2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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磯野真穂氏(以下、磯野):ここ(『ダイエット幻想』)で2つ、「タグ付けし合う関係」と「踏み跡を刻む関係」というものを便宜的に出しているんですけど、「タグ付けし合う関係」というのが一般的な関係ですよね。
例えば、お客さんと店員さんとか、学生と教員とか、たぶんみなさんは職場でいろんな役割を持っていて、その役割に応じて生きていると思うんですよ。だからたぶん、今日、神楽坂モノガタリ店長の久禮(亮太)さんは受付をやってくださっていましたけど、その久禮さんに向かって「LINEの連絡先を交換しよう」といきなりは言わないですよね。
(会場笑)
やはりお客さんと店長さんの関係だから、言わないわけです。なぜ言わないかと言ったら、その役割の中で関係性を作るからですよね。これは非常に重要なことで、一人ひとりと全部質的な関係を作ったらどうかなっちゃいます。やはり私たちって、役割を背負って、その中で生きていくことで関係性を成立させているんですよ。
ただ、これだけで生きていこうとするのは、けっこうキツい。なぜかと言うと、例えば教員だったら「こういう教員であるべきだ」、あるいは学生だったら「こういう学生であるべきだ」というように、2つの本(『急に具合が悪くなる』と『ダイエット幻想』)の中で私たちが言っているように、ある種の「決め打ちされた役割」の中で縛られる関係性になってしまうんです。
「教員だったら、こう振る舞わねばならない」「学生だから、こう振る舞わねばならない」とマニュアルに規定されていくわけですよね。ただ、「人と人が向き合うのってどういうときなんだろう?」と考えると、たぶんその「決め打ちされた役割」からちょっとズレた関係性というのが、すべてにあると思うんですよ。
私はそのちょっとズレた関係をつなげていくことこそが、実は「質的な承認が生まれる場所」であって、「ラインを描く関係性」なのではないかと言っています。
磯野:具体的な例を挙げさせていただきます。(参加者を指しながら)あそこに北川さんという方がいます(笑)。まさか当たると思っていなかったと思うんですけれども、北川さんは、タグ付けされる関係の中で私がけっこう傷ついていたときに救ってくれた方なんですね。北川さんは編集者です。
私がどういうふうに傷ついていたかというと、この本(『なぜふつうに食べられないのか』)は、出版社がぜんぜん決まらなかったんですよ。何か起こるかというと、いわゆる編集者側はタグの価値で見るわけですよね。「こいつの本を出す価値があるかどうか」と、いわゆる「価値」として見るわけです。
編集者と書き手という役割の関係性を結んだときに、「こいつに価値があるか」と見るわけですよね。いわゆる「利益を出せるかどうか」というタグの関係で見るわけですよ。そのときの私は「価値がない」と捨てられるわけです。次々、次々、次々。
こういうのってけっこうキツくないですか? 「お前は価値がない」と言われ続けるわけですよ。これ(『なぜふつうに食べられないのか』)を私は死ぬ気で書いているのですが、そのくらい入れ込んだ本に対して「価値がない」「売れない」「これは商品にならない」と言われたこともあるし、「読者がいない」と言われたこともある。「6人しかいないからダメだ」とか、いろいろなかたちで価値付けされるわけですよね。
つまり、「おまえはタグとして価値がないよ」「もし本を出すんだったらもっと価値のある書き手だったら関係性を結んでやるよ」と、ちょっと残酷な言い方するとそんな言い方ですよね。
ただ、北川さんだけは違ったんですよ。北川さんは「磯野さんの書いている本は、絶対におもしろいから」というよくわからない根拠で、ずっと言い続けてくれました。別に私を拾ったところで、北川さんのタグの価値はまったく上がらないんですよ(笑)。
(会場笑)
そこからずっと関係が続いていて、私は今、北川さんとは編集者と書き手という関係性じゃなくて、ちょっとお姉さんみたいな感じで見ているんです。「踏み跡を刻む関係」というのは、そういう話のことを指しています。
磯野:おそらくみなさんも、タグ付けされて傷ついたこと、「お前は〇〇として価値がない」みたいに見られる経験って、たぶん何かあると思うんですよね。
水野梓氏(以下、水野):私なんかも新聞社の記者というタグで見られて……。
磯野:どうなるんですか?
水野:「大したことがなかったな」というときは切り捨てられます。逆にたぶん、そういう私を人間としておもしろいと思っている人とかには、「ちょっと記者っぽくないね」と言われます。
「ああ、よく言われます」とか言って、そこから関係が続き、SNSとかでやり取りして今でも仲良くしている方もたくさんいます。だけど最初に「求めていたのと違うな」みたいになっちゃったりすると、タグの価値がなかったんだなというのを感じます。
磯野:やはりある意味「タグ付けし合う関係」を上手にできる人がいて、「自分の価値はこうで、相手はこれを求めているから、これを満たしてあげれば自分はこの位置にいけるだろう」みたいな賢い方っていらっしゃると思うんですよ。
そういう方たちというのは「タグ付けし合う関係」の中で気持ちよくずっと上がっていけると思うんですけど、これまで生きていて思うのは、たぶんそんなに上手な人ってあまりいないんですよね。
ただ、苦しいときってわりと「量の承認」を求めがちだと思うんですよ。うまくいっていないときに「ちょっと有名なあの人に引っ張り上げてもらうと、幸せになるんじゃないか」とか、「フォロワーがバーンと増えたら、なんか満たされるんじゃないか」とか、あるいは「やせたら、満たされるんじゃないか」と思っちゃうことってしょうがないし、今の社会はすごくそういう引っ張っていく材料、商品がいっぱいありますよね。
だけど、たぶん「踏み跡を刻む関係」に気付けるかどうかって、そこにそうではない承認が存在していて、実は私はそういう「タグ付けし合う関係」の変異形を「踏み跡を刻む関係」と呼んでいるんです。
磯野:「タグ付けし合う関係」の中に飛び込んだときに、そこからズレたものをおもしろがって拾ってくれる人がたぶんいるはずで、そういう人がいると思っていないと、たぶん永遠に気付けない。
そして、ずっと承認欲求で他者に溺れ、動けなくなってしまうということが起こるんじゃないのかというのが、最後にすごく言いたかったところになります。
水野:それは本当にそうですよね。そうなると結局、量を追い求めて辛い感じになっちゃうと思うんです。この『ダイエット幻想』の中でも、今、苦しんでいる子がたぶん一番知りたいのは、「『踏み跡を刻む関係』と、どこで出会えばいいのよ?」という、「磯野さん、なんとかしてよ!」みたいな、そういうことだと思うんですけど、どうですか?
磯野:これは宮野さんの『出逢いのあわい』というのと、こちらの『なぜ、私たちは恋をして生きるのか』でかなり詳しく書いています。どうしても人間の関係性って役割から始まります。例えば恋人を見つけることだって、婚活パーティーに行かなきゃいけないとか、そういう場面がどうしたって存在しますよ。
その中である意味「タグとして価値がある」というのを見せなきゃいけない場面はどうしても存在します。そこに入っていかないと、いきなり「踏み跡を刻む関係」って絶対に出会えないと思うんです。だから、ジッとそこで止まって「いつか私を質的に認めてくれる人が来る」と言って待っていても、たぶん永遠に来ないんですよね。
(会場笑)
磯野:やはり今、長い時間摂食障害を患った方とお話をして私が思うのは、その関係性に飛び込んで傷つくことがあまりにも怖くて、結局、苦しいんだけどそこに居続けることをどうしても選んでしまっているということです。外に行ったら怖いんですね。
それをやり続けちゃうと、本当に永遠にずっと止まっていることしかできなくなっちゃうんですよね。世の中には「それでいいんだよ」「あなたは本当に苦しいし、傷ついているんだから、ずっとそこにいればいいんだよ」と言ってくれる声もいっぱい存在します。もちろんそういう時期が大切なことは十二分に、存分にわかります。ただそこをさらに掘り下げると、それを言えば、言った側も傷つかないで済むんですよね。
水野:うーん。確かに。
磯野:「出たほうがいいよ」と言ったら、「そんなことは無理だよ」と矢が返ってくることがあるんです。ある意味、それがお互いにとって安全な関係性であるとは思います。だけど、『急に具合が悪くなる』の中では「動的な関係性」ということをかなり繰り返して言っているんです。もちろん、動けばリスクや傷つく可能性というのはあるんですけどね。
水野:ありますよね。
磯野:どうしても、そこにちょっとでも飛び込んでいける勇気だけは持っていないと「踏み跡を刻む関係」には永遠に出会えないと思うんですよね。ここは苦しいところだと思うんですけれど、本当に他にないと思うんです。
水野:摂食障害の方に対しては、どうしても「そのままでいいいよ」とか、「無理しなくていいよ」とか、「気持ちが変わるまで待てばいいよ」みたいに言いがちです。私が取材した女子高生は、食べられずに苦しんで30キロ台になってしまった女の子でした。
でも、部活が楽しくなって自分の優先順位が変わり、大事なものができて、そっちにどんどん比重が移っていきました。「部活を全力でやるために食べなきゃ」と変わっていって、だんだん食べることの楽しさとかを取り戻していったんですね。
それもたぶん、その子に部活を始める勇気とか、どこかへ飛び込む勇気のようなものがあったからなのかなと思います。
磯野:やはり、多少なりとも苦しい話かと思うんですけれども、「生きる」ってそういうところに飛び込み続けることだというのがどうしてもあって、それができないとなかなか難しいと思うんですよね。
だから、難しいとは思うんですけど、そこの部分をどうやって持ち続けるかということです。やはり「世界と関わり続ける」というのを、続けるしかない。当たり前になっちゃうんですけど、それをしないと「踏み跡を刻む関係」というのは、決して生まれないのかなと思います。
『急に具合が悪くなる』の磯野と宮野のやりとりに関しては、それがある種、変なかたちに極大化された奇妙な関係性です。
水野:すごく凝縮したとでも言うのでしょうかね。
磯野:そうですね。
水野:「濃密」みたいな感じなので、ここまで8ヶ月というすごく短い期間ですよね。
磯野:そうですね。書簡をやりとりしていたのは2ヶ月しかないです。本当にここでこの本(『急に具合が悪くなる』)の話をすると、宮野さんは何回か「磯野さんは、逃げることもできたはずだ」ということを言っているんですよね。「これだけ具合が悪くなっているんだから、いくらでもそういう言い訳はあったはずだ」と言うんです。
そういうふうに言ってくれて、「ああ、そうか。宮野さんは、磯野が逃げるかもしれないと思っていたんだな」と思ったんです。なぜか私たちは、いわゆる「元気な人」と「病人」の間に普通にある気遣いというものを外れたところにいました。
どういう気遣いかというと、「具合が悪くなる人」というのは、あまり赤裸々に語ると相手が苦しいので、遠慮して言わないと思うんですよね。「元気がある人」というのは、基本的に傷つけないように、なるべく言葉を選んで、あえて病気のことを聞かないとかそういうことをやると思うんです。
水野:一番驚いたのは「死ぬんじゃねーよ」という言葉が出てきたときです。すごいなと思います。それはもうすごく信頼がないとできませんよね。
磯野:水野さん、そこだけ言っても誰もわからないですよ(笑)。みんな、キョトンとしているじゃないですか。
(会場笑)
水野:(磯野氏は)「死ぬんじゃねーよ」ということを、がんで死にそうになっている方に(書簡の中で)言うんです。「すごいことを書けるな」と、私は一番ビックリしました。
磯野:みんなにそんなことを言うわけじゃないですよ。たまたま関係性の中で出た言葉だったんですけど、ここの『急に具合が悪くなる』と『ダイエット幻想』の中でも言っているんですけど、やはり今って「適切な接し方」のマニュアルってすごく多いじゃないですか。「〇〇な人と出会ったら、こういうことを言っちゃいけません。こういう言葉をかけましょう」みたいなものです。
水野:さっきのあれですよね。後輩の育て方をターゲットで分けるのもそうですよね。
磯野:はい。私は赤坂見附が勤務地なので、ビジネスマンがそういう本いっぱい読んでいるんですよね。朝のスタバで「こうやって部下を育てる」とか、「自分の価値を上げる方法」とか、「お前の価値はお前の付き合う相手で決まる」みたいな本です。
水野:(笑)。
磯野:一生懸命メモを取っている。
(会場笑)
「何のメモを取っているんだろう?」「そうやって決まったあなたの価値は何なの?」と思うんです。
水野:(笑)。
磯野:そういうマニュアルって山のように出ていますよね。でもそうなってしまうと、今この目の前にいる水野さんに、磯野という人間は何て言葉を掛けるべきなのかという、唯一性に向き合って初めて出る言葉は出てきにくくなると思うんです。
『急に具合が悪くなる』はそれが極端なかたちになってできた本なのかなと思います。だけど、『ダイエット幻想』の中で言っているのはもっと柔らかいものであって、「人と向き合うことというのはちょっとしたズレの積み重ねだよ」ということを強調していますね。
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