2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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冨山和彦氏:今堀内さんから話があったように、私からはどちらかというと、経済人という軸で話をしていきたいと思います。
先ほどご紹介に預かった本(『コロナショック・サバイバル日本経済復興計画』)を書いたんですね。詳しくは本を読んでいただいたほうがいいんですけど(笑)、基本的な構成として、第1章から第2章は「今回相当厳しいことになりますよ」ということが書いてあります。
まずは企業人、経営を担う立場、あるいは企業の立場としては、とにかくここを生き残らないと明日がやって来ないので、「どう生き残るのか」ということを書いています。今回の経済危機という観点での深刻さは、明らかにリーマンショックとは質が違っています。
要は、感染症対策で強烈な行動抑制がかかっているわけです。すなわち生産活動も消費活動も極めて抑圧をされていて、それが全産業に及びます。経済というのは基本的に、生産と消費の循環です。それがどっちも止まるわけで、したがって猛烈なインパクトがあります。
リーマンのときは基本的にはグローバル金融から始まって、グローバルな自動車とか、あるいはJALのようなエアライン、グローバルな活動をしているところだけが主にやられたんです。今回は始まりが外食だったり観光業だったり飲食だったり、あるいは宿泊だったりと、極めてローカルな産業から始まっています。これはほぼ例外なく、ほとんどの産業がやられています。
加えて、前回のリーマンショックで影響が大きかったのは主にアメリカとヨーロッパだったんですけど、今回はこれからたぶん……ここらへんは本田(桂子)さんが詳しいと思います。開発途上国がかなり厳しいことになると思うんですよ。ですから、世界中例外なく、まさに世界全体がやられているということで言うと、非常にインパクトが大きい。
加えてこの先です。今回は実体経済からやられています。借り手の側は今、結局ものすごい勢いで、どの国もファイナンスでつないでるわけですね。売上がなくなってしまったところ。これは厳密に言うと資金繰りではなくて、赤字状態を借金で埋めているわけです。したがってこれがずっと続くと、要は企業は過剰債務に陥っていくわけです。
すると当座は、これは専門用語になっちゃいますけど、リクイディティ(市場流動性)。流動性の危機ということでお金を出すんですが、おそらくけっこう長引くわけです。流動性の問題から、今度はソルベンシー、支払い可能性の問題に変わっていきます。ということは貸す側からすると、不良債権化することになるんです。
そうすると、今度は金融機関が痛んでくる。金融機関が信用創出能力を失います。仮にパンデミックがある程度収束して、経済が戻っていくときに、一番大事な血液、お金を出す能力を失う。そうすると今度は、それでまた経済が収縮するという、非常に悪循環に陥りやすい状況になっています。
したがって、構造的にも範囲的にも非常に深刻です。とにかくここは、民間も政府の側も、あるいは国際機関も、かなり腹をくくって先例に捉われないような対応をしないと。要はこういうときに一番困るのは、システムとしての経済、それからとりわけ社会の弱い立場の人ですね。手段も所得もない人たちの生活と人生が壊れると、政治的にも経済的にもものすごく打撃が残ります。
とにかくシステムとしての経済を壊さないことと、弱い立場の人の人生、あるいは生活を壊さないといったところが、おそらく世界中どの国においても企業にとっても、大変なミッションになりますね。そういうことが、この本の1章・2章では書いてあります。
今日のメインテーマは3章と4章にいきたいので、ちょっとページを開けてください。
この後ですね。withコロナ、あるいはポストコロナ、アフターコロナの議論をするときに、例えば日本の企業の現状。一応、日本の企業をメインに書いている本なので、日本企業の状況で申し上げると、10年おきぐらいになんらかの原因で100年に一度の危機が起きることは、今後も私は繰り返すと思っています。
これは10年前のリーマンショックも私はそうだったと思っていて。要はこういったことが繰り返し起きる時代に、これから入っていくんだろうと思っています。
さっき堀内さんからちょうど100年ぐらい前の話がありました。戦争もイベントに入れると、あの頃もやっぱり10年に1回ぐらいすごいことが起きてるんですよね。ですから私は、政治経済学的に言うと、1920年代~30年代に近い状況に入っていくような感じがしています。
ここにはいろんな背景があるとは思うんです。そのことはまた後で申し上げます。日本企業に関して言うと、おそらくアメリカと比べて2つ手前のところで、実はもともと引っかかっています。「基礎疾患」と書いております。日本の企業のかたち、会社のかたち、金融のかたち、それからもっと広く言うと社会保障制度等々。今回の雇用調整助成金などはまさに象徴的です。
要は基本的に、工業化社会型にものすごく過剰適応している社会システムです。あるいは会社の仕組みもそうです。大量生産・大量消費をするための会社のかたち、そのなかで改善・改良型で営々とそれを繰り返していく。そういうモデルに非常に適しています。いろんな社会システムも全部、それを単位にしている。さっきの堀内さんの話で言うと、「社会はないけど会社はある」という感じかな。そういう社会システムを作ってきたんですね。
それで、いざというときにお金を渡そうと思ったら「雇用調整助成金だ」と。あれはどういう仕組みかと言うと、会社が申請するんですよね。会社が個人の生活を支えるという前提で全部設計されています。会社によっては「能力がないので、そんなものを申請するんだったら解雇しちゃえ」となってしまうわけです。
ですから、よく考えたら日本の社会のシステムというのは非常に、ある種アメリカも60年代ぐらいまでそうだったように、工業化社会型のモデルから切り替えられないまま長期停滞に陥っていった、というのが私の分析です。
そこにある種「日本的経営」とか、非常に美化されていた部分がありました。そういった仕組みが残っている結果、90年代後のグローバル化とデジタルトランスフォーメーションについていけなかったということだと思います。
ですから変な話、私は日本の今の政治的安定は、90年代の経済的革命に負けたことが原因だと思っています。例えばウォールストリート的な勝者とか、あるいはシリコンバレー的勝者が日本にいないんですよ。だから大企業は衰退する。中堅・中小企業はローカルにずっと停滞しています、と。格差が広がらないので、ある意味では変なストレスが起きないんですよね。
結局入れる先がないから、みんな自民党に入れてますよということが起きるわけです(笑)。日本の今の皮肉な政治的安定というのはたぶん、90年代以降の経済的なイノベーションの負け組になったことが原因だと思っています。良い悪いはともかくとして、そういうことが起きてます。
それに加えて、過去の危機における克服のモデルというのが、やっぱり基本的に現状維持型のお金の入れ方をしています。あるいは、この国はいろんな救済をやってきたんです。この国においてはまだ、企業倒産は悪なんです。
これはさっき申し上げたように、たぶん会社というものが、要はサブ共同体と言うか、サブユニットの基本になってしまっているものですから、これを潰すことはイコール、多くの人の人生を壊すことになる。そういうある種の枠組みがあります。
そうすると当然、会社は全部生かそうということになるので、がちゃっとお金を入れたり、がちゃっといろんな金融的な特典を与えて、とにかくそのまま残すかたちでやってきています。
その結果として、20世紀的というか、工業化社会的な企業構造がそのまま残されて、低成長だけど格差は広がらないというのが日本の状況だと思います。
それで第4章のポストコロナです。これはさっき堀内さんが言われたように、非常に興味深い問題提起になっていると思っています。これはちゃんと証拠が残ってるので申し上げます。私は4年前の大統領選のときに、数少ないトランプ当選を予想していた一人でした。『財界』の対談でちゃんと話しているので、これは後付けじゃないです(笑)。
なぜそんなことを言ったかというと、直前にブレグジットの国民投票があったんですね。いろんな人がいろんなことを言っていました。90年代以降のグローバル革命とデジタル革命の勝者の国、わかりやすく言えばイギリスとアメリカに何が起きたかというと、結局デジタル化が起きました。
したがってこれは完全に、工業生産型の産業を先進国でやるということは、とどめを刺されたわけですね。組み立て工場は全部、何十分の一のコストのところに移行するわけです。日本もまさに、それをやられたわけです。まずこれはとどめを刺されました。
それからもう1つ、次に出てきた新しい産業群。ネットであったり、あるいはバイオテクノロジーですね。これは典型的な知識集約産業です。知識集約産業において誰が富を手に入れるかというと、話はやっぱり単純です。もともとすごく頭がよく産まれて、教育環境に恵まれて、すごく高学歴になった人なんですよ。あるいは、そういった高学歴な人とのアクセスを持っている金持ちです。
どうやってもここに富は全部集中するんですよ。要するにインテリと金持ちに、ものすごく富の集中が起きるわけですよね。こういった産業は実際にそうなっているわけです。
その一方で、従来の中産階級雇用を支えていた製造業が、先進国からなくなります。この人たちはどこに行くかというと、サービス産業に行くわけです。それも労働集約的サービス産業のほうに行くわけです。それは典型的に飲食であったり、宿泊であったり、あるいは運輸であったりという世界です。
さっきのわりとナイーブな新自由主義的に言ってしまうと、これはトリクルダウンが起きるぜ、と。要は、とにかくシリコンバレーの大金持ちやウォールストリートの大金持ちがガンガン金を使うんだから、そこ(サービス産業)にお金がわーっと降っていって「まあ、みんな豊かになるんだからいいんじゃねぇの」という議論をしていたら、それはそうならないんですよ。だって(知的集約産業と労働集約的サービス産業の間に)産業連関がないんだから。
おまけに、これはアメリカもイギリスも同様です。例えば典型的に言うと、大きな工場から吐き出された雇用がそういうところに行くと。そこにまたcheap labor(安価な労働力)として移民が入ってくるんですよ。当然そういう人たちの賃金は、そのへんに足を引っ張られるんですよね。そりゃやっぱり不満が溜まりますよ。
ブレグジットはそういう現象かなと。私はもともと「L(Local)とG(Global)の世界の分断」というフレームワークで経済主義を捉えていたので、「これはLの世界の反乱だ」とも考えました。当たり前なんだけど、人口比で言ったらLの世界の人のほうが多いんですよ。
となると、アメリカでも同じことが起きる可能性が高いなと思っていました。トランプの選挙戦略は、実にそうやってLの世界に移っていった人のハートをつかむ政策だったんです(笑)。「これはいくんじゃないかな」ということを、実は4年前の8月に言っていました。
先ほど堀内さんから指摘があった、19世紀の終わりから20世紀の始めは、ある意味では工業化社会に移行する産業革命の時代です。このときに誰が富を独占したかというと、資本家です。要は設備集約産業の時代なので、金を持って巨大な設備を持たなければ、生産手段を持ち得なかったわけだから、そこに富が集中したわけですよね。その典型がロックフェラーとか、ああいう世界です。カーネギーメロンもそうかもしれません。
そうなると当たり前ですが、資本家と労働者という関係の阻害が起きたんです。今回のGの世界のインテリ勝者、あるいはそこにアクセスできる富裕層、リスクマネーを持っている富裕層と、Lの世界の阻害が起きていると私は認識しています。
くどいようですけど、日本の場合には幸か不幸か、Gの世界の勝者があんまりいないんです。みんなでL化して、みんなでなんとなく停滞して没落していくという感じなので、そういうストレスはすごく顕著なものじゃない。だけれども、実際ある時期の新自由主義的な、例えば竹中平蔵さんたちがやったような動きに対する反発感というのは、やっぱり潜在的にそれ(資本家と労働者の軋轢)があるということです。
100年前は、富の集中構造が結果的には大恐慌を生んだのかもしれない。あるいは、その前後の2回の戦争と深く関わっていると私は思うんです。かなりの犠牲をはらって、その問題を人類は克服したわけです。
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