2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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水野梓氏(以下、水野):その他に質問はございますか?
参加者4:今日は、すごく楽しくお話を聞かせてもらいました。私は今、ライターをしていて恋愛関係の記事とかけっこう書くことが多いです。自分もマッチングアプリをやっていて、「マッチングアプリの使い方」みたいな記事を書くんですね。マッチングアプリはめちゃくちゃおもしろくて、「いいね」を稼ぐんですよ。
磯野真穂氏(以下、磯野):誰が「いいね」を稼ぐんですか?
参加者4:自分です。より多くの男性から「いいね」をもらうと、それが可視化されるんですよね。「この女の子は人気がある女の子です」みたいに可視化されて、そうしたら理想の男性とマッチしやすくなるというのがあるんです。なので、まずは「いいね」を稼ぐんです。
磯野:なるほど。マッチングアプリ。
水野:どうとも思っていない人にも「いいね」をもらいたい?
参加者4:どうとも思っていない人にも、最初は媚を売ります。
水野:うおー! しっかりしている。
参加者4:それから(「いいね」を稼いでから)本当にターゲットにしたい男性にアプローチするというのが攻略法と言われていたりします。そういうことは「量的承認」だと思います。あとは学歴や収入を書いたりとかもするので、それも「量的承認」だと思っています。
でも、実際にその場ではマッチしていても、会ったあとに関係性を築くとなったときに「質的承認」をやっていかないと、恋人関係って深いところまでなかなかいけないことが多くて、私もけっこうそれで疲弊しているんです。
例えば磯野先生との出会い方だったら、他の教授の先生方との会話の中で磯野先生を知ることができたんですけど、マッチングアプリで出会った人って、まったく関係のないところで2人が出会っています。
なので、他の社会のコミュニティとか共通の友人とかがいないから、その人の他の顔が見えなくて、「質的な承認」をしにくいです。その人の「質」が出づらいというのをすごく感じています。
参加者4:ただ「セクハラの問題とかがあって社内で恋愛しにくいから、マッチングアプリをしているんです」という人も多いということで、出会うチャンスがいっぱいあるのに、ちょっと手を出しづらい感じの社会です。その中で、マッチングアプリの可能性を私はすごく感じています。
いろんな人に出会えるという点で推奨していきたいと思いつつ、そういう出会ったあとの関係性の築き方が、めちゃくちゃ難しいなと思っています。「質的承認」というお話があったと思うんですけど、それを私自身もどう築いていけばいいのかわかりかねています。
どう相手に「承認」をもらえればいいのでしょうか。「もらう」という表現も正しいのかわからないですけど、質的に自分のよさを出していって、お互い承認できるような関係性をどう築けばいいのかというのをすごく壁に感じるなと思っています。
水野:難しいですね。最初は「タグ付けの関係」でマッチして2人が出会うけど、その後が…ということですね。誰かを交えて会ったりするといいんですかね?
磯野:今、お話を聞いていて思ったんです。これは宮野さんとのイベントでも話したんですけど、普通の場での恋愛がけっこう難しくなっているんですね。
それはやはり「こういう言葉をかけたらセクハラだ」とか「これはダメだ」みたいに、ある種、普通の場での関係性がマニュアル化されていて、ある意味、それ(人間関係のマニュアル本を書いたりして)で有名になる人とかも出るんですよね。
普通の場、日常の関係がそうやってマニュアル化されていってしまうからこそ、マッチングアプリというのがあるんだけど、そこに入ると今度は、最初は「量の承認」を得続けるんですね。
しかも、パッと出会ったときには周りに何もないという状況で、文脈がなにもない状態です。「量」だけで会うわけですよね。ものすごくハードルが高いと思いますね。逆に、恋愛を目的にしていない人が集まる場とかはダメなんですか?
参加者4:最近、思います(笑)。
水野:同じ趣味で集まるとかでしょうか。
磯野:逆に私は、そういうところから生まれていく関係というものの場がいっぱいあるといいと思いますね。マッチングアプリをやっている私の友達は若いですけど、けっこうみんなヘトヘトになっています(笑)。
もう少し世代が上の人に向けた婚活サイトだと、青山のあたりでモヘアのセーターみたいなのを着て、鎖骨を出すのがいいらしいですよ。「パステルカラーの服で、ニコッと笑って撮れ」みたいな感じだそうです。(そこまでマニュアル化されると)「もはや、あなたは誰ですか?」みたいな状態ですよね。
(会場笑)
「そこに入らないと、まず男性からのアプローチがない」みたいなことにすごく悩んでいて、恋愛じゃない場というのがもっとあって、そうじゃない、「離れる場」というのができるといいのかな。
参加者4さんは、コミュニティ作りをやられているじゃないですか。そういうところも、もしかして……。ごめんなさい。勝手に「場を作れ」みたいな感じになっていますね。
(会場笑)
ごめんなさい。困っている人に「場を作れ」と言うなんて、変なことになっています。
参加者4:作った場では恋人ができるんですけど、私に恋人ができないっていう……。
(会場笑)
磯野:なるほど。作る側に回っちゃうんですね。
水野:そうですね。たぶん、幹事側みたいなほうにいっちゃうんですね。
磯野:参加者4さんのための場を作っていきましょう。
水野:そうですね。
磯野:(笑)。
水野:その他に、ご質問のある方はいらっしゃいますか? 先に手前の女性からお願いします。
参加者5:お話をありがとうございました。いつも私自身も「ダイエットしたい」という思いがあり、『なぜふつうに食べられないのか』を読んで価値観を揺さぶられました。
その間で引き裂かれそうになっていたところだったので、今日はお話を聞いてすごくよかったと思いました。そこで気になるのが、未来に生きる人たちについて、どう考えていけばいいのかなというところです。
磯野:未来に生きる人たち。けっこう壮大な言葉が出ました。もっと説明してもらってもいいですか?
(会場笑)
参加者5:すいません。今はみんな「やせたい」というのがビルトインされていて、「逃れられない」というのがすごくわかるというか、「そうだな」と思うはずです。だけど今、まだ生まれていない人たちは、ビルトインされていないわけです。
中高年の方もそうですけど、(とくに)未来に生きる若い人たちが、引き裂かれないで済むようになればいいなという思いがあるんです。
「未来をどうしよう」みたいなことです。今、私にできることはとくにないと思っているのですが、(磯野氏は)まだ生まれていない人たちについて、何か思っていることはありますか?
磯野:初めて。
(会場笑)
生まれて初めてされた質問です。
水野:これから先、どんなふうに変わっていくべきかということですよね?
参加者5:はい。
磯野:今、そう思ってくださっていることが未来へのメッセージだと思うんですよね。私は今、43歳なんですけど『ダイエット幻想』を今のタイミングで書けてよかったなと思っています。
若いときに悩んだことってだんだん忘れていって、新しい悩みが出てくる。逆に若いときに悩んでいたことは「若いからだよ」みたいな、けっこう「取るに足らないもの」ということで切り捨てがちになっちゃいます。そういうのが、怖かったんですよね。
私の中で「若い世代に届けられる最後のタイミングかな」というのがちょっとあって、このタイミングで書けてすごくよかったなと思っているんです。(参加者5を指しながら)おそらく私よりもお若いですよね。
(会場笑)
磯野:間違いなく若いですよね。私より年上だったら相当びっくりする。
(会場笑)
いったいどんな「美魔女」なんだっていう感じなんですよね。
(会場笑)
そういうふうに届いていたということが、私にとっては「きっと、つないでいってくれるだろう」と思えて、うれしいです。私はたぶん死んじゃって、生まれていない人には届けられないですからね。(参加者5を指しながら)何さんですか?
参加者5:ムトウと申します。
磯野:ムトウさんが何か感じてくださったものを届けていってくれることこそが、私の言う「ライン」だと思います。ムトウさんはこれから生まれる人たちへの言葉をお持ちだなと、今、お話していて思いました。
水野:最後の質問です。
参加者6:『ダイエット幻想』について私も読ませていただいて、非常に感銘を受けました。(おうかがいしたいことは)さっき伝え方のお話をされていたので、関連していると思います。
一方では、(磯野氏の主張に対し)そう思っていない人たちがいます。やはりダイエットというのは人がきれいになるもので、広告にはきれいな女優さんを使いたい。きれいな女優さんが出ていればテレビを見る。「きれい」を承認したいという気持ちもあるのも理解できます。
私が聞きたかったのは「でもこういう考え方もあるよね」と、『ダイエット幻想』の話を伝えたいときの話です。一概にカテゴライズにする言い方で申し訳ないんですけど、頑なな方、例えば高齢の方に伝えたいときに、どうやって伝えたらいいかと自分の中で、まだ噛み砕けていないんです。
もし磯野さんだったら、そういう自分の書かれた本の内容とまったくの対極にある方に、どうやってこの本の魅力や教えたいことを伝えますか?
磯野:「対極にいる方」というのは、いわゆる「体型でタグ付けし合う関係」の中で、たぶん相当に利益を得ちゃっている人のような気がします。なので、そこは狙わないと思います(笑)。
そこに言おうとしても負け犬のナントカだと言って、「あなたは負けただけだろう」みたいに負け惜しみだとかルサンチマンだとか、そういう感じで叩かれて終わるだけの気がするんですよね。
磯野:ただ、やってみるとしたら、そういう「勝っている人たち」って、この辛さを一番知っているはずなんですよ。だから、表面上は「それはお前が勝てていないからだ」と言われるかもしれないけど、その裏側で届く可能性には賭けるかもしれないですね。そのときに、何を言うかな……。それは文脈によりますね。これも「マニュアル化」はできないです。
(会場笑)
マッチングアプリじゃないんですけど、たぶんその人がどんな人で、私に何を言っているかで変えると思います。だけど、その可能性に賭けて、何かは言うと思うんです。ただ、逆に刺されてけっこうやられますね。
(会場笑)
周りの人にグチグチ文句を言うとかになるかもしれないです。
(会場笑)
その可能性には賭けてみたいかもしれないですね。
参加者6:そういうときって、「こうだ!」とこっちに引きずり込もうとは思わないですか?
磯野:引きずり込めないでしょうね。そういう方たちは絶対に引きずり込まれたくないはずなので、それは引きずり込まないです。
参加者6:そういう人たちに向けて書かれた本じゃないですか?
磯野:何か(思っていることが)おありなんですか?
(会場笑)
参加者6:自分がこの本を読んで「自分だけで抱え込みたくないな」「いろんな人に伝えたいな」というときに、すごくおこがましいですけど、そういう人たちを改心したいというというか……(笑)。
(会場笑)
なんとか共感してもらいたいんです。
磯野:なるほど。ありがとうございます。
水野:ダイエットが辛いとか、ちょっと苦しんでいるという人じゃないと、なかなか手に取らないかもしれないですもんね。
磯野:そうですね。(『ダイエット幻想』を指しながら)おすすめの章はあります。例えば、高齢者の男性でしたら「第7章 糖質はダメなのか?――『正しい知識』のトラップ」をお薦めします。あと、たぶんそういう方たちにウケそうなのは「第5章 愛されること、競うこと」です。ここに書いてあるメッセージを、なんとかして伝えていただければと思います(笑)。
参加者6:なるほど。
磯野:お薦めの第5章、第7章はたぶんそういう方々には入りやすい章なのかな。第5章は、そういう方たちを批判する章ではなくて、女性同士の争いを書いている章なので入りやすいと思います。
参加者6:ありがとうございます。
水野:ありがとうございました。21時をまわりました。今日は本当に長い時間にも関わらず、みなさんがすごく聞いてくれている感じが伝わって、私的にはすごく……。
磯野:聴衆の役割を、みなさんが一生懸命……。
(会場笑)
水野:なにか「ズレ」を持って帰ってもらえればと思います。私は磯野さんと出会って世界の見方がちょっと変わったというか、「これまで当たり前だと思っていたことって、ぜんぜん当たり前じゃないんだな」と、考え方を変えるヒントをいただきました。今日、みなさんに少しでも持って帰っていただけたらうれしいなと思います。
磯野:2点、みなさんに伝えたいこと、お願いがあるんです。1点目ですけれども、もしこのイベントでちょっと宮野さんと私の本に興味を持ってくださったら、うしろで久禮さんが今、並べてくださっているのでぜひご購入いただきたいです。
やはり読者と著者をつなげてくれるこういう書店さんってすごく重要な存在で、Amazonで買ったら絶対に得られない関係性だと思います。そういう方たちが場所を作ってくださっているからこそ、このイベントというのが成立したという思いがあります。
すごく素敵なバナーは、久禮さんの奥様が作ってくださったそうです。そういう方たちの努力、本当にご厚意で成り立っているイベントでもあります。ですので、もしご関心を持ってくださった方がいて、Amazonで買おうと思っている方がいらっしゃいましたら、ぜひこの神楽坂モノガタリでお手にとっていただけると、著者としては本当にうれしいです。
やはり、つないでくださった方に何らかのお返しができるというかたちになりますので、そういう意味では手にとっていただけるとすごくうれしいです。
磯野:あと(2点目として)、こちらが実は、宮野さんが最後に福岡大学の教壇に立った写真になります。(2019年)6月21日のイベントのときです。実は、宮野さんが生前最後に書いたのは『急に具合が悪くなる』の「はじめに」なんですね。
著者として「はじめに」を最後に書くというのはすごく珍しいことだと思うんですけど、宮野さんはこういう偶発的な出会いの中で何かが生まれてくることをすごく大事にされている方でした。
この本の「はじめに」にも、「この書簡を読み終わったときに、最後にみなさんに見える風景がその先の始まりに満ちた世界の広がりになっていることを祈っています」と書いています。
ある意味、宮野さんが最後に「はじめに」を書いたというのはすごく象徴的な話で、逆に福岡大学で最後に登壇されたときのスライドの文字は「最後に」となっているんですね。これは宮野さんがスライドを作っているときに知っていたんですけど、おそらく「最後になる可能性がある」と思って、スライドを作っていたと思います。
福岡大学のみんなに伝えられるメッセージは、もしかしたらこれが最後かもしれない。宮野さんが「どうしてもみんなに伝えたい」というメッセージなんですが、「みやのみやのからのおまけ」と名付けちゃっているのが、実は宮野さんの謙虚さなんですけどね。
「私はどうしてもここを伝えたかった」というメッセージで、実はこれは『ダイエット幻想』ともかぶっているところになっています。プラスして、宮野さんの最後のトークが終わったあとに『ダイエット幻想』の終章を書き終えているんですけど、(宮野氏は)こういうふうに書いています。
「愛され、承認を求めるとき、私たちは自分という存在を部分化し、切り売りすることになる」。
これはあまりに他者から愛されたり、承認されたりしようとしてしまうと、結果的にマニュアルに落ちていってしまうとか、あるいは、他者の目線ばかりを気にしてしまって動くことができなくなるというメッセージですね。
「しかし、誰かを愛することは部分ではなく全体へのコミットではないか。『愛すること』を『愛され』から取り戻せ。分断より連帯を」。
そういうメッセージで終わっています。
これについての解釈はみなさんに委ねたいと思います。ここ(『急に具合が悪くなる』)に書かれていない、ある種、宮野さんからの最後のメッセージです。覚えて帰ってくだされば光栄です。以上になります。今日は、本当にありがとうございました。
(会場拍手)
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