「マネジメントの過干渉と放任を防ぐ」と題して開催された本イベント。マネージャーが部下一人ひとりに適した効果的なマネジメントを実現するヒントをお伝えします。本記事では、過干渉にならない「適度な管理」と任せるコツについて解説します。
「放任」のマネジメントのリスク
黒住嶺氏(以下、黒住):もう1点が、タイトルにもある「放任」の話になっていきます。つまり、上司の方は管理することが仕事なので、「『放任』するわけにもいかない」という点です。
例えば、上司の方がフィードバックや提案を減らしていくと、部下から「もしかすると管理してくれていないんじゃないか」、あるいは「支援してもらえていないんじゃないか」と受け取られてしまうリスクもあるという点です。
そこで、ここからはマネジメントの「過干渉」の対極として、「放任」に関する研究を掘り下げていきます。「放任」に関する研究テーマとして、部下の目線で見た時に「支援が不足している」と感じる現象を捉えた、2つのテーマを紹介します。
まず1つ目が、リーダーシップ研究からのアプローチです。これは、部下から見て、「上司が適切にリーダーシップを発揮していない」と捉える状況に関する研究です。
どのような時に「リーダーシップを発揮していない」と受け取られるかと言いますと、端的には、リーダーとして期待されている役割を果たしていない、と判断される時です。例えば、きちんとした管理、適切なアドバイスなどの行動が上司から見られないと、部下は「放任している」と見られてしまうのです。
放任主義な上司に対する本音
もう1つの点は、上司の方だったり、組織から「支援されていないな」と感じるという研究テーマです。こちらの研究テーマのポイントは、部下は上司を非常に敏感に見ている、ということです。
たとえば、部下が上司からどんな評価を受けているのか、「自分が貢献していることをきちんと見てくれているか」というところや、業務に関して上司の方が助けてくれるか、支援をしてくれるのか。
あるいは、一人ひとり個性や事情が異なる部下へ、個別に対応を変えてくれるかどうか。そして、誰かをえこひいきするのではなくて、平等に扱い、公平な配慮をしているのかどうか。こうした点を、部下の方は上司に対して非常に敏感に見ているのです。

さらに、そうして捉えた上司の様子を、部下は「会社全体の働きの代弁」として、組織を代表するものと捉えているという点もポイントです。つまり、上司の方がどのくらい支援してくれるのかを通して、会社全体に対する関わり、支援の度合いを評価する捉え方が確認されています。
この点、組織的サポートという研究テーマで扱われており、上司を通して会社全体の評価にもつながっていきます。逆に、どうすればサポートを感じてもらえるのかという点については、特に部下から見て上司が、「自発的に、部下のためを思ってやってくれているな」と、自発的にフォローしてくれていると思えることが重要です。
そうした対応があるほど、支援が十分に行われている、つまり、「上司は放任せず、適切に関わってくれている」と思うわけです。
実は「過干渉」と類似した悪影響がある
先ほど「どのような点があると放任と見なされてしまうのか?」という点を少し紹介しましたが、ここからは、放任が部下に与える影響について紹介していきます。「放任」を、「『過干渉』と逆の話」というふうに紹介したんですけれども、実は放任が起きると、部下に過干渉と似た影響が起きてしまう点がポイントです。
例えば1つ目に「精神的ストレスが増加する」ということです。その原因は、役割の曖昧さです。つまり、上司の方が適切にアドバイスあるいは指示、「こうするといい」というようなことを明確に示してくれないため、自分がやるべき役割が曖昧になってしまいます。
すると、自分がどうすればいいのかがわからなくなるので、それを探りながら進める必要が出てきて、業務の負担が増加してしまう。そして、精神的ストレスが高くなってしまうことになります。

2つ目が、「職場満足の低下」です。先ほど言ったように、上司の方がどのくらい支援してくれるのかを通して、会社全体の評価にもつながっていきます。ですので、支援・サポートがなかなか得られないことになると、仕事・職場に対して満足度が低下します。
最後は「生産性の低下」です。これは、業務に関して上司の方からのサポートを得られないということで、仕事を進めるために必要なリソースが減るためですね。
上司のアドバイスがあると、「こうやって進めればいいのか」と業務を進めやすくなるけれど、放任されるということはサポートがない、つまり、業務を進めるために必要なリソースが得られにくくなってしまうので、生産性も落ちてしまうのです。「放任」にも「過干渉」と同じような影響があるという点でした。
さらには、放任された部下に起きる悪影響の2つ目が、「仕事が先延ばしになるリスク」です。先延ばしに関して、部下の方が職場や仕事に直接的に害を与えたり、なかなか仕事が進みにくい状況が起きやすくなるという点ですね。
管理職の目線から見ると、仕事の先延ばしを避けるために、「より積極的に関わらなければいけない」「管理しなければいけない」となるので、この点をもう少し掘り下げて紹介できればと思います。
「放任」が先延ばしにつながる理由
ここで「放任が先延ばしにつながる理由」という点について紹介していきます。まず1点目に、「緊張感が薄れてしまう」ということがあります。
上司や職場からなかなか見られていないとなると、「評価されている」という緊張感が低下します。こうした緊張感の低下によって、「この仕事について、すぐやらなくちゃいけない」という気持ちが弱くなってしまうので、先延ばしは起きやすくなるということです。
ただ、ここで一応補足しなければいけないのは、「見られている」ということへの「強い緊張感」にも注意が必要ということです。冒頭のテーマであるマイクロマネジメントにもつながるわけですけれども、評価に対する強い不安というか、「自分の仕事が見られてる」という強い緊張感も、逆に先延ばしになっていくと紹介されています。
この点は、本(『なぜあなたの組織では仕事が遅れてしまうのか?』)にも書かせていただいているので、ぜひそちらを見ていただければと思います。

放任されることで先延ばしが起きることの2つ目が、「タスクの引き継ぎが曖昧になる」という点です。先ほども少しご紹介しましたけれども、上司の方がなかなか管理をしていないことになると、タスクに関する様々なことが曖昧になりがちで、それが先延ばしにつながる可能性があります。
例えば「この仕事をどうやって進めればいいのか」という進め方や、タスクや資料の質を「どこまで高めていけばいいのか」という達成水準、さらには、仕事、タスク、プロジェクトに関して「自分がどの程度・どのくらい動けばいいのか」という果たすべき役割などが、どれも曖昧になってしまう。放任されることによって、そうしたリスクが起きるということです。
そのため、逆に進め方が明確なタスクを優先することになり、曖昧なタスクは後回しにされてしまうということです。
ここまでの前半のまとめとして、マネジメントのアンバランスである「過干渉」と「放任」という2点をご紹介しましたけれども、ポイントは、背景に「ジレンマ」が想定できることです。つまり、管理の過干渉、あるいは放任は、実は上司・部下の管理する側・される側のジレンマからくる側面があります。
ですので、上司と部下の双方にとって、「適度」なバランスをどのように考えるのか。そこについて、関係性というところを踏まえて提案することが大事になってきます。
「適度な管理」をするための2つの視点
ここから後半になっていきます。前半を踏まえて、適度な管理をどうすれば実現できるのかについて見ていければと思います。後半の概要ですけれども、「適度な管理に向けて、上司の方ができること」を紹介していきます。
先ほど前半でご紹介したように、上司と部下の関係性のジレンマから、まず過干渉が起きる可能性があります。その過干渉の裏側には、放任を恐れているメカニズム、あるいは心理的な部分もありそうだと紹介しました。
この点を踏まえた上で、上司と部下の双方にとって良いバランスを実現するために、まずは上司側からどのようなことができるのか、上司の方ができるポイントについて紹介できればと思っています。

具体的な方針として、本日は2つの視点に分けてご紹介できればなと思っています。1つ目が「管理の『質』」、もう1つは「管理の『量』」というポイントです。それぞれ具体的に見ていければと思います。
まず1つ目、「管理の『質』」についてです。こちらは、「細かすぎる管理を和らげていく」ことが、大事なポイントになっていくだろうというところです。マネジメントの過干渉として、マイクロマネジメントについてご紹介していきました。
この研究テーマからは、部下にとって、例えば仕事についてどんなことをすればいいのか、条件、要求がかなり細かく指定されてしまうような、細かすぎる管理が過干渉と受け取られるということが、1つのポイントになってきます。
ですので、上司の方は、すべてを細かく逐一管理するのではなくて、部下に仕事に対する一定の裁量を持たせていく。こうしたことが、1つ目の管理の質のポイントです。
部下に裁量を持たせる時のポイント
では、この「質」に関して、部下の方に裁量を持たせるとはどういうことなのかというと、「仕事を委譲すること」になっていきます。タスクの進め方、あるいは「これをどちらにしようか」とか「どのようなやり方にしようか」というような意思決定を、ある程度部下の方に委ねることが委譲ということです。

ただ、「どう委譲するのか」については、突然言われても、難しいかなと思います。そこで提案としては「『段階的』に任せていく」。仕事を上司の方から部下に任せることがおすすめです。
これは、仕事を「共同作業」と捉えなおすのが良いだろうということです。上司の方から部下に「これを全部やって」と丸投げするのではなくて、お願いをするというところです。「どのような進め方をしていくのがいいのか」の認識の共有が非常に大事になってきます。逆に、その認識の共有をだんだん進めていければ、信頼して任せることができます。
この「段階的に任せていく」という方針ついては、特に信頼というかたちに注目してまとめたものが、当社の別のコラムにもございますので、より興味を持たれた方はこちらを確認いただければと思います。
上司は「確認の頻度」を減らす
具体的な方針の2つ目が、「管理の『量』」を減らすことです。つまりは、「上司の方から部下に確認する頻度を減らしていこう」というところが、もう1つのポイントです。
部下にとって、細かく指定されるだけじゃなくて、何度も確認を受けてしまうことも、過干渉と受けられる原因でした。上司に何度も確認されるのがきついことを考えると、逆に、上司の方が何度も確認しなくてもよいようにしようと。つまり、何度も確認しなくても、部下が成果を高め、あるいは成長していけることが実現できれば、確認の頻度を減らせるだろうということです。
では実際に、どうやって確認の頻度を減らしていけるかという点ですね。ポイントは、「管理の『質』を高めることによって『リスク』を下げる」ということです。ここでもまた「質」がポイントになるので、詳しく説明していきます。

まず、アドバイスやフィードバックで管理の質が高まると、上司と部下の関係性が良くなっていくことが研究としてわかっています。アドバイスやフィードバックで、上司の方が部下の方に接する管理の質がより高まっていると、上司の方に対する能力の高さを感じたり、より適切なアドバイスをくれることによって、部下の方は「あ、この上司の方は非常に私のために良いことを言ってくれているんだな」と善意を感じます。
また、「自分のためにやってくれるんだ」「真摯に向き合ってくれるんだ」という誠実さも、より適切なアドバイスをしてくれる上司の方に対して、部下は感じやすくなります。なので、質の高い管理あるいはアドバイスを提供することが、関係性の向上にもつながっていきます。
もう1点が、部下の方の着実な成長や、タスクに関しても、管理の質を高めることが部下の成果につながっていくということです。
管理の質として、適切なアドバイスや適切な情報共有が高まっていけば、何度も確認しなくとも、待っている間にもきちんと進めていく、あるいは成長していくことになっていきます。なので、上司が部下に対して抱く「何度も確認しなくちゃいけない」という懸念を下げることができます。