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魚返洋平氏 インタビュー(全2記事)

夫婦で育休を取って得た、一生ものの「共通言語」 母親だから・父親だからではない、“2人育休”のメリット

2021年6月に改正育児・介護休業法が成立し、「男性が育児休業を取りやすくなる制度」として注目されています。そこで今回は、男性の取得率が5パーセント台だった2017年に育休を取得した、コピーライターの魚返洋平(うがえり・ようへい)氏にインタビューを行いました。まだ前例の少ない、育休を夫婦2人で取ることのメリットや、育休後に気づいたことについて語られました。

最初から「育休は2人で取る」と決めていた

ーー魚返(うがえり)さんは、男性の育休取得率がまだ5.14パーセントだった2017年に、夫婦で育休を取得されました。その体験記『男コピーライター、育休をとる。』をWebコラムで連載され、2019年に書籍化、今年2021年7月には、瀬戸康史さん主演でドラマ化もされました。

(※WOWOWオリジナルドラマ『男コピーライター、育休をとる。』  WOWOWオンデマンドにて配信中)

育休に関する考え方は多様にあると思います。今までは母親が育休を取るのが当たり前だったんですけれども、最近は「父親も取ったほうがいいのでは」という風潮になってきました。一方で、「母親だけでもいいんじゃないか?」とお考えの方もまだまだ多くいらっしゃると思うんですね。魚返さんも「パートナーだけが育休を取る」という選択肢は議論されませんでしたか?

魚返:ありませんでした。

ーーなるほど。もう最初から2人で取ると決まっていたんですね。

魚返:付き合いが長いこともあると思います。妻と僕は学生の頃から付き合っていて、結婚した時点で10年近く、子どもが生まれる段階で(付き合いはじめてから)もう17年ぐらい経っていました。長い付き合いなので、学生時代からの僕の性格も、すでに了解されている。就職活動の時の男も取れる制度なら取ってやろうという感じも、おそらく妻は知っていたと思います。

もちろん「前から言っていたように育休取るわ」と宣言はしましたけど、だからといって驚きもなければ、妻も「あ、了解」という感じですね。なんとなくそういうもんだと。

「取りたくても取れない」のが男性の育休取得の課題

魚返:それで言うと、僕の感覚としては、「母親だけじゃだめなのか?」という問いに違和感があるんです。「1人だけ育休じゃだめなのか?」ならまだ分かるんですよ。ツーオペのメリットを説明できるから。でも「母親だけじゃだめなのか?」だと、ジェンダーバイアスを受け入れた前提から話がスタートしてしまう感じが、なんだかなあと。

「母親だけでもいいんじゃないか」って思う人は、確かにいると思うんですよ。でも、この2021年だとそれが多数派だとは思わないんです。「(育児を)積極的にやる必要がない」と思っている男性は、逆に今は少数派なんじゃないかと思っていて。

「母親だけでいい」から取っていないわけではなくて。「取ったほうがよさそうだな」って思っているけど、心理的・実務的な障壁があるから実行できずにいる男性が多い気がします。

というのも、厚生労働省の発表で、2020年の男性育休の取得率が12.6パーセントになったという数字があります。潮流として(僕が取得した2017年からの)ここ3年で、もうだいぶ「取ったほうがいいんだろうな~」というコンセンサスはできてきた気がするんですね。だけど、8割以上が取れていない。むしろそこにこそ課題があるんです。

女性に比べて男性の12.6パーセントは別に多い数字ではない。でもそれは男性が実行に移せていないからであって、育休が無用だと思っているからじゃないと思うんです。

育休を取るのに大事なのは、夫婦双方が納得していること

ーーそうですね。それで言うと、「夫婦2人で」「ダブルで」というのが、魚返さんの特異なポイントかなと感じます。

魚返:僕も「育休はいいよ」っておすすめはするけど、「男性会社員は全員が育休を取らなければいけない」とは別に思ってないんですよ。

なぜかと言うと、育休って「手段」でしかないので。取ればいいわけではないし、取らないからだめというものでもない。大事なのは「夫婦双方が納得」していることですよね。

納得して取る、もしくは納得して取らない。どちらにせよ、ちゃんと2人で共有できていることが大事だと思います。2人で話し合って、自分たちの働き方とか人生観を吟味した結果、妻が「育休は私だけが取ることにしました」って決めて、夫が「育児はできる範囲でやるけど会社は休まないよ」と結論を出してもいいと思ってるんですよ。

そもそもシングルペアレントの家だってたくさんあるわけだから、その家はそんな選択の余地すらなく、1人でやっていると思います。2人いる場合にダブルで育休を取ることは、お互いが楽になるとか、2人が仲良くやっていくための手段だと思っています。

逆に手段だからこそ、万人が簡単に行使できないといけないなと。育休義務化の運動が目指すものに近いんですけど、「育休とるべし」ではなくて、「選択肢として簡単になるべし」ってことですね。

子育ての「青春時代」を一緒に過ごすと、いつでも共通の思い出に戻れる

ーー夫婦2人で育休を取ったことでよかった点や、逆に片方だけの育休だとこれはできなかったなという点はありましたか? 

魚返:一番大きいのは、子どもや自分たち家族について「ハイコンテクストな2人」になれたことです。「あの時ああだったよね」とか「あの感じ」って言った時に、それが何を指すのかわかるようになる。細かい機微が、一言二言で共有しやすくなるじゃないですか。

子どもが生まれてからの最初の半年間をずっと一緒にいたことで、いつでもそういう共通の思い出に戻れるんですね。それがすごく大きかった。育休のあとの20年も30年も、離婚しないかぎりは一つ屋根の下で暮らす相手なので、そこが共有できてるかできてないかは大きな分かれ道のような気がするんですよ。

例えば、10代の頃を一緒に過ごした友だちとしか共有できない何かがありますよね。その後どんなに新しくいい友だちができたとしても。僕は運動部に所属したことがないのであまりわからないんですけれども、部活を3年間一緒にやって、練習試合で勝ったり負けたりうれしかったり悔しかったりした部活メイトって、10年経っても20年経っても、集まるとまた部活の話をしたりするんですよね(笑)。

そういう青春時代を共にした人間が、その後も、その人たち特有のわかり合える何かがあるということに、育休もけっこう近いんじゃないかと。最初の1年間、あるいは最初の2年間。子育ての一番大変な時期は、「青春時代」みたいな面があるかもしれない。役に立つとか役に立たないとはちょっと違う、夫婦がずっと一緒に過ごしていく時の「共通言語」。それができるのはいいかもしれないですね。

さっき話したように、僕ら夫婦は子どもが生まれる前からすでに10年以上一緒にいた間柄だから、その時点でだいぶ共通言語がありました。だからこそ、逆にここで育休を取らなかったら、それがなくなっちゃってたかもしれないと思いました。

夫婦で分かちえたのは、育児の「退屈さ」

ーーいつまでも「あの頃は」みたいなお話ができますもんね。

魚返:育休期間そのものよりも、そのあとですね。本当はパートナーにも持っていてほしかった思い出を、自分しか持っていないという「孤独」ってあると思うんですよ。どんなにそれがいい思い出だとしても、逆にいい思い出であればこそですかね。思い出を共有することで、いろんなものが共有されるというのは、人間関係の根っこにあるような気がします。

ーー確かにそうですね。「仕事しながら休みの日に育児に参加する」という選択ではなく、「わざわざ育休を取る」という選択のメリットとも言えますね。

魚返:基本的に仕事から帰ってきてできる育児って、極めて限られている。つまり、「夜の子ども」と「朝の子ども」しかなくて、その間の6~7時間の「昼の子ども」を見ていない。

それだと育児の退屈な面を理解しにくいと思うんですが、その「退屈さ」は、共有できたほうがいいと思ってます。ポイントだけで見るとドラマチックに見えるけど、ずーっと子どもと一緒にいて、ずーっと見ていると、ぜんぜんドラマチックじゃないんです。

植物に例えるとわかりやすくて、朝顔を1週間に1回観察すると、どんどん伸びてくのがうれしい。でも朝顔のつるの前にずっとスタンバイして、1日中見ていると、退屈じゃないですか。母親だけがその「退屈」に立ち会い、父親は成長した朝顔だけを見ている、これがズレになる。

だけど、その退屈さの中に時々、ささやかな喜びとか驚きがあるんです。ベースはやはり「退屈さ」であり、「大変さ」であり「単調さ」である。そこをひっくるめて分かち合えるところが、自分的には育休を取った時間の意義かなと思いました。

会社員だからこそ得られる恩恵は、1パーセントも無駄にしたくなかった

ーー本の第11章(P155〜)で、自身のことを「隠れ子ども嫌いだ」と書かれていました。先入観で大変恐縮なんですが、子どもが好きだから育休を取ったんだと思っていて、ちょっとびっくりしました(笑)。本の中で書かれていない部分も含めて、育休を取ろうと思ったきっかけがあれば教えていただきたいです。

魚返:そうですね、違和感を持つ人もいるかなと思っていました(笑)。まず、今はぜんぜん子ども嫌いではないんですよ。自分が親になったから(笑)。よその子どもですら、そんなに別に苦手じゃなくなりました。

育休を取ったのは、どちらかというと子どもよりも妻のためです。最終的には自分のためだと思っているんですけど、「子どもがかわいいから育休を取る」というよりは、元はと言えば「夫婦で仲良くやっていきたい」ということに過ぎないんです。

ただ、(育休を取ったのには)消極的な理由もあって。これは本に書いてるんですけど、もともと「しぶしぶ就職活動をやっていた」という経緯があるので、会社員だからこそ得られる恩恵は1パーセントも無駄にしないほうがいいと思ったんですね(笑)。どうせ被雇用者になってしまうのであれば、被雇用者特有の制度を使い倒そうと。あとは単純に「仕事を休んで家で過ごすのは楽しそうだな」という軽薄な興味です。

特に「制度」って、別にその人の能力に関係なく、誰にでも等しくもたらされるものじゃないですか。仕事ができる人だけが制度が使えるってことじゃなくて、誰でも使えるのが制度なんだから、それは使わない手はないなと。

育休を取得した2017年当時と現在の周囲の変化

ーー制度のお話でいうと、6月に育児・介護休業法が改正され、男性もこれからどんどん育休が取りやすくなります。注目が集まっていると感じるのですが、魚返さんが育休を取得された2017年当時と今で感じた変化はありますか。

魚返:実感として、自分の半径1キロについては劇的に変化した感じはありません。ただ数値を見ると、例えば電通だけで言っても、僕が取得した2017年度の男性の育休取得率って20パーセント台なんですね。これが2020年、去年度は77パーセントまできているんですよ。

グラフでバーッと上がっているのを見ると、けっこうびっくりします。3年間で約21パーセントが77パーセントになるって、なんだかんだですごく変化したんだなと。日本全体でも、厚生労働省の発表では2019年に7.48パーセントだったのが、2020年は12.65パーセント。やっぱりものすごい変化です。

あとは育休を体験した人とか育休を取れない人とか、とにかく「育休にまつわる言説」が、SNSとかも含めて僕が取得した当時の倍ぐらい出ている感じはありますね。潮流としてホットになっていると感じます。

取得率が77パーセントの会社にいると「あ、彼も取った。彼も取った」って、わりと日常的なことになってはいます。

育休中にできることに、「男だから」「女だから」の違いはない

ーー育休を取ってみて、「男性だからこそできたこと」、逆に「女性にしかできなかったこと」という、現実的な違いはありましたか?

魚返:ないと思います。仮に同じ条件で、同じ期間に育休を取った男性と女性がいたとした時に、そこに何か違いはないと思いますね。

あるとすれば、生物学的には赤ちゃんにおっぱいを飲ませられるのは女性だけ。もっと言うと、赤ちゃんを産めるのは女性だけ。それぐらいでしょうか。でもうちは混合育児だったし、本来母乳で育児をしなきゃいけないわけでもないじゃないですか。完全に粉ミルクで育児してる人もいます。個人がどうしたいかという感情は別として、物理的にはできる。

出産と母乳以外に、男女でできることの違いはほぼないんです。それは育休を取ってみてわかりました。

例えば僕はすごく料理が苦手なんですけど、料理が苦手なのは僕が「男だから」ではなくて、単純に経験が乏しかったからです。逆に絵を描いたりお話を作ったりするのは、仕事柄もあってわりと得意なんです。なので、子どもにお話を作って話してあげたり、読み聞かせをするのに関しては、向いてると思うんですよ。

それは男性だから女性だからといったことではなくて、個人的に得意か不得意の違いですよね。

ーーなるほど、確かにそうですね。料理が得意な男の人もいますしね。

魚返:そう、趣味でやってる人もいるじゃないですか。そういう人が育休を取ったら、その技術がフルに活かせるので羨ましいなと当時思いました。

育休が終わってからが、本当の育児の本番

魚返最近のコラムにも書いたんですけど、やっと去年から家族の夕飯を自分が毎日作るようになったんですね。育休から3年も経ってて、今更という感じなんだけど。在宅勤務がスタンダードになって家にいるから、スーパーに買い物に行って、できるだけご飯を作って。

2020年から、ようやく自分の習慣として定着しました。でもそれも、育休の時に(料理が)できなくて不甲斐なかったことに対する後悔がずっとあって、3年経った今、ようやくその後悔を克服するチャンスが「コロナ禍の在宅勤務」というかたちで訪れたんです。

「罪滅ぼし」は言い過ぎだけど、三日坊主で終わらずに1年以上続いているので、このまま続けていけるといいなと思います。これももしかすると、育休を取らなかったら思わなかったかもしれないですね。育休期間そのものではなくて、2年や3年経った後も、なにかしらのきっかけで効いてくることがあるんじゃないかと思います。

ーー共通言語の時もお話しされてましたけど、育休期間だけじゃなくて、その後にも育休の時の気づきが生きてくるということですよね。

魚返:まさに。人によってはもっと違う気づきもあるだろうし、取って終わりじゃないんです。育休が終わったから「俺はいち抜けた」って、乗りかかった船を降りるようなことにはならなくて、たとえば保育園の送り迎えもずっと続けてたりとか。全部、そのあとに関係してくると思うんですよ。

でも、1日しか育休を取らない人だって現実にはいる。一応取ったことになって、それで会社の取得率も上がるってケースが実際にはあるわけです。

ただ、ある程度まとまった期間じゃないと、その後につながらないと思います。できれば1ヶ月以上。なんとなく僕の中では、その育休が育児の入会キャンペーン、あるいはリハーサルなんです。育休が終わってからが育児の本番な気がします。

夫婦で育休を取る時のアドバイス

ーー夫婦揃って育休が取れる家庭はそう多くないと思っています。例えば、収入が減って生活が苦しくなるんじゃないかという心配がありますよね。夫婦で取る、ダブルで取る時のアドバイスがあれば、ぜひ教えていただきたいです。

魚返:経済的な不安を解決するアドバイスは、一様には言えないんですけど。ドラマの第2話で詳しく出てきますが、育児休業給付金は給料の67パーセントしか支給されないものの、期間や取り方をうまく工夫することで、給料の8割ぐらいまでカバーするテクニックもあります。

育休を取らない時に比べると、収入が減ることは絶対に避けられないとは思うんですけど、そのダメージを最小限に減らすことは、正しい知識とスキルを使えば誰にでもできることです。知識として知っておく価値はすごくあると思います。それから、別に一生育休になるわけじゃない。ある程度貯金をしている場合は、それも使ってつなぎますよね。

あと、できるだけ早いタイミングで上司に伝えることも大事ですね。僕は約半年前に伝えました。会社って、不在の穴を埋めるにしても、たとえば人事異動のときなんてほんの1、2ヶ月で対応できてるじゃないですか。半年も前に言って、なんとかならないはずはないだろうと思ってました。

育休を取る前も取った後も、夫婦の試行錯誤が必要

魚返:いずれにしても、育休を取るまでも取ったあとも、「どうする?」「じゃあこうしてみる?」「これを調べてみようか?」みたいなことを、いちいちパートナーと話して試行錯誤していく感じでしょうか。

よく育児系のアドバイスで、「タスクを見える化して共有したほうがいい」と言いますよね。それはやり方の1つとしてありますが、我が家にはあまり向いてないんですよ。そんなことをすると不快感ばっかりが増してしまって、コミュニケーションが逆に円滑じゃなくなる気がしてやっていません。そういったことをやるやらないも、夫婦に合うものを相談していくしかないなと。

わが家が余裕でスマートにできてるかというと、まったくそんなことはないです。極めて泥臭く、暑苦しく、不器用にやってはいるけど、常に話したり直したりを反復しています。

ーー2人で言葉を交わしていくこと、対話をすることが大切なんだなとわかりました。

魚返:そういえば妻とのやりとりは、LINEもたくさん使ったりもしますね。例えば最近だと、「だいぶおねしょせずにねんねできるようになってきたから、そろそろ3日連続でオムツじゃなくてパンツに挑戦してみよう」みたいな話も、LINEなら思いついたときに送れるし。文字になって残るから、後で参照できるし。

ーーあえてLINEでやることで、整理できるんですね。

魚返:うちも2人で完璧に共有できてるかというと、まだまだだなと思うところもたくさんあります。付き合いが長いのは大きいかもしれないですけど、育休の時からずっと一緒に、2人で会話しながらやってました。結局、その延長線がずっと続いていくんだろうなという感覚です。

『男コピーライター、育休をとる』(大和書房)

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