない可能性が高いと思うんですよ。なので、私は何回か言いましたね。「なんで全部情報を私から出しているの?」みたいな。それって正当な怒りなので。

そう言うと、夫は本当に何倍も返してくれるんですよ。ちゃんと反省して、産後クライシスもそうなんですけれども、そのあとにすごく自分から積極的に、先回りして環境を作ってくれるんです。

私はつわりが「食べつわり」だったので、今何が食べたいかとか、​​食べられるものが刻一刻と変わるんです。でも、いろいろ食材を用意してタッパにつめてくれていたりとか、気がついたら「こんなに素敵な男性いた?」と思うくらい動いてくれているんです。

やはり妊娠は女性の体の中で起きることなので、どうしても女性が主体というかリーダーになりやすいんですよ。そうなんですけど、そこを最初にぜひ声掛けというか、「いやいや、2人の子どものことだから、あなたからも情報を取ってくれないと私が孤立しているような気持ちになりますよ」と伝えることが大切ですね。

産後の育児に影響した「愛情曲線」のデータ

犬山:あともう1個めちゃくちゃよかったのが、「愛情曲線」ですね。産後の愛情曲線というデータがあって、1つの企業が取った調査で作った曲線なので、エビデンスとレビューがどうかはわからないんですけれども。夫婦の愛情で「夫から妻への愛情」はあまり変わらない。「ずっと好きやねん」みたいな愛情があるんですが、ただ女性側からの愛情は、産んだあとにガックンと下がるんですよね(笑)。

司会者:(笑)。

犬山:下がったあとに、つまり産後に「ちゃんと夫が一緒に育児をした」って実感のある妻は(愛情が)めっちゃ回復しているんですよ。老後や熟年くらいになると、結婚した時よりもちょっと高いくらいになる。ただ、産後に何もせんかった夫に対してはさらに下がるという。そういうわかりやすいグラフがあるんですよ。(参照:内閣府男女共同参画局 「共同参画」2010年7月号 

司会者:わかります(笑)。そのグラフを見せたんですか?

犬山:はい。もともと私から見せたというより、母親学級、父親学級に行った時に見せてくれたんです。めっちゃグッジョブと思ったんですけど、めっちゃ効きますよね(笑)。

司会者:あのグラフについてのそういう会話もあったんですか?

犬山:そこまで話してはないですけど、その時夫が「いや、僕が子育ての9割、8割はするから」くらいのことを言ってくれていたんです。私も追い立てはしなかったんですけど、けっこう彼が会話の中でポロッと、よく愛情曲線の話をしているので、「めっちゃ響いているんやろな」と思いましたね(笑)。

司会者:あるかもしれないですね(笑)。

日本人はSOSを出すのが苦手

司会者:介護の時もお姉さんに電話をして自分のSOSを発信されたりとか、「こうしてほしい」「気持ちを聞いてほしい」と、自分発信でされていますよね。介護のシーンでも育児のシーンでも、すごく強い印象を感じたんですけど、やはり「助けてほしい」と発信していくのが大事なのかなと思いました。

犬山:おっしゃるとおりですね。SOSを出せる力を付けておくことが大事だと思います。これはなにも育児や介護だけではなくて、仕事の中でもそうなんですけれども、SOSを出すって日本人が苦手な力だと思うんですよね。

「だってSOSを出したら人に迷惑かけちゃうじゃん。私さえ我慢したら回るんだから。私さえ我慢したらいいんだ」というマインドに、真面目で優しい方ほどそっちのほうに行っちゃう。でも、「私さえ我慢したら」の先って自分に対するネグレクト(放棄)であることが本当に多くて。結局、その周りを引き込んで本当にしんどい状況になってしまうことも多くあるなと感じます。

「私さえ我慢したらええやん」と思った瞬間に、「ちょっと待て。今、私、自分のことネグレクトしたんちゃう?」みたいに1回ツッコミを入れてみて、そうしたら「人に頼ったほうが長い目で見たら絶対ええわ」と思えるんです。

いざSOSを出すとなった時に、急に出すのはやはり難しいと思うので、そのちょっと前から、練習で小さいSOSをちょっと出してみる。友だちにちょっと「本当にごめんね。熱が出ててほんましんどいから、ちょっと悪いけどこれで何か買ってきてくれないかな」みたいな。

1回お願いしてみる練習をしてみると、案外それで、友だちも頼ってくれたりするんですよね。そうすると頼り合いの関係性ができたりするんです。

司会者:ああ、いいですね。

犬山:まずは勇気を出して、小さいところから何かやってみるのが大事なのかなと思います。

焦りと不安から、産後3ヶ月で職場復帰

司会者:ありがとうございます。お時間がもうちょっとあるんですけども、視聴者の方々は犬山さんに聞きたいことがいろいろあると思いますので、ちょっと質疑応答の時間を多めに取っていきたいなと思うんですけれども。犬山さん、Slidoは見てますか? 

犬山:はい。拝見しております。

司会者:「旦那さんマジでかわいいですね」って(笑)。

犬山:(笑)。めっちゃいいやつなんですよね。それだけ私がラッキーやったなって思うことで、本当に助けられています。

司会者:犬山さん的に「この質問答えたいなぁ」というのはありますか? 

犬山:じゃあなるべく多く答えていく感じで。「お仕事に復帰された時、お休みされる前とのギャップはありましたか?」。これは私もすごく不安だったんですよ。なので、産後3ヶ月で復帰しちゃったんです。

司会者:えっ、早すぎる。

犬山:完全に焦っていましたね。フリーランスなので、書き物はもう書きためていたのでばって出せるけど、(テレビやメディアに)出る仕事って、自分がいなくなった時のレギュラーは誰か別の人が座るから、そこですごく焦っちゃって。

「いやぁ、ほんまに子ども産んだら仕事なくなるんかな」「周りから遠慮されるんかな」みたいな不安はありました。「あの人、子ども産んだからもうそんな仕事せえへんのちゃうん?」って目で見られてしまうと、仕事の依頼が減るんじゃないかっていう焦りがすごくて。

ものすごく「私仕事しまっせ~」っていうアピールをして。でも今考えたら半年休んだらよかったんかなって感じる。やっぱ産褥期(さんじょくき)とか、なんだかんだで体に感じるトラブルが多かったですね。私はあまりにも早く復帰してしまったんですよ。めっちゃ情報を読んでいて、「体を休めなさい」って知っていたけど、それでもやっぱり焦ってそういう判断をしてしまったんですね。

NHKのトイレで搾乳をする日々

犬山:復帰した時は、やっぱり仕事は少なかったです。本当に産む前の2分の1ぐらいまで……。書き物はなにも変わらなかったんですけど、メディアに出る仕事は2分の1ぐらいに減っちゃったんです。

ただ、私が仕事をしている様子が周りに見えたところから、ちょっとずつ(仕事量が)戻ってきて、最終的には妊娠前よりも多い仕事ができるようになったという状況でした。産後すぐの仕事の減りで留められたので、「焦りすぎなくてよかったんだなぁ」と感じたりもしました。

司会者:なるほど。

犬山:搾乳器持っていって仕事をするのはけっこう大変ですね。

司会者:それはどこか授乳室とか、そういうところでやっていたんですか。

犬山:トイレです。NHKのトイレで(笑)。

司会者:どこもちゃんと設備が整備されているわけじゃないですもんねぇ。

犬山:女性スタッフさんが「あ、搾乳ね」ってわかってくださって、搾乳の時間を取ってくださったりとか。そういう方がいて助かった側面がけっこうありました。

司会者:なるほど。搾乳って、(知らない方は)知らないですもんね(笑)。搾乳とはどういう行為なのか、どういう器具を使うものなのか、どこでやるものなのかとか。男性とかだと(「搾乳」自体を)知らない人も多いと思う。

犬山:そうですよね。横で見せないとなかなかわからないものだと思うんですけど。でも、サボると乳腺炎になって、また熱が出るので。搾乳の時は大変でしたね。

働く女性が抱える「マミートラック」の実態

司会者:出演される系のお仕事が2分の1ぐらいに減ったっておっしゃってたんですけど、それはなんでですか? もう他の出演者さんに割り当てられているからですか? 

犬山:妊娠をして(仕事をいったん)終えるってなった時に、「卒業」ってかたちをとったものがあったんですよね。

あとは妊娠出産関係なく、私の仕事はやっぱりブレがあるので、ちょうどこの時期に来ていたというか。ぱらぱらってレギュラーがなくなって、「あ、これはなくなる時期やな」みたいな。そこで大事な仕事が入ってきたりとか、そういう波がある感じでやってたんですよね。これは私がフリーランスだからそんなに参考にならないかもしれないんですけれども。

会社で働いていらっしゃる方だと、やっぱり「マミートラック(女性の出世コースから外れた働き方)」だったりとか、自分が本当にやりがいを持ってやっていたプロジェクトから外されるだとか。なぜか女性側が時短をしなければいけないという風潮がある。なぜか出世コースから外される。ゆゆしき事態だと思ってます。

司会者:書籍の中で、いろんなご夫婦にインタビューをされてるじゃないですか。その中でもやっぱり、そういう「復帰後も仕事が思うようにいかなかった」っていうお話はけっこうお聞きになりましたか?

犬山:聞きましたし、本当に絶望されてましたね。その人はスーパーウーマンかっていうくらい、本当に1人で「ワンオペでなんぼでもやるで」みたいなすごいバイタリティのある方なんですけど。

その方に、「旦那さんも単身赴任で、自分もフルタイムで働きながら(育児をしていて)、何が一番きついですか?」って聞いたら、「自分のやりがいのあった仕事から外されて、今やりたくない仕事についてることが一番しんどい」っておっしゃってましたね。

そこって人によって価値観がぜんぜん違ってくると思うんですけれども。仕事って1日のうち8時間ぐらい取るような、その人の人生ですごく大きな割合を占めるものだから。だからやっぱりやりがいをあまり感じられなくなってくると、本当に問題ですよね。

司会者:そういった実態もまだまだあるということですね。ありがとうございます。

『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』(犬山紙子)

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