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「北欧、暮らしの道具店」広告ビジネス戦略の裏側(全6記事)

「枠を売る」ではなく「コンセプトを伝える」 クラシコムが行う“仲間づくり”な営業活動

アクセスの約半数が「過去に20回以上訪問した履歴のある人たち」で構成されているというECメディア「北欧、暮らしの道具店」。そのなかで行われている広告事業とはなんでしょうか? クラシコムが不定期で開催するリアルイベント「クラシコムサロン」の第3回「『北欧、暮らしの道具店』広告ビジネス戦略の裏側」が行われ、代表の青木耕平氏と事業開発グループマネージャーの高山達哉氏が登壇しました。習慣性の高いECメディアだからこそ実現できた広告ビジネスとはなにか。また、クラシコムが新規事業を立ち上げる際に意識しているポリシーとはなにか。

ゴールは「メディアの世界観を融合させたタイアップ」

筒井あい子氏(以下、筒井):メディアの世界観に対する質問の裏には、どうしても収益が気になったり、この案件をとりたいとなると「相手の要望をより多く飲まなきゃ」となってしまったりして、「自分たちがやりたくないことでも、ちょっと曲げなきゃいけないんじゃないかな」「相手に寄せなきゃいけないんじゃないかな」みたいなシーンが想定されているのかなと思います。

それについては具体的に、お客さんとの話のなかではどうですか? うちらしくないことを「これお願いします」と言われることってありますか?

高山達哉氏(以下、高山):そういう状況がきたら、やっと「俺の仕事がきたな」みたいな感じになって(笑)。ふだん黒子で雑用ばかりしてるんですけど、そういうときだけやれるみたいな感じなんですけど。

やはりそのときは、クライアントに正直に伝えると思っています。「ちょっと待って下さい」と。そもそも僕たちの世界観に魅力を感じていただいていて、タイアップを進めています。「それを自ら世界観を崩すような欲求をしてどうするんですか?」と。それを丁寧に伝えれば「そうですよね」とわかっていただくことはもちろんあります。僕たちのクライアントで言うと、もっと自制する方のほうが多いのも正直なところですよね。

筒井:自制?

高山:「商品を以上出したらやはりまずいと思うんです」「すみません、むしろ出さないでください」みたいな。

筒井:クライアントさんご自身が?

高山:はい。

筒井:へえ。

高山:これはおそらく、クライアントさんがもともと「北欧、暮らしの道具店」の読者だからその傾向があるのかなと思っているんです。

要するにBRAND NOTEというコンテンツの見立てとしては「ここは出したほうがいいんですよ」「ここは出さなくていいですよね」とうまく調整することはけっこうやっています。その目指すべきゴールは、世界観を融合させたタイアップだと思います。そこで「今の要求は、目指すべきゴールを阻害しちゃいますよね」を理解してもらうことが、僕は答えかなと思っていますね。

青木耕平氏(以下、青木):経営的な観点で言うと、普通だと広告の営業責任みたいなものを持っているわけですから、一応「こういう数字をつくりましょう」という予測や計画値はあります。しかし、それに対してぜんぜんノルマを課していないんですよね。

「このぐらいいこう」っていう計画はある。けれど、達しなかったら「達しなかったね」っていう。

(一同笑)

筒井:達しなかったねえ(笑)。

青木:逆に言うと、無理して数字をとる必要は、僕らにとってはまったくないんです。例えば、そこで意見がすり合わないんだとしたら、そこはもう下りればいいだけかなあと思っています。それがたぶん、お互いのためというか。

それを無理にやったところでパフォーマンスをお返しできないと考えれば、要求を通したところで結果的にお客さまのためになりません。それはもう率直にお話しして下りればいいだけかなと思っていますね。

クライアント商品も通常商品も、同じ基準をもうける

青木:もう1つは、僕らはメディア的に使われていますが、ユーザーにとってはメディアではなく「お店」として認識されているところが実はすごく大きいんですね。

どういうことかというと、ふだんから主観に基づいた商品を正面からおすすめされる。ということに、お客さまが慣れている媒体なんですよね。だから、僕らが過剰に広告記事で「世界観を壊すから、商品をストレートにおすすめしてはダメなんじゃないの?」「これもいいよ、みたいな紹介はダメじゃないのか?」は、クライアントさまから心配していただいているんです。

僕らは「お店」なので、「こういう商品がありますよ」「おすすめですよ」を仕組み的に、それも非常にストレートに語りやすい場ではあるんです。なので、広告をやることで世界観をどうこうというより、むしろ僕らがやってきたことは他社さまの商品を仕入れて、その良さやつくられる経緯みたいなことをご説明しているんです。

今までの小売ビジネスであれば、カートボタンを押していただくことを目指して商品コンテンツをつくります。しかし、それを逆にランディングページにすれば、そのまま広告になるんです。だから僕らは10年間、小売のプロというよりも、ある意味では記事広告制作のプロとしてビジネスをしてきたことになります。

広告は同じテイスト感やこだわりを持ってやっていますが、仕入れのときと同じ基準でクライアントさまやブランドさまの商品を「これだったらうちで売れそうだな」「これだったら、うちではお役に立てそうにないな」をきっちりやっていけば、実は大きな変動はないのだなと思ってビジネスを始めたところはあります。

高山:メディアの世界観を維持するところでは、BRAND NOTEがクラシコムの「フィットする暮らし、つくろう」のビジョンにすごくネイティブにつながっています。その「フィットする暮らし、つくろう」のビジョンは、「自分が満足できる心地いい暮らしを自分なりにやっていこうよ」ということで、社内でもよく「自分のものさしを見つける」という言い方をしています。「人から見た豊かさではない」と。

そういった意味ではやはりBRAND NOTE自体も「北欧、暮らしの道具店」では扱えない商品ではあるけれども、コンビニやスーパー、ドラッグストアで売っているマスプロダクトを今より信じられる気持ちやストーリーを想起できる状態で買える。なんとなく買うのではなく「これがいいな」と思って買える状態です。

それを消費できることは、そもそも自分なりのフィットにすごくつながっている。そこがお客さんに受け入れられているのかなと思いますね。

非常に多い要望は、コンテンツづくりのお手伝い

筒井:では、少し先の未来に目線を移して、toBのビジネスを今後どうしていくのかなど、展望みたいなものはありますか?

青木:やはり1つは「コツコツ積み上げていこう」があると思います。

BRAND NOTE PROGRAMというかたちで商品のラインが増えて、現実にもう稼働しはじめてるところなんですけれども。とくに特徴的なのがBRAND GIFTという商品ですね。

やはりメディアのなかで物流機能を持っているのは、おそらく広告が出せるメディアとしては本当に、我々はわりと希少な存在かなあと思っています。

なので、BRAND NOTEで商品についてご案内をし、その商品がBRAND GIFTというかたちでお買い物したい方たちのお手元に届く。そして実際にお試しいただける。立体的にご提案できるのは、我々だからこそできるビジネスだなあ、と思っています。このへんも少しずつ受注いただいてるんですけど、けっこうご好評いただいてます。そこをますます拡大していきたいな、というのは1つあります。

筒井:実際にBRAND GIFTは1件やりました。

青木:そうだね。ついこの間、初めてやった感じです。お客さまからもむしろご好評いただいています。必ず、いる・いらないをカートの中で選べるようになっています。あくまでも全部買ったらついてくるというよりは、欲しい人にもらってもらう、欲しいと思っている人に企業さまからのギフトとしてお渡しする。

しかも、サンプル商品ではなく基本的には現品をお渡しする立て付けになっています。「買ったら変なものが入ってた」みたいな感じよりは、僕らからすればECの売上を上げるための販促品みたいな機能も果たしてくれています。「これもらえるんだったら今のうちになにか買おう」みたいな感じでお客さまに喜んでいただける。我々としても非常に相乗効果もあって意外とおもしろいな、と思っています。

そういう意味では、経営として大きく育っていくかは別として、本当に我々にしかできないようなオリジナリティのある商品で、見ているお客さまにもクライアントさまにも、お役に立てるようなことをもっとやっていきたいなとは思っています。

あとは、今我々のほうでいろいろなお客さまを回っているのですが、対応できていないけれど非常に大きなニーズをいただいています。「すぐにでも発注したい」と言われるものにはお客さまのオウンドメディアに置くようなコンテンツをつくったりディレクションしたり、あるいはコンサルティングしたり。どちらかと言うと、お客さまのコンテンツづくりのお手伝いを要望されるケースは非常に多いです。

筒井:オウンドメディアをつくれる制作会社の人たちはいっぱいいると思うのですが、どうして我々にそういった要望が?

青木:たぶん、ショーケースがあることが大きいんだと思うんですよね。それが、「単純に黒子でやってください」よりは、「『北欧、暮らしの道具店』という名前で、その場でやってください」って話が多いです。それは、我々の特性とかも考えていただいているんだと思います。

米国のメディアのなかですと、収益源の大きなところがコンテンツスタジオみたいな感じです。ようするに、クライアントさまの自社メディア上で展開しないコンテンツづくりのお手伝いができる、ブランディングされたコンテンツスタジオみたいな。

そういうところは今後の展開のなかで、我々として自分たちのポリシーみたいなのを曲げないでやれる立て付けが見えてくれば、大きな収益の1つだなとは思っていますね。

弱みと強みは表裏一体

筒井:参加していただいているみなさんからも、ご質問を受け付けようと思います。私が1つ目を聞くので、その間に(質問を)考えていただければと思います。

1つ目は、「競合と比べてもっとも弱いところ、もしくは弱みがあるんだったら、それをどう解消しようとしているか」(笑)。高山さんどうですか? 弱いところ、ダメなところ。

高山:ちょうど昨日、社内でストレングスファインダーという自分の強みを知るワークショップをやったんです。それは、僕自身もすごく気づきになったんですけれども。

筒井:(ストレングスファインダーを)やられたことある方はいらっしゃいますか? 

(会場挙手)

おお、すごい。

高山:何問ぐらいの質問ですかね? 数百問の質問を答えていったら、統計学的に800万人ぐらいのデータをもとにして本当に自分の強みが出てくる。それが、すごく当たっているんです。それがどうこうって言うよりも、自分の強みは、他人に意識されない限り弱みとうつるっていう話が刺さりました。

筒井:私、それを説明した、昨日。

高山:そう。筒井さんから。

(一同笑)

「あ、なるほど!」と思って。ということは、強みと弱みは表裏一体で、弱みは強みになりうる。そのとき、僕自身もこの質問をいただくまでは弱みをあまり意識したことは実はなくてですね。例えば……受注してから記事を配信するまでに2か月以上かかるとか。

筒井:長い。

高山:長いなあ、とか。あとはけっこう僕たちのリクエストもある、とか。

筒井:(金額は)高いし。

高山:そう。金額もそれなりにある。「でもそこがいいんじゃない?」みたいな考え方はけっこうあって(笑)。それが逆に、「だからこういうコンテンツがつくれる、だからこういう価値がつくれる」っていうものもあります。

「仲間づくり」というコンセプトで営業活動

高山:質問に対して違う角度での答えになってしまうんですけれど。僕自身、見た目的には弱みはあるんです。もちろんPVで言うとほかの媒体がありますよね、とか。でも、あまりそこを意識していないのが正直なところなんですよね。

筒井:それを含めて認識してもらって。

高山:そうですね。クライアントに説明し、認識してもらうことは大切です。

筒井:それで言うと、わかりにくいと言えばわかりにくいじゃないですか。「『北欧、暮らしの道具店』っていうECサイトなんだけど広告がありまして」みたいな。ここらへんのコミュニケーションが必要だということはありますよね。

高山:そうですね。僕たちとしては、枠を売る営業よりも、自分たちの考え方やコンセプトを伝えていくようなことをしています。「仲間づくり」というコンセプトで営業活動をしているところがすごくあるんですよね。

例えばこのクラシコムサロンと言われるもので、自分たちの考えに共感してくれる方と一緒にこういった場を過ごすこともそうだったりします。説明コストは正直かかりますが、それを惜しまずにしっかりやっていくことがいい案件に繋がってくるのかなと思いますね。

青木:説明コストが高い案件って、僕ら得意なんですよね。

(一同笑)

「北欧、暮らしの道具店」って言って、「なんでジャム売ってるんだ?」とか。

筒井:そうですね。北欧のものはあまり……。

青木:そう、売ってないとかね。ジャムとか売っていたら今度は服つくりはじめて。常にみんなが「?」というところからのスタートなので、けっこうそこが得意分野かなと思いますね。そういう意味では、いろいろなマイナス面もプラス面もあるなかで、「自分たちがお役に立てることはなんだろう?」ということだと思うんですね。

「お役に立てる」っていう自分たちで決めたことに関しては120パーセントやりきる。だけど、「もうこれはお役に立てそうにない」ということは少しもやらない、という感じかもしれないですね。

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